総会3
「それでは皆様、ここで午前の部は終了と致します。現在11時半でございますが、午後は2時間後の1時半より開催となります。
お食事は愛園教で運営しておりますレストランが何軒かございます。日本食、中華料理、イタリア料理など色々ございますので、ご自身の好みのお店でお食事をなさって頂きますようよろしくお願い申し上げます。初めて来られた方には係員の者がご案内致しますので、その場でお待ち頂きますようにお願い致します。昼食として2時間とってありますので、慌てずにゆっくりお進みください」
総合司会の本郷正輝が丁寧に説明すると、何度も来ている者はレストランの方に歩いて行き、また友達を連れて来た人はレストランへ案内しているようだ。
午前の部が終わり舞はホッとした。予想外に多くの人が来ていたので何となく疲れた感じがした。
「神渡先生のお話素晴らしかったでしょう?」
隣に座っていた稲本香苗が笑顔で言った。
「確かに…。何か頭の後ろにオーラのようなものを感じたわ」
「でしょう。私ね愛園教に入ってすぐ『宣誓』を申し出たの。それが認められて宣誓者になることが決まったの。もう嬉しくって…。総会の午後の部で表彰式が行われるのよ。岩沢さんはまだ宣誓を申し込まないの?」
「私? そんなことまだ考えていないわ。 宣誓を申請しても宣誓者と認められるのは1年後位かなって思っていたんだけど、稲本さんは随分早く認められたのね」
「ええ、そうみたい。感謝しか無いわ」
新小岩地区は皆一緒に食事をした。愛園教が経営する店の中では値段が比較的安いファミレスと言った感じの店だ。皆が注文したのは本日のサービスランチで、780円でサラダとドリンクバー付きのセットだ。
「岩沢さん、どうだった? やっぱり緊張した?」
坂口が訊ねた。
「ええ、ちょっと緊張しました」
「そうでしょ、私も初めて来た時は緊張したから分かるわ。今日は稲本さんが宣誓者として認められて表彰されるのよ。私も凄く嬉しいわ。新小岩支部にとっても名誉なことだわ」
「さっき稲本さん本人から宣誓者になった話を聞きましたけど凄いですよね。単に美人なだけじゃなくて汚れが無いと言うか…。少なくても私の周りにはあんな清らかな純粋な人っていないと思います」
舞がそう言って香苗を見ると、香苗は照れくさそうに俯きながら笑顔で言った。
「岩沢さん、褒め過ぎです。でも、そんな風に言って頂けて凄く嬉しいです」
「新小岩支部では私と森田さんが正宣誓者で、それ以外は全員宣誓者よ。岩沢さんも早く宣誓者になれると良いなって思っているんだけど……。岩沢さんはまだ宣誓を申し込まないの?」
坂口が舞の顔を覗き込むようにして言った。
「いや…まだ…私は修業が足りないというか…そのう……」
舞がシドロモドロになって言うと、
「まあ、こういうことは強制するものじゃないから、ゆっくり考えれば良いわ」
「はい」
「僕達が宣誓者に申請を申し込んだのも愛園教に入って1か月後位だったね」
飯岡が田中の方を向いて言った。
「うん、無事宣誓者になるまでに半年かかったけどね。だから稲本さんが3か月で認められたって言うのは異例の出世だよね」
田中が言った。
「ちょっと田中君、何よ出世って…。会社じゃないんだからね。稲本さんは心がとっても純粋だから神様に早く認められたのよ」
坂口が言った。
神様に宣誓を誓っても、宣誓者と認められるまでには半年以上かかるのが普通だ。
だから稲本が3か月で宣誓者と認めらたと言うのは、他の人達からは羨ましいと思われるのだ。
宣誓者として活動して3年以上経った者は、その努力にもよるが正宣誓者と認められる。正宣誓者になると、より神に近づいた存在となり、とても名誉なことなのだ。
新小岩支部では坂口と森田の2人が正宣誓者になっている。坂口は3年前に、そして森田は半年前に正宣誓者になった。
気心が知れた仲間達ばかりなので話が弾みあっという間に総会の開始時間が近づいていた。皆は急いで会場に向かった。本殿に戻ると、多くの人達が既に戻ってザワザワしていた。
