081 社交界の華は誤解してました
祝勝会にはお酒の提供やら、無礼講の暗黙なルールがあるようで、お子様なロイド君とエメリーちゃんは別室に待機とはいかず、フィディルを通じて一旦我が家に帰宅して貰った。
その方が断然安全だしね。
ナイルさんやアンナマリーナさんも賛同したので、マーベル一家を構いたがるご老輩方にも説明して納得して貰った。
まあ、その分は父親のナイルさんで我慢していただこう。
そうして、別会場に移動した我々である。
早速、ナイルさんはご老輩方に捕まり、代わる代わる話しに付き合わされていた。
社交界を知らないナイルさんの補佐役には、オレリアさんがついた。
あれ?
何故に、私にはアンナマリーナさんがついているのだろうか。
いや、私もマナーは知らんがな。
知り合いも数人しかいないので、会話より食事が気になります。
会場の端に並べられたテーブルに行こうとしたら、アンナマリーナさんに止められた。
ああ、うちの子達はお子様ズとレオンは家にて待機している。
外見がお子様だからね。
幾ら守護者だからといって、年齢制限に引っ掛かった。
なので、護衛役にはフィディルとファティマがいる。
絶賛人見知りが激しいグレイスは、気配断絶と認識阻害の魔法を展開して、先に食事に舌鼓をうっている。
私も、そちらに参加したいんだけど。
「気を付けて。ドレスと真珠狙いの令嬢が此方を伺っている。取り巻きは伯爵クラスの令嬢だけど、頂点にいるのはロズレーヌ侯爵令嬢。公爵家に適齢期の令嬢がいないから、バウルハウト侯爵家と並ぶ二大筆頭侯爵家の一角で、社交界ではかなり幅を利かせてる。バウルハウト侯爵家の令嬢を、社交界では実家の爵位よりも個人に与えられた子爵位で見ているから、社交界を牛耳っていると自負している。敵に回して、痛い目見た令嬢や夫人は数知れず。まあ、細工師に何かしたら、没落一直線だけどね」
「了解。いっちょ、揉んでやりますか」
「そう言うと思った」
アンナマリーナさん情報によると、公爵家には社交界に出入りする年代の令嬢がいないのと、公爵夫人もおっとりとした方々ばかりなので、あまり社交界を賑わす行為を嫌う性質らしい。
主役の女王ちゃんも宰相閣下の養女で貴族の仲間入りはしているが、元々は平民出身だからか社交界に興味がない。
大騒動にならない限りは、黙認している傾向にある。
ただし、あまりにも過激な言動をする貴族達へは、社交界への出席禁止を言い渡してはいるそうだ。
あまり抑止力にはなっていないみたいではあるようだけど。
筆頭公爵家のエンブリオ家は、当主が御高齢な為に今回は欠席している。
代理の方がいるようではあるが発言力が弱く、ロズレーヌ侯爵家を止める役割を担う人材がいない。
又、ロズレーヌ侯爵家の当主も、バウルハウト侯爵家や辺境伯から侯爵家に格上げされたアルバレア侯爵家を、目の敵としている節があり、不和の仲だとか。
徐々に接触しようとしてくる集団を見るに、品定めしている不快な視線を感じるようになってきた。
女王ちゃんとシェライラは、只今貴族連中からの挨拶を交わしているので、私にだけに関わってはいられない。
他の貴婦人方も私が気になるが、ロズレーヌ家が注目しているからか先に話しかけ辛い状態である。
年功序列ならぬ、爵位序列の掟を律儀に守る方々ばかりで笑いたくなる。
あはは。
来るなら来い。
相手になってあげよう。
「……? アンナマリーナさん。敵さん、何か黙ったままなんですけど」
「多分。細工師から話しかけてこいって、腹積もりじゃないかな」
「流石に、社交界のマナーを全部把握しているつもりはないけどさ。身分の下位から上位へは、気軽に話しかけてはいけないんじゃなかったっけ?」
「その定義に当て嵌めるなら、侯爵家の娘でしかない令嬢は、爵位を保持する細工師よりも身分は下位。だけど、あちらの意向は細工師を下に見ているから、挨拶に来るべきという無言の催促している訳」
「ん。なら、こっちも無視しておくのが正解かな」
私もアンナマリーナさんも、相手に聞かせるつもりで会話をしている。
何だか、睨みあいに発展している私達である。
取り巻き集団が会話の内容を理解するにつれて、顔色を赤くしていっている。
