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女王⁉ 聖女⁉ いえ、ただの農業オタクな細工師です。  作者: 堀井 未咲
第二章 貴族の在り方

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074 獣達の慟哭(後)

「おい。いつまで寝てやがる。さっさと、起きろ」


 ぞんざいな言葉に、意識が戻った。

 がんと、身体を揺らされた衝撃で、己が囚われたのを思い出した。

 慌てて半身を起こし、爪を尖らせる。

 他者の気配を悟り、腕を横凪ぎした。


「っと、危ねぇなあ。お前、一応は虜囚なんだから、おとなしくしていやがれよ」

「……獣、王?」

「おうよ。どうだぁ、俺の忠告無視して、虜囚になった気分は?」


 難なく腕を掴まれて、振り払われる。

 虎族出身の我等獣人種の王が、威風堂々と己を見下ろしている。

 有り得ない存在の姿に、暫し放心してしまった。

 何故、己は獣王と対面しているのか、理解が追い付かない。

 もしや、己が意識を失っていた時間は長く、何らかの賠償を支払われて、解放されたのか?

 しかし、首筋に手をやれば、未だに隷属の枷は嵌められたままだ。

 どうしてだ。

 疑問だらけの己に、獣王への返答などできなかった。


「はぁ。そいつは、自決防止用のヤツなんだとよ。女王国から一歩でも出ていけば、勝手に解除されるんだとよ」

「何故だ? 我等は侵略者だ。そして、敗北した。それでは、奴隷として売却されるとしても、枷とはなり得ないだろうが。それとも、我等の身柄に対して、我が祖国は賠償金を支払っているのか?」


 それとも、末端の兵士は救われず、身分の高い部族の縁者だけが自由を得ているのなら、間違いを犯している。

 裁かれるべきは、獣王の承認なくして侵略を開始した我等にあり、救われるべきは愚者に付き合わされた末端の兵士の方だ。

 獣王に進言しようとして、はたと気付いた。

 この身に枷があるというなら、この身は未だに女王国内にある。

 なら、取り替えるのは容易いだろう。


「獣王、教えてくれ。恐らく、攻めいった全ての兵士が囚われたはずだ。罪を犯したのは己にある。償うべきは、己である。一般の兵士の処遇を……」

「あのなぁ。自己犠牲ほど愚かな思考でしかないと、白夜に俺は一刀両断されたんだわ。んで、戦後の賠償をすっとばして、お前と俺以外の獣人はさっさと送り返された」

「……はぁ?」

「そうだろ? 溜め息もでるわ。どうやってだか、知らんが。いきなり、獣王の居城に、俺の意思に反して侵略していった奴等が、降ってわいたように現れやがる。そんでもって、賠償代わりに、俺とお前で女王とアルバレア侯爵と会談しろと言いやがり、有無を言わさずにここ、アルバレア侯爵家の屋敷に連れて来られた俺の不満を考えろっての。まったく、普段着で会談とか有り得んだろうが。身支度ぐらい、させてくれっての」


 済まない。

 獣王の愚痴の内容が、頭に入ってこない。

 賠償無しに、既に同胞が解放されているのは分かった。

 おかしいのは、己の頭か?

 何処に、侵略者を簡単に解放する輩がいるんだ。

 いや、現実的にはここにあるのだが。

 今一、納得し難い。


「本当に、実際目の当たりにした白夜と、ネリエから又聞きした想像の白夜との差に驚かされるわ、やらかされた桁外れな行いにどう対処すればいいんだっての」

「ネリエ?」

「ああ、お前が嫌って近付かない預言者な。あれが、ネリエ。うちの国を守護してくれている精霊だな」


 は?

 何だと?

 獣王は、何を言った?

 あの白い花飾りをつけた女が、ネリエの精霊だと?


