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009 口撃しました

「貴様等、何者だ‼」

「全員、動くな‼」


 異変を察知して飛び込んできたのは、揃いの服に身を包んだ兵士と騎士だ。

 槍と剣が、私達に向けられる。

 シェライラの騎士が咄嗟に主を庇う位置に着き、私はフィディルに守られる。


「わたくしは、バウルハウト家のシェライラ。女王候補筆頭ですわ。怪しい者では、ありません」

「筆頭候補が、何故に王城に?」

「登城の予定はない、はずだが?」

「詳しくは申せません。ですが、直ちに女王陛下か宰相閣下にお目通りを。わたくしの、父でも構いません」


 護衛を押し退けて、シェライラが優雅に前に出る。

 傍らには守護者のジルコニアが並ぶ。

 筆頭候補なだけに一般の兵士にも顔を知られているシェライラは、毅然とした態度で、注目を浴びた。

 狙いは、私とフィディルを隠す為かな。

 シェライラだけなら、王城に侵入してもお咎めは小言で済ませられるけど、身分不詳な私は立派な不審者である。

 尋問される前に牢獄入りは確実だ。


「あちらの方々は?」

「わたくしの、大切なお客様です。粗相のないようにしてください」

「男性は、あの方の守護者です。呉々も、刃を向ける愚行はしないように。わたしでも、敵わない精霊です」

「男性体の、守護者!」

「初めて見る」


 興味津々な不快な眼差しに、フィディルの眉が寄せられる。

 暴れないように、腕に触れた。

 ここで、レオンやユリスを呼んでみたら、阿鼻叫喚かな。

 いや、ファティマやエスカにセレナを呼んでも、大事必至か。

 守護者に女性体が多いのは、異性だと恋愛対象になるのを避ける為と、男女別の場に対応する為でもある。

 専ら、前者の間違いを犯さない目的だけどね。

 いや。

 居たんだよ。

 男性体の守護者を理想の恋人だと患い、現実逃避したプレイヤーが改造したVR器で長時間のログインして、病院送りになった騒動が起きた。

 その家族が慰謝料請求をして、裁判沙汰に発展しかけた。

 マスコミに性癖をリークされて、事なきを得たけどね。

 私はフィディルに対して、家族や兄妹の念しか感じない。

 仮想の住人を、恋愛対象に見たことはない。

 恋人にするなら、同じ人間がいい。


「シェライラ。一体、何が起きている。お前はライザスの領地に居たのではないか?」

「お父様。それが、わたくしの領地に尊きお客様が来訪されまして、気づけば本教会におりました」

「尊きお客? 意味が分からんな」

「お父様。初代女王陛下が構築為された、守護者制度を停止させる事が出来た御方です。初代様の遺言を知る者なら、(こうべ)を垂れるべき御方なのです」


 シェライラのお父さんは、子持ちに見えない美男性だった。

 十代の娘と並ぶと兄妹に思えるほど、若く見てとれた。

 しかし、どんどん私の肩書きが高さを増していくなぁ。

 単なる、稀なる旅人なのだけど。

 そりゃあ、大精霊の守護者が六柱いるけど、職業は細工師なんだよね。

 似非、とか言われたりするけど。

 最悪な精霊術師とか、壊し屋細工師とか、有り難くない名で呼ばれたりするけどさ。

 尊きなんて呼ばれたら、鳥肌立ちそう。


「あの神託は彼女が為したのか。守護者制度を停止したら、聖母教会との溝が深まるだけだろうに」

「お言葉を返すようですが、お父様。既に、聖母教会は女王陛下に楯突いております。わたくし達を、異端の魔女扱い。己の意のままに動く者は、聖女扱い。到底、見過ごすことは出来ません」

「ならば、今まさに助けを求める女性を、お前はどうするのだ」

「それは……」

「会話に交ざる無作法は許して」


 言葉に詰まるシェライラに代わって答えてあげよう。

 理想論は語るつもりはないよ。


「シェライラを責めるのはお門違いでしょ。守護者制度が確立して、何十年? 何百年になるかは、知らないけど。女性の地位が低い、助けを求めなければ、と未だに言っている時点で、おたくら特権階級の皆さんが何ひとつ努力してない証だよ」

「ミーア様」

「聖母教会が腐敗しているのも、そうでしょ。利潤に眼が眩んだシスターを放置。知ってる? ライザスのシスターは、守護者の試練に白金貨を要求してきたよ。そうだ、シェライラ」

「はい、ミーア様」

「ライザスの街に入る税も、値上りしていたよ」

「なんですって!」

「領地に帰ったら、取り締まりした方がよいよ」

「分かりました。直ぐにでも、取り掛かります」


 門番の様子と、領主のシェライラを観察して分かった様子と比べると、齟齬が生じていた。

 ジルコニアが腹芸は出来ないと教えてくれたしね。

 貴族令嬢にしては真っ直ぐなシェライラが、民から搾取する訳はない。

 身につけているドレスや装飾品も、華美にはならない落ち着いた品だし。

 女王候補を譲ると申し出た潔さもある。

 何だかんだ言って、シェライラを気にいっているんだわ。

 ユーリ先輩命だったジルコニアが、主に選ぶだけある。


「で、シェライラのお父さん。まさか、守護者制度が永遠に続いていく、なんて思っていた訳ではないでしょ。代わりの手段は、話し合われていないの?」

「……。君は、女王国を荒らしたいのかな」

「その質問で理解した。対策は講じてないんだね」

「守護者制度あっての国だ。初代様の理念はそうあるべきだ」

「違うよ。ユーリ先輩の理念は、奴隷以下の扱いをする男への報復。守護者は、女性の味方。勘違い野郎への、鉄槌。決して、金儲けの手段ではない」

「我々は、女王に寄生する虫だと言いたいのか?」


 睨んできても無駄。

 こちとら、伊達に守護者関連で場数は踏んではいないから。

 六柱も守護者がいると、妬みや恨みは途切れたことはない。

 リアルマネーをちらつかせて、守護者を寄越せとか言う阿呆を相手にしたこともある。

 フィディル達の能力目当てにして、高みで悦に入ろうとしている。

 自慢したいのだろう。

 悪口も沢山言われたりした。

 そういった輩と、伊達に渡り合ってはいない。


「当代の女王を平民だとか、馬鹿にしている貴族がいるでしょ。そう言う馬鹿に限って、女を見下している。反面、その馬鹿が宮廷の高い地位にいたりする。女王を戴いている意味がないよ」

