090 お姉様の一撃は健在でした
「本当に、この税率でよろしいのですか?」
アレンさんとお姉様に念押しされる。
ベルゼの森関連でお金儲けする気は、さらさらないので了承する。
「ただし、幾つか条件はつけます。まず、私が所有する農園を補給地やセーフティエリア、つまり安全地帯として利用するのは無しです。農園には、魔物避けの結界を張り巡らせてありますから、魔物に追われて逃げてきて助けて貰えると認知されたら、大いに困ります」
うちには、敵無しの大精霊や武芸に秀でた人材がいるが、戦闘に不向きなお子様もいる。
まあ、ロイド君とエメリーちゃんに接近する前に、魔物やらは駆逐されるけどさ。
それに、子供達に危険が生じたら、ナイルさんは聖剣を容赦なく使用するだろう。
そうなると、ますますうちの農園が安全地帯だと認知されて、利用しようと考える不届き者や、身の丈にあわない依頼を受けて危なくなれば逃げればいいと安易な考えをする新人も出てくる。
ギルド側が、新人の無謀な依頼受注を受付はしないと思うが、何事にも裏をかいて阿呆な事をやらかす輩は何処にでもいる。
牽制しておくに、越したことはない。
しかし、アレンさんとお姉様は渋い表情をした。
やはり、あてにされていたのが分かった。
「ライザスの冒険者ギルドが、ベルゼの森の恩恵を受けて潤っているのは分かっていますよ。だからといって、私は冒険者を優遇する気はさらさらありませんし、利用される気もありません。万が一にも、うちの農園の住人に迷惑かけたり、怪我を負わせようなら、分かっていますね。この契約は無効になり、ベルゼの森に入れないよう対処します」
「ベルゼの森は広大な土地です。ライザス側や反対側にある街からの冒険者が、森に立ち入り禁止を守れると思われますか?」
「侮って貰わないでくれます? 出来ない事を言う主義ではないですよ。なら、明日から一週間森を閉ざします。では、反対側の街に通達しておいてくださいね。ベルゼの森の所有者は、冒険者ギルドを優遇しないと。そして、今回の事態に被る金銭的損害は、ライザスの冒険者ギルドが負担してください。貴方方が、私に喧嘩を吹っ掛けてきたのですから。それぐらいの、責任は取るのが常識でしょう?」
不敵に笑って見せると、お姉様がアレンさんの頭を叩いた。
それはもう、見事な一撃だった。
アレンさんは衝撃により、目の前のローテーブルに額を打ち付けた。
こぎみよい音が響く。
「大変申し訳ございません。では、その条件を飲ませて頂きます。ええ、そのぐらいの責任はギルドマスターに取らせますから、バーシー伯はお気に為さらずで構いません」
「レ、レアーネ君。君の、その容赦ない突っ込みを、まさか受ける日が来るとは。覚悟していたけど、かなりきついね」
「あら、私は職務を全うしているだけです。それに、公私混同が許されるのでしたら、私的な私はバーシー伯の味方でございます」
あー。
そうだった。
お姉様は、人外さんの身内だったわ。
私に不利になる行為は、出来ない人だった。
忘れてた。
「では、バーシー伯。新人教育の一貫で、ベルゼの森での教練がございます。それを受けないと、ベルゼの森での依頼を受け付けない決まりになっております。その日だけは、お近くのランカの土地での宿泊をお許し頂けますか? 勿論、それに準じた金銭はお支払い致しますし、事前にご連絡致します。そして、バーシー伯の農園を頼りにしないように、徹底して教え込みます」
「新人の生存率があがる教育は必要ですからね。それは、許可しますよ。ただし、その教育者には付け加えて置いてください。森の深部には行かない事。そして、森の番人とトラブルになった時だけは、うちを頼りにしてくれて構いません」
「それは、前言と矛盾されませんか?」
痛みにのたうち回っていたアレンさんが、復活して会話に混ざる。
おでこが紅いのは、ご愛敬。
指摘はしないで、見ない振りしておくか。
まあね。
うちを頼りにしないように教え込む筈が、頼りにしていいと言うには訳がある。
灰色君の森林狼種は、私と敵対しないと交わしたけど。
他の二種の番人とは、まだ会えてはいない。
レオン曰く、観察されてはいるが、接触しようとはしないでいるらしい。
と言うか、何か変なプライド意識が高くて、森林狼種が私に恭順したのを見下して、種族間抗争に発展しているとか。
レオンとエスカに、不自然な様子にならない程度に、森林狼種に加勢しておいて欲しいとは頼んだ。
大地と樹木の大精霊なら、森での様子は些細な出来事でも、瞬く間に把握出来るからね。
また、うちの農園には休息に来ている大地の精霊が沢山、暇を持て余していたりする。
代わる代わる森で、他の二種への嫌がらせを行ってくれている。
自発的にやってくれているので、手製の魔力入りのお菓子は盛大に振る舞いましたよ。
そこへ、時空の精霊も加わって、番人が生息する森の深部はかなり空間が歪み曲がり、迷路なんて可愛い呼び名と思う程、複雑にねじ曲がった区域になってしまっている。
そんな場所で新人教育されたら、確実に五体満足で帰還出来ない。
下手したら、浦島太郎状態で発見されかねない。
半日彷徨っていただけが数日ならいいが、数年経っていただなんてあり得ない事が起きても不思議ではない魔境と化している。
なので、口を酸っぱくしてでも忠告はしておく。
