神渡教皇を信じる人達
彼らは見た目には何処にでもいるごく普通の若者なのだが、神渡教皇と言う教祖を心から尊敬しているようだった。
ふと隣にいる高校生の稲本香苗を見ると、潤んだ瞳からスッ~と涙がこぼれ落ちた。この子は見た目が綺麗なだけじゃなくて心も素直で純粋なんだなと舞は思った。
舞の会社はほぼ定時で終わるので仕事から帰ると、アパートに帰る前に『愛園教』の新小岩支部があるこのマンションに立ち寄るようになった。皆も満面の笑みで迎えてくれるし、一緒に話をするのは楽しい。学生だったり社会人だったりするので、全員が揃わないこともあるが舞にとって居心地の良い寛ぎの場となっている。
舞が初めてこのマンションに来た日から2週間が経ち、今ではここにいる人達は何でも気軽に話せる仲間といえる存在になっている。
「岩沢さん、今度の日曜日は総会だけど来られるよね?」
坂口が言った。
「もちろん大丈夫です」
「そう、良かったわ。神渡先生に初めてお会いするのよね」
「はい」
「素晴らしい方よ。神々しいと言うか、お会いできるだけで感無量と言うか幸せな気持ちになれる方よ。ねえ、稲本さん」
「はい、この世のすべての汚れを無くし、人類を本当の幸せに導いて下さる神様だと思っています」
稲本香苗は嬉しそうに微笑みながら言った。
「神渡先生は本当に凄い人だと思う。親の言うことは聞けないこともあるけど、神渡先生の言葉なら何でも聞けるし信じられるよ」
飯岡翔馬が言った。
「総会で神渡先生に会って直に話が聞けるのは嬉しいよね」
田口勇樹が振り返って、水辺萌と森田早苗の顔を見る。
「ええ、今からお会いできるのが楽しみだわ」
「私も」
水辺萌と森田早苗は顔を見合わせて頷き合った。
舞は神渡先生ってどんな方なんだろう。日曜日が来るのが楽しみになった。