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147話 ミドリムシは捕まえる


 リーダーの男に向かって彼の部下たちが逃げろと叫ぶが彼は迷う。彼にすれば逃げる事が最善の策であるが、彼が逃げる事は部下達に確実に死が訪れると感じられた。


 小さな少年達が現れた時、彼が悩んだ時間は僅かなものであったが、彼の頭の中ではこの状況を打開するために幾多のシュミレーションが行われた。


 だが、結果として導き出されたのは彼自身がこの場を逃げ出す事しかできなかった。その結果が先ほど出た言葉、何とか自分達の話を聞いて欲しいと懇願する言葉であった。


 彼の部下が口をそろえて逃げろと叫んだ直後、再び草むらが揺れる。彼はまた子供が増えるのかと思いその草むらに視線を向ける。


 だが、予想とは裏腹に草むらの奥から現れたのは、同じ顔をした子供達が年をとり目つきが悪くなったような男であった。彼は、その男を目にすると跪き叫ぶ。


「お前達すまない! 俺は、お前達が作った千載一遇のチャンスをみすみす逃してしまった!」


 草むらから出てきたのは魔緑、彼が魔緑を一目見たと同時に彼の能力は、子供達でさえ逃げるしかできないと思い知らせたにも関わらずさらさらに1段も2段も強力な存在が現れた事を知らせる。


 彼は、自分の思いをこれでもかというほどに力をこめ叫んだがその声を聞いた部下はいなかった。彼の部下は全員が魔緑の姿を見ると1人残らず意識を手放していた。


 それは、彼の様な危険を感知する能力が無いにも関わらず感じてしまった魔緑の実力によって、彼の部下は全員が彼の様な感知能力を強制的に持たされると同時に、能力から伝えられた情報により脳がその情報に耐えきれず気絶したであった。


 そんな様子を見た魔緑が口を開く。


「お前がリーダーだな…… 他の者達は気絶したか…… まぁ、誰か1人でも起きていれば話を聞けるな」


 魔緑がそんな言葉を彼にかけると彼は、膝まづく体勢からそのまま崩れるのであった。


 そんな様子を見た、魔緑の後を追って出てきた凜達がが思わずこぼす。


「まーちゃんがそんな気配を出してたらそら気絶してまうわ」


「そうだのう。まーちゃんが警戒心をあらわにして出てきたら大概の者は恐怖で気絶してしまう、彼等の反応もしょうがないのう」


「はじめて会った人は、すっごく怖くて気絶するのも無理ないです!」


 そんな3人の嫁に魔緑が反論する。


「当たり前だろう! お前達がどうしてもついてくると言うからだ! 家族の中じゃお前達3人が病にかかる可能性が1番高いんだからな! 嫁が病にかかるかもしれない事を知っていて警戒しない旦那はいないだろうが!」


 そう言って顔を真っ赤にする魔緑。それを見た3人の嫁が声をそろえる。


「「いきなりデレた!」」


 魔緑の3人の止めに続き干支緑達も騒ぐ。


「おにぃちゃんてれてる!」「おにぃちゃんはてれやだねー」「ちっともはずかしくないのに!」


 干支緑達は思い思いに魔緑に言葉をかける。


「うるさい! さっさとこいつらを捕まえて帰るぞ!」


「「はーい」」


 干支緑達と魔緑の3人の嫁は声をそろえて返事をする。干支緑達は髪で彼らをこれでもかとぐるぐる巻きにし運んでいくのであった。




「ん……」


 リーダーの男は目を覚ます。


「寝ていたのか? 俺はいつのまに…… あっ!?」


 気が付いたリーダーの男は何時の間に眠ったのだろうと考えると直ぐに自分が気絶していた理由を思い出す。彼は思わず叫び部下の安否を確認しようと思うがそれを飲み込み、自分の今の状況を確認することに努める。


