001.最悪な初日とおじさん
俺は体が震えていた。いわゆる武者震いというやつ
俺の新しい人生はここから始まるんだ!と。
まずここはどこなんだろうか
能力を使おうと右人差し指を立てる
「『ガイド』!」
分厚い本が出てくるかと思ったが、
ヴワァン!という一瞬の光とともに
出て来たのは折りたたまれた一枚の地図だった。
どうやらその時、求めていることによって出てくるものに違いがあるみたいだ。
「うぉぉ!!!!!兄ちゃん、クリエイターかい?!」
どこの村にでもいそうな気の良さそうなおっさんが突然話しかけて来た。
クリエイター?なんだこのおっさんは…
とりあえずニッコリして笑顔でごまかした。
「いやー、羨ましいねぇ!!!俺もね、Dランクくらいの精霊についてもらえたらさぁ…
もっといい人生送れてたんだろうなぁ。」
ニコニコしてるしかなく、
このおじさんが何を言ってるのか全くわからなかった。
「おじさんもこれから入国ですか?」
思い切って言葉を返してみた。
「入国?ここは街だよ?何言ってるんだい!
ハハハハハハハハハ!!!!!」
やばい…。早く『ガイド』でこの世界の常識を頭に入れなければ、俺は何も知らない。
「そうっすよね!ハハッ!じゃあ俺急いでるんで!」
そう言って門に向かって走り始めた。
また今度な〜とおじさんは手を振ってくれていた。
開けっぱなしになっている門は、大層な設備の割には少し不用心にも思えた。
身分の証明なんかも必要なく、俺はスッと街に入った。
街はなかなか広く様々なお店があった。
しかしその割には人々の表情は暗く、疲れが出ているように見えた。
どっかの喫茶店にでも入って(この世界に喫茶店があるかはわからんが)、
『ガイド』を使ってこの街とクリエイター(?)について学ぼう。
そう思い、街の中を散策している時だった。
自分の周辺にいた人たちがざわざわし始め、やがて道の真ん中に通り道を作り始めた。
誰か偉い人でも通るのだろうか?と周りに合わせて俺も端に避けた。
少し後方に目をやると、先ほどのおじさんがまだ道で遊んでいる子供たちを端へと誘導させているのが見えた。
その更に後方から茶髪と黒髪のガタイの良い男2人に挟まれて、
いかにも偉そうにしている金髪の男が歩いてきた。
先ほどまでそこそこの賑わいを見せていた街が今は静まり返っている。
そして端に寄り損ねたおじさんのところまで来ると、なんの躊躇もなくその背中を蹴り飛ばした。
そして道の端まで避けていた俺のところまで3mほど吹っ飛ばされた。
酷い言い方かもしれないが、よりによって俺のところへ。
俺は苦しそうにしているおじさんを見て反射的に「大丈夫ですか?」と声をかけてしまった。
多分こういうのは無視するのが一番賢い方法なのかもしれないが、反射的に出てしまったのだ。これはしょうがない。
むしろ良心がちゃんと自分にあることを讃えてあげるべきだ。
だが、もちろん……
「おい、お前何勝手に喋ってる?」
「はい、すみません。つい…」
そりゃこうなる!素直に謝った。でももしかしたらこのおじさんが借金していてこいつはその取り立てで…
その瞬間俺の体は聞いたことのない音を発しながら2mほど吹っ飛ばされた。
人に殴られるというのはこんなに痛いのかと、初めての体験に俺は頬を抑えてうずくまっていた。
「すみません… お願いですから… この人は関係ないですから…。」
おじさんが力ない声で訴える。
しかし茶髪の男は強引に俺の首根っこを持ち上げて、金髪の男の元へ俺を引きずっていった。
俺の顔を見ると金髪の男が
「あなた、初めて見る顔ですねぇ。
……おや?いいもの持っているではありませんかぁ!」
そう言って俺の手に持っていた地図を取り上げた。
思わずあっ!と声が出た。
金髪の男はニヤニヤしながらそれを広げると一瞬で驚嘆の表情を見せた。
「なっ!!!もしかして完全な世界地図!?!?
