091 屑と阿呆がいました
最初の一枚目。
農園に雇用希望者の申請依頼文書。
本来、雇用希望者は職業斡旋所なり、街の有力者の紹介なりで、紹介状を持って雇用側に話を持っていく。
養護院の子供達は、紹介状を推薦して貰える金銭を購えなくて、冒険者ギルドを頼った。
あの子供達が私と面識があり、雇用を希望したのは、ギルド職員のレードさんが見ていた。
レードさんは、帰り道で子供達の本気度を垣間見て、自身が推薦する形で手続きを踏んだ。
しかし、ここで問題が勃発した。
子供達を迎えに来た父親代わりの男性は、子供達を心配して迎えに来た訳ではなかった。
男性は、無類の賭け事好きを隠して、養護院を経営する女性と結婚して、賭け事に負けたツケを子供達へ仕事の斡旋と銘打って、子供達を負債の代わりに差し出していたのが判明した。
これにも、あの聖母教会を牛耳っていたシスターも関わっていて、罪状が増えた。
あの女、随分とやらかしていた。
無給で重労働を課せられ、反抗を思わせない体罰と粗末な食事で家畜同然の扱いをされていたりと子供達は、既に保護されているのが唯一の救いであるが。
判明するまで、幾人の子供達が犠牲になったかは、私には教えてはくれなかった。
それで、あの囮にされた子供達も、借金のカタに大人でもきつい鉱山へと連れて行かれるのが決まっていた。
幸いにも、事前に察知されて、その計画は露呈して、シェライラの裁量で、借金を負った本人が鉱山へ送られる結末になった。
しかし、それでも、男性が負った借金は莫大で帳消しにはならず、担保にされていた養護院の土地と家屋は、法の下で差し押さえになる羽目に至った。
屑男がどうなるかは気にはならないが、女性と子供達が可哀想だ。
私とシェライラが下賜したポーションのお陰で回復した女性と子供達は、家を失い、最低限の財産だけ所持は許されたものの、すぐに困窮するのは目に見えている。
なので、養護院の子供達と女性を、うちの農園で雇用出来ないか打診された。
「女性と子供達の、身元は私ども冒険者ギルドが保証し、何らかの損害が発生致しましたら、ギルドが補償額を補填致します」
お姉様に、じかに頭を下げられたら了承するしかない。
だって、何時までもアルバレア家の後継者を、うちにとどまらせてはならないしね。
巣立ちの時期に来ているのは確実である。
なら、代わりの人材確保にうってつけの、鴨がやって来たのなら、乗るしかないでしょ。
賭け事好きな男性と養護院を経営していた女性との婚姻は解消された。
離婚に関しては、神聖国は本来であればあまり容認はしないが、問題が問題だけに何ら瑕疵のない子供達を犠牲にして賭け事を止める気配のない阿呆に、多大なお灸を据えないとならないということで黙認された。
婚姻自体が無いことにされ、女性と子供達は、男性と無関係の間柄とお墨付きを頂いた。
じゃあ、うちは何時でも来て頂いて構わないので、レードさんが護衛して農園に連れて来てくれる手筈になった。
んで、問題の二枚目の書状なんだけど。
私の弾劾状を、レードさんの元パーティー仲間の女性治癒師と、聖母教会が発行した。
「冒険者ギルドに所属する治癒師は、月に一度無料で、奉仕義務として民間の方々に治癒活動を行う決まりがあります。ですが、先日その奉仕義務の活動にて、件の女性治癒師カレンは、治癒魔法を行使出来ないのが知れわたりました。不審に感じた我々ギルド職員の調査に寄ると、バーシー伯の農園から帰還した日より、治癒魔法が行使出来ない不具合が発生したと。本人の聞き取り調査では、バーシー伯が自分を呪ったのが原因であると申しています。また、治癒師カレンは、ライザス領主館で、四肢欠損の重体患者を治癒した実績があり、聖母教会が聖女に認定する可能性が高い貴族女性であった事で、バーシー伯が些細な諍いから、彼女を呪ったと聖母教会が布告しております」
阿呆くさ。
レードさんに近寄る女性を威嚇して、私に喧嘩売って、うちの子達の不興を買い、精霊の加護を喪ったから、治癒魔法が行使出来なくなったんでしょうが。
いわば、自業自得。
んで、他人の功績を偽り、名声を手に入れようとして、憎い相手を貶めようと、聖母教会と手を組んだ訳だ。
加護を失う前の彼女のスペックでも、四肢欠損を治癒する能力なんてなかったし。
まあ、治癒魔法師を雇用出来る人材なら、引く手あまたであろう。
そうか、彼女。
貴族令嬢だったのか。
どうりで、威圧感丸出しで、こちらを見下していたな。
守護者はいなかったけど、あの性格なら相性のあう守護者がいなかったか、聖母教会へ寄付金積める程の財産を有してない貴族だったのかも。
自身も、冒険者やっていたあたり、後者の線が強いな。
「因みに、ギルド側の対応は、如何ほどに?」
尋ねてみたら、お姉様もアレンさんも、いい笑顔で笑った。
「カレンには、パーティークラッシャーの異名があります。気に入った男性がいるパーティーに入り込み、中心的人物を掌握すると、簡単に次に乗り換える。レードのパーティーに入れたのも、最後通牒でした」
「貴族令嬢といっても、身分は男爵家の妾の娘。治癒師として身を立てなければ、何処かの商会の会頭か男爵家の後妻がいい所でしたね」