「矛盾はしてますね。ですが、森の番人と殺りあうのは、冒険者ギルドでは力不足です。現状は、うちに被害はないですから対処はしませんが。そろそろ、うちと接触して派手に殺りあうのは決定事項です。そちらも、巻き添えになるのは嫌でしょう?」
「確かに、森の番人とのトラブルは避けたい案件ですわね。あちらは、冒険者を単なる餌との認識ですから。私どもも、森の番人は特S級の災害危険扱いクラスです」
「レアーネ君でも、森の番人とは接触出来ないのかい?」
「接触は出来ますが、話し合いに応じる相手ではありません。それに、私の魔法ランクでは、せいぜい足止めがいい処です。かすり傷ひとつ負わせれません」
「はあ、なら私でも番人との接触は無理だね。森の住人として名高いエルフが、ベルゼの森では本領発揮出来ないのは痛し痒しだけど。命あっての物種だからねぇ」
ああ、エルフの種族性を生かせるかもと期待されたから、ベルゼの森に近いライザスの冒険者ギルドに赴任されたのか。
アレンさんみたいなエルフが、冒険者ギルドに所属しているのは、珍しいんだろうか。
ファンタジーの定番のエルフって、閉鎖的な森の住人との認識だったけど。
ライザスの街でも、エルフに会ったことないしなぁ。
天翅族の様に、外界に興味無しな雰囲気があるんだけど。
アレンさんは、どうして荒くれ者の集団な冒険者ギルドに所属したんだろう。
妙に、気になった。
「ん? 何か、聞きたい事でもある顔付きだね。もしや、エルフが冒険者ギルドに関わっているのが、気になるとかかな。よく、言われるんだよね。昔は、エルフ種は容姿が優れている上に、精霊魔法との親和性が高くて、権力者には顕示欲の現れなのか、かなり奴隷用に狙われたりしたしね。それに、対抗するには人間種を把握しないとならないと、姿を偽って人間種に偽装して情報収集と、外界で生きるにはお金を稼がないとならない。手っ取り早く、その二つをこなすには冒険者に紛れるのが相応しいと、ご先祖様は考えたんだね。そうしたら、いつの間にか神聖国の枢機卿に拝謁しちゃって、種族の保護を約束された。奴隷狩りは禁じられて不安は無くなったけど、恩義を返すにはどうしたら言いか、保護してくれた枢機卿に尋ねたら、ならその精霊魔法を人の役立ててくれないかと打診されて、冒険者ギルドの依頼を引き受ける様になったのが始まりだよ」
顔に出ていたのか、アレンさんが唐突に語りだした。
いや、その枢機卿は、どこぞの人外さんだったりするのか。
お姉様を見やると、微かに頷かれた。
人外さん。
神様が、何堂々と人界に関わってるかなぁ。
あれかなぁ。
あれな神様の後始末とか、関係していたりするのか?
だったら、同族のやらかした案件を人外さんが、処理するのは分かる。
内心で、世界を走り回る枢機卿さんの姿を思い描いていた。
「まあ、そんなこんなで、各国の王都には、必ず一人は、エルフ種が派遣されていたりするんだよ。でもね、ほら我々は長命種でもあるから、何でか殆どが高位の役職に就いていて、気軽な冒険者でいられなくなったりするんだよ。その癖、難事が起これば、エルフ種を派遣しておけば、事が収まるだなんて風潮もあって、皆森に引きこもろうかとか、言い出しているんだよ。全く、煩わしい世の中になったものだよねぇ」
「つまり、貴方も、森に帰りたいと仰いますの?」
「えっ!? いやいや、待ってくれ、レアーネ君。私は、帰る気は全くないから。どうか、お怒りは鎮めてくれないかな」
そりゃあ、職務放棄を臭わせる発言したら、お姉様はお怒りになるわ。
静かに怒気を露にするお姉様は、私でもごめん被る。
見て見ぬ振り、再開ですわ。
すっかり冷めたお茶で喉を潤す私をよそに、お姉様はギルドマスターの何たるかとか、お説教を始めた。
おーい。
お客様は、無視かいな。
話し合いは、終わりでいいですかね。
退屈しているお子様ズは、私に凭れて睡眠モードに移行している。
レオンや大人組も警戒は鳴りを潜めて、呆れている空気を醸し出している。
だからといって、私の周囲の危険察知は怠ってはいないようだが。
暫く、コントの様なお説教を眺めていると、お姉様が私の視線に気がついた。
「も、申し訳ありません。お客様を放置してしまいました。このお詫びは、私の職務停職辺りでお許しくださいませ」
「は? いやいや、お姉様じゃなかった。レアーネさんは、職務に忠実なだけでしょ。レアーネさんが停職処分何てなったら、誰がギルドを仕切るんですか。新入りのギルドマスターに、直ちにここを仕切る威厳何てないでしょ。それに、レアーネさんがいないギルドに用はありません。依頼を受けようと思っているので、受け付け窓口にいてくださいな」
「はい、ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせていただきます」
「じゃあ、お話は終わりでいいですかね」
「いえ、まだご相談が残っております」
はて、何でしょうか。
お姉様は、ある書類を複数私に提示してきた。
ああ、これも忘れてた。
一枚は、囮にされた少年達の、うちの農園への就職希望届け。
付随して、ある問題点が記載されていた。
そして、二点目は、同じくあの日に、私に喧嘩を吹っ掛けて治癒魔法を行使できなくなった、レードさんのパーティーにいた女性治癒師に纏わる愚かしい足掻きの危険性を孕んだ警告文。
さて、どちらから対処しますかね。




