092 絡まれました
まあ、後の事は冒険者ギルドと枢機卿さんに丸投げしました。
んで、話し合いは終了したので、税金なんかの諸々の手続きも書面に残して、私とギルドとで一字一句間違いがないのを確認して、各自で保管する。
アレンさんは通信の魔法具で、王都のグランドマスターに報告するからとギルド長室に戻り、私とお姉様は階下へと降りた。
そういや、ギルド証を作ってから一度も依頼をこなしてないや。
剥奪されても問題がないけど、ギルドに加入したのは確かなので、依頼をしようかな。
時刻は昼過ぎを通り越して夕方近いから、朝依頼を受注した冒険者がそろそろ帰ってくるだろう。
受け付け業務が忙しくなる前に、依頼ボードの確認だけしようと考えた。
うん。
手頃な依頼票はないか。
そりゃそうだよね。
旨味がある依頼は、朝から争奪戦で受注されるわな。
ん?
でも、数枚の依頼票が目に止まり、剥がして受け付け業務に戻ったお姉様の元に持っていった。
「レアーネさん。これ、受理お願いします」
「あら、依頼を受けていただけるのですね。それでは、受理致しますが……」
「はい、すぐに納品できますので、何処へ持っていけばいいですか?」
「そうでしたわね。レードから、聞いておりましたのを、すっかり忘れておりました。では、受理致します。暫く、お待ちくださいませ」
私が剥がした依頼票は、ベルゼの森で討伐した大蜘蛛やらメタルスパイダーの成果と、納品アイテム類に関してのもの。
ギルド証も渡して設備に通せば、ちゃんと討伐記録があり、すぐに依頼金が出された。
それから、納品アイテム類は買い取り部門の窓口を教えて貰い、そちらに移動する。
ああ、うちの子達は煩わしい視線を受けたくないとの事で、フィディル以外は姿を隠している。
精霊の隠行のスキルは、人側の看破のスキルレベルが高くないと見破れないので、私も気にせず買い取り窓口で依頼のアイテム類を出していく。
「おいおい、ちょっと待て。あんた、レアーネが言っていたお嬢ちゃんだな。レアーネから忠告されなかったか。大容量のアイテムボックススキル保持者か、または機能がついた鞄を所持しているのを見せびらかすなよな。ほら、注目集めてるぞ」
買い取り窓口にいたやや年嵩の職員さんが、呆れた調子で応対してくれた。
買い取り窓口の納品台には、無造作に積まれた大蜘蛛とメタルスパイダーがある。
ありゃ、いかん。
つい、ゲーム内と同じように出してしまった。
ここは、納品したモノを自動的に選別して、解体場に移動するシステムがあるはずがなかった。
恥ずかしい。
未だに、ゲームの癖が抜けてなかった。
だいたい、アイテムボックスなんて、プレイヤーなら誰もが所持していたしなぁ。
おまけに、うちのクランは職人集団だから、大容量の機能が付いた鞄なんか、選り取り見取りでクラン倉庫に眠っていたし。
人外さんにも、注意されたっけ。
ちらほら、こちらの様子を探る視線やら、パーティーに加入させようかと小声で相談されてら。
強引に参加強制されるなら、私も抵抗はさせて貰うかな。
ああ、話が付いた集団が近付いてきた。
「なあ、あんた。何処の所属だ?」
「見た処、お目付け役がいる下級お貴族様の、お嬢様みたいなんだが。冒険者に加入してるってとこは、持参金を用意出来ない貧乏貴族様の出で、一人立ちしなくちゃならなくなったみたいだな」
「どうだろう、俺達のパーティーに加入しないか。うちは、今はいないけど女性もいるから、居心地は悪くないだろう」
三人。
剣士、盾役、弓士といった出で立ち。
如何にも、新人から中堅へと至る過程にいる青年が、代わる代わる話しかけてきた。
フィディルの様子を伺うも、何らアクションしないので、単なるお目付け役と判断した様だ。
実際は、私が静観する様に視線で制しただけだけど。
序に、隠れているお子様ズとレオンには、貴重な遊び相手に手を出さないでと、合図を出している。
ファティマは、私が遊ぶ気満々なのを感じているから、優雅に微笑している。
お姉様が私の様子に気付いたけど、簡単にあしらえると理解しているみたいで、受け付け業務に専念している。
まあ、騒動になれば、前回絡まれた時同様に、ギルドの治安部隊がでばってくるだろう。
「なあ、俺達は近々ベルゼの森での研修を終えたら、森での狩りを許可されるんだ」
「あんたも一緒に、研修受けないか?」
「女性が加入してくれれば、うちも華やかになるしな」
「ああ、お目付け役さんもお嬢様から解放されて大助かりだろ?」
「何て言ったって、俺達もこの界隈じゃあ、其なりに評価も高いし。依頼達成率もあがってきてるし。ただ、達成出来なかった依頼も、荷物役がいなかったせいで、肝心の素材が持ち帰れなかっただけだし」
「あんたが加入してくれたら、それも解決できるしな。まあ、戦闘に加われないから、依頼料は均等割りには出来ないけどさ」
青年達の主張に、眼が据わる。
自分達の成果を如何に誇張しているか、情報がレオンとフィディルから念話が届いている。
青年達のパーティーに女性はいるのは確かだけど、斥候役で盗賊のスキルを所持していた新人さんだった。
そう、過去形である。
現在は、青年達のパーティーに女性は一人もいない。
その女性がどうなったかを語らない青年達には、不信感と嫌悪感しか湧かない。
青年達は、新人女性を言葉巧に騙して加入させて、男性優位な思考を元に暴力でもって言いなりにさせていた。
それから、欲の捌け口にもしていた。
