1話 水野 緑 ミドリムシになります
「おまたせ、今からご飯をあげるね」
そう言いながら今日も1人で部活動の花の水やりをしている【水野 緑】は、施設育ちで園芸部に所属する中学3年生の男子。
趣味は、植物を育てる事と読書で、この名前のため同級生からは、緑ちゃんと呼ばれている。
施設育ちなのは、両親が早くなくなってしまい親戚もいなく頼れるものがいなかったからだ。
「緑ちゃん、今日も花の水やりお疲れ様~」
「うん、毎日の日課だからね。今から部活?」
「そう、私も今から部活だよ!」
声をかけられた同級生に返事を返し何気ない話をしていると、
ダーン!
突然ものすごい衝撃を受けて緑の意識が遠のいていく。
意識を取り戻した緑の前には、神々しい光に包まれた美しい1人の女性が立っていた。
「初めまして私は貴方がいた世界とは別の世界の女神です。突然のことで困惑されると思いますが貴方はお亡くなりになりました」
緑は先ほど受けた衝撃で死んでしまったらしい。
そして、女神はこう続けた。
「もし貴方さえよければ、私の世界に来て自由に生きてはくれませんか?」
「僕で良いんですか?」
「ええ、ぜひ貴方だから来てほしいのです」
「では、僕は女神様の世界にいって何をすればいいんでしょうか?」
「私から貴方にして欲しいと思う事はありません。しいていえば、私の世界で幸せになってもらう事が、して欲しい事です。ただ……私の世界に来た時には、貴方の種族がかわることになります」
「その種族とは?」
「それは、私の世界で貴方ただ1人の超ミドリムシです」
「えっと、超ミドリムシですか?」
「はい、貴方だけの超ミドリムシです」
「……」
女神は、ニコニコしながら言うが、緑は【超ミドリムシ】と言う言葉に不安になってしまう。
そんな緑の様子に気付いた女神はこう続けた。
「あなたに、私の世界で幸せになってもらうために、種族をかえるのです。超ミドリムシになることで姿形は多少変わりますが、種族で得られるスキルは、あなたが私の世界で生きていくのに非常に有利なものです」
緑の不安を消し去るためか、女神は力強く説明するが、余計に緑の不安をあおる事となり、緑は質問うする。
「その種族で得られるスキルとは、どんなものでしょうか?」
「それは、超光合成です。超光合成があれば、貴方がいた世界での生活をするだけで食事の心配がいらなくなり、むしろ生きていく上で必要なエネルギーをためていけるでしょう…… あとは、【アイテムボックス】と【鑑定】ですね」
【アイテムボック】とは、アイテムをほぼ無限に収納できるスキルであり、【鑑定】とは名前の通り物を鑑定できるスキル。
この時点で緑は異世界で生活していく上で、異世界にいったは良いが、お金が稼げず餓死することはないと安心する。
その安心と同時に聞きたいことが生まれる。
「いくつも質問して、申し訳ないのですが、女神様の世界では、魔法は使えるのでしょうか?」
「もちろん、ありますよ。あなたの適正はすべての魔法を使えるようにしておきます。ですが、その魔法のレベルを上げて、生かすも殺すもあなたの努力次第です」
緑は女神の言葉を聞くと、これは、どうやっても幸せな人生にしかならないと思った緑は、女神に尋ねる。
「あの、今までの話を聞く限り、ものすごく優遇されている気がするのは気のせいでしょうか? そして、優遇される理由がわかりません」
「確かに、あなたを優遇してしまってる部分は否定できません。しかし、あなたの世界での生き方を見ていた時に思ったのです。若くして、優しい、自然を愛するあなたのような人が、もし、私の世界に来てくれたら嬉しいと……そして、もし私の世界で生きてくれるなら、絶対に幸せになって欲しいと……」
その瞬間、緑の心には例えようのない幸せに包まれる。それと同時に今まで、どこか夢を見ている感覚であったが緑だが、自分が死んでしまった事も自覚した。
両親がいない緑は施設に助けてもらい生活をし、学校に通っていた。緑はそれだけで、学校に通え、友達もでき、路頭にまよわず暮らしていける事に十分に幸せを感じていた。
それなのに女神は、緑にもっと幸せになりなさいと言う。緑は感極まって涙を流しながら女神に言う。
「ぐす……そんな風に言っていただいて、ありがとうございます……」」
「それでは、私の世界に来ていただけますね?」
緑は、涙をぬぐい笑顔を女神にみせ返事をする。
「はい! よろしくお願いします!」
そんな緑の笑顔と返事を確認すると女神が言う。
「では、送ります。あなたが幸せになれるよう祈っています」
