170話 ミドリムシと龍種達
龍種の中でも特に相性の悪い属性以外には高い攻撃力を持つ、火の属性の龍種のナンバー1のサラマンダーがそう言いながら前に出てたために、敗れた龍種達の中でどよめきが起こる。
そんな様子を見たサラマンダーが口を開く。
「お前達の中で俺が前に出たことで俺がこちらの頭だと思った奴は……」
サラマンダーは前にでて話始めるがすぐさま黙り込みためを作り叫ぶ。
「すぐさま考えを改めろ! 俺は、この人の家族に負けて喜んでその配下になりここに居る!」
そういってサラマンダーは緑に向かって跪く。
その様子をみて緑の家族に戦いで負けダンジョンに連れてこられた龍種達に震撼がはしる。
火の属性の龍種のナンバ1のサラマンダーが他の種族に負け、尚且つ自分より下位の龍種の前で跪き自分がそばにいる人間に付き従い、更にはそれに喜びを感じていると宣言した。
サラマンダーの言葉に納得のいかない龍種達、それはすぐに行動させるほどの怒りで1匹の龍種が緑に向かって歩き始める。
ズン…ズン…ズン、ズン、ズン、ズンズンズン!
はじめこそゆっくりであった足取りも徐々に加速していき、ついには走り出す。その光景を見ていた龍種達は自分達の怒りをよくぞ代弁したとその様子を目で追う、
その様子を龍種達とは違う内心で見たサラマンダーは、跪いたまその様子を横目で見てニヤリと笑う。サラマンダーが笑った瞬間、破裂音が鳴り響く。
1匹の龍種が緑に向かって走っていくそこまでは良かった。だが破裂音が鳴り響いた瞬間、緑に向かって走っていた龍種が進行方向とは真逆の真後ろに吹き飛んでいく。
龍種達はやはり巨大であり、その巨大な質量がどう見ても10分の1もない小さな人が吹き飛ばした。
その様子見ていた龍種達の中で緑が何をしたかわかった者は居なかった。ここに居る龍種達は各属性の中でも1桁に届かない者達であったが、それでも他の種族を攻撃したなら、1つの国が滅んでもおかしくない実力の持ち主達。
そんな中でもその場に居た、サラマンダー達を抜いた龍種の中で1番の力を持つ者がサラマンダーの言葉で緑に向かって走り出した。
周りの龍種達の想像は緑が走り出した龍種が振るった腕で吹き飛ばされる、そんな予想であった。
「「はぁっ!?」」
だが、結果は走り出した龍種がその進行方向とは真逆の方向にその原因が分からないまま吹き飛ばされた。そんな様子を喜々として見ていた龍種達は唖然とする。
その様な事をおこせる者と言えば同じ龍種で各属性のナンバー1の龍種。いわば龍種の代表達だけだと信じていたにも関わらず、その怪奇現象をおこした者は、見た目は薄い緑色をした人族。
初めて緑達を見たナンバー1桁未満の龍種達は、ゴブリン? 良くてドライアドか…… そんな考えをしていたがそれを余儀なく改めさせられた。
今回の戦いで【水野 緑】達は、戦争の最前線で戦いはしたが回復や補助を中心とした後衛として戦っていたため、その実力をはかれた龍種は皆無であった。
緑達と対面していた龍種達は生まれて初めての恐怖を覚える。自分よりも強い者は居る、そんな認識を持っていた龍種だがその対象は同じ龍種で自分よりもナンバーが上の者達。
自分達、龍種が1番、それが共通の認識であった。
龍種達が唖然とする中、サラマンダーが口を開く。
「緑よ手加減なんざいらねぇよ、なんらな見せしめに1匹2匹殺してしまっても良かったんだぞ。そんでダンジョンの冒険者達に素材として提供してしまえばよかったんだ」
「ちょっと冗談でしょう? そんな事できるわけないよ、皆家族になって欲しいのに!」
龍種達はサラマンダーが本気でそう思い言っていたいる事が分かっていために狼狽える。サラマンダーが緑達と会う前、この大陸にいた頃各ナンバー1の龍種達は、下位の龍種達からすれば恐怖対象であった。
シェイドの元に集まり、シェイド以外のナンバー1の龍種と対峙した時も、もし戦いになれば自分達はまきこまれただけで死んでいしまうと戦々恐々としていた。
