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女王⁉ 聖女⁉ いえ、ただの農業オタクな細工師です。  作者: 堀井 未咲
第二章 貴族の在り方

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079 他者視点 細工師は注目を集める

 sideアンナマリーナ


 騎士団総長に案内されて謁見の間に現れた細工師は、見事に母オレリアの期待に応えてくれた。

 諍いの論功行賞であると言うのに、中央の貴族達は我先にと着飾り、主役は自分であると主張している。

 流行先端を行くと噂の似たり寄ったりのドレスと、装飾品を見せびらかす場と勘違いしている貴婦人達。

 先祖が戴いた勲章を己の手柄と自慢する為に身につける男性貴族。

 他者を誉めている様で誉めていない内容のない会話。

 どれもがくだらない権力を誇示する脳内花畑な、国を運営するには役立たずな名ばかりな貴族達が競って、重役に就く大貴族に取り入ろうと躍起になる姿は見苦しい。

 だから、アルバレア侯爵家に連なる血統を有する家に産まれながら、社交界を毛嫌いする私は王城には来たくはなかった。

 外見は女性であるも精神は男性である弊害で、自身を着飾ることに無頓着な私を母は自由にさせてくれていた。

 希に、どうしても招待に応じないとならないパーティーに、採寸したことがないにも関わらず適したドレスが準備されていたりはして、面倒くさいが参加したことはある。

 まさか、淑女らしからぬ行いをする娘や妹を疎んじていた父や兄が、率先して作らせていたとは知らなかった。

 父や兄達は彼等なりのやり方で、私を陰湿な貴族からの苛めから守ってくれていたとは、微塵も理解していなかった。

 細工師が現れてからのウィンチェスタ家は、シスコンを暴露された兄達が開き直って私を構い倒してくれている。

 父もまた、ファレル家を廃嫡に追いやった細工師の作品を見て、私を飾る装飾品を発注しているそうで、本日の私の身を飾っている。

 細工師ミーア=バーシーの名は伊達に、ゲーム内でも生産職人の中でもトップの位置にいない。

 緻密で繊細な美術品も霞む表現しづらい、それはもう見事としか言い表せない逸品を次々に世に出回らせる事で有名な人だった。

 仲間の裁縫師と共同作製したドレスが、オークションで過去最高値を叩きだしたのも有名な話だ。

 あれは確か、聖王国の王族が落札して、難攻不落であった魔王へと献上して和平の礎となったとか。

 そのお陰で、ゲームの魔族進攻のイベントが潰されたと、運営が泣いて白状していたなぁ。

 まさか、あのドレスに近い衣装を細工師が所持していたとは、誰も予測が出来なかったわ。

 細工師に問い質したら、ゲーム内のアイテムは巻き込まれ召喚の特典でほぼ全て所有しているままだとか。

 まあ、かく言う私もゲーム内で装備していたアイテムだけは、所持していられたけど。

 アイテムボックスはあれど、残念な事に所有していたアイテムはなかったこの違いに、若干苦言が言いたいが。

 生産職の細工師だ。

 アイテムボックス内の素材やら、装備品やら凄い財産を所持していると見当がつく。

 光に反射して煌めくドレスは、宝石が散りばめられているのではなく、素材の糸自体を特殊な製法で織られた布地が使われている。

 素材の糸が此方の世界には棲息していない魔物のドロップ品であるから、他者が手に入れることは出来ない。

 それに、首筋を飾る真珠も、海辺の国でさえお目にかかれない虹色真珠とくれば、それは注目を浴びる。

 うん。

 マーベル一家の良い目眩ましになってるわ。

 ナイル卿の衣装は、剥奪された子爵家の家紋入りの形見の衣装を手直しされたものだけど。

 ロイド君とエメリーちゃんの衣装は、細工師が素材を提供して家妖精(ブラウニー)が手掛けた衣装だ。

 猫妖精(ケットシー)にも、揃いのベストと靴を用意してあった。

