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008  助けました(9/16改稿しました)

 何だかなぁ。

 ジルコニアに、遊びがバレた。

 少しぐらいの八つ当りをしても、いいじゃんか。

 こちとら、事故って植物人間になって、異世界転生とか知らない間にやらかされているんだよ。

 あの人外さんが、私に何を求めていたかは分からない。

 転生した場所には、先輩が先陣きって国を興し、守護者システムが公になっている。

 先輩亡き後で、腐敗した聖母教会と平民出身の女王が対立している。

 問題がありまくりの現世に、先輩の愛弟子が突如現れた。

 不審者扱いされないのは、先輩の守護者が存在していたから。

 どころか、手助けを望んでいる。

 やってられるか。

 ってな、もんだ。

 確かに、私の守護者は大精霊。

 しかも、十三柱の中の六柱。

 うん。

 過剰な戦力をもっていると自覚した。


「あの? ジルコニア? わたくしは、何かしてしまったの?」

「僭越ながら、お嬢様。お弟子様に、試されているかと」

「試されている?」

「はい。お嬢様の守護者が知己を得ているとはいえ、お弟子様はお嬢様の為人(ひととなり)をご存知ではございません。情報を得る為に、お嬢様を探るのは自衛の手段です」


 護衛の騎士さんに、看破された。

 まあ、その通りなので腹は立たない。

 シェライラは素直過ぎて危うい。

 初対面の私にさえ解りやすい性格で、領主なんてやれるのだろうか。

 貴族令嬢なら、社交辞令やら、言葉の駆け引きは慣れておかないと。

 魑魅魍魎が跋扈する世界では、異質な気がするよ。


「ミーア様。シェライラは、政務は出来るのです。仕事に従事すると人が変わります。だけど、普段はおっとりさんなのです」


 ふーん。

 ギャップ萌えとかいうやつか。

 シェライラは自分のことを言われているのに、首を傾げている。

 まあ、いいや。

 周りに恵まれていそうだから、私が心配しても仕方がない。


「んで、私に何をしてもらいたいのかな」

「はい。ミーア様には聖母教会の中心部に入室して頂いて、レットとレッタを休眠させてもらいたいのです」

「レットとレッタ? あの子達が何で教会にいるの?」


 ヴァイオレットとヴィオレッタ。

 光と闇の大精霊で、ジルコニアと一緒なユーリ先輩の守護者。


「二柱は、王都の聖母教会の運営に携わっています。マスターの遺言を守ることが、存在理由になり固執しているのです。わたしは、代々の女王候補を見守り、導く主命を受けています」