そんなナンバー1の龍種が負け、はじめは冗談かタチが悪い嘘だと考えたがその実力の片鱗を見せられる。それは集まった者の中で1番強い仲間が何をされたのかわからないまま吹き飛ばされる光景だった。
下位の龍種達の頭の中は恐怖から混乱の境地に陥る。ざわつきはじめる龍種達、それを正気にもどしたのはサラマンダーの言葉であった。
「さて、お前達どうする? 今言ったように緑はお前達を簡単に殺すようなことはしない…… だが、これからシェイドとの最終決戦の行く、お前達の意見をもう1度聞きたい」
そこまで言うと今度は緑が前にでる。緑はゆっくりと歩いて行き1匹の龍種の目の前で止まり、優しく話はじめる。
「サラマンダーやノーム、ウンディーネは龍種が数の暴力を使い戦う事は良くないと言っているけど、皆はどう思っているの?」
大きな体の龍種がすぐ目の前にいる小さな人の姿の緑から目を離すことができない。
「俺は、自分より上位のものからの命令に逆らう事はしない…… だが舐められる事はがまんできないが数の暴力はあまり好ましくない……」
それだけ言うと龍種は緑の言葉を待つ。
「じゃあ、これからの戦いの間はダンジョンで大人しくしておいてくれない?」
「あなたがそう言うのなら……」
緑達の会話を聞いたサラマンダーが声を上げる。
「今から同じ事を全員に聞く。シェイドの考えに賛同する者は、ダンジョンから出てもらいシェイドの元にいってもらう。ただし1つ言っておくことがある。もし確認の最中に攻撃を加えようとするならその時点で命を落とすだろう。ここにはお前達を簡単に殺す事ができる実力を持つ者が何人もいる」
「もし、同意してもらえるならサラマンダー達の様に人の姿になってください」
そう言って緑がニコリと笑う。
その後、その場に居た龍種達はもれなく人の姿になった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「いや~みんな大人しくしてくれて良かった!」
緑は上機嫌で風呂に入っていた、その場にはサラマンダーやノーム兜もいた。
「緑は優しすぎるな、本当1匹2匹くらい殺しても良かったんだぞ」
「サラマンダーそれが緑の良いところだ」
「ああ、そうだノームの言う通りだ。だが、そうでなければお前達も今ここにいないだろうし、お前達も緑に付いてきていなかっただろう?」
サラマンダーとノームの会話に魔緑が加わる。
「大将がつよく言えない代わりに皆が代弁してるからいいんじゃないっすか?」
兜の言葉に3人は顔を見合わせ、口をそろえる。
「「確かに、そうだな」」
そんな会話を緑達がしていると少し離れた所が騒がしくなる。
「おい! 俺にもその酒を飲ませろ!」「うるせぇ! これは、俺がもらったんだ。お前が味わいもせず飲み干したのがわるいんだろうが!」「おい! 暴れるな酒に湯がはいるだろう!」
今緑達の言う通りにダンジョンで大人しくしていると言った龍種達が緑達から少し離れた所で湯につかりながら酒を飲んでいた。
龍種達がダンジョンに居る間の衣食住は自分達が保証すると言う緑達、そう言われ龍種達はダンジョンの中を案内されるのだがそこで出された食事や酒、寝床を知ると驚きのあまり目をむいていた。
最後は風呂に入り、更には酒も貰う。龍種達は、酒を貰い楽しみはじめたのだが後先考えずに早々に酒を飲みほした者達が大事に少しづつ飲んでいた者達に迫り、会話の通り酒の奪い合いがはじまりそうになっていた。
「いいから、さっさとよこせ!」
その言葉を皮切りについに龍種達の間で強奪がはじまった。
だが、よほど酒を気に入ったのか皆、渡された酒瓶を大事に守りながら殴り合いをするためにその様子をみる緑達には滑稽に映っていた。
「ぷぷぷぷ」「くくくく」
「ば、馬鹿だ、くししし」「くくくく」
緑、魔緑、サラマンダー、ノームがそのあまりの馬鹿さに笑えを耐えていた。
そんな中、いたるところで悲鳴があがる。
「「ああ!」」 「「あっ!」」 「「うわっ!」」
