080 新たな話題が発生しました
私が最初に言われていた爵位授与において、爵位の変更があったのは前以て打診されていたので仕方なく受けた。
しかし、ナイルさんに続いてロイド君とエメリーちゃんに関しては知らないでいたから、素直に驚いた。
まあ、前からエメリーちゃんの傍らには精霊が姿を隠して侍っていたので今更感があるけどさ。
衆目の最中に契約を願った精霊がいるとは思いもしないでいた。
謁見の間には入室禁止だった大精霊が、休眠している子達を除いて顕現して、祝福の讃美歌を熱唱している。
追従する形で、参加者の守護者も顕現して、新たなる同士の誕生を祝う。
会場の片隅でアナスタシアちゃんも確認。
ダイアナも唄を披露している。
だが、お祝いムードをぶち壊す輩が女王の許可なく発言して、騒ぎ立ててしまった。
「陛下、お待ちください。先程、マーベル家の令嬢に下賜された精霊石に関しまして、私見を述べさせていただきたく、ご許可を願います」
「ベンジー卿。発言を許可します」
「陛下、ありがとうございます。大変ぶしつけであるとは存じますが、ご令嬢が下賜された精霊石は、当家の家宝でございます。陛下は、盗品を下賜された。どのような経緯で、このように盗品を下賜されたのか、真実がしりとうございます」
「確かに、昨年の社交界にて、ベンジー夫人が自慢していた首飾りの宝石でしたのは、私も宰相も覚えております。しかし、精霊の報告と良識ある方々の密告により、先のベンジー夫人が腐敗した聖母教会の権利を行使して、不当に財産を強奪紛いの手段で接収した事案が明るみにでました。よって、マーベリック子爵家の財産は、返却するに至りました。異議申し立てしたいのでしたら、返却が妥当であると賛成支持した貴族院に必要証拠を提示して議題にあげなさい」
いつしか、精霊達の讃美歌は止み、女王ちゃんの返答が謁見の間に響き渡る。
ベンジー卿とやらは、貴族院も賛同した事実に、顔面蒼白となっていた。
女王ちゃんは、冷めた眼差しでベンジー卿の訴えを退ける。
どうやら、マーベリック子爵家をお取り潰しにした一派のようである。
没収した資産を、国庫に納める筈が、ある貴族の手に渡っていた。
事前に知らされていた私は、フィディルや時空の精霊の眷属精霊の協力の元、隠匿した貴族の隠し金庫やらから内密に宰相閣下と女王ちゃんの許可を得て、回収させて貰った。
また、今回の論功行賞の場には、引退した貴族当主が数多く招かれている。
それは、マーベリック子爵家の知己であったり、爵位剥奪に異議を唱えて庇おうとしてくれていた方々である。
マーベル一家が、存命しており名誉を回復される場に立ち会える事を、何よりも喜んでくれていた。
「女王陛下。老骨の身でありますが、ベンジー卿にちと申し上げたい事があります。発言の許可をいただけないでしょうか」
「グレンダ伯爵、許可致します」
「有り難く存じます」
白髪のナイスミドルなおじ様が、先鋒役をかって出てくれる。
女王からより良い反応が返っては来なかったベンジー卿にとっては、自分を助力してくれるのだろうと期待に満ちた表情に変化した。
が、生憎とそうはならなかった。
「ベンジー卿。我がグレンダ伯爵家は貴殿とマイルズ侯爵家を、マーベリック子爵家への陰湿な悪評を広め自身の悪事をなすり付けて弾劾し、当時の貴族院と裁判官を買収及び詳細な調査を妨害し、爵位剥奪と追放処分を女王陛下の許可なく実行した罪を、この場をお借りして明らかにさせていただく」
「なっ?! 何を言われるか。そんな事実無根な話は、名誉毀損である」
「では、何故に夫人は、子爵家令嬢の守護者を買い取り、核となっていた精霊石を装飾品にと細工させて、茶会や社交界で自慢されていた。それから、ベンジー卿の邸から、子爵令嬢の破壊された守護者の器が発見されている。言い逃れはできませんぞ」
「馬鹿な。守護者の器が屋敷にある訳がない。あれは、確かに木っ端微塵に破壊して焼却したはず。あっ!」
語るに落ちた。
グレンダ伯爵の誘導尋問に引っ掛かり、見事に暴露しやがりました。
益々、顔面蒼白になったベンジー卿は、仲間であろう某侯爵を探し始めた。
悪事が明らかになり、道連れに巻き込もうと悪足掻きしたいんだろうね。
だがしかし、その某侯爵は既に捕縛済みである。
マーベル一家が表舞台に出るのを察知して排除しようと動き、護衛していたアルバレア家の騎士さん達によって何も出来ずに簀巻きにされて牢獄に放置されている。
「先に宣言しておくがな。貴殿の後ろ楯であったマイルズ侯爵は、既にやらかして捕縛されとるわ。貴殿が、女王陛下に進言なされなかったら穏便に済まされたであろうがな。友人の窮状に間に合えなかった老骨連中は、遺児であるマーベル一家を漸く救援できると一致団結しておる。引退した爺を甘くみるでないぞ」
「僭越ながら、我がユークレス家も加えていただこう。なにせナイル卿の鬼籍に入られた奥方は、私の従姉妹にあたる。マーベル一家を平民と侮られる方々には、忠告させて貰おう。父君はアルバレア侯爵家の血統、母君はエンブリオ公爵家の唯一の相続人。ご子息、ご息女はエンブリオ公爵家の紛れもなく貴き血筋のお子である。貴族階級にありがちな特権階級を振りかざし、マーベル一家を貶める愚かな行為はやめられるがよろしい。アルバレア侯爵家が武門の一族として名高ければ、エンブリオ公爵家は初代女王陛下の知的財産権を保持する家柄。エンブリオ公爵家に楯突いて、生活に欠かせない便利な錬金魔導具を手放したくはないでしょう?」