「マスター。ジルコニアが言う通りです。初代が儚くなり以降、二柱はメンテナンスを受けておりません。器が限界かと思われます」

「フィディル。それ、緊急案件じゃないの」


 ユーリ先輩の守護者も頑固な一面がある。

 遺言なんて期限をつけてあげないと、器が限界になり動けなくなるまでか、精霊の命を喪う羽目になるまで遵守してしまう。

 緊急だなんて、どころではない。


「フィディル、繋いで」


 立ち上り、扉に向かう。

 警護の騎士が訝る。


「シェライラ。騎士を退かしてください」

「? 分かりましたわ」


 ジルコニアは、私が何を指示したか理解していた。

 主に目配せされて、騎士が退いた扉の取手を握る。


「申し訳ありませんが、聖母教会には繋げません。しかし、王城内の本教会に繋ぎます」

「そこから、レットとレッタを呼び出せるのなら、了解した」

「ミーア様?」


 シェライラが疑問符だらけだと思うのだけど、説明はあと回し。

 今は、先にやることがある。

 握る取手越しに、扉にフィディルの精霊魔法が行使されたのが伝わる。

 それに伴い、私の魔力が減っていく。

 フィディルは時空を司る大精霊。

 行った事のある場所の扉と扉を繋げて、移動できる便利な精霊魔法を有する。

 まあ、行使には魔力をごっそり持っていくから、多用は出来ない。

 ゲーム内では転移魔法はなく、高額なアイテムしか長距離の移動は出来なくて、随分と稼がせて貰った。

 その分、欲をかいたプレイヤーに狙われたけどね。

 いや、話が逸れた。


「ジルコニア。シェライラ連れて、後に続いて。護衛の騎士は、自己判断で宜しく」

「はい。分かりました」

「ジルコニア、何を」

「レットとレッタを助けに行きます。シェライラは、ミーア様の保証人です」


 背後でのやり取りを聞く間を惜しんで、扉を開け放った。

 そこは、街で見た教会の内部と同じ、真白い敷石と装飾が為された柱があった。

 違いは椅子の並びがなく、正面に二メートルはある巨大な精霊石が屹立していた。

 天井にはステンドグラスが嵌められていて、陽光が色とりどりの影を作り出していた。


「えっ? 本教会?」

「扉の先の廊下は、何処にいった?」

「ジルコニア、これは、なに?」

「ミーア様の守護者には、空間を繋げる便利な精霊魔法を持ったフィディルがいます。領主館と教会の扉を繋いだのです」


 驚愕する一同。

 シェライラがジルコニアの肩に担がれているのは、見なかったことにしよう。

 はよ、下ろしてあげたら。

 他人が見たら、淑女にあるまじき姿に卒倒されるじゃんか。

 何だか、慣れている気がしないでもないがな。

 しかし、掃除されている割りには、人の気配がないのだけど。

 警備はどうなっているかな。

 侵入した方法が、あれなだけに私は指摘はしてあげないけどさぁ。

 フィディルは王城内部に、あっさりと繋げたわけだけど、本来なら阻害の魔法をかけておくべきだと思うよ。

 女王や貴族がいるんだから、安全には気をつけないと。

 侵入しほうだいじゃないか。

 ユーリ先輩が存命なら、ここまで腑抜けた警備はさせないだろうね。

 やっぱり、長年の平穏が油断を招くのかな。

 まあ、いいや。

 やるべき事をしようか。

 靴音を鳴らしながら、大精霊石に近付く。

 冷たい精霊石に触れると、ウィンドウが展開する。

 IDを記入していくと、私宛にメッセージが残されていた。


『◯ちゃん。いえ、ミーアちゃんかな。詳しくは言えないけど、私ユーリも転生しました。神様に、私の没後にミーアちゃんが、転生するのを教えてもらいました。ですので、私が持つ遺産をミーアちゃんに受け継いで貰いたいです。聖母教会の運営システムに、レットとレッタを犠牲にしてしまいました。良ければ、ミーアちゃんがシステムに介入して、レットとレッタを解放してあげてください。ごめんなさい、私が存命のうちに正しい聖母教会を作り上げれなかったのが、心残りです。当時は奴隷以下の扱いをされる女性を、救うのは聖母教会しかないと思いました。だから、聖母教会をこの世界に立ち上げました。道半ばの聖母教会の運営が私達の理念から乖離しているかもしれないのは、想定しています。もし、そうなっていたら、聖母教会の存続の可否を託します。運営システムの終了パスワードは、ミーアちゃんが嫌いな三馬鹿の名前にしました。それからレットとレッタを託します。ミーアちゃんが契約してもいいですし、託すのに相応しい相手に巡り合わせてあげてくれてもいいです。では、ミーアちゃんの歩く未来に祝福を』


 先輩らしい要点を述べたメッセージに、苦笑した。

 パスワードを、記入していく。

 彼等の名前なら、誰にも分からないだろう。

 適当に打ち込んだとしても、ながったらしい聖母教会の名付け親達の、これまた長い名前を覚えているのは私しかいない。

 最後の一文字を押して、エンターキーに触れた。


〔緊急連絡致します〕


 レッタの声が世界に響いた。

 ゲーム内ならワールドアナウンスは、運営が管理するAIがする。

 だけど、この世界に運営もAIもいない。

 レットとレッタの二柱が担ってきた業務を、私は終わらせた。


〔只今より、聖母教会の守護者システムを停止致します。これより、教会の管理する精霊を解き放ちます。異議がある教会関係者並びに聖職者は、本教会にてマスター権限をお持ちの方に申告してください。それでは、皆様、長のお付き合いありがとうございました〕


 宣言が終了すると、大精霊石から二柱の精霊が降りたってきた。

 が、立てる状態ではなく、床に崩れ落ちる。


「レット、レッタ。お疲れ様。ユーリ先輩に代わり、褒めてあげる」

「ミ、ーア、さま、お待ち、して、おりました」

「わたし、たちを、解放、ありがとう、ございました」

「うん。二柱とも、ぼろぼろだね。休んで頂戴」


 ショルダーバッグに内蔵のアイテムボックスには、何故かゲームで所持していたアイテム迄入っていた。

 確認して驚いたもんだ。

 人外さんは、太っ腹だよ。

 高純度な精霊石を二つ取り出して、目の前に差し出す。

 錆が目立つ身体に、経年劣化した衣服。

 ノロノロと、顔をあげるのにも、軋んだ音がした。

 ヴァイオレットは金髪紫の瞳。

 ヴィオレッタは黒髪紫の瞳。

 髪は縺れ、瞳には輝きがない。

 かなり、無理をしていただろう。

 ユーリ先輩の主命を果たそうとした二柱に、涙が溢れてきた。


「安心して、休んで。ユーリ先輩から、託された以上は、うちの子達と思うよ」

「女王、の、お味方に、なって、あげて、ください」

「女王、の、元には、あの子が、います。罠により、力が削がれ、ています」

「うん。約束する。女王とは話し合う。あの子とやらも、リペアできるならする」

「「ああ。安心して、眠れる。ミーア様に祝福を」」


 レットとレッタの指が欠けた手が、精霊石に触れて力を喪い落ちる。

 カシャン。

 陶器身体のマネキン人形が、襤褸となった衣服に埋もれて砂と化していく。

 手の中の精霊石が数回瞬き、淡い金と銀の星が浮かびあがる。


「お休みなさい。レット、レッタ」

「ミーア様。精霊様のお身体が」


 肩から降りたシェライラが駆け寄ってきた。

 極限まで使い潰した精霊の器が、砂と化していくのを見たのは初めてかな。

 ユーリ先輩が作製した人形の身体は、残してあげたかったけど、遅すぎた。

 人工筋肉や血管がわりの魔力コード、ひとつ残る事なく砂になった。

 核となっていた精霊石も、ひび割れてくすんだ色合いと成り果てている。


「シェライラ、女王ちゃんでもいいけど。レット、レッタの器を作ってくれる?」

「シェライラ、私からもお願いいたします。二柱は光と闇の大精霊です。出来るなら、女王と二人で契約してあげてください」

「ちょっとお待ちください。それは、二柱の守護者を持てと言いますの? 無理がありますわ」

「無理ではありません。ミーア様と言う、立派な先駆者がおります。後は、やる気だけです」


 複数の守護者を持つには、単なる保有する魔力が高ければ第一関門は突破できる。

 後は、相性だけど、意外と上手くいくのではないかな。

 シェライラも、女王ちゃんも、ユーリ先輩の子孫なら適応するでしょ。

 ジルコニア、頑張って説得してね。

 私は、あっちを黙らせてくるから。

 ワールドアナウンスが流れたことで、本教会の異変にやっと気付いた一団が雪崩込んできた。

 皆様、一様に険しい表情をしている。

 では、第二ラウンドの始まりだ。


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