 それに、マーベル一家達には不穏な事情があり、ロンバルディアとの諍いの際に細工師が与えた万能腕輪を身につけて貰っている。

 あの反則なまでの悪目立ちしかない付与されまくりの腕輪があれば、万が一にも王城が破壊されてもマーベル一家は傷ひとつなく無事でいられる。

 アルバレア家としても、マーベル一家は失ってはならない家族である。

 敵対者には、それ相応の対処はさせてもらう方向で一族が団結している。

 玉座の前まで進み、マーベル一家が膝をついて待機する。

 ロイド君とエメリーちゃんも、付け焼き刃にしては滑らかな動作で父親に倣う。

 私と母も続く。

 ただし、細工師は平伏しない。

 いや、してはならない。

 その場に立ち続ける不遜な態度に、事情を知らない貴族がざわめく。

 玉座に近い大臣と宰相は沈黙を保つ。

 抗議の声をあげて、名を売ろうとしている下位貴族が糾弾しかけようとしているだろうと思われるが、


「女王陛下、並びに筆頭候補者殿、ご入場!」


 謁見の間に、呼び出し係の声が響いた。

 こうなったら、たとえ糾弾する意図があっても黙るしかない。

 皆が、女王陛下の入場に、敬礼とカーテシーでもって出迎えるのが作法である。


「皆さん、楽になさってください」


 女王の許可で視線を下げていた貴族達が、頭をあげて驚嘆の声を出す。

 さもありなん。

 入場した女王陛下と筆頭候補者のお二人ともに、立ち続ける細工師と同じ色違いのドレスを身に纏っていた。

 女王陛下は薄紅から深紅へとグラデーションのドレス。

 筆頭候補者は、若木の翠から新緑のグラデーションのドレス。

 また、お二人とも同じ大粒の白真珠を重ねた首飾りと耳飾り。

 女王陛下の冠も新調されて、鶏卵と同様なサイズのダイヤモンドを中央に配したえげつなく派手に目立つ。

 これが全て、細工師が惜しげもなく提供したモノ。

 はあ、細工師一人だけ目立つ筈が、悪のりした女王陛下と筆頭候補者まで参加したよ。

 論功行賞が終わり祝勝会が始まると、絶対に話題はドレスで浚われるわ。


「今日という良き日に、皆さんにお知らせできることを嬉しく思います。先頃、長年初代女王陛下の御代にて兄妹国として同時期に建国しながら、ある騒動により仲違いしてしまったロンバルディア国と和解致しました」


 女王陛下の発言を途中で遮る訳にはいかない為、驚愕と真偽を問う質問を発する馬鹿はいなかった。

 平民育ちと揶揄する貴族も、小娘の戯言と断じるには場の雰囲気によって押し黙るしかない。


「その切っ掛けを作りし、ミーア=バーシーならびにアルバレア家継承者ナイル=マーベル両名に

 褒章を授けます。ミーア=バーシー、御前に」


 他者の視線をものともせず立ち続けていた細工師が、女王陛下の眼前に立つ。

 筆頭候補者が侍従から渡されたトレーを持ち、女王陛下の傍らに移動する。


「ミーア=バーシーに宮廷伯の地位と、王領たるランカの地とベルゼの森を下賜します。また、伴い五年の税を免除します」

「謹んで拝領致します」

「次に、名誉職として女王相談役を任命致します。どうか、伏してお受けいただくのを願います」

「承諾致します」

「有り難うございます。相談役に就かれたバーシー宮廷伯におかれては、女王であれ宰相であれ大臣であれ、忌憚なく意見していただく権利を授けます。皆、バーシー宮廷伯の言動は、私、女王の言と等しく耳を傾けるように要請致します。そして、この場にいる貴族達に宣言致します。バーシー宮廷伯は名誉職であられますが、我が国においては女王よりも立場が上の方であると思いなさい。バーシー宮廷伯は、我が国の根源たる精霊様が慕う稀有な精霊魔法師でもあります。バーシー宮廷伯を意図して貶めたり、砂糖に群がる蟻の如く自身の都合良く利用しようと愚か者には、大精霊の鉄槌がくだると思いなさい。私は、女王として国を守る為には、国を揺るがす危険人物となりうる個人は切り捨てます。良いですね、皆さん。どうか、我が国を十五代目で滅亡に追い込む輩が出ない事を希望します」


