083 小さな断罪でした
エンブリオ公爵家に関しては、新たなマーベル一家に突きつけられた問題だから、部外者があれこれ言うのは止めておこう。
ただ、マーベル一家はダレンに関連する一家であると共に、ダレンを弄んだ外道魔導師の家系でもある訳で。
色々とややこしくなってきたなぁ。
「細工師? 違ったバーシー宮廷伯、どうしたの?」
「いやねぇ。奇妙な縁で出会って保護したマーベル一家が、元クランメンバーのユーリ先輩やダレンと関係がある一家だとは思いもよらずって、ところ」
「ああ、筆頭候補のバウルハウト侯爵令嬢と視察に行って、出会ったそうだったと聞いたわね」
「そっ。その時はナイルさんいなくて、子供達だけで生きていてくれていたのだけど。良く、頑張ってくれていたなぁ、と」
「わたくしも、マーベル一家につきましては調べてみましたけれども。不運や不幸が付きまとわれて、わたくしの祖父も助けられなかったと嘆いておりました。当時は、病の為にわたくしの父に爵位を譲ったばかりで、あまり動かせる人員がおらず、後手後手に回ったと聞いております。それに、父は祖父寄りではなく、子爵家を敵対視していた勢力派でしたから、恐らく何らかの処罰があるでしょうね」
沈痛な面持ちで、ロズレーヌ令嬢は痛ましげに教えてくれる。
ん?
あまり、家族仲良好ではなさそうだね。
アンナマリーナさん家みたいな、隠れシスコンとかではなさそうな気配が。
「レミーア様。奥様方が、近付いております。お気をつけくださいませ」
ロズレーヌ令嬢の守護者が、そっと回りに分かる声音で警告を発する。
他の令嬢達も守護者に指示をだして、人垣の様に配置を促す。
自然と守護者達が動いたので、既定路線なんだね。
ファティマに、念の為に危害を加えられないように弱めな守護結界を張らせた。
完全に排除するには情報が足りないから、少しだけ相手をしようと思った。
ロズレーヌ令嬢が、私に耳打ちしようとするのを制止した。
令嬢も心得た様子で、引き下がった。
「レミーア、聞いて頂戴。女王陛下と筆頭候補のバウルハウト侯爵令嬢の御衣装と装飾品は、そちらの新入りが献上したんですって。私にも献上するように、口利きしなさい」
「……お義母様。バーシー宮廷伯に挨拶もなく、失礼でしてよ」
あらかさまな物欲を宣うのは、ロズレーヌ令嬢とは似ても似つかわない黒髪の妖艶な女性で、いかにも我が儘放題で甘やかされたとおぼしき礼儀がなっていない。
連れの男性もふくよかな身体を、ゴテゴテな装飾品と勲章をぶら下げて威光を笠に着て威圧している。
そりゃあね。
上位の爵位の人間に下位の爵位の人間が、いきなり話し掛けるのは非礼だよ。
だからといって、いきなり自己紹介もしないで、物欲ぶつけてくんなっての。
ロズレーヌ令嬢も、冷たい一声で返している。
ねぇ。
社交界を牛耳っていて、悪評があるのはロズレーヌ令嬢ではなく母親なんじゃないの?