「まあ、ネリエの存在は秘匿される事項だからなぁ。代々の獣王と、側近ぐらいにしか明かされない事項な」

「我は知らない」

「ん。お前が知らんのは、他の側近の仕業。ネリエを嫌っているお前が事実を知った時の、驚愕する日がいつかと、賭けにしてやがるからな。言っとくが、率先してやってるのは爺達だからな。俺は、止めとけと言っている。しかし、爺達は居城の住人を巻き込んで、盛大な賭けに発展にしやがって遊んでやがるから、止めようがなかった」


 しれっと、暴露される事実に頭を抱えたくなった。

 獣王すらも一目を置く、生き字引たる長老には誰も逆らえないのは仕方がない。

 だが、賭けの内容がいただけない。

 救国の恩人たる白夜の星に次いで、信仰の対象であるネリエの樹木の精霊に、我は何をしてきたか。

 穴があったら、埋まりたい。

 ああ、恥ずかしいを通り越して、己を呪いたい。


「悔恨しているのは分かるが。良く聞いとけ」

「ああ、まだ秘密はあるのか。この際だ、教えてくれ」


 今なら、懺悔を素直に行える。

 思い込むと、ひたすら愚直に考えを改めない己の欠点を受け入れよう。

 笑い話では済まされない事態に陥らないと、漸く反省しない己が怨めしい。


「ネリエは精霊だ。しかし、万能で不変の存在ではない。だから、荒野の土地であるロンバルディアは、開墾虚しく作物が育ちにくく、万年水不足な土地だ。そんな土地だから、人族は見放してきた。隣の女王国だって似た様な土地柄だった。それが、精霊の恩恵で豊穣の国として名高い国になった。本来なら、女王国と我が国は虐げられた同士として建国し、同盟を結ぶはずだった」


 それは、昔語りで聞いている。

 手を取り合って、列強国と対峙する予定でいたのを、覆したのは女王国に責任がある。

 女王は、我等より列強国と友誼を結ぶことを選び、獣人種だけに流行る病を作り出した。

 その事を知らぬ我等は、労働力を対価に薬を手に入れていた。

 女王国が富み栄える反動で、我等は疲弊していく矛盾に気付かされたのは、白夜の存在であった。

 ネリエの樹木を植え、その果実で病を癒す。

 女王を信ずるに値しない人物であると弾劾して、ロンバルディアが袂を別つ手助けをしてくれ、守護の精霊を遣わしてくれた。

 まさか、その精霊が預言者だとは想定外だったがな。


「白夜は女王を信用するなとは言ったが、女王国を頼れとも託宣を残している。意味不明な内容だったがな。しかし、ロンバルディアが列強国と渡りあえる力をつけるまで、支援してくれたのは女王国だったのも事実だ」

「それは、我等を盾にして列強国の目を(かわ)す為にか?」

「どうだろうな。余りにも昔過ぎて、証言者がいないが。爺達曰く、支援してくれていたのは人族ではなく精霊だったらしい。んで、数世代後に女王が代わると、初代の行いに謝罪すると直々に書状が来て、再び同盟を結ばないか打診があった。だがなぁ、一度裏切られた因縁は、消えやしない。当時の獣王は、腹立ち紛れに国境沿いのアルバレア侯爵家の領地を襲撃した。それが、女王国との諍いの原因となった。でもな、女王は徹底して専守防衛を貫き、精霊の力で反撃はしてこなかった。それが仇となり、俺等は何か不満が生じれば、女王国の責任にして幾度も侵略していった。それでも、代替わりした女王は精霊を経由して、ロンバルディアを見捨てはしないでくれていたんだ。なぁ、分かるか? お前と一緒に獣王に選出されたら、女王国に報復して逆に属国に追いやって、富みを奪い返してやると誓った俺の傲慢を。獣王に選出された日にネリエから事実を知らされるわ、爺達にロンバルディアを滅亡に向かわせるなと説教されるわ、腹心の友のお前に事実を話すなとか言われるわ、混乱の坩堝になるわで、よく獣王なんぞ名乗っていられるかと、大いに悩まされたぞ」