 女王陛下から手渡される勲章と、爵位拝命の任命書を細工師は感慨無量な体で受け取り、女王陛下の発言内容に嘆息した。

 これから、細工師が大精霊を六柱と契約する偉大な精霊魔法師と公表する手筈なのだろう。

 内心、女王よりも重要な人材で危険人物であると暴露しているものだし。

 本当なら、女王位ですら譲渡したいだろうが、名誉職辺りと細工師が着々と摩訶不思議農園を築いている土地で我慢しているのが分かる。

 それに、ベルゼの森は女王国内でも有数な良質な素材が入手出来る宝の山。

 あの森を狙っている貴族は多くいる。

 権利を掌中に収めた細工師に渡したら、お零れに預かろうとする輩続出だな。

 まあ、女王陛下自らが先手を打って、敵対するなと釘を刺したけど。

 どれくらいの貴族がまともに取り合うか見物だ。


「次にナイル=マーベル卿、御前に」

「はっ」


 細工師が下がり、ナイル卿が女王陛下の眼前に入れ替わる。

 相変わらず細工師は黙礼しただけで下がるから、無作法だとか小声で聞こえてきた。

 だから、細工師には六柱の大精霊がいるんだよ。

 一柱しか契約してない女王陛下や筆頭候補者よりも、精霊の位階も高いし、大精霊が下に着くのを嫌がっているんだよ。

 分かれよなぁ。

 大精霊に暴れられたら、どう責任とるんだっての。

 いかん。

 男言葉が出てきた。


「ナイル=マーベル卿。私は貴殿に謝罪致します。貴殿の祖父の代にて、愚かにも甘言により爵位を剥奪し、資産を没収する謀に先々代女王陛下が関与してしまいました。これには、先代女王陛下も加担しており、姿なき賢者様のお怒りを受け、先代女王陛下は最も短い期間の在位でありました。漸く、マーベリック子爵位をお返しできる事を嬉しく思います。ですが、祖父君や父君の存命中にお返し出来なかった不備を、お詫び致します。また、アルバレア侯爵家の血統を継承され、系譜に連なる事を許可致します。ロンバルディアとの諍いは終止符となりましたが、英雄の血脈が受け継がれていかれることを慶びと致します」

「女王陛下のお言葉、亡き祖父や父も望外の慶びでありましょう。また、卑小な身ではありますが、祖父や父の名に恥じない働きを誓わせていただきます」


 女王陛下のお墨付きを戴き、これでナイル卿は名実ともにアルバレア侯爵家を継承される。

 不遇の時をマーベル一家に送らせてしまったのは、アルバレア家にも責任が生じる。

 当主の息子が不正を行い、属性保有結果を入れ換え、わざとらしくナイル卿を貶めて追放した。

 行方不明になったマーベル一家を捜査する手段が、平民から農奴へと落とされた弊害によって邪魔されていただなんて、あってはならない事ばかり起きてしまった。

 姿なき賢者様も黙して語らず、いたずらに年月だけが過ぎた。

 そうして、待ち望んだ報せが来た頃には、自滅した息子と病に倒れた伯父様が儚くなった後のこと。

 代行となった母の命令で顔馴染みの騎士に家宝を持たせて一縷の望みをかけたら、いるはずのない細工師までやって来た。

 細工師に生命を助けて貰ったナイル卿は、アルバレア家にすんなりとは来てはくれないわ、分家の下剋上を阻止するわで、てんやわんやになったし。

 でも、これで漸くアルバレア家も落ち着く事になるから、良しとしよう。


「アルバレア家の活躍に期待しております。次に、ロイド=マーベル、エメリー=マーベル御前に」


 はい?

