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002.出会いと生活


ダァン! ダァン! ダァン!

木の軋む音が真夜中の森に響いている。

俺は木の上から動けずに折れないことを祈ることしかできない。

なんでこんなことになっちまったんだ…。


経緯を説明しよう。


ダーグの部下から逃げるように森に入った俺は眠ることのできる場所を探していた。

なかなか良い場所は見つからなかった。

地面は虫が多くうごめいていて、もしサソリとかやばいアリ(?)に噛まれたりでもしたら怖いと考えていた。

だから慎重に寝床を選んでいた。しかしそんな理想的な場所は見つからず、もう寝るのを諦めようかな?今日はこのまま森を歩き続けようかな?と思い始めた時、一本の木を見つけた。

その木は表皮がツルツルで、

樹液が出ちゃっていろんな虫が寄ってきちゃう!なんてことにはならないような見た目だった。


その時閃いた。

この木に登って、木の上で寝ようと!

昔テレビ番組でガチな軍隊の人がそうして睡眠を取ってるのを思い出した。

更に言わせてもらうが、木登りは得意だ!俺は小学生の頃はゲーム、カードゲームが流行り始めた時期なのに

今思い出せばすごいなと思うほどに、外でばっっっかり遊んでいた。

もちろんゲーム、カードゲームも齧ってはいた!しかしデュエルは公園でしたり、通信対戦も公園でしていた。

そして飽きたら鬼ごっこ。

結局何が言いたいかというと、子供の頃から体を動かしていた俺はそこそこ運動神経がいいのだ!!!

こんな木登り余裕です!!! 1分で登ります!!!






所要時間20分、途中心が折れかけました…w

筋トレせねばなぁ…。


木の上に上ると、思った通り、この木には虫がいなかった。ふぅ!最高!

こうして俺はなるべく太めの枝の上に落ちないか不安な気持ちを持ちながら寝た。

そう、気持ちを持ちながら。ふふっ



約2時間後、事件は起きた。


結論から言おう!やっぱり木から落ちたのだ!あまり高さは無かったものの痛いことに変わりはない。

あぁ〜。と腰をさすって痛みに耐えていると

闇の中から何かの気配を感じた。

しばらくして、グルルルゥルルゥと獣のうめき声が聞こえてきた。

まっ、じっ、かよっ!!!!

俺は急いで木にもう1度登った、2度目なので要領は得ていた。

さらに数分後、俺の登っている木の周りには俺のイメージするイノシシを2回りくらいでかくして、

凶暴度をマックスにしたような獣が3,4匹集まってきていた。

いや、多分獣じゃない、これは魔物だ。そう直感した。

誰か言っとけよ。聞いてねぇよぉ!!!!!


こうしてこの状況は出来上がったのである。


どうしようか。このままじゃこの木はいつか折れて、俺はこの魔物に襲われるだろう。

今になってこんな森の深くまで来たことを後悔する。

助けを求めてみたところで意味はあるんだろうか?

ここからじゃ声はどこにも届かないんじゃないだろうか?

でも何もしないよりマシだ、もはやダーグの部下でも誰でもいいから助けにきてくれぇ。

そう思いながら、叫んだ。


「ぅおぉ〜〜〜〜い!!!!!!!!!

 だぁ〜〜れぇ〜〜かぁ〜〜!!!!!!!!

 たぁ〜〜〜すけぇ〜〜〜てぇ〜〜〜!!!!!!!!」


渾身の叫びだった。

自身の過去最高の叫びであることは間違いなかった。

小学生の時に行った遊園地のお化け屋敷、圧倒的戦慄病院で叫んだ、自己ベストの絶叫を遥かに上回っていた。


静かだった森に俺の声が響き渡る。

やがて静かになり、助けに来る人の姿は見えなかった。

さらに5分が経ち、いよいよ木が3分の1ほど抉れてきた。

俺は既に3分ほど前から木に所謂遺書というものを彫り始めていた。

内容は家族とここに転移させてくれた女神への感謝だ。

「おかあさんうんでくれてありがとう。おとうさんめいわくかけてごめんなさい。おとうとしあわせになれよ。

 めがみさまてんいさせてくれてありがとう。」

そう彫り残し、天に祈っていると、遠くからひとつの光がこっちに向かって足早にやって来るのが見えた。


あぁ、天使が迎えにきてくれた。頭の中ではパイプオルガンの綺麗な音色が流れていた。

さよなら俺の人生。葬式は身内だけでやってくれ。お墓も大層なものにしなくていいからね。

なんて考えていると「大丈夫ですかー!?」という声が聞こえた。

そこで気付いた、あれは天使ではなく、人間だと。俺を助けに来てくれた、生きてる人間だと!