「守護者だけでなく、女王制度も無くす気でいるのか?」

「質問ばかりで、答えてないね。でも、その案も採用しようかな」

「君に、それが出来るかな。当代の女王陛下が退位されたら、シェライラが即位するだけだがな」

「いいえ。ミーア様が望まれるなら、精霊は皆、この国や全ての人への介入は止めますよ」

「ジルコニア?」

「シェライラ。ミーア様には、それが出来ます。わたしとシェライラの契約を、破棄する制約をなさることも出来ます」


 ん?

 あれか。

 精霊王の加護か。

 ゲームにはいない王の存在は、大精霊でも従う位にいるのだろう。

 思い当たる名前は、あれかな。

 呼ばないけどさ。


「シェライラ、彼女は何者だ」

「この場では申せません。ですが、わたくしの女王筆頭候補の地位を、託せる御方です」

「父にも言えぬか」

「はい」


 苦虫を噛み潰したシェライラのお父さんは、私を測りかねている。

 不遜な言動を戒めたいが、娘の守護者さえ私を擁護する。

 私を攻撃したりしたら、娘から守護者がいなくなる。

 それは、避けたいだろうね。

 女王の実父とやらは、一種のステイタスになる。

 世襲制ではない女王国ではコロコロ代わりそうな地位なだけに、稀少価値が高そうだ。


「はは。外交の鬼バウルハウト侯爵も、その娘には形無しだね」

「宰相閣下?」


 おおう。

 素敵な老婦人の登場だ。

 足が悪いのか、守護者に介助されながら、ゆっくりと歩いて来る。

 その背後にも、守護者を連れたシェライラと同年代の少女がいた。

 どちらの、守護者にも見覚えがある。

 クランメンバーの守護者達。

 鑑定がお仕事をする。


「お初にお目文字致するね。先々代の女王筆頭候補にて、現宰相のアメリア=ラムレスだよ。守護者は、アリスさ」

「錬金女王の名を引き継ぎました、当代女王シャロン=ラムレスにてございます。守護者は、エルシフォーネでございます」


 私の前まで来ると、淑女の見本なカーテシーをされた。

 宰相と女王が揃って膝を折る。

 周囲の兵士や騎士が騒めいた。


「丁寧な挨拶、ありがとうございます。初代錬金女王が愛弟子、細工師ミーア=バーシー。悠久の時を越え、現世にて招かれました。おいで、私の守護者達」

「「はぁい」」

「……はい」

「「はい」」


 エスカ、ユリス、セレナ。

 レオン、ファティマ、フィディル。

 私の守護者が勢揃い。

 益々、周囲が驚愕した。

 それも、その筈。

 少年体のレオンと、三頭身のお子様ズは、守護者らしくはない。

 成人体にもなれるのだけど、普段から幼い姿で私に可愛がられていたいのだ。


「「「「マスター、お呼びでございますか?」」」」

「……マスター、呼んだ?」


 セレナだけワンテンポ遅れるのは、彼女の言動がゆったりだから。

 大精霊として充分な能力を有しているが、性質が穏やかなので一度主に捨てられていた。

 その経緯から感情も凍りついてしまったが、うちの子になり先輩守護者に可愛がられて徐々に笑えるようになった。

 うん。

 今日も可愛いぞ。


「ミーア様の御帰還、歓喜の極みでございます。また、お預かり致しておりました女王位を返還したく……」

「女王位はいらないよ。ちょっと、聖母教会とやりあうから邪魔なだけ。それに、六柱の守護者がいるからといって、女王にならなければならない決まりはないよね」

「確かに、女王典範には記載はございません」

「ユーリ先輩の遺言があるなら、私がそういった類いの地位に固執しないとあるでしょ。なら、相談役とか、顧問役とか辺りの役職名が残されているのではないかな」

「お見通しにございますか。その通りにございます。ミーア様には、女王専属の相談役の役職に就いて頂きたく」

「それぐらいが妥当かな。じゃぁ、早速だけど」

「「はい」」

「アリスと、エルシフォーネのリペアさせて」

「「は?」」


 あれ?

 リペアで通じないかな。

 修復の意味なんだけど。

 それと、体勢を戻して貰えないかな。

 会話するなら目を見て、話したいから。

 私は先輩の愛弟子なだけで、身分は平民だしね。

 余所行きの話し方は肩が凝ってくる。


「特に、エルシフォーネは真っ先にリペアしないと。大精霊なのに、中位の精霊魔法しか行使できないでしょ」

「エルが大精霊? 中位精霊ではなくてですか?」

「エルシフォーネは風の大精霊ジルコニアの、上位の嵐の大精霊だよ。だから、シャロンちゃんが女王位に就いた訳じゃないの?」

「えっ? ジルコニアも大精霊?」


 シェライラもか。

 君達、何を勉強してきたのかい。


「因みに、アリスは火の大精霊」

「おや」


 宰相さんもかよ。

 どうなっているんだか。

 今更ながら、この国は大丈夫なのかと思ったりして。



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