 彼は恐る恐る体を起こし周りを見回す。


「なんだ…… この柔らかい寝床は?」


 彼が気が付いた場所は今まで体験したことがない柔らかい布団の中であり思わずつぶやく。


 彼は、布団から出ると改めて周りを見渡す。彼が周りを見渡すとそこは生活に必要な物がほとんどそろった部屋であった。


「俺は捕まったのではないのか?」


 思わずそう言った彼であったが見渡した部屋は食料はさすがに見つける事はできなかったが、風呂やトイレもありその質の高さに困惑する。彼が困惑する中、部屋にある唯一つの扉が開かれた。


「隊長気づかれたんですね! こっちに来てください!」


 扉を開けて入ってきたのは彼の部下の1人であった。部下に連れられて部屋にある唯一の扉をくぐるとそこには長いテーブルがありその周りには、彼の手を引く部下以外の者達全員が着席していた。


「「隊長!」」


 部下たちは、扉から出てきた彼を見ると思わず叫ぶ。


「隊長が気づかれた!」「これで全員が無事だ!」「本当によかった!」


 部下たちは思い思いの事を口にする。そんな様子を見て彼は思わず口を開く。


「皆、無事で良った」


 彼の言葉を聞いて全員が喜び、幾人かは感動で涙を流すものまでいた。


 部下たちの言葉を聞き、起きたのが自分が1番最後だったことに気づいた彼は部下たちに問う。


「ここはどこかわかるか?」


 その言葉を聞いた部下達は、今まで楽しげにしたとは思えないほどに暗い顔し首を横にふる。


「隊長、残念ながらここがどこかはわかりません」


 彼の手を引いて連れてきた部下が思わずこぼす。すると、他の部下達も話はじめる。


「私達も少し前に気が付いて寝かされていた部屋から出て、ここに集まっただけでして、食料以外は寝床やトイレさらには風呂まである事がわかっているだけです……」


「全員の部屋がそうなっていたのか…… 外の事はわかるか?」


 その言葉に部下たちは顔を見合わせるが誰も発言しないため、部下達自身も今外の情報を手に入れる事ができない状況を認識する。


「やはり、私達はつかまったのか……」


「はい、貴方達は獣人の国に病を持ち込みましたので、一旦ここでお話を聞かせていただきます」


「「!?」」


 リーダーの男の呟きに返事をした声に驚いた彼らは、声のした方におもわず振り向き視線を集める。


「申し訳ないですが~ 皆さんにはこれからいくつか質問をするので~ 正直に答えてください~」


「「!?」」


 全員が視線を声のした方向に顔を向けた直後、さらに自分達の背後から聞こえる別の声に驚き振り返える。


 部下たちがファントムとレイに視線を配り警戒する中、リーダーの男はファントムとレイの姿を見て触覚に気づき思わず声を上げる。


「貴方達も蟲人なのですね!?」


 リーダーの男が放った言葉に部下たちは驚きそれを隠せずに思い思いの言葉を口にする。


「ほとんど人族の姿だと!?」「ここまで外見が人族の姿に近い蟲人など見たことがない!」


「また子供なのか!?」「美しい……」


「……静かにしてください」


 彼の部下たちが思い思いに声を上げる中、静かにファントムが呟いた言葉は小さな声であったが確かに彼らの耳に届き自然と静かにさせる。


 わずかな時間で静まり返った様子を確認するとファントムは彼らに話始める。


「これから数日の内に貴方達には私達の主に会っていただきます。それまでにいくつか質問をするので先ほどレイさんが言ったように嘘偽りなくお答えください。もちろん我々が勘違いするような言い回しもゆるしませんのであしからず……」


「貴方が仕える方がいらっしゃる事におどろきですが、その様な方にお話ができるのは私達の任務にとって大変ありがたい事です。どうぞよろしくお願いいたします」


 そう言ってリーダーの男はファントムに深々と頭をさげる。この時、リーダーの男はきっとその主は自分達が意識を手放した時に見た男の事だろうと想像する。


 そんな心境を感じ取ったのかファントムが口を開く。


「ちなみに昨日お会いした、貴方達を気絶させた方ではないのであしからず」


 その言葉を聞きリーダーの男は、昨日あったあの男よりもまだ上の方がいるのかと困惑するのであった。






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