あらまあ。
ナイルさんも目を丸くしているのを見るに、奥方の生家は知らなかった模様。
精霊のナナリーだけが、頷いている。
ロイド君とエメリーちゃんに至っては、話についてはいけてない状態である。
「うえっ? お母さんも、貴族だったってことか?」
「どうやら、そうみたいだね」
「こうしゃくって、アルバレアのおうちといっしょ?」
「いや、こうしゃくという響きは一緒だけど。エンブリオ公爵家の方が、お家の家柄は上だよ」
呑気に会話するマーベル一家。
他人事みたいに話してるけど、貴方達の事ですから。
オレリアさんが眉をしかめているのを見る限り、把握していたな。
これでは、ロイド君がアルバレア家を継ぐには差し障りが出てきた。
将来設計として、アルバレア家をロイド君が、マーベリック子爵家をエメリーちゃんの持参金代わりに旦那様に継いで貰う手筈がくるったぞ。
アンナマリーナさんが子供を産まないとならないかもだぞ。
「ユークレス卿。エンブリオ公爵家の話は真実ですか?」
「女王陛下に誓って偽りは申しません」
「そうですか。困りましたね。ナイル卿の跡継ぎは、ロイド君とエメリーちゃんだけですから、両家の後継者問題に少々障りがありますね。ウィンチェスタ子爵、貴方のご息女がナイル卿の後添えとして嫁ぎ、ナイル卿の立場を磐石にすると申しておりましたが、どうしましょう」
女王ちゃんには、アンナマリーナさんが妖精の悪戯により男性と産まれる筈が女性と誤って産まれてきた経緯は説明してある。
精神が男性のアンナマリーナさんが、男性と同衾して子供は無理だとは納得してくれていた。
アンナマリーナさん的には、ナイルさんにはお子様が二人もいるのだから、後妻の自分が産んだ子供が男児であれ女児であれ、再び後継者問題に発展して前妻の子供を蔑ろにする気はないから、子供は産まないと宣言している。
いい目眩ましになったのだけど。
ユークレス卿の発言で台無しになってしまったがな。
「私どもアルバレア家としましては、ナイル卿の長男がアルバレア家を継ぐに相応しいと分家を纏めておりますが。エンブリオ公爵家のご事情を鑑みるに、当家とは違い男児にしか継承の権利が発生しない公爵家にはナイル卿の長男しか相応しき人材がいないのは了承致しました。もし、ナイル卿の長男が継承しない場合は、エンブリオ公爵家は存続できるのでしょうか。それだけが、気になります」
オレリアさんの切実な願いは、アンナマリーナさんの精神安定と心安らかな将来。
家の為に犠牲になれとはいいたくないだろうが、オレリアさんも貴族の一員。
時には、非情な役割を担わないとならない。
「ロイド君以外の人物が、エンブリオ公爵家を守護する精霊に認められる確率はかなり低いでしょう。試しに、曾祖父の従姉妹の血統を有する人物を推薦してみても、契約不履行を理由に知的財産権である錬金術のレシピが、この世から抹消されるだけです。試すに試せません。が、ただ一人だけ、エンブリオ公爵家に連ならなくても精霊に認められる方がいますけども。私は、推薦したくはありません」
「陛下のおめがねに、叶わない人物であらせられるのでしたら、別な方法を模索するしかありませんのですね」
「いえ、逆です」
あっ、やばし。
何となく、察した。
女王ちゃんが、気の毒そうに私を見る。
「その方に重しを与えるだけとなってしまうからです。爵位や地位を必要とされない方ですし、女王として言わせていただくと、無理難題を押し付けて大精霊のお怒りを買いたくはありませんもの。ですから、貴族院や大臣達の推薦を得て、適した人材を認めていただくようにお話しいただくしか手段はありません」
あー。
やっぱり、私か。
ほんでもって、女王ちゃんとしては、守護精霊に新たなる血脈の人物が公爵家として認めてくれるように、説得なり推薦してくれないかが、妥当な案だと言いたいんだろうね。
〔エンブリオ家の守護精霊は、グレイスの眷属ですわ。マスターが直接推薦したならば、契約の変更は叶えられますでしょう〕
〔まあ、あいつの性格上融通は利かない真面目一辺倒な精霊ですけど。マスターが役目を誉めたり労えば、多少は無理を叶えてくれますよ〕
成る程。
ファティマとフィディルよ。
情報を、ありがとう。
そして、グレイス。
ぶんぶん頷くでない。
まあ、ナイルさんだってまだ若いんだし。
ロイド君が早く結婚して家庭を持って、エンブリオ家の跡継ぎ誕生するかもしれないからさ。
アンナマリーナさん。
そんな、悲観しなくて大丈夫らしいよ。
視界の片隅で、項垂れたベンジー卿がユークレス卿配下の部下に連行されていくのを見ながら、静観する。
論功行賞が終わり、マーベリック子爵家を弾劾した輩もいなくなり、次は祝勝会が始まろうとしていた。
さあ、貴婦人達の出番が回って来るぞ。
どうせ、ドレスやら装飾品やらの話題から、入手先を聞き出そうと躍起になるだろうが。
上手く捌けるだろうか、ちょっぴり不安だ。
まあ、女王ちゃんとシェライラも巻き添えにしたから、分散はするとは思う。
しかし、貴婦人の美に対する好奇心と流行の先取り、誰もが手にした事のない品を真っ先に入室して自慢したい欲との闘いには、負けてやるつもりはなし。
あはは、かかってこいってなもんだ。