「加えて、常日頃から、冒険者にはパーティー加入の申し込みが殺到する治癒師としての地位が、自身の価値を高めるステータスであるのを利用して、ランク下位のパーティーに飛び入り加入しては依頼料の折半を無視して、大半を巻き上げる。ギルドの規約に違反する行為が目立ち、見極めに入っておりました」
「私がギルドマスターに着任して早々、治癒魔法を行使出来ない理由に、聖母教会の入れ知恵もあり、バーシー伯が禁忌の呪詛を行い、魔法を奪ったからだと主張しましたよ」
「まあ、実際は、バーシー伯の守護者からの断罪であるのは、精霊さんからの忠言がありました」
「それで、私に賞罰つけると?」
「「まさか」」
お姉様とアレンさんは、私より女性治癒師を処分する事を決定したと。
それから、聖母教会には厳重に抗議して、対処するそうである。
私に売られた喧嘩なら、私が買うけどなぁ。
うちの子達も、張り切って協力してくれるぞ。
まあ、冒険者ギルドにも面子があるから、任せた方がいいんだろうが。
それにしても、聖母教会も諦めが悪いな。
私に瑕疵をつけて、再興を目指そうと悪足掻きしているんだよね。
現在、守護者システムは停止中。
貴族令嬢への特権みたいな守護者を、守護者の意思をねじ曲げて金銭で売買する手段が取れなくなり、前金貰って守護者を与えられないことに対する契約違反で、法外な違約金を逆に支払わなくてはならなくなった。
それに、守護者を維持費のかからない労働力や、他国への武力行使に利用していたあても外れた各国からの、早期システム復帰の嘆願というか、脅迫に根をあげているんだって。
私は、欲にまみれた聖母教会の似非聖職者や、他国の思惑に守護者を利用されるのはよしとしないから、復帰させる気は全くない。
聖母教会は潰す気満々なので、信用を失い瓦解すればいい。
「常識に疎くて済みませんが。この、私に対する魔女認定は、悪魔に魂を売った悪の存在であるとの認識でいいですか?」
「それについては、神聖国の枢機卿から、聖母教会へ重大な認識不足であるとの抗議文書が、発行されています」
枢機卿の弟子であるお姉様は、抜かりなく人外さんへ通報されていた。
日本での知識では、魔女って悪の代名詞みたいな酷い弾劾があり、無実の女性が魔女狩りで命を奪われていたよね。
でもさ、中には単なる薬草の知識が豊富な善良な女性がいたりと、聖職者が神の威光を知らしめる手段に過ぎなかったと聞いた。
魔女判定も、実際やられると絶対に助からない内容の酷い判断だったりして、見せ物扱いをされたんだよね。
中世の魔女狩りみたいに、此方の世界でも魔女は評判の悪い存在なのかな。
「魔女が悪の存在か問われますと、お答えするには微妙な答えしかできかねますね。確かに、異形の存在と契約して魔力を与えられ、欲に走り暴挙を行う魔女もおります。が、大半の魔女は、代々培ってきた知識を継承する、人に寄り添う善き魔女です」
「まあ、魔力が豊富にある女性魔法師を魔女と揶揄する冒険者達や、その魔法に畏怖する一般庶民の方々が陰口で言われる事もありますが。概ね、魔女の方々は受けいれられている存在です」
「なら、何故に聖母教会は、魔女と私を弾劾するんでしょうね? 意味が分からないんですけど」
魔女が悪の代名詞でないなら、意味をなさない弾劾を聖母教会が行うのは、何故か。
私の素朴な疑問に答えてくれたのは、レオンだった。
「あいつら、マスターの情報を逐一入手して、マスターの財産を横取りしようと企んでいるんだ」
「はあ?」
「マスターに守護者システムを停止されて、金儲け出来なくなったり、違約金を支払わなくてはならなくなって、資産が随分と減った。その埋め合わせって言うか、自分達が負った負債を原因を作ったマスターが背負うのが当然だという意見で上層部は一致した。それで、マスターが珍しいアイテムを所持していると知って、そのアイテムの所有権は自分達にあると馬鹿な考えを持ったんだ。その魔女の弾劾は、奴らの苦肉の策みたいで、俺達の不興を買った女は良いように利用されているだけだ」
レオンに説明させると、聖母教会は自分達は被害者だから、加害者の私が支払わなくてはならなくなった違約金を購うのが当然である。
折しも、先の祝勝会で私が披露した数々の装飾品や、入手不可能なドレスの布地といった希少なアイテムを、私が所持していると知った。
なら、被害者の自分達が、それらの所有権を主張して、私から取り上げるのは理に適っている。
阿呆くさ。
開いた口が閉じれません。
お姉様もアレンさんも、頭痛がしたのか、頭を押さえている。
序でに、レオンは女王ちゃんにそれを奏上した聖母教会が、女王ちゃんと宰相閣下にすげなく却下され、やるなら勝手にやれと突き放されたのも教えてくれた。
なのに、聖母教会は許可が出たと勘違いして、行動に移した。
阿呆くさ。
重要なので、二度言わせて貰った。
こりゃあ、人外さんの仮の名である枢機卿も、理屈が通じない阿呆集団を、宗教的に見放すわ。
多分だけど、神聖国から解体の指示が出るんじゃないか。
まあ、私は無くす気なので、支援しますがね。
どうぞ、勝手に自滅しておくれ。
私達は、いずれ無くなる聖母教会を忘れて、女治癒師に対する処分に話を変えた。




