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113話 ミドリムシのおかたずけ2


「皆さん初めましてIランク冒険者の水野 緑と言います。よろしくお願いします」


「俺は魔緑だよろしく」


 緑の挨拶を聞いた冒険者達はゴクリと唾を飲み込む。先ほどまで自分達が壊そうとしていた迷路の製作者の緑がした自己紹介は異常な能力を持った冒険者とは思えない丁寧なものであり、それが逆に冒険者達を不安にさせたのであった。


「あんたが迷路の製作者か……」


「この迷路はどうなっているんだ?」


「氷で作られてるようだが溶けている様子もない」


 冒険者達は思い思いの質問を緑にすると、そのあまりに多い質問と謎を解こうと必死になり始める冒険者達の様子に緑が慌て始める。


「あわわわわ、皆さん落ち着いてください。この迷路はですね……」


「緑まて!」


 迷路の事について話そうとし始めた緑をシャークが止める。


「おいおいお前達このバカげた迷路を見たから質問したくなるのはわかるがそれはマナー違反じゃないか!?」


「「!?」」


 シャークの言う通り冒険者同士でお互いの能力について探りを入れるのはマナー違反となっている。


 それは、冒険者達の能力は自分達の飯のタネであり基本的に中の良い者や絆の強い者達での間のみ、その能力を教え合い見知らずのしかも大勢に聞かれたからといって教えるものではない。


「なぁ、緑この迷路の頑丈さをお前が全員に教えた所でこいつらが使えるようになるのか?」


「……いいえ、残念ながらそれは無理ですね」


「なら、この迷路の話はおしまいだ。魔緑早速だが迷路を壊すのをたのむ」


「む? なんで俺が迷路を壊すとわかった?」


「お前が昨日は居なかったのにここに来たからだ。どうせお前の火の魔法で氷をとかすんだろう?」


「ああ、そうだ……」


「おい! 本当に火の魔法でこいつを溶かす事ができるのか?」


 先ほどまで火の魔法で迷路を溶かそうとしていた冒険者の1人が思わず声を上げる。


「ああ、それは単純に温度が足りなかったのだろう?」


「なんだと!? でめぇ喧嘩をうっているのか!?」


 冒険者の質問にただ答えただけの魔緑であったが冒険者は自分の魔法を馬鹿にされたと思い声を荒げる。


 そんな中、人込みをかき分け1人の冒険者が緑達の元にやってい来る。


「すまん! 通してくれ! お~い! 緑、魔緑来たぞ~!」


 そう言って緑達を囲む人垣から出てきたのはギルであった。


「「炎剣!?」」


「あ! ギルさん!」「ああ、来たか」


「俺も緑の迷路を壊すのを手伝えば良いんだな?」


「ああ、そうだ頼む。まずは通路を広げる」


 今、緑達が居る場所は城門前でシャーク達と緑が力を合わせて龍種と戦った大きな広場であり、ここには城門から直接入れるように人が1人通れるくらいで魔物が通れない通路がいくつも開けられていた。


 龍種との戦いのさ中、広場を水で満たすためにこの穴は他の冒険者の魔法により塞がれていた。スタンピードの後の処理をするために通路を埋めていた氷は除去されたが、その他の部分は緑が作り出したためにそのままになっていた。


 緑達が呼ばれたのは、その通路では大型の魔物を解体するための道具を乗せた荷車や討伐した魔物を運ぶために用意された荷車、王都を出て他の街に行く馬車などが通れないために迷路を壊すように言われたためであった。


「全部を壊すとなると時間んがかかりすぎる。まずは幾つかの通路を繋げて大きな通路を作る。その後に通路の高さをあげる」


「わかった!」


「お、始めるのか? お~い、今から魔緑とギルが迷路の通路をまとめて大きくするから2人の周りには近づくなよ~」


 先ほど魔緑に魔法の温度が低いと言われ怒っていた冒険者は【炎剣】の2つ名を持つギルに委縮してしまい様子を見ていた。


「ギル準備はいいか?」「おう!」


 魔緑とギルが声を掛け合った後ギルが持っていた剣が炎に包まれその炎が赤から青に色を変えさらに徐々に白くなっていく。


「お、炎の温度また上がったんじゃないか?」


「ああ、今は制御も上手くいって火傷をするような事も無くなったけど温度を上げるのも難しくなってな」


「お前ならすぐだろう」


「「白い炎だと……」


 2人の様子を見ていた冒険者達は思わず耳を疑った。2つ名を持つギルが魔緑の魔法の温度には叶わないと言っていおり、ギルの炎の剣の色を他の冒険者達は見たことが無かった。


「俺も準備するか」


 そう言って魔緑の前に真っ白な火の玉が現れる。それを見た冒険者達は絶句する。魔緑達の話を聞く限り炎はその色が白くなるほど温度が上がると推測させる中、【炎剣】以上の真っ白な炎を出した魔緑にもう文句を言う気になる冒険者は居なかった。


