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女王⁉ 聖女⁉ いえ、ただの農業オタクな細工師です。  作者: 堀井 未咲
第三章 貴族裁判

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086 公爵様は豪快でした

 さてさて、一応は貴族の仲間入りした私である。

 来訪者は貴族階級の頂点にいる公爵だ。

 お出迎えしないと、失礼にあたる。

 マーベル一家と共に、門扉で待機している。

 うちの子達は、ぶーたれているけどな。

 私が下に見られるのを嫌っているお子様ズやレオンは、はっきりと不満を口にして大人組に注意されて、ますます剥れる悪循環。

 到着の邪魔はしないように、私も釘を刺しておいた。


「なんで、公爵様が来るんだろう?」

「エメ、ナナリーと大地のまほー、れんしゅうしたいのになぁ」

「仕方にゃいにゃ。ロイドもエメリーも、もう子爵家にょ、子供にゃ」

「いつまでも、農民ではいられにゃいにゃ」


 慌てて農作業着から、余所行きの服に着替えさせられて兄妹は、若干ご機嫌斜めだ。

 エメリーちゃんは、水の魔法にご執心だったけど、ナナリーが大地の属性な為に頑張って大地の魔法を習うと鞍替えした。

 雷属性と大地属性は、本来なら相克の相性で属性値が半減するはずが、エメリーちゃんは、奇跡的にその対象になってはいない。

 まあ、少しだけ、雷属性はロイド君を下回るけれども。

 習おうと思えば、水魔法も習得できるんだよなぁ。

 ただ、そうすると、弱まった雷属性も高まり、ロイド君を上回り、聖剣の後継者になりやすくなってしまう。

 まあ、女王国では、女性の爵位継承は許可されているから、問題はないのだけど。

 ロンバルディア国との国境争いも無くなり、武力を示す必要性がなくなるしね。

 いずれかは、聖剣もお飾りになるのではないかな。

 となると、エンブリオ公爵家は長男のロイド君が、アルバレア侯爵家はナイルさんからエメリーちゃんが継承となり得るのかも。

 領主代行のオレリアさんは、あまりいい顔をしてなさそうなのは、アンナマリーナさん経由で聞いている。

 この際、統合したらいいんじゃないのか尋ねてみたら、元々エンブリオ公爵家は王配に与えられる爵位。

 当代の女王ちゃんが婚姻したら、その相手が先代公爵の養子になる仕来りだとか。

 あー。

 そういや、そうだった。

 先代の女王が未婚であったから、当代公爵が引き継いだままだったな。

 ロイド君が公爵を継承する意義は見受けられないか。

 しかし、女王ちゃんには縁談の話はあるも、本人は乗り気でないし、平民出身が尾を引いていて、選民意識の高い貴族男性とでは破綻する婚姻生活しか見えてこない現状を宰相閣下が憂いていたりする。