 一気に鬱憤を捲し立てる獣王の、こんにちまでの恨みがましい内情を知り、益々穴に埋まりたくなる。

 それは、獣王も同様で、激情が去ると肩が落ちた。


「さっきも言ったが、ネリエは精霊としてかなり無茶をして、ロンバルディアを守護してくれていた。女王国に白夜が降臨したと精霊仲間から伝えられて、安堵したんだろうな。一気に老いがやって来た」

「老いとは、寿命が来たのか?」

「そうだ。少しでも作物が実らせ易いように力を行使して、碌に補給も出来ずに、生命力に等しい存在する力まで糧にしてくれていた」

「そうしてまで、我等を守護してくれていたのか。各部族の集落のネリエが枯れていっているのは、寿命が早まり維持出来なくなってきたからか」

「ああ。ただ居城の樹木だけは、何としても残して逝こうとしている。だから、俺は俺達に尽くしてくれたネリエの遺言に従い、女王国と休戦し、同盟を結ぶつもりでいる。国に帰ったら、全ての事情を打ち明けてでも、国民を説得する」

「分かった。助力する。それが、償いになるのなら、是非もない」


 茨の道だ。

 長年の凝りである因縁は、容易く消えないだろう。

 年長者の中には、己れ以上に女王国を唾棄する考えの持ち主が多い。

 そういった連中は、過激な思想を若者に託していたりするから厄介だな。

 償いとなればやりがいもあるが、いきなりの舵取り変更に付き合いきれない部族も出てくるだろう。

 下手をしたら、ロンバルディア国は内紛が勃発して割れるであろうな。

 駄目元で、白夜にお出ましを願ってもいいだろうか。

 あの気高き尊い姿があれば、獣王も眼中になく平伏するだろう。

 いや、償いなのだから、他力本願は駄目か。

 また、掌返した己れの言葉に部族の縁者達は混乱を来すだろうが、誠心誠意をもって意識改革をしていかないとな。

 傲り昂った愚か者のレッテルを貼られるのも、辞さない構えだ。


「獣王」

「ああ?」

「ネリエの遺言だと言ったが、彼女は既に逝かれたのか?」

「ああ、居城に白夜が訪れて俺が拉致られる間際に現れて、一滴の涙を流して存在が消失した」


 そうか。

 謝罪する相手に逝かれてしまったか。

 だが、最期に白夜に看取られたのなら、彼女は幸いであったのかと願う。

 国の守護精霊をも失い、ロンバルディアはいっそう荒れるな。

 それでも、ネリエに報いる為にも、己れが諦めてはならない。

 二重の意味合いを持つ償いを、己れは果たさないとならないな。

 弱音を吐くつもりはないが、本当に茨の道だ。


「何だ。今更、ネリエに謝罪か? 誇り高き狼族が、精霊に頭を垂れる姿は似合わないぞ」

「黙れ、同類脳筋。獣王こそ、悩み事は相応しくない。いつもの獣王なら、力で捩じ伏せてきたであろうが」

「ふん。憎まれ口を叩けるなら、女王との会談に白夜がいても萎縮しないでいられるな」

「仲介者は白夜か。まあ、国家間の調停には相応しき人材だな」

「正直、みすみすネリエを酷使して寿命を早まらせた獣王なんぞ、相手にしてくれるのか疑問だがな」

「阿呆。我も獣王とは同じ穴の狢だぞ。謂わば、白夜に退治された獣だ。我の方が印象は悪い」

「なら、同じ阿呆同士で、白夜に土下座でもするか」


 かかっと嗤う獣王に、追従して嗤う。

 土下座で済めば、幾らでもするさ。

 小さな矜持のせいで、多くのモノを喪った我には相応しき謝罪だな。

 済まない、ネリエ。

 済まない、同胞よ。

 牙を折られた獣の慟哭に価値はないだろうが。

 過った道程を正す未来に、幾ばくかの祝福をしてくれないだろうか。

 恨み事は、楽土にて参った折りにでも聞かせてくれていい。

 荒れる未来に生きる同胞に、ほんの少しでも明るい灯をかざせるように。

 切に祈る。

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