「はい、お待たせしました。皆様、お食事は如何でしたか?」
司会の本郷正輝が笑顔で会場にいる人達に語りかけた。
「美味しかったで~す」
客席から声がかかる。
「それは良かったです。それではそろそろ総会の午後の部を始めたいと思います」
客席からは拍手が起こる。
「それではまず神渡教皇先生のお話がありますので、拍手でお迎えください」
本郷の言葉に一斉に大きな拍手が起こる。そしてしばらくすると神渡がステージ上に現れた。
「皆さんは美味しい食事をされ満足そうなお顔をされていますね」
その言葉に会場からクスクス笑い声が聞こえる。
「さて、総会の午後の部の最初は、日々活躍されている皆さんへの表彰式を行いたいと思います。
平和への熱い思いを持った人達が神様への誓いをされ、宣誓者として認められた証とも言うべき『宣誓者』という称号を与えるべく、今日ここに表彰したいと思っております。
今回正宣誓者となられた人は24名、宣誓者が17名いらっしゃいます。41名の皆さん本当におめでとうございます」
神渡がそこまで話すと、司会の本郷がマイクに向かって話し出す。
「それではまず新たに宣誓者となりました人から紹介致します。近江拓海さん…」
名前を呼ばれた青年がステージに上がると神渡に会釈をし、それから客席に向かって会釈をした。それから次に神渡の一歩手前まで歩み寄って、再度神渡に深々とお辞儀をした。
神渡の傍にいる本郷がそっと小さめの厚紙『宣誓者証』を渡すと、神渡はそれを両手で広げて持ち読み上げる。
「近江拓海殿 あなたは常日頃から人々に対して優しく愛のある行動をとっており、その姿を神は大変喜ばしく思っています。あなたの純粋にこの地球を救いたいという暑い思いが天におられます神様に届き、今宣誓が受け入れられたことをここに証します。
宣誓者となられた後もますます精進され、正宣誓者を目指して頑張られんことを強く祈っております。
平成27年〇月〇日 神渡〇」
近江拓海は宣誓者証を受け取ると、感動して涙ぐんだようだが力強く感謝の言葉を告げた。
「神渡先生、本日は本当に有難うございました。僕はこの感動を忘れず、これからもひたむきな努力を重ねてまいりたいと存じております」
近江がそう言うと、大きな拍手が起こった。
「近江さん、本当におめでとうございます。お時間の都合上新たに宣誓者となられた16名の皆さんは、神渡先生からの宣誓者証の授与だけとさせていただきます。ご了承ください」
拍手が起こり、他の16名は名前を呼ばれて壇上に上がると、神渡から直接宣誓者証を受け取っていった。最後に稲本香苗の名前が呼ばれた。本来なら宣誓者証の授与だけなのだが、宣誓者証を渡し終わった後神渡が言った。
「稲本さん、宣誓者になられおめでとうございます。普通は相薗教に入信して半年以上しないと宣誓者には認められないのですが、あなたは特別に3か月と言う速さで宣誓者と認められました。それはあなたが並外れた純粋な人であり、また神様からの指名を受けてこの世に生を受けたからなのです。もちろんご本人はそのことをご存じないと思います。神の申し子であり代弁者である私しかそのことは知りえないからです。しかしながら近い将来あなたは私の片腕となりこの愛薗教を世界中に広めていくことと思います。まだ稲本さんは知識的なものは不足していると思いますが、新小岩地区の皆さんの協力で色々学びの場を設けて頂いて少しでも早く神様の力になれるようになって頂きたいと思います。そしてここに集まった多くの信者の皆さん、神の意志を受け継いでいる稲本さんを祝福してあげて下さい」
神渡の言葉は衝撃的とも思われた。誰もが驚き耳を疑った。しかし神の代弁者である神渡の言葉を
その場にいた全員が信じた。神渡の言葉はこの宗教が始まって以来ともいえる激震ともいえる言葉ではあったが、大きな歓声が沸き上がり人々は歓喜に沸いた。