109話 ミドリムシは人の国を守る3
緑と魔緑はいまだ迷路に入る前の魔物達を倒し続けていた中シャークが打たせた救難信号をに気づく。
「え!? 本当!?」「マジか!?」
2人は驚きの声を上げる。
「龍種なんかみなかったよね?」
「ああ、あんな巨大なやつがいたらまず目に着くだろう……。ここで考えていても仕方がない緑行ってくれ」
「1人で大丈夫?」
「まぁ、何とかなるだろうっと言うか何とかするから心配するな!」
「わかった、じゃあ行ってくるね!」
「ああ、皆守ってやれ!」
そう言葉を交わすと緑は救難信号が撃たれた場所に向かうのであった。
迷路まで来ると緑は迷路の上に登り叫ぶ。
「誰かいませんか!?」
すると迷路を進む魔物の群れに攻撃を仕掛けていた冒険者が緑に駆け寄ってくる。
「どうした?」
「さっき打ち上げられた救難信号はどこから撃たれたかわかりますか?」
「ああ、城門の前の広場らしいがあんた行くのか?」
「はい! 教えて頂いてありがとうございました!」
「気を付けろって言ってもそんなとこに行くんなら腕に自信があるんだろう? 名前は?」
「僕は水野 緑 Iランク冒険者です! ではいきます!」
「Iランク…… イカレタ冒険者……」
緑が城門前に向かう背中を見ながら緑と話していた冒険者は呟くのであった。
「くそ! どうなっている!? 全然攻撃が当たらない!」
「とにかく【海の守護者】の負担を減らすんだ! 撃ちまくれ!」
「支援魔法や回復魔法が使えるやつ【海の守護者】に魔法をありったけかけろ!」
「迷路を進んでいた時と速さがちげぇ!」
「「ああああ!!」」
冒険者達が迷路の上で慌ただしくするなかシャーク達を支援するべく魔法を使っていた者達、龍種の足止めをすべく攻撃していたもの達が嘆きの声を上げる。
【海の守護者】の前衛職のクジラと呼ばれる冒険者が持っていた巨大な盾が粉々に砕け散る。盾を砕いた龍種はそのままとどめを刺そうとクジラに向かう。
その場に居た者達の視界がスローモーションになり龍手の振り下ろされた腕がクジラに届くと思われたその時、クジラと龍種の間に突然透き通った氷の盾が出現する。
その盾は【海の守護者】のメンバーを守るように数を増やしていく。
その光景をみていた迷路の上にいた冒険者達は驚き騒ぐ。
「誰の魔法だ!? あんな魔法見た事ない!」
「おい! 今はそんな事言ってるばあしじゃねぇ! だれか戦いの前に渡された体力や魔力が回復する実を持ってないか!」
「いくつ必要ですか?」
「ああ!? あればあるだけ良いに決まっているだろ!」
「じゃあこれを」
冒険者は突然あらわれた冒険者を怪訝そうにみながら渡された2つの袋の中身を確認する。
「お、おい! 何故こんな大量にもってるんだ!?」
「すいません、時間がないので後で」
「あ! おい降りたら死ぬぞ!」
冒険者は【海の守護者】がいる広間に降りていく謎の冒険者にむかって叫ぶのであった。
「くそ! おい! 誰かこの実を今龍種の対応をしている者達に配ってくれ!」
その言葉を聞いた他の冒険者達が集まり実を受け取り他の者達に配るために散っていく。
「ん?」
渡された袋の実を配り終わった冒険者は袋の底にメモが有ることに気づきそれを読む。
「どういう意味だ?」
「シャークさん大丈夫ですか!?」
「ああ、今しがた大丈夫になった……」
シャークは緑の問いかけにニヤリと笑い答える。だがその間もの一切視線を龍種から外さない。
「この盾はお前の魔法か?」
「はい!」
「なら、クジラにいっちょ飛びっきりに硬い盾を作ってやってくれ。 クジラ! 緑に盾を作ってもらえ! 持ち手は持ってるよな!」
「ああ! 緑助かる、盾が砕けてちまって困っていたんだ」
緑は魔力を使い氷の盾を作り上げる。
「これでまた皆を守れる! っと!」
ギィーン!