「やっぱり魔緑の炎は綺麗だな~」


「おいおい、お前達イチャツクのは仕事に後にしてくれよ」


 そう言ってシャークは魔緑の出した火の玉を見て惚けていたギルをからかう。


 3人がそんな会話をしていると緑が口を開く。


「皆、早くしないと日が暮れちゃうよ~」


「「あ!」」


「ああ、そうだなすまん……」「緑わるいな」「がはははは、じゃあ頼むぞ」


 魔緑、ギル、シャークはいつもとは立場が逆になったと思い緑に謝ると作業にとりかかるのであった。




 じゅううううぅぅぅぅ!!


「「マジで氷が解けている・・・・」」


 今は魔緑とギルは幾つかの並んだ通路を両端から中心に向かってつなげるために魔法と剣を振るっていた。その2人の様子を見て冒険者達は迷路の一部が溶けていることに驚き、同時に自分たちの魔法の炎の温度が低かったことを痛感していた。


「緑、実をくれ」「はいまーちゃん」


「緑悪い俺もくれ」「はい、ギルさん」


 2人の様子を見て驚いていた冒険者達であったがその後に見る更なる光景で驚きはすぐに上書きされる。


『『なんだこいつ……!? ドライアドか何かか?』』


『『だが兄弟と思われるもう1人は強力な火の魔法を使っているしな…… 仮にドライアドならここまで強力な火の魔法は使えないはず……』』


 2人がせっせと氷の迷路を切っている間、緑はタライに水をためてそこに浸かっていた。しかもそ様子を見ている冒険者達が不思議そうにしている間に、緑の髪の隙間に小さな実がなる。その実はわずかな間に大きくなり甘い良い香りを放ち始める。


 完熟になったと思われる実を緑は自分の頭部より収穫すると袋の中に入れる。


「やっぱり緑の実は美味いな~ これで魔力も回復するんだから信じられないな!」


「あ、馬鹿、おまえ……」


 緑の実を食べながら魔力を回復させているギルが思わずこぼす。


「「なに! 魔力が回復するだと!?」」


 体力を回復させたり傷を治すアイテムなどはあるが魔力を回復させるアイテムは貴重で高額であり、魔緑とギルが先ほどから頻繁に食べているのを見ていた冒険者達が驚きの声を上げる。


「なぁ、あんた緑と言ったか。頼むその実を1ついや、半分、かけらでもいい少し食わしてくれないか!?」


 驚きの声を上げた冒険者が次々に緑に頼みこむ。


「良いですよ」


 そう言って緑は袋より実を取り出す。それを見た冒険者達が殺到しようとするがシャークが止める。


「おい、お前ら仕事をする前に何をしてるんだ!」


「いや、シャークさん……」


 シャークの言葉に気まずそうにする冒険者達。


「は~ 仕方ねぇな」


 ため息を吐きながらシャークは緑に謝り実を受け取る。


「緑すまんな」


「大丈夫ですよ」


 緑はニコリと笑い返事をするとシャークに実をいくつか渡す。


「おい、お前ら4人づつに分かれろ、チームとか関係なしだ、さっさと並べ」


 その声に冒険者達は一瞬で4人づつに分かれる。それを見たシャークが4人にまとまった冒険者達に1つづつ実を渡していく。


「いいか、綺麗に4等分しろよ喧嘩なんかしたら没収するからな!」


 実を配られた冒険者達は実を4等分にするとそれぞれ口にする。魔力が余っている者達に至ってはどれほど回復するか確かめるためにわざわざ魔力を消費して食べる者が出るほどであった。


「本当に回復した……」「おいおい俺に至っては魔力が半分以上回復したぞ」


「「何!?」」


 わざわざ魔力を消費した者達の中でも魔力の量が多い者の言葉に冒険者達は驚く。そこからは冒険者達が緑の周りに集まる。


「あんた俺達のチームにはいらないか?」

「俺達のチームの方がいいぜ!」

「私達のチームにはいらない?」


 驚きで思考回路がマヒしている冒険者達は緑を自分達のチームにと勧誘をし始める。


「お前ら馬鹿か? むしろ緑のチームに入れてもらうようにするだろう?」


 その様子を見ていたシャークが呟く。


「「あ!!」」


 そう言うと今度は自分達を緑に押し売ろうとする冒険者達だがシャークがさらに言葉を続ける。


「それと一言いっておくがな。一昨日のスタンピードでそいつのチームはチームを分割した上で3匹の龍種を倒しているからな……」


「龍種を3匹……」


 それを聞いて思わず言葉を漏らしたあと冒険者達は誰も口を開こうとはしなかった。



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