こんなもの初めて見た…。
あなた!一体どこでこれを!!!」
金髪の男はひどく興奮しているようだった。
どうやらこの世界には現代のように、世界地図なんてものはないようだ。
やはり地図を作ることはすごく難しいこと、伊能マジリスペクトである。
って非常事態に何考えてんだ!俺は!
いや、考えらざるを得ないのだ、殴られたところが痛すぎて、
他のことを考えてないと気が持たないのである。
どう答えるのが正解だ?せっかくもらった能力をこんな奴らに知られるわけには…
なんて考えていると、ボディに追い討ちが入った。
「ダーグ様が聞いてんだろうがぁ!!!!!」
俺のことを殴った張本人が更に怒鳴りつけてきた。
金髪の男は右手を上げて茶髪の男を制止した。
激痛に見舞われ、意識が朦朧としながらも『ガイド』のことを知られるのはまずい
と思った俺はとっさに嘘をついた。
「この街に、入る前に、森で拾ったんだよ…。」
「そんなわけ……
でも… まぁ… いいでしょう。
この地図に免じて許してあげましょう!
私の気が収まっているうちに早く失せなさい。」
こいつらはなんでこんな偉そうなんだろうか、なぜ周りの者たちはこれを無視しているのか、
俺は溢れてくる色々な衝動を歯を食いしばり、押さえ込んだ。
そしてボロボロの体で、おじさんに肩を抱かれ、トボトボと入って来た門に向かって歩き始めた。
こんな国もう居たくない。早く出よう。そう思っていた。
「おい!待てっ!!!」
まだ何かあるのか…?さすがにもう勘弁してほしいと思いながら
俺はゆっくりと振り返った。
「その背中に背負っている荷物も置いていきなさい…… 早くしろっ!!!!!」
荷物というのは女神がこの世界に転移させる際に
俺に与えてくれた最低限度の必需品が入っているリュックのことだろう。
せっかくこの荷物も地図も女神が俺に授けてくれたものなのに…
俺はリュックも置いて行くしかなかった。
歩くたびに町中の人たちが、心配そうな目を向けながらも声はかけず、あくまで関わってはダメだ。というような対応を俺にして来ているのがわかる。何かこの街にはあるのだろう。
そして、ダーグと言ったか…
力を手に入れたら必ずあいつから潰す。そう心に決め俺はこの街を後にした。
外に出ると街の周りは森に囲まれ、山が1つと海しかなかった。
おじさんは俺を道の傍らの草むらに寝かせてくれた。
港から街に向かって行く人がたくさん俺たちの前を通った。
しかしその人たちも街の中の人同様、
心配な表情こそすれども話しかけてきたり、手を差し伸べたりする人はいなかった。
正直、なんて不親切な奴らだ!とも思ったが、たった今あんなことがあったのだ。
日常的にああいうことが起きているならば、この対応は納得せざるを得ない。
「すまんね、兄ちゃん。巻き込んじまって…
本当にすまん。この通りだ!!!」
といって土下座をするおじさんだが、俺は草の上で寝ているのだ。なんなら目線は俺の方が低い。
それじゃ意味ないだろと思いながら、
いいからそういうのは!大丈夫だから!といって俺は起き上がって見せた。
そして俺は一番気になっていたあの街のことについておじさんに尋ねた。
あのダーグという男は昔大きな戦争があった時にこの街に逃げてきて住み着いた貴族の末裔らしい。
要はそこそこのおぼっちゃんってことだ。
しかしちょっと前からその一族を継ぐ者たちは自分の権力を誇示しなくなり
より普通の街の人に近い生活を送るようになったらしい。
なんだ、すごくいいことじゃないか?でもダーグとやらはあの有様…。わからん。
そしてダーグはそのことにしばし納得がいってなかったらしい。
ある日、ダーグは家出をした。家出といっても2,3日である。少し騒ぎにはなったが、大して変わりはなかった。
しかしダーグにはその日から大きな変化があった。
