088 家族だと思っていました
あれ?
そうなると、エンブリオ公爵家はどうなるんだ?
当代女王ちゃんには、あまり婚姻する気配がない。
縁談は余りあるそうだけど、産まれを揶揄されてマウント取りたがる阿呆な考えばかりなのと、営利目的が透け見える男尊女卑な思考の他国の王侯貴族とかの話は持ち掛けられてはいるそうで。
宰相閣下のお眼鏡に叶う人物は、一人もいないようである。
最初に選んだ人物が、縁戚のユークレス家の長男だったけど、選民意識高めな発言かまして脱落したしな。
守護者のエルシフォーネも雑に扱って女王ちゃんの心証も悪くしたし、騎士の役職も解かれて謹慎中でもあり、反省する素振りもなく燻っているんだとか。
後任の次男はまともな人物だけど、幼少期より婚約者がいるので(何でも婿入りするらしい)候補にはできない。
多少はマシな人物もいるようではあるも、女王ちゃん本人がその気ではないから、貴族院のご意見番も無理には議題に上げないそうだ。
まあ、女王ちゃん自身まだ若いしねぇ。
他人の思惑を通り越した出会いがあったり、女王国の外交に有利な条件を出した恋愛感情無しの婚姻しかねないのを危惧されている。
公爵さんの時の様に、精霊視を利用しようとする野心家ではないから、逆に女王ちゃんの婚姻は周囲が心配してるんだよね。
宰相閣下がお膳立てした茶会と言う名のお見合いは、表面は好青年で評価も好意的な人物だったにも関わらず、二人きりになった途端に化けの皮を剥がして上から目線の見下しをしやがった。
馬鹿な男は、精霊が監視しているとは知らず、女王ちゃんを悪し様に罵り、政略結婚だから愛する恋人を囲い、そちらとしか子供は持たないとか、その子に王配の公爵家の継承権利を持たせろとか散々宣い、精霊の怒りを買った。
精霊は、そのやり取りの会話を女王国の重鎮の皆様に開示した。
結果、貴族院のご意見番の怒りも買った訳である。
勿論、セッティングした宰相閣下も、怒髪天でお見合い相手と推薦した貴族を王城から叩き出した。
後は、謝罪大会となり、女王ちゃんの婚姻には慎重にならざるを得なくなったとさ。
貴族院のご意見番の皆様も、お相手の精査には人間の意見だけでなく、精霊の意見も取り入れてかなり重厚な精神的適性検査を内密に練っているんだって。
そのおかげで、基準をクリアする人物がいないという現実の壁にぶち当たっているのだけど。
「どこぞに、女王陛下をお支えし、深い愛情を与えてくれるお相手はいないだろうか」
相談役に就任して貴族院のご意見番に挨拶に行ったら、こんな愚痴を聞かされたのは、さして古い記憶ではない。
相談役って、結婚相手の斡旋もしないといけないのか?
真面目に悩んだモノである。
あちらは、単なるぼやきみたいなモノだったみたいだったけど。
その割には、重たい内容な気がした。
しかし、肝心の女王ちゃんに婚姻する気がないから、私も勝手に見繕い、セッティングする訳にもいかず。
まあ、フィディルにでも聞いたら、あっさり回答くれるんだろうが、未来の話を私が詮索して用意周到に手回しして、変に拗れたら目も当てられない。
ので、成るようにしかならないとふんで、先延ばしになっている。
となると、必然的に公爵さんの年齢から、公爵家の遺産管理人の相続権が、ロイド君とエメリーちゃんに移ってしまう可能性が高い。
父親のナイルさんには相続権が発生しないから、兄妹に重荷が負担されるのも仕方がなくなる。
でも、その兄妹もまだ十代未満のお子様だ。
それに、母方の曾祖母が女王位に就いた老害とくれば、アルバレア家も黙ってはいられないだろう。
これ、私が口を挟んで公爵家付きの守護精霊のベイツに、適任者を選定するのをさせた方がよくないか?
上司のグレイスも巻き込んだら、案外筋が通りそうな気がする。
なんて、内心で兄妹を如何に守れるか悩んでいたら、
「おお、そうだ。忘れておった。エンブリオ公爵家に関しては、儂の代で王家に返還するでな。ロイドやエメリーは、公爵家の財に群がる輩は無視して構わんでよいぞ」
「アルバレア家の方々にも、お知らせください。ロイド様やエメリー様が恙無くご成長いただくには、公爵家の血筋は邪魔でしかありません。遺産管理におきましては、時空の御方からお譲り頂きました特別な空間にしまって置きます故。何ら、ご心配はありません。どうせ、初代女王かミーア様しか復元が出来ないレシピ集やら、起動出来ないガラクタばかりですから」
あっけらかんと公爵さんとベイツが、打ち明けた。
あー。
それだけで、意味が分かった。
ユーリ先輩は、ゲーム内の錬金術を駆使してレシピ集や魔法具を作製したのはいいが、第三者には意味を成さないアイテムばかりだった。
ポーション類にしても、此方の世界に植生する薬草とゲーム内での薬草とは効能が違っていたり、魔法具も思った通りの効果を発揮しなかったりとか。
私も手持ちの素材が、此方の世界には存在しない素材であるとアンナマリーナさんに教えて貰ったし、鑑定結果にて存在しない素材と出てくるしね。
論功行賞で身につけた虹色真珠も、此方の世界には存在しない素材だったりする。
あれ、実は海の魔物のクラーケンの亜種を討伐したらドロップするアイテムなんだけど。
そのドロップ率は、かなり厳しい。
討伐内容や時間計数によって、大きさや輝きも違っていたりするから、真珠狙いの女性プレイヤーには入手が困難なアイテムだった。
私?