無礼だとか、無作法だとか。
ロズレーヌ令嬢に、耳打ちしている。
当の本人は手にしている高価な扇子をパチリと開いたり閉じたりして、黙したまま私から視線を外さない。
社交界を牛耳っているだけあり、その表情は無に近い。
ロズレーヌ令嬢や取り巻き集団にも、守護者は付いている。
私の背後の二柱の大精霊の守護者の無言の威圧に、マスターに忠告しようにも出来ない状態にされていて、心配する様子を見せている守護者と、我関せずと無表情で待機しているだけの守護者と別れている。
多分、後者はお金を積んで手に入れた守護者だろうね。
マスターを敬愛する素振りがないのが分かる。
契約を解除したいなら、お出でなさいませ。
何とかしてあげるよ。
フィディルやファティマに念話で提案したら、取り巻き集団の守護者の数柱から誓約書が浮かび、破棄されていった。
契約を破棄した守護者の器から、精霊が離れていく。
それはもう、後腐れなく微塵もマスターを省みることなく、姿を消していった。
「えっ?」
「どういう事?」
「何故、唐突に契約破棄なの?」
只の入れ物に成り下がった守護者の器が、数体糸の切れた人形よろしく倒れていった。
突然の成り行きに理解力が追い付いていかない取り巻き集団令嬢が騒ぎ出す。
「皆さん、静かになさって」
ロズレーヌ令嬢は守護者から契約破棄されず、事のあらましを冷静に判断していた。
「メリッサ。皆さんの守護者が契約破棄されたのがどうしてか、理由は分かるかしら」
「分かりますが、マスターにお話しする権限を与えられておりません。私が教えて差し上げる事柄は、契約破棄した守護者は正統な手順で契約を交わしたのではないという事だけです」
「そう、そう言うこと。ならば、契約を破棄されたのは当然ね。聖母教会から有償で入手なさった守護者だったという意味ね。わたくし、そうした行為は毛嫌いしておりますのを、ご存知でしたわよね。お付き合い、考え直させていただくわ」
ロズレーヌ令嬢の容姿はきつい眼差しをした美人さんである。
表情も冷徹苛烈を体現した感じだから、より冷淡に思える。
衣装も派手さはなく、要所要所を抑えた緻密な刺繍が施されたドレスと、瞳と揃えたアメジストの首飾りが際立たせている。
惜しむらくは、ドレスの色合いだ。
髪色が見事な深紅色をしているからか、淡い色合いで抑えている。
この場に裁縫師のエララがいたら、髪色にあわせた色合いでコーディネートしただろうな。
ロズレーヌ令嬢を評していたら、数名の取り巻きを除名して視界から外すと、残った取り巻きを連れて漸く、私達の元にやってきた。
図らずも不正な手段で守護者を入手していたのを暴露された取り巻き令嬢達は、周囲の良識ある貴族からの侮蔑の視線に耐えきれず、家族が回収して会場を出ていった。
放置された只の入れ物になった器は、侍従さんや騎士さん達が回収していった。
後日、聖母教会へと返還されたそうだ。
「お久し振りですわね、ウィンチェスタ伯爵令嬢。数年振りにお会いした祝勝会で、お見苦しい所を見せてしまい申し訳ないわね」
「ええ、お久し振りです。ロズレーヌ侯爵令嬢。皆様もご存知の通り、母の生家のアルバレア侯爵家が当主不在でしたから、領地を離れられず、今日まで至りました。本日も、アルバレア侯爵家が関与しなければ、祝勝会にも出席する気はなかったのですけど。そう言う訳にもいかず、皆様と交流の機会に恵まれませんでした」
「そうですわね。南のアルバレア侯爵家は国境守備の要、ウィンチェスタ伯爵令嬢もお得意の武術でさぞ活躍なさったでしょうね」
「それでしたら、今回の諍いにおいて、私の活躍の場はありませんでしたわ。何よりも戦果をあげたのは、アルバレア侯爵家を継承されるマーベル卿ですもの。私は後方支援で、街への侵入者排除に徹底致しましたので」
「ですが、貴女が女性の身でフォレスト領を守護してきた実績を忘れて、平民育ちのマーベル卿の後添いに、女王陛下ももて余す経歴不詳の宮廷伯の護衛役だなんて。あまりにも、貴女を蔑ろにされているではありませんか。わたくし、正統な評価をされない貴女が、黙って受け入れている事に腹立たしく思いますわ」
おや?