「お前のお小言なぞ、いらないわ。早く、わたくしの願いを叶えなさい」
「レミーア、娘なら義母の願いを叶えるのは当然だろう。早く、しなさい」
「……お父様。わたくしは、貴方方の願いを叶えるのは御免被ります。ご自身で、頼まれたら如何でしょうか」
「レミーア! この役立たずが。お前は、親を何だと思っている!」
「言っておきますけど。お父様が、侯爵であられるのも、後二月だけでしてよ。わたくしの、成人の祝いが終われば、爵位はわたくしに返還される。ご自身が婿入りしたのをお忘れですか? お義母様を後妻に迎えられました折りに、お祖父様にそう通達されましたことを思い出してくださいませ」
おや。
女王国内では、女性にも爵位継承権がある。
ただし、未成年の場合は保護者が仮の爵位を継ぐ習わしだそうだ。
まあ、アルバレア侯爵家みたいに、家宝の聖剣に認められないと、継承権がない例外もあるのだけど。
ロズレーヌ侯爵家においては、その女性継承権が貴族法によって適用されるみたいである。
娘に反撃されて、顔色を真っ赤に染める父親と、今知ったとばかりに夫と娘の発言内容に忙しなく視線を移ろわせる義母。
あー、これは父親に問題があるわ。
仮の爵位継承だと忘れて、やりたい放題やらかしてそうだ。
おまけに、その父親は義父とは違う派閥の所属だしね。
ロズレーヌ令嬢のお祖父さんも、娘婿の選択を誤ったようだね。
「ふん。守護者を得ながら、女王候補にもなれない半端者が侯爵家を継ぐには障りがあるわ。まだ、錬金術の才があるミレーヌの方が継ぐに相応しいだろうが」
「確かに、わたくしは錬金術の才はございませんが。ミレーヌはお義母様の娘であり、ロズレーヌ家の血脈に非ず。わたくしが成人前に逝去しても、貴族法により、ロズレーヌ侯爵家はお祖父様の弟様に引き継がれるだけですわ」
実の父親にあるまじき醜い発言に、反吐が出そうだ。
もしかしたら、ロズレーヌ令嬢の母親さんは、父親と後妻によって亡き者にされていたりして。
それから、言った方がよいのかな。
ロズレーヌ令嬢レミーアさんには、錬金術の才は無いのは確かにだけど。
違う才能を秘めているんですけど。
阿保な父親は、守護者のメリッサも希少な聖属性の精霊だって気付いてなさそうだし。
取り巻きのチェイス伯爵令嬢とあわせたら、私がロンバルディアとの諍いで支援した魔法を行使出来るから、重宝されそうなんですが。
「貴族法では、そうだろうがな。忠義のロズレーヌ家に錬金術の才がないお前は、似つかわしくはない。そのことは、貴族院に奏上してある。どちらが国の役に立つか、司法が判断されれば、お前なぞ役立たずは継承権を剥奪されるだけだ」
「……それは、どうだろうね」
「だれっ……。バウルハウト侯爵、他家の内情に貴殿が口を挟まないでいただきたい」
「それこそ、ロズレーヌ代理侯爵殿に言わせていただこう。女王陛下主催の祝勝会にて、自身の血の繋がった娘を貶す行為は、人道に悖るのではないかな。良く回りを見た方が身の為だが」
「なっ?」
私も頭にきていたので口を挟もうとしたら、先を越された。
シェライラのお父さんは余裕綽々といった態度で、ロズレーヌ侯爵を扱き下ろす。
まあね。
流行に敏感な貴婦人は、私の衣装に興味津々だしね。
ロズレーヌ令嬢が席を離れたら、声を掛けようと近場に待機している。
勿論、エスコートする男性もだ。
分かりそうなものだけど、注目浴びているんだよ。
世渡り下手くそな父親が、良くロズレーヌ侯爵家を維持できるもんだ。
派閥の威光を笠に、犯した問題は封じた口かな。
「先の論功行賞で、ユークレス卿も言っていただろうに。マーベリック子爵を貶めた一派は、既に捕縛された。その中には、ロズレーヌ代理侯爵が頼りにする方もいたんだよ。それにね、貴族院の御方も若い世代の不正にはお怒りである。後日、貴族院の人事も一新されるよ。貴殿の所属する派閥が、生き残れるかなぁ」