悲鳴が上がった場所では、奪い合っていた酒が湯に落ちていた。
「3秒ルール!」 「周りの湯ごと!」 「龍種のエキスがでているんだ!」
「多少、湯が入っても!」
そんな事を言いながら、龍種達は酒がこぼれた辺りを手ですくい湯ごと飲むもの。
そのまま顔を突っ込んで飲むもの。酒を注いでいた器で湯ごとすくうもの。
酒瓶に入った湯を気にせず飲むもの。
「「あはははは!」」
そんな姿を見た緑達は耐えきれなくなり大笑いするが緑達が大笑いした瞬間、龍種達に異変が起こる。
「「ん?」」
緑達がそれにすぐに気づき龍種達の方向に目をむけると、龍種達がその動きを止めていた。
1秒、2秒、3秒、それは短い時間であったが不気味な事に誰一人ピクリとも動かなかった。
その不気味な沈黙を破ったのは兜だった。龍種が酒の奪い合いをはじめそうな頃からその様子を嬉しそうに見ていた兜は、殴り合いがはじまれば自分も参戦しようとしていた。
だが、龍種達が湯ごと酒をのみはじめたとき、その顔付きは緑の家族達が見たこともない険しい者になっていた。
「あ~ ばれちまった……」
そういった兜の顔は絶望に打ちひしがれていた。
「「美味すぎる!」」
兜がそう言った瞬間に龍種が声をそろえて叫ぶ。
「「?」」
緑達は兜の言葉を聞いても何がばれたのか理解できず首を傾げていたが龍種達がそう叫んだ瞬間に酒と湯を交互に飲んだり、酒瓶に湯を注ぐはじめた事に驚く。
そんな緑達をよそに兜まで湯をすくい湯を飲む。
「う~ん、今日は微妙だな……」
「「えっ?」」
緑と魔緑はまだ混乱していたがサラマンダーとノームは何かに気づいたようで兜の様に湯をすくい飲む。
「「美味いな」」
「あいつらの様子はこれが原因か」「のようだなサラマンダー」
サラマンダーとノームも頷きながらちびちびと湯を飲み始めた。
「兜、いったどういう事?」「理由を説明してもらえるか?」
「わかりました……」
そういって兜は観念した様に話し始めた。
「「【水野 緑】だけが入った湯は汲み取り集め皆でのんでいた!?」」
緑と魔緑が驚き声を上げる。
「はい、そうっす……」
事は、ダンジョンに温泉を作った時にさかのぼる。
緑の家族全員が緑と同じく風呂好きなのだが時に緑だけが1人で入る時もあり、ある日その残り湯をヒカリとクウが飲みたいと言い緑が居ない間に男湯に入り飲んだという。
「その湯があまりにも美味かったので俺達だけが秘密でのんでいたんです」
それを聞き魔緑が気づいたことがあり恐る恐る尋ねる。
「ま、まさか俺の嫁もそれに加わってないだろうな……」
「あ~ 魔緑さん1人の時の湯だけ……」
それを聞きめまいをおぼえる魔緑。
だが、さらに恐ろしい事に気づいた緑が兜に尋ねる。
「このことに付いてふーちゃんは知ってるの」
「いえ、この事は今まで見つかっていなかったので……」
そう兜が言った瞬間、女湯のほうから叫び声が聞こえる。
「湯を飲んではいけません!」「お湯をのんだらだめです! だめですよ♪」
ヒカリとクウが叫ぶ、クウには至っては言いなおし何事もない様をよそおっている。
「これ、そこの龍種のんではいかん!」「あかん! 湯はのんだらあかんって!」「すっごくおこられますよ!」
3姫も湯を飲まない様に叫んでいる。
女湯には、ふーちゃんこと腐緑が龍種達と風呂にはいっており、男湯と同じ事が起こったのが想像できた。そのため緑と魔緑がため息をつき声をあわせる。
「「ばれた……」」
その言葉のあと2人は沈黙する。それを兜が気まずそうに見ていると不意に魔緑が呟く。
「あいつ、風呂の湯をエルフに売るんじゃねぇか……?」
「ありえるね、しかも自分の入った湯を使わずに……」
「それこそあいつは自分の入った湯ではなく俺達の湯を使いそうだが…… いや、そんな事を気にするやつじゃないか……」
「僕達だけでなく干支ちゃん達の湯も気をつけないと何に使われるかわからないや……」
そういって2人はまたため息をつくのであった。