私を無視してアンナマリーナさんとだけ会話するロズレーヌ令嬢は、やや興奮気味に内面を話してくれる。
最初の第一印象から、かけ離れていく好印象を持ったんですけど?
ロズレーヌ令嬢って、融通が利かない性根が真っ直ぐで誤解されがちな、真性な貴族令嬢なんじゃないかな。
貴族令嬢が武術をだなんてはしたないとか思っているのではなく、国境を守備する役割りを全うに担う女性だとアンナマリーナさんを認めているんだよね。
んで、貴族にありがちな政略結婚をアンナマリーナさんが黙々と受け入れ、ぽっと出の怪しい経歴不詳の私に付き従う姿に苦情を言っているだけでしょ。
これ、互いに盛大な誤解が発生しているわ。
だって、私が身に付けている衣装やら装飾品に、欲を孕んだ目で見てないもの。
単純に、怪しい女だって思われているだけ。
それが理解できるから、背後のフィディルとファティマも咎め立てようとしてないし。
お子様ズがいたら、勘違いして悪戯していただろうな。
留守番させていて良かった。
「ロズレーヌ侯爵令嬢?」
「あー、アンナマリーナさん。ロズレーヌ侯爵令嬢は、単にアンナマリーナさんをディスってるんじゃなくて、心配してくれているんだわ」
「はい?」
「会話に混ざる無礼は許して。ミーア=バーシーです。この度、貴族の仲間入りをしました」
「自己紹介が遅れました事を、お詫び致します。ヒューレーム領地を治めるジュリアス=レアナ=ロズレーヌが長女、レミーア=シャナ=ロズレーヌと申します」
横入りして会話に混ざる私に、華麗なカーテシーをして挨拶を返してくれる。
やはり、この子真面目さんだわ。
如何に経歴不詳の私とディスっていても、無視をしないで返してくれるのが何よりな証拠だ。
「先ず、誤解を解きます。アンナマリーナさんは私の護衛役ではなく旧い知己で、私が危険人物であるのを把握している為、無害な方々が被害にあわないように、私を制止する役割りをしています。それで、私が危険人物である意味は、私が六柱の大精霊を守護者にしているからで、真実であるかは貴女の守護者に聞いてください」
「メリッサ?」
「真実です。ミーア様は、精霊王の加護を得ています。ですから、守護者制度を悪用していた聖母教会から、守護者制度を取り上げ、運用を停止致しました。また、強制的に守護者にならざるを得なくなった精霊を救済される方です。全属性の精霊は、ミーア様を慕っておりますから、ある意味で危険人物扱いになります」
そうなんだよね。
全属性の精霊と仲良しだから、反感買ったら精霊が悪戯どころか挙って、お仕置きしちゃうんだよ。
それも、悪い方向に。
故に、危険人物扱いです。
あはは。
精霊頼りな女王国で、精霊に嫌われたらどうなるか。
試そうとする馬鹿な考え持つの、いないといいねぇ。