何死ぬ気になってんだ俺は!やっと正気に戻った。


「すいません!!!助けてください!!!俺にはもうどうしようもなくて!!!!!!」


「はい、もちろん。そのために来ましたから!」


助けに来てくれた男は白髪にとても爽やかなスマイルで、俺にはまるで彼が白馬に乗った王子様に見えた。

王子は手を前にかざし


風の檻(ウインドジェイル)!!!」


と唱えた。

するとどうだろうさっきまで俺を睨みつけ、木に突進を繰り返していた魔物達が

風で出来た檻のようなもので急に動かなくなった。

すげ〜 これって魔法かなんか? マジ半端ね〜

そう思ってると風の檻はだんだん縮んでいき魔物たちを細切れにした。

もう唖然だった。

いつの間にかあんぐりと開いていた口を閉じて、

無事木の上から降りた俺は、してもしたりないほどの感謝の弁を述べた。


「王子!助けていただき本当にありがとうございます!!!

 あなたは命の恩人です!!!!!」


永遠に低い姿勢で感謝し続ける俺に対して、王子は当然のことをしたまでなので!というような感じだった。

さらに王子は今日は危ないのでうちで泊まっていってと言ってくれた。

Oh… My God!!!!! 俺の中でお兄さんは王子から神に進化した。

そしてお言葉に甘えて、俺は神の家にお邪魔した。


家に着くと神は一杯のお茶を出し、俺が誰かなんて気にもせず、

自分のことを雄弁に話出してくれた。

神の名はゴーシュといい、精霊管理者をしているとのことだった。

精霊管理者?と思ったが説明を聞くと俺の中での疑問がひとつ解消された。


精霊は5年以内にバディを見つけなければ災害をもたらすと言ったが、

やはり全ての精霊の管理なんて難しい。

なので精霊と人間は協定を結び、相互に協力して全ての精霊が5年以内に契約することができるようにしているらしい。確かにそれなら人間にも精霊にもメリットがある。

そして精霊との連携を代表して行なっている、いわば人間代表が精霊管理者なんだとか。

ゴーシュさんはこの精霊の里の精霊管理者としてこの森で1人で暮らしているらしい。

ん?精霊の里?何?と思った。しかし今は要約してるから良いが、

ここまでの説明に実は30分を要している。さすがに聞く気力は失せていた。

穏やかな性格だからか、話すのが遅い!!!


「あ、あ、ありがとうございます。」


話終わった頃には、

入れてもらったお茶は、俺のは全て飲み干され、ゴーシュさんのは冷めきっていた。

俺もゴーシュさんに今日あった最悪の出来事を話した。

俺の話はさすがに5〜10分くらいで終わった。


「それは災難だったね。僕は月に一回しか街に行かないし、

 滞在時間も30分くらいだから、動向までは知らないんだ。

 それで君はこんな危険な森に居たんだね。」


ゴーシュさんは街の名前と街の長の名前くらいしか知らなかった。

こもってるとは言っても、これだけ知識がないのはこもりすぎだろっ!と思った。

そしてやっぱりここは危険な森だったようだ。

逆によく何事もなくあの木までたどり着けたもんだ。俺は本当に運が良かったと思う。

ところで、俺はゴーシュさんが魔物に使った魔法のようなものについて興味があった。

あれは魔法とかなのかと聞くと彼はまた嬉しそうに、自分は昔、クリエイターとして

冒険をする生活を送っていたと教えてくれた。どうりで強いわけか!!!

あれは魔法じゃなくて想像(クリエイト)だったわけだ。

ゴーシュさんの表情から今話してた話より更に長い話をしようとしていることを察した俺は、


「あっ!その話はまた明日聞かせて貰っていいですか?

 今日はもうヘトヘトなもんで…。」


そうするとゴーシュさんは少し寂しそうな顔を浮かべながら、

空いている部屋に案内してくれた。少しして、俺はこの日、眠りについた。




次の日、俺は起きて、部屋を出た。

昨日話を交わしたところにゴーシュさんの姿はなかった。

更に家を出て辺りを見回すと崖の側面に洞穴のようなものがあった。

すると中からゴーシュさんがノートらしきものを持って出てきた。


「あっ!おはよう!よく眠れたかい?」

「もちろん、ふかふかのベッドだったのでよく眠れました。」

「それは良かった!」


そういうゴーシュさんの周りには光の玉が活発に動き回っていた。


「何してたんですか?」


「俺は精霊管理者だからね、今日生まれた精霊の確認をしてたんだよ!」


聞くと、ゴーシュさんの周りにある光の玉は精霊だった。

下位の精霊は魔力が弱いので実体化できないらしい。

つまり、今見えているのはほとんどがランクE、もしくわFであった。

初めて見る精霊に俺はテンションが上がり、ある1つの考えを思いついた。


「ゴーシュさん、俺精霊と契約したいんですけど、すぐできるもんなんすかね?」


それはゴーシュさんに精霊を紹介してもらうことだ。

精霊と契約すればクリエイターにもなれる

そうすれば魔素量が増え、魔力が高まり、俺は強くなれるということだ。


昨日のうちに街でのことを話していたので、

ダーグを懲らしめてやりたいと、悪く言うと復讐したいということを

ゴーシュさんは一瞬で察知してくれた。


「うーん、いいけど戦いたいとなるとCランク以上が必須なんだよ。

 でもライラックが”始まりの街”って呼ばれてることからもわかるようにここら辺は

 あまり強い人も強い精霊もいないんだよねぇ」


へぇ、あの街ってライラックって言うんだ。と思いつつも口には出さなかった。

まぁ、確かにRPGのゲームでも、スタート地点付近でいきなり強い敵は出てこない。

戦い向きではない人があの街に集まるのはここら辺の魔物が弱く、割と安全に暮らせるからだろう。

だからCランクの精霊と契約したダーグに誰も逆らえない。

ダーグ、ダーグ…。 あっ!!!