「ほう、我の体当たりを受けても砕けないか」
「あなたが龍種さんですね、これ以上戦うのはやめませんか?」
「ふむ、我もここに使命を帯びてきているので簡単にやめる事は出来ないのだ…… そうだのう我を倒すことが出来れば使命をあきらめねばならぬ…… ちょうど今しがた我とも戦えそうな強者があらわれたのだ見事我を倒して見せろ!」
龍種がそう言った瞬間、緑以外の者達の目には龍種が突然消えた様に見えた。
その直後、龍種は緑と話していた場所から離れた場所に現れる。
「ほう、見えにくい糸か……」
「いえ、糸ではなく髪ですね……」
緑の後ろに居た【海の守護者】を攻撃するべく緑のいない方向から凄まじいスピードで襲い掛かった龍種はその動きを止められる。
「やはりお主は強いのう我も全力を出せる」
その言葉を聞いたものが驚く。
「まだスピードがあがるんですか?」
代表するかのように緑が龍種に尋ねると龍種は嬉しそうに話す。
「ああ、我のスピードはまだ上がるのう」
今度は緑の目の前に現れその爪が緑の目の前で止まる。
「くっ! 早すぎますよ!」
「!?」
緑の焦りの呟きにシャークは戦慄する。緑でも反応するのが難しいほどのスピードに自分達が対応できるとは思えなかったからである。
「ならこれで!」
緑は広間全域に髪を張り巡らす。
「ほう髪を張り巡らすか。われもこうなっては自由に動けないな…… とでも言うと思ったか!」
その瞬間緑が張った髪はことごとくが切り裂かれた。
「髪自体を切り裂こうと思えば難しくはない」
その光景をみたシャーク達は絶望する。緑の髪で編んだ全身タイツを愛用しているシャーク達は緑の髪の強度を十分に知っておりそれをたやすく切り裂く龍種とのかけ離れた戦力を確認する。
「緑逃げろ! お前だけならこいつから逃げれるだろう人の国なんてほっといて逃げろ!」
「ふむ、お主が逃げれば我は人の国を滅ぼし帰るかのう……」
「シャークさん僕はまだ戦えますよ! それにシャークさん達だって!」
「ほう何か策があるのかのう?」
龍種がそう言った瞬間緑の束ねられた髪が龍種を吹き飛ばす。緑は今ある光合成で作ったエネルギーの大半を一撃に込め龍種を攻撃した。
「ぐは! くくくくやるではないかこれは面白い戦いになる……」
「いえ、面白い戦いにはなりません」
そう言った緑が残りのエネルギーを使って2つの魔法を使う。
1つは、迷路から広間に続く入り口を氷で塞ぐ。2つ目はその広間を埋め尽くすほどの大量の水であった。
『がはははは! さすが緑やることがイカレテルな!』
先ほどの絶望は鳴りを潜め笑い出すシャーク。
『くっ! この広間を水で埋め尽くすなど考えもしなかったわ! これでは我のスピードを生かすことが出来ぬな……』
冷静に状況を判断する龍種。
『うん、この状況なら光合成もできるからエネルギーもすぐに回復できる! いける!』
『水のなかなら俺達のフィールドだやるぞ!』
シャークが仲間たちに声をかける。
水の中での戦いではシャーク達は人魚は下半身を魚の様に変化させ人の姿の時よりも素早く動き龍種と対峙する。
一方龍種はその自慢のスピードが抑えられ歯がゆい思いをしていた。
『くっ! やはり水の中では動きずらい! いったん水から出るか!』
そう思い空を見上げた龍種は絶句する。そこには緑の髪が遠目で見てもわかるほどの太さで張り巡らされていた。
『さっきは見えにくい太さだったけど今度は遠目でもわかるくらいに太く束ねたから簡単には切れませよ』
そこからは龍種は緑とシャーク達と戦うが防戦一方になる。
迷路の上に居た冒険者達は水の魔法を使う事の出来る者達を集め袋の底にあったメモ通りに行動していく。
「おい! 突然広間が水で一杯になったぞ!」
「ああ! メモの通りだ! 水の魔法を使う事の出来るやつはどんどん水を広間に流し込んでくれ!」
「流し込むと言っても溢れんばかりに水が入っているぞ!」
「兎に角やるんだよ!」
メモを見つけた冒険者の指示に納得がいかない様子の者達であったが水を広間に流し込もうと魔力を圧縮し始めると今しがたまでぎりぎりまで入っていた水かさが徐々に下がり始めた事に気づく。
それは、緑が光合成をしはじめたために水を取りみ水がすくなくなるのだがそれに気づく冒険者はいない。
理解はできないが水が減っていく事に気づいた水の魔法を使える者達は慌てて水を流し込み始める。迷路の上から支援魔法をかけていた者達は水の底で戦い始めたシャーク達を注意深く見守っていた。
「お、おいなんだあれ?」
「ん? どうかしたか?」
「なんか網が浮いてないか?」
冒険者達がシャーク達を見守る中、水の中に網の様なものができはじめた事に気づく。その網はみるみるうちに太くなりその存在感を現し始めた。
「なんだ? 突然網ができちまったぞ」
「兎に角、支援を切らさず水を流し続けろ!」
冒険者達はその不思議な現象が全て1人の冒険者に引き起こされているとは知らずに作業に当たる。
バシャーン!
「おい! だれか落ちたのか!?」
「いや! 自ら飛び込んだんだ! 止めるのも聞かずに!」
「入っちまったもんはしかたねぇ! 今与えられた役割に集中しろ!」
「「おお!!」」
迷路の上にいる冒険者達は再び広間の中に意識を向けるのであった。
龍種と対峙するなか緑は自分が作った髪の網をこじ開け水中に入ってきた存在に気づき視線を向けるとそこに魔緑をみつける。
魔緑は緑の視線に気づくと大きく頷いて見せた。それを見た緑も頷き返すと魔法の準備を始める。
緑はシャーク達と戦う中で龍種が作ったスキをついて髪でがんじがらめにすると大きなコップの様な形の氷を作りる。
その氷のコップで広間の入り口を塞いだ壁とで龍種を閉じ込める。そのコップに手を当てる魔緑は中に向かって超高温の真っ白に輝く火魔法を撃つ。
ドゴーン! バキン! バキン! ドン!
魔法を撃った直後に爆発音、その後にものが割れるような音が2回、最後に衝突音がなる。
緑と魔緑の様子を2人の後ろで見ていたシャーク達は驚きのあまり目を見開いたまま固まっていた。
シャーク達の目の前には広間の入り口を塞いだ氷の壁に穴が開き広間の水が流れ出す光景があり、さらによく見るとその先の迷路の壁を2枚ほど貫き3枚目の壁に突き刺さった体をボロボロにした龍種をみつけるであった。