女神がそう言うと、女神が輝きだし、緑の目の前が真っ白になった。
ほんの数秒後、真っ白になった視界が晴れ、自分がいる場所を確認すると、緑は周りが木々に囲まれた、湖のそばに立っていた。
すぐさま緑は周りの様子を伺うが、モンスターや動物の気配は感じられない。とりあえず湖をのぞき込み自分の姿を確認する。
自分の姿をみた緑は、驚きを隠せずにいた。多少姿が変わると聞いていたがここまで変わるとは思っていなかった。
見た目は中性的な姿で、かなりの美形であった。身長も正確に判らないが170cm中盤はあり、以前の身長から考えると高く感じる。
髪は腰あたりまで伸びているが、全く邪魔に感じず、くせ毛ではあるが手櫛を通すも引っかかりもしない。
そして、超ミドリムシの種族特性か体の殆どが、エメラルドグリーン色をしている。
まとめると、体の色素がほとんどエメラルドグリーンにちかい身長高めのイケメンである。自分の姿を確認した後、緑は次にスキルの確認をはじめる。
まずは【超光合成】の確認をする。目を瞑り緑が自分の中に意識を向けると、所持しているスキルが並ぶ。
スキル 【超光合成】【アイテムボックス】【鑑定】
この【超光合成】のスキルは、どうやら常時、緑の意思とは関係なく発動しており、今現在もエネルギーをごくごく少量であるが生み出しつづけている。
ただ女神が言ったように、食事をまったく考えずにいられるほどのエネルギーとは考えられず、緑は首をひねり考えこむ。
緑はしばらくして考え込んで、思いついたことを呟く。
「……もしかして水が必要?」
そう呟いた緑は、疑問の答え合わせをするべく、湖の湖面に近づき足をつける。
「ふぁああああ!」
緑は、急速に生まれるエネルギーに、思わず変な声をだしてしまう。緑が湖に足をつけると、先ほどまでとは打って変わって、膨大なエネルギーが生み出される。これほどのエネルギーが生み出されるなら、女神が食事を必要としないと言っていたのも頷かれた。
ただ、食事をする必要がないだけであって、食事はできそうだ。
なぜなら空腹は感じないが、森にあふれている果物や湖にみられる魚を見て、緑は食べてみたいと思ったからだ。
緑は早速、異世界の食べ物を味見しようとする。
普通であれば、アウトドアが好きでもない、ただの中学生の緑が、素手で魚がとれるはずがない。だが、湖を覗き込んだ緑は、なぜかは分からないが、素手にも関わらず魚が採れると直感で感じた。
そんな緑は湖面に近づき、魚を取ろうとし手を伸ばした瞬間、緑の髪が一瞬にして魚を貫いた。
「うわっ!?」
自分の髪のした事に驚き、しばしそのまま固まった緑は、ゆっくりと魚を貫いた髪を引き寄せようと意識する。すると髪はゆっくりと、魚を手元に運んでくる。
魚を地面に置いた緑は、髪を動かしながらミドリムシには水中で動くための鞭毛という毛がある事を思い出す。
緑は、新しい自分の体に、今まで無かった感覚が生まれるたことに楽しくなり、新しい自分の体をしらべはじめる。
しばらくの間、緑は新しい自分の体を調べたところ、いくつか分かった事がある。
まず髪は自分の意思で、手のように動かせ、その上、緑の腕の筋力などとは比べ物にならないくらい力強い。さらに【超光合成】で作ったエネルギーを使えば、その長さを伸ばしたり縮めることができた。
これで緑の日常生活のほとんどの行動を、髪を伸ばし動かせば行えてしまい、緑は自分がダメ人間になってしまわないか、少し心配になる。
緑は、一通り自分の体を調べた後、魚の事を思い出し、置いておいた魚へ向かう。
さきほど捕まえて、置いておいた魚を見つけた緑は、その魚を食べようと、焚き火の準備をする。だが、準備が終わり、緑がいざ魚を食べようとして、こまったことになる。
「あっ、どうやって火をつけよう……」
緑は捕った魚を調理するのに、枯れ木を集めたはいいが、どうやって火をつけようか考える。
緑は、どうやって火をつけようかと、考えている途中で魔法が使える事を思い出す。緑は【超光合成】でできたエネルギーを、体の外に出す様にイメージして意識を集中する。
「えっ? なんで……?」
魔法を発動させようと思った緑だが、実際起きた事は、緑の髪の隙間に小さな実がいくつできた。
「なんで魔法じゃないんだろう?」
そう、つぶやきながら緑は、実を一つ取って【鑑定】スキルで確認する。
【緑の実】 水野緑から生まれた実。さまざまな効果が付与することができる実。爆弾タイプの実。
鑑定の結果を見た、緑は頬にいやな汗が流れる。
「これ、手榴弾だ……」
1人、緑は青い顔をしながらつぶやくのであった。