 最初に妥当と見込まれた身内のユークレス家の長男が、女王ちゃんやシェライラの守護者を乱雑に扱った一件から除外された。

 じゃあ、次男の新騎士団総長はとなったら、既に婚約者がいた。

 しかも、幼馴染みで仲は良好だから、引き裂くのは遠慮願いたいと父親から苦言があった。

 となると、王配を巡って独身貴族が水面下で足の引っ張りあいをしている醜い騒動も起きている。

 また、近隣諸国からも素行に問題があり、自国で婚姻相手がみつからない厄介者を押し付けてくる阿呆な国もあったりで、王配選択は混迷を極めている。

 宰相閣下の頭痛の種だそう。

 そうすると、公爵さんも高齢な為、唯一継承権利を有するロイド君かエメリーちゃんかが中継ぎになるのが道理となる訳で。

 その話を詰める為の来訪かなぁ。

 五分程、炎天下の中待機していたら、漸く先触れの顔馴染みの騎士さんが馬を走らせてやって来た。


「バーシー伯爵様、ならびにマーベリック子爵様。お待たせして申し訳ございません。シェライラ様より、エンブリオ公爵様の道案内を任されました。直に、ご到着なさいます」

「案内ご苦労様です」


 馬上から降りた騎士さんが、失礼にならない程度に身だしなみを整えて報告してくれる。

 此方が待機しているのは、ジルコニア辺りにでも教えられていたかな。

 何て言っても、我が農園には大地の精霊が沢山休息を理由に滞在していているわ、大地の大精霊がいるわで、事前に来訪者が訪れるのは察知できるからね。

 本日は好天気。

 幼い兄妹が熱射病にかからないように、ユリスとセレナの力を借りて周囲は冷やしておいてある。

 間近に来た騎士さんも、冷気に触れて一瞬驚いた様子だったけど、馴染みの騎士さんであるから、私が精霊魔法を行使していると勘づいた。

 黙礼して、馬を端に寄せて、公爵さんの馬車を一緒に待つ。

 門扉は馬車が入れるように全開にしてある。

 そして、レオンが描いた紋章を基準にして入場設定はしておいた。

 たいして間をおかず、馬車はやって来た。

 装飾が施された見事に貴族が乗っていると分かる二頭立ての馬車は、結構速度が出ていた。

 門扉が見えた辺りから速度を落としたようだけど、完全に制止出来なくて待機していた私達を追い越していった。

 おい、馭者。

 腕が悪いな。

 それとも、私達を見下したか?

 私の目が据わる。

 第一印象が、それかよ。

 公爵の指示だったら、即叩き出す。

 身分なんて知るか。

 こちとら、好戦的な守護者がいるぞ。

 周囲の冷気が、更に寒さを増す。

 後続の馬車は、門扉の前で止まっている。

 この差は、何だかね?


「これ、ベイツ。何をしておる。通り過ぎたでは、ないか」

「だから言ったでは、ありませんか。フランツ様が馭者をクビにしたせいで、不慣れな私が手綱を握っているんですよ。それなのに、マーベル卿や曾孫会いたさに、速度を出せと指示したフランツ様が悪いんです」

「喧しいわ。あいつは、儂の怒りに触れおったんじゃ。やれ、格下の新興貴族を呼び出せばいいとか、派閥違いのマーベル卿や曾孫は身内だと思えないとか、抜かしやがって馬車を出そうとしなんだ。あんな奴は、クビ当然じゃ」


 あら?

 何故かコントが始まったよ。

 それに、老公爵さんは自分から扉を開けて降りて来た。

 おーい。

 幾ら身内会いたさにとか言っているけど、安全確認は怠ってますが。

 それに、護衛の騎士さんもいないんですけど。

 どうなっているのやら。


「実は、かなり強行軍で来られた様で、護衛の騎士隊の馬が疲弊してしまい、ライザス領主館で騎士隊は留守番と相成りました。馬車には、馬の疲弊疲労軽減の魔法具がありますので、馬が疲弊しておりませんでした。また、公爵様が仰られるには、ベイツ殿が居られるから護衛は充分であるとの事で、この様な結果に」