毎晩、青年達の相手をさせられ満足に休息が取れない女性は肉体的にも、精神的にも疲弊してある依頼で動けなくなり、囮にされて生きながら魔物に食われてしまった。
青年達は、女性が不慮の事故で亡くなったと冒険者ギルドに報告して、審議にかけられた。
けれども、状況証拠だけでは、青年達の嘘を見抜けなかった。
私には、フィディルがいるから過去の記録を知る手がある。
しかし、冒険者ギルドには、その手段がない。
疑わしいも、明らかにする事がかなわない限り、ギルドから追放するのも出来ない。
ただし、ギルドも黙しているだけではない。
青年達のパーティーに、真偽を見極める為とギルドが推薦する人員を加入させて、一年間様子見した。
その期間は、パーティーメンバーを失ったペナルティとして、青年達を昇格はさせなかった。
これは、他のパーティーへの牽制となり、無闇に新人を加入されて囮にする考えを改めさせる結果に繋がった。
んで、おとなしくなった青年達は、漸く昇格権利を得て、ベルゼの森を狩り場にする許可が降りたって訳。
謂わば、試されるんだ。
青年達が改心したか、またやらかすかを。
そんな折りに、私といういい鴨が現れた。
真面目そうな顔つきで、女性を騙す。
阿呆が、またいたよ。
あんたらさ、貴族令嬢と理解して口説いているんだよね。
その貴族令嬢に何か起きたら、冒険者ギルドも本格的に調査するしかないって事、分からないんだろうね。
貴族の階級が高かろうが低かろうが、体裁ってものがあるんだよ。
下手したら、貴族が領主の街に冒険者ギルド自体が存続出来なくなるって、考えないんだろうね。
「おい、何とか言ったら……」
「だから、お前達は昇格出来ないんだよ」
黙ったまま反応しない私に焦れた青年達が口を開きかけて、買い取り窓口の職員に呆れた口調で諌められた。
「何だって?」
「お前達の眼が節穴だらけだってことを、自ら晒してどうするんだよ。ベルゼの森を狩り場にしたいなら、事前準備しておけよ。お前らが口説いているお嬢ちゃんが持ち込んだ魔物や素材の数々、ベルゼの森のモンだって把握出来ていないだろ。それと、お嬢ちゃんが貴族令嬢なら、只の荷物役になる訳いかないだろうが。貴族様が、何で俺達庶民の上位にいると思ってるんだ? それに、うちの国が女性にも爵位を継げる意味を知らないのが、またも恥を晒してるぞ。うちの国の貴族様は、有事には率先して前線に立ち向かわないとならない義務があるんだ。そこに、女性だからと言って、義務を放棄する教育はされてない。他国と比べても、うちの国ほど貴族令嬢の奉仕が義務付けられてはいない。お前ら、うちの国が女王制であるのを、忘れてるだろ。女王候補者となる貴族令嬢には、大概が守護者がいる。そして、優秀な魔法師だってな。ここまで言えば、足りない頭でも理解出来るだろ。お前らが口説いているお嬢ちゃんは、お前らが足元にも及ばない実力者だってな」
「はあ? こんな、お目付け役がいる女が、俺達より上だってか?」
「まさか、嘘を言うなよ」
「冒険者になる様な女だろ? どうせ、家督が継げない味噌っかすだろ?」
「だから、貴方達が何をしたって、お咎め無しにはならないわよ」
「「「うわっ!?」」」
買い取り窓口の職員さんの長いお説教の間、お姉様がレードさん達治安部隊を率いて背後に陣取っていた。
気配ぐらい、察知しなよ。
三流以下だって、宣伝しているモノじゃないか。
お姉様が、暴言を吐き出した青年達をレードさんに指示して、拘束させた。
青年達は嘲笑っていた隙をつかれて、呆気なく確保される。
「申し訳ございません、伯爵様。この者達の処分と致しまして、ライザス冒険者ギルドからは追放致します。また、各地のギルド支部にも通達致しまして、ベルゼの森を含む領地での依頼は受理させません」
「了解。まあ、無断で領地に侵入するようだったら、此方で処分します。一部のギルド員からの暴言程度で、先の契約は破棄しないでおきます」
「寛大なるご配慮に、お礼を申します。ギルド側としましても、追放処分がなされたこの者達がどうなろうと、抗議は致しませんので、ご随意に処分してくださっても構いません」
お姉様は、青年達を切り捨てた。
冒険者ギルドサブマスターとしての判断は間違ってはない。
営利団体の冒険者ギルドなら、金の成る木である高額な魔物の素材を入手出来るベルゼの森を所有する私と、敵対するわけにはいかない。
何せ、税率も私には利がなく、冒険者ギルドも多額の税金を納めなくて済む。
となれば、潤沢な資産をギルド運営に回せるしね。
私と喧嘩すれば、困るのはギルド側。
容赦なく切り捨てられるのは、青年達の方である。
おまけに、私は貴族令嬢ではなく立派な爵位保持者。
権力を行使するには、青年達が小物過ぎてあれだけど、貴族の義務を背負う反面、有利な法律に守られる。
一般庶民が、何ら有責のない貴族に暴言吐いたら、罰金刑なんだよねぇ。
支払う金銭がないと、借金奴隷としての犯罪歴が残る。
重労働が課せられる労役に就かないとならないんだけど、庶民の皆さんは理解してない方々もいるようで。
領主の皆さんは、わざわざ布告してあるにも関わらず、年に数件はある案件に頭を悩ませているとか。
青年達には、言わないが。
君達、ステータス確認しとけ。
ある枢機卿さんから、破門の勧告出てるぞ。
暴言吐かれた私は優しくないので、取りなしはしないぞ。
頑張って、罰金払っときな。
そうすれば、うちの子達からのお仕置きだけは勘弁してあげるよ。