俺はおじさんから聞いた話を思い出した。

そういえばダーグは元々Sランクの精霊を探していたって言ってた…。


キタッ!!!と思った。

これは俺が物語の主人公なら、このSランク精霊と契約するフラグビンビンじゃん!

かなり興奮しながらゴーシュさんに聞いた


「ゴーシュさん!でもここら辺にSランクの精霊いるって聞いたんですけどっ!

 それはどうなんですか!?」


ゴーシュさんは顔を曇らせた。


「まぁ、いることにはいるんだけど…。」


「……なんですか?」


「実はどこにいるかわからないんだよ。

 最後に会ったのも一年以上前で…、でも目撃情報はちょくちょくあるから、

 まだ契約はしてないみたいなんだけどさ!」


「いるならいいんですっ!俺が強くなるにはそいつと契約するしかないんで!」


希望が見えてきた。

最初に強すぎる力を手にするのはあまり好まないが、

自分に起こるのであれば大して悪い気はしない。

この森はめちゃくちゃ広いが絶対に探し出してみせるっ!と意気込んでいた。

するとゴーシュさんが


「でもね、この間森がざわついていて、何だろう?って思ったら

 強そうな人がいっぱい居てね。

 その人達に話を聞いたら、お金持ちの人がたっくさんお金をかけてその精霊を捜索してるんだって!

 だいたい150人くらいで!今思えばそのお金持ちっていうのは

 ライラックで君を痛めつけた子なんじゃないかな?」



希望は一瞬で潰えた。

軽く家出しただけって言ってたけど、そんな大掛かりなことしてたのか…。

はぁ〜、150人もかけて見つからなかったものを俺は1人で見つけるのかぁ…。

やっばい〜なぁ〜

自分がしようとしていることがどれだけ無謀なことかを知った。


「だから見つけるのは結構大変だと思うよ…。」


「………。」


もう俺は黙ることしかできなかった。



その日はゴーシュさんの元で精霊管理者の仕事を見学した。

ゴーシュさんは管理している精霊の里の長と連携を取って

その日生まれた精霊の数を確認、ノートに書き、

タイムリミットの近い精霊とコミュニケーションを取って、街に契約しに行く日取りを決める。

大体の仕事はそんな感じらしい。

ゴーシュさんはあの街に雇われているので、収入源はそこらしい。

精霊管理者は精霊の暴発を防いでいる、いわばあの街を守っているわけだから

そこにお金が発生するのは当然だろう。




そして俺はゴーシュさんの家を出た。

なんでわざわざ危険な森に戻ったのか。それは、

俺は人に貸しを作るの嫌い。単純にそれだけ。

自分でも思うが、俺は1人で生きる事、つまり自立する事にかなり固執している。

昨日のことがあり、もうあんな風になることは無いと、変な自信があるのだ。

その自信が故の旅立ち。その自信が故のフリーターである。

更に異世界補正でもかかってるのか、

一度死にかけて、遺書まで書いたのにこの森に恐怖心は無かった。

いや、無かったは嘘かな? あるっちゃある…。 いやあるわw

ありがたい事に武器も貰った、斧だ。

俺はこれからいわゆるサバイバル生活をするわけだから

木を使うことが必須になるわけだ。

木を切る必要があり、武器になるもの… まぁ斧だわな!

あと今の俺の筋力だとロングソードとかを命中させても、

一撃で死に至らしめることができるかどうか怪しいのである。

斧なら… 重いからなんか、ザクッ!といけそうな気がする。

そんなわけで斧を貰った。他にもロープ、ナイフ、マッチなど基本的な必需品をいくつも。

本当にこの男は神だ。そのうちこの男には恩を返さなければなるまい。

そう心に決め、俺はまたこの森に飛び込んだ。


少し進んだところで、もうあんなことはないように、木の上に簡単な寝床を作った。

斧でソコソコの太さの木を切って、作りたい木のところまで運び、立てかける。

木に登り、立てかけてあった木を上に運び、上で半分に切る。

それを太めの枝の間に架け、ロープで枝に固定する。

これの繰り返し。そしてこれがまぁ〜〜〜時間がかかる。


10時間かかった。


できなかったら今夜もまたゴーシュさんの家にお邪魔になるところだったが、ギリッギリ完成した。

ここまで来ると、最初に気にしていたような虫に対する恐怖心などはもう微塵も無かった。

火を起こし(ここでも1時間ほどを要す)、夜は筋トレ。

飯を何も食ってない事に関しては目をつぶってほしい。明日は頑張って食料確保するので!

こうして俺の2日目は幕を閉じた。

この生活はしばらく続くだろう。

この生活から抜け出す時は、俺が上位の精霊と契約して、ダーグをひねり潰していると時だ。

まだそんな未来、訪れる気配もないのだが…。

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