 予定にないナイル卿のお子様達の呼び出しに、肩が揺れた。

 ナイル卿も驚かれているから、知らされてはないのが分かった。


「ロイド君、エメリーちゃん。胸を張って、歩いて行くといいよ」


 細工師、あんたの入れ知恵かよ。

 ロイド君とエメリーちゃんは、信頼する細工師の言葉におずおずと前に出ていった。


「ロイド=マーベルならびにエメリー=マーベル。マーベリック子爵家の血脈ながら、農民として生きなくてはならなかった償いを致します。あらゆる手を使い、子爵家の家宝を取り戻させていただきました。両名にお返し致します」


 筆頭候補者が恭しく捧げたトレーから、黄金色に輝く鍵がロイド君へと下賜される。


「鍵の使用方法は、家族である猫ちゃん達が知っているとのこと。ミーア様のお家に戻られたら、実践なさってください。現状において、あのお家が一番安全で邪魔が入らない場所ですから」

「あ、ありがとうございます」


 ロイド君はぎこちなくも紳士の礼をして受け取り、一歩下がる。

 次は、エメリーちゃんだ。


「エメリーちゃん。こちらは、貴女のお祖母様が大切になさっていた品です。邪な企みをして奪った女性の身を飾る装飾品では、決してありません。どうか、お祖母様のご遺志を継がれる事を望みます」

「あ、ありがとうございます?」


 エメリーちゃん、惜しい。

 そこは疑問系はいらないな。

 なんて、悠長に採点している場合ではなかった。

 女王陛下がエメリーちゃんに、ある宝石の原石を両手に乗せると、宝石が瞬く間に輝いてみせた。


「陛下!」

「静粛に。私に危害が加わる危険性はありません。皆さん、静かに見定めなさい」


 すわ一大事かと警護にあたる総長が庇おうとされたが、女王陛下は制止した。

 光が収まると、エメリーちゃんの眼前には儚げな茶髪の髪色をした飾りげのない古風な衣装を身に纏う存在が顕現していた。

 妙齢の姿をした精霊だ。


「エメリー。漸く、貴女とお話できる慶びに、機会を与えてくれた女王に感謝します」

「もしかして、おばあちゃんのナナリー?」

「はい、そうです」

「ナナリー。貴女のお陰で、妻は無事にエメリーを産んでくれた。貴女を犠牲にした私達一家を許してくれ」

「いいえ。ケイティの息子ナイル。私は望んで売られるのに納得しています。だって、こうしてケイティの孫は健やかに育っています。それが、何よりの私の願いでした」


 ナイル卿の母君には、守護者がいたのは調査済みだったな。

 出産に伴う税を支払う為に、守護者を売るしか手がなかったと知った時には、代官のゆきすぎた税金徴収に憤りを覚えたな。


「エメリー。私は位階を落とした大地の精霊ですが、お友達になってくれますか?」

「うん。お祖母ちゃんのお話をたくさんきかせてね。あんまり、きおくにないの」

「分かりましたわ。お約束致します。エメリー=マーベル。私の真名を貴女に託します。私は貴女が生きとし生ける道を共に歩み、貴女の生涯に最期の時まで連れ添うと約定致します」


 あれ。

 これは……。


「精霊達よ。祝福の詩を贈ろう。新たなる守護者の誓いは交わされた。大精霊の代弁者たるミーア=バーシーが見届けん」

「精霊の加護厚き女王として、新たなる守護者の誕生に立ち会えた事は重畳。精霊達にねがいます。エメリー=マーベルの未来に祝福を」

「筆頭候補者として、承認致します。新たなる同胞の出現に、惜しみ無い称賛を贈ります」


 謁見の間に大精霊達が次々と顕現して、精霊言語の詩が唄われる。

 やってくれた。

 聖母協会に関与されない、守護者誕生である。

 前代未聞の奇跡に、立ち会わされた貴族がどこまで理解しているか甚だ疑問だが。

 最後の最後で、とんでもない事態が発生した。

 理解していく貴族が増えれば、大事は必死だ。

 だけど、教え子が主役になれたのには、私も盛大に慶びの感情に飲まれても罰当たりにらならないだろう。

 暫し、精霊の慶びの詩に、聞き惚れていた。

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