「マスター。ベイツってのが、グレイスの配下だ」


 ああ、はいはい。

 レオンに教えられて、看破してみた。

 人間に擬態するのに長けているのが、魔法に精通する邪属性の精霊である。

 某冒険者ギルドで暗躍したあのお馬鹿な精霊と等しく、擬態しているのか。

 一見普通の中肉中背で平凡な顔立ちの男性に見えるが、内包する魔力は人間らしくない。

 私に分かりやすく伝える為か、わざと隠していないとみた。

 身軽に馭者台から降りたベイツを伴って、老公爵さんは杖をついて足を引きずりながらも、笑顔満載で私達に近付いて来る。

 いやいや、私達が移動しますよ。

 そりゃあ、曾孫がいる年代だからね。

 老公爵さんは七十代かな。

 治癒魔法があるとは言え、医療が現代日本より発展してはいない此方の世界では、長生きしている方であろう。

 髪や立派なお髭は真っ白で、足を痛めている様子ではあるも、それ以外は元気な姿ではある。

 ナイルさんも子供達を促して、公爵さんに歩み寄った。


「おお、すまんな。ベイツに任せたら、急には止まれんかったわ。貴殿がナイル殿であるか?」

「はい、先日子爵位を継承致しました。ナイル=マーベルと申します。この子達が、妻アメリアが遺してくれたロイドとエメリーです」


 老公爵さんは私に黙礼してから、ナイルさんに話しかけた。

 これは、私を無視してはないよとの合図であり、老公爵さんの目的がマーベル一家にあるとの意味になる。

 伯爵に叙されたとはいえ、私は若輩者。

 目上の貴族には話しかけられるまで、静観していよう。

 剥れていたお子様ズやレオンには、フィディルとファティマが邪魔をしたら私の責任になると念話で脅している。

 アンナマリーナさんと騎士ワイズさんも、それぞれ淑女のカーテシーと騎士の挨拶をしてから一歩下がる。

 ロイド君とエメリーちゃんが、促されて自己紹介をすると、老公爵さんはますます笑みを深める。


「そうか、ロイドにエメリーか。儂はな、二人の母親のじい様になるでな。二人にとっては曾祖父じゃが、じい様でよいぞ。ナイル殿もな、婿殿と呼ばせてもらうでな」

「お母さんの、おじいちゃん?」

「おお、そうよ。じい様でも、じいちゃんでもよいぞ」

「でも、おじいちゃんならいたよ」

「エメリー。一緒に暮らしていたお祖父ちゃんは、お父さんの父親だよ。お母さんの父親は亡くなっていて、此方のひぃおじいちゃんが、お母さんの唯一の家族なんだよ」

「エメリーが赤ちゃんの頃に、お母さんがお祖父ちゃんはいるって話してくれたっけ。でも、会いに行ったら駄目だって言ってた」

「お母さんは家出したと言っていたからね。簡単に帰ったら、お祖父ちゃんに迷惑をかけるから帰りたくはないと言っていたんだよ」


 確か、家出した原因は家絡みの問題だったような。

 公爵家の財産狙いの貴族男性から既成事実を図られたのと、平民育ちで貴族の常識に慣れなくて同性にも騙され易い環境に身を置いていたのが煩わしくなったんだとか。

 気晴らしの観光旅行にて、ナイルさんがいたフォレスト領に向かう旅程にて馬車の不具合が起きて、演習で領外に遠征していたナイルさん達従騎士見習いが代替えの馬車を手配したりとか、お世話を任されたのが出会いの切っ掛けだった。

 豪商の令嬢として身分を偽っての旅行で、まさか公爵家の血筋であったとは思えない好奇心の塊のお転婆なお嬢様だったそうな。

 老公爵さんが、アメリアさんとの出会いの様子を尋ねて話に夢中になってきている。

 いや、周囲は冷気で冷やしているから快適モードだけど、流石に上級貴族様を炎天下の中で接待は止めようか。

 話に花を咲かせる間に入っても、無礼にならないかな。

 頭を悩ませていたら、


「公爵様、孫娘婿さんや曾孫さんに、会えて興奮しているのは分かりますが。貴方、上級貴族なんです。いつまで、他の方々を炎天下に立たせたままでいやがりますか。せめて、屋敷の中で長話しましょうね」

「む? そうであった。済まぬ、バーシー伯に、ウィンチェスタ家の令嬢。ちいと、我を忘れたわ」

「ミーア様が周囲を冷気で冷やしてくださっていて、暑さを忘れられますが、お子様が倒れたりしたら、原因は公爵様にありますからね。私は忠告しますよ」

「うむ。バーシー伯、済まぬが、屋敷に入れて貰っても構わんかね。ああ、残りの馬車は、儂の個人的な財産でな。土産の積もりで持ってきたが、マーベリック子爵家の秘密の小箱にでもしまってくれて構わんぞ」


 ベイツに警告されて、話は止めてくれた。

 屋敷ではないですが、どうぞ我が家にて親交を深めてくださいな。

 馬車の謎は解けたけど、数台分の土産とは何て豪快なんだか。

 それと、秘密の小箱とは?

 気になる単語が出てきたぞ。

 まあ、思い当たるけどね。


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