ダーグは家出している間にCランクの精霊と契約してきたのだ。
これはすごいことである。戦闘職につかない人々の魔素の使い道は家庭道具など日常生活に使う物のみなので契約するのも下位の精霊でよく、ほとんどがE,Fランクの精霊らしい。
Cランクというのは戦闘職を狙えるレベルである。本当は最近ここら辺にいると噂のSランクの精霊を狙って行ったのだが見つからなかったらしい。
それからは街の人にも、親にでさえもあんな態度らしい。
終いには稼ぎの1割をうちの家に納めろなんてことも言い始めているという
完全に、力を手にして調子に乗ってる典型的なバカだ。
どうりで街の人たちに疲れの色が見えていたわけだ。
あいつは誰かがお灸を据えてやんなきゃ、ずっとあのままだろう。
そしてやるならば、その誰かは俺だ。きっと女神がわざわざここを最初の転移先として選んだのも
俺にこの街の問題を解決して欲しかったからに違いない。そう思った。
しかし、俺にはもっと気がかりなことがあった。
それはせっかく女神からもらった能力を早速失ってしまったことだ。
あー、せっかくちょうどいい能力もらったのに…、もう一度授かることはできないんだろうか?
なんて考えていると、指にはまだ模様が残っていた、
ダメ元で「『ガイド』!」と唱えてみた。
するとどうだろう一瞬の光とともにまた地図が現れたではないか!
どういうことなんだろう。
『ガイド』で出した物は俺しか使えなくて、ダーグが持ってる地図は消えたということなんだろうか?
それともあれとは別の新しい地図が現れたんだろうか?
「うおぉ!!!やっぱ兄ちゃん、クリエイターなんだろう?
それだけできるってことはCランク以上と契約している証拠だからな!!!
いや〜、そんなすごい人だとは!ガハハハハハハハハ!!!!!!」
またおじさんが食いついてきた。
あんなことがあった後なのによくこんなに笑えるなぁ、
しかもさっきまで俺を巻き込んでしまったことにあんなに落ち込んでたのにもう切り替えてる…
まぁ、でもこんだけ笑ってくれると俺も盾になった甲斐があったってもんよ!
そしておじさんには街にある家に帰ってもらった。俺も何かと1人の方が動きやすいし。
おじさんを見送ってから俺は『ガイド』に関する検証を始めた。
まずこの地図をどう消すんだろうか?正確には「戻す」か。
俺の手を離れれば消えるんだろうか?
いや、ダーグに地図をぶんどられた時にはこの地図は消えなかった。
距離を取れば消えるんどろうか?
街の外にある道をいっぱい、いっぱいに使って試してみたが、200m以上距離を取っても消えなかった。
どうしたもんか…。と俺は悩んでいた。
「今はもういらねんだよなぁ…」そう思っているとボワァン!という煙とともに地図が消えた。
は!? あ!!! お? あ〜。
簡単な話だった。いらないと思えば消えるんだと気付いた。
地図が欲しい…。「『ガイド』!」 ヴワァン!
もういらない…! ボワァン! ほらね?
これで疑問は1つ解決した。よしっ!
「『ガイド』!」俺は本を求めた。
まずはさっきおじさんが言っていた”クリエイター”っていうのから調べてみよう。
この世界では想像者という者達がいて、
魔王と呼ばれる、街を脅かす魔物を生み出す根源を倒そうとしているらしい。
魔王は魔帝国パンデモニウムにおり、魔帝国パンデモニウムは闇黒大陸にあるらしい。
しかし闇黒大陸の魔素は高密度であり、それゆえに魔物の数、強さが人間の住んでいる
区画とは別次元らしい。それ故に人間も住めない。
闇黒大陸の魔物にも、魔王にも負けない強さを手にするためにクリエイターは修行場所のレベルを上げて
各国を回って行くのが普通らしい。
とりあえず「魔」っていう字が多いなぁ。そう思った。
っていうかそもそも想像者ってなんだろうか?