にやりと嗤うバウルハウト侯爵に、事態を把握したであろうロズレーヌ侯爵は真っ青になっていく。
身を飾る事に執着しているロズレーヌ侯爵夫人は世情には疎く、まだ把握してない様子だ。
頭が軽い発言してきた。
「殿方の話は他所でしてくださらない? わたくしは、そちらの装飾品が欲しいの。早く、献上してくださらない?」
これだもの。
呆れるしかない。
旦那が侯爵位をレミーアさんに譲らなくてはならなくなったら、身を飾る事が出来なくなるとは微塵も思ってはいない。
親子仲が悪いから、世代交代したら放逐されそうなのにさ。
そうなったら、旦那と離婚して、別の貴族男性に取り入りそうな未来しか見えて来ないけども。
もしくは、娘のミレーヌさんを利用して、成り上がるかもだけど。
「シャルロッテ、少し黙りなさい」
「あら、どうして?」
「レミーアの機嫌を損ねたら、私達は侯爵家を追放されかねないんだ」
「あら、そうなの? でも、レミーアはあの話ではお嫁に出して、ミレーヌが婿取りするのではなくって? そうなったら、わたくし達は安泰なのでしょう?」
脳内お花畑の夫人は、ペラペラと話してくれる。
ロズレーヌ侯爵家への乗っ取り、簒奪を示唆しているのを分かっているのかな。
額に血管を浮き出したご老人が、足早に近寄って来た。
「ロズレーヌ侯爵。ちょっと、儂と話をしようじゃないか」
「うっ、クルーザー内務大臣」
「何、あちらには貴族院の議長もいる。さあ、貴族院の法律に詳しい人材もいる。不勉強な君には再教育が必要みたいだからね。夫人も交えて、話をしよう」
「ですから、殿方の会話はあちらで……」
「黙れ、貴様の意見はいらん」
内務大臣さんはかなり怒り心頭といった感じで、頭の足りないロズレーヌ侯爵夫人を一睨みで黙らせる。
指し示す方角には、これまたいい笑顔な年配の方々が。
先程まで、ナイルさんを構い倒していたのだけど、一段落して腐敗する貴族を発見してしまった。
お説教どころではない内容に、一喝するのだろう。
弁解の余地なく、ロズレーヌ侯爵夫妻は別室に連れ去られていった。
レミーアさんに被害が及ぶ前に、潰されて良かったね。
「お恥ずかしい身内が、騒がして申し訳ありません。皆様、どうぞ祝勝会を楽しんでくださいませ」
流石、社交界の華である。
優雅に立ち上がり、淑女の見本となるカーテシーをするレミーアさん。
成り行きを見定めていた貴族達は、一礼して各々会話をし始めて、会場内はざわめきが戻ってきた。
「バーシー宮廷伯、ロズレーヌ侯爵令嬢。災難でしたね」
「女王陛下。祝勝会を台無しにしかけた身内に代わり、謝罪致します」
「謝罪はロズレーヌ侯爵令嬢がしなくても、良いです。ロズレーヌ侯爵令嬢には、私が社交界に馴染めない為に、社交界の秩序を保つ役目を担ってくださっていますもの」
「わたくしも筆頭候補な為に、社交界にて目立つのを避けていましたし、ロズレーヌ侯爵令嬢に押し付けていましたもの。これ位で謝罪されたら、わたくし達も謝罪しないとなりませんわ」
騒ぎを見つけて、女王ちゃんとシェライラが入れ替わりにやって来て、ロズレーヌ侯爵令嬢を労う。
やはり、レミーアさんはただの意地悪な華ではなかった。
女王ちゃんとシェライラの代わりに、社交界の秩序を保っていたんだね。
それを、ロズレーヌ侯爵夫妻が逆手に取り悪評広め、侯爵家の継承権剥奪を狙ったのが正しいのか。
んで、アンナマリーナさんはその噂を目の当たりにした、と。
只今、本人はなんとも言えない表情で、後悔している模様。
普段から、社交界に出入りしていなかった弊害だ。
アナスタシアちゃんの時といい、アンナマリーナさんは迂闊過ぎた。
この機会に、交流したらどうかな。