うちには、水と氷の大精霊様がいる。
二柱の活躍で圧倒的な実力差による過剰攻撃により瞬殺。
んで、ドロップ率効果大の聖魔法の支援によって、苦もなく入手してしまったというね。
女性プレイヤーの目の敵になってしまいましたよ。
ユーリ先輩も欲しがり、私を連れて希望者を募り、亜種クラーケン討伐に付き合わされたさ。
しかし、運営も運営で。
何回も周回して、虹色真珠は私にしか、ドロップさせない意地悪な事しやがりましたよ。
そして、譲渡不可なんかつけやがりましてね。
クレーム入れたら、寄生しているだけのプレイヤーには渡せません、だって。
入手したければ、自分の力で討伐しなさいと、運営と統括AIが判断下した。
まあ、オークションには出品可能だったので、出させて貰ったけど。
虹色真珠なんて珍しいアイテムは、NPCである住人も競り落とせる訳で。
資産が余りある王侯貴族が競り落としていくという悪循環を産み、プレイヤーが入手するには大変厳しいオークションだった。
中には、ユーリ先輩みたいにトレードしてとか強要する馬鹿がいたけどさ。
譲渡不可なんだから、トレードも不可なんだってのが理解出来ないんだよ。
プレイヤーキルのプレイヤーに狙われたりもして、馴染みのキルプレイヤーに試しにキルされてみたが、ドロップアイテムにも選択不可だった。
代わりに、希望する支援魔法が付与された細工の腕輪を進呈しておいた。
以降は、私がキルされるのを嫌ううちの子達の意思を汲んで、キルプレイヤーには容赦なく反撃後撃退したけどね。
話が逸れた。
兎に角、ユーリ先輩はゲーム内のアイテムを再現しようとして、再現出来ないアイテムを産みだし、ガラクタ扱いするしかなくなった訳だ。
但し、再現出来て普及出来たアイテムもあるみたいだけど、ベイツが保管するアイテム類やレシピ集は大半が用を成さないアイテムらしい。
そういや、錬金人形の教本も間違いが多かったと聞いたな。
ユーリ先輩の性格なら、わざと間違いを残して普及させて、自分が如何に偉大であったか誇りたかったのもあるんじゃないかな。
「儂は、錬金術には詳しくはないんじゃが。ベイツに聞いても、訳の分からんアイテム類しかないしな。先々代の女王が分解しても、再現が出来ない魔法具に意味があるとも思えん。ベイツはガラクタ呼ばわりするしな。そんな遺産を御大層に管理するのは、辞めた方がロイドやエメリーの為じゃ。貴族院から、相続権の放棄に署名してくれと来たら、署名するがいい」
両脇に曾孫を侍らせて頭を撫でる好々爺の公爵さんは、相続権の放棄に後腐れがなさそうである。
この様子だと、公爵位を返還したら、ロイド君とエメリーちゃんの近くに引っ越してきそうだなぁ。
となると、我が家に新たな住人が増えたりして。
うわぁ。
先延ばしにしているが、雇用してくれと言われた子供達もいるんだった。
それに、マクレーン女史の移住もだ。
やる事だらけだわ。
「お祖父ちゃんは、こうしゃくさまを辞めたら、エメ達と一緒にくらすの?」
「おお。そうだな、エメリーと一緒に農作業も楽しそうだがな。すぐには、一緒に暮らせんでな。ちょっとだけ、後処理をしてこないとならんでな。暫くは、お預けだな」
「エメリー。この家は、ミーア姉ちゃんの家だぞ。家主に断りなく、一緒に暮らそうとは言っちゃ駄目だ」
「あっ、そうだ。エメ達、ミーアお姉ちゃんのいそうろうだった。ごめんなさい、お姉ちゃん」
「ん? いやいや、エメリーちゃんは悪くないよ。家族が増えるのはいい事だよ。それに、エメリーちゃん達は居候ではなく、私の家族でもあるんだよ。居候は悲しいなぁ」
居候って、むだ飯食いのニートみたいな悪い印象があって、好きではない単語だ。
エメリーちゃん達マーベル一家は、貴族位を叙爵されても恩義があるからと、農園の作業を怠る様子は見せてはくれない。
貴族のマナーの学習と剣術や護身術と多岐に亘る学びの合間を見つけては、休息時間であろうと農作業してしまう困ったロイド君だし。
エメリーちゃんも、大地の精霊のナナリーを師として精霊魔法の基礎を農園で開花させちゃったりだし。
ナイルさんに至っては、ロイド君以上に農作業に従事していたりするんだから、立派なお仕事人だ。
こちとら、既に使用人の括りは外しているんだけど、ブラックな仕事場を提供してしまっている気になっている。
いや、最初はロイド君に対する恩返し?的な雇用関係だったんだよ。
それが、逆に恩義があるからと、率先して農作業されているのである。
本来なら、アルバレア家の領地のフォレスト領に還さないとならない一家なんだけど。
一向に、巣立つ気配がないんだわ。
もう充分に、恩返しされていると思うのだけどなぁ。
アルバレア家側も、苦情がこないしなぁ。
一体、アルバレア家側もどう言った腹積もりなんだか。
アンナマリーナさんに、聞いてもいいだろうか。
少しだけ、エメリーちゃんの発言にショックを受けたのは、内緒にしておこう。