本によるとクリエイターとは空気中、または体内にある魔素を使い
想像力を元に、物質、はたまた空想上のものまで形成できる人たちを指す言葉らしい。
ちょっと難しく聞こえるかもしれないが、
要するに想像力がある人ほど強くなれるということだ!
なるほど、俺が選ばれた理由はこれだ!
そりゃ、マンガやラノベ、アニメなどのサブカルチャーがはびこる現代社会を経験してきている俺の方が想像力はあるし、強くなれるのは当たり前だ!
しかし人間にそんな芸当が可能だろうか?
俺は前の世界でそんな人、見たことがない。そりゃそうか笑
そういえば、この最悪の街に入る前、おじさんが精霊がどうとか言ってたなぁ。
早速調べる。
”クリエイターは精霊と契約すること(”契約する”とか”取り憑く”とか言い方はいろいろあるらしい)
によって初めて想像できるようになる。”とある。
やっぱり人間単体では無理なようだ。
精霊は生まれてから大体5年以内に契約する相手となる”相棒”を見つけなければならない。
見つけられなければ、増幅する体内の魔素に耐えきれずに暴発してしまい
最終的には最低でも周囲1キロ、最高で周囲100キロくらいに大災害をもたらすと言われている。
恐ろしい…。
更に精霊にはランクがあり、上からSS,S,A,B,C,D,E,Fの6ランクで、
ランクが高ければ高いほど内包している魔素の量も多い。
下位の精霊だと魔素が少なく実体化もままならず、意思も無い
だが、上位だと単体でクリエイトできたりするらしい…
思わず本を閉じてしまった。
頭がパンクしそうだ…。
これは毎日ちょっとずつ勉強してった方が良い。
前の世界でいくら本が好きとは言っても俺は興味のあることにしか努力できなかった。
それ故にテストも興味のある数学、英語は努力できて、80点を割ったことはなかった。
しかし国語や社会系の教科はてんでダメで特に古文系はいつも赤点だった。
まだこの量で本全体の1000分の1にも満たない…。
人生で初めて「とほほぉ…』と口に出しました。出るもんなんですねw
なんて少しほっこりとしていると辺りは暗くなり始めていた。
もう夜なのか…。本を読むのに今日の4分の1の時間を使ってしまった。
振り返ってみると散々な1日目である。
今日1日を一言で表現するならば、それこそ「とほほな1日」である。
さぁ、こっそり街に戻って宿でも探そうかな?ってかバレずに行けるかな?
なんて考えていると街の門の方から光が2つ活発に動きながらこちらに近づいているのが見えた。
俺はとっさに近くの森に隠れた。
なんで隠れたのか、それはわかりません。
前の世界でも高校生の時に何かしらのお店に行った時、同じくらいの年代の女の子がいると
高校の同級生かもしれない!と思い反射的に隠れてしまっていたのだ。
いや〜、みんなあるあるだよね?俺って別にインキャじゃないよね?そう信じたい。いや信じとく。
しかし今回は俺が森に隠れたのは正解だった。
2つの光はダーグとかいう奴の部下2人組だった。
2人の会話から察するにどうやら俺を探しているみたいだった。
これで1つ問題が解決した。
この2人が俺を探している理由それはあの地図だろう。
俺は街の外に出てから『ガイド』を使った時、
ダーグの持ってる地図が消えたのか?別の地図が現れたのか?のどっちかだと推測したがどうやらそれは前者だったようだ。
せっかく手に入れた激レア世界地図が無くなって大焦りしているのだろう。
いい気味だ。一生探してろ!
しかしこれで街に戻ることはできなくなった。
仕方ない。今日はこの森で野宿だ…。
そうして俺は森の奥に向かって歩き始めた。
しかしこの時、俺には見えていなかった。
森の入り口にある消えゆきそうな字の「魔物出現注意!」の看板を。
小説を書くって難しい!
自分の描きたいものが皆さんに伝わってることを祈ります。