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女王⁉ 聖女⁉ いえ、ただの農業オタクな細工師です。  作者: 堀井 未咲
第二章 貴族の在り方

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073 獣達の慟哭(中)

 sideミーア


 時は少し遡る。

 ファティマが取り出したネタ衣装の巫女装束。

 有無を言わさずに着替えさせられて、髪を結われた。

 じゃらじゃらと音が鳴る額冠の飾りが若干煩いのは仕様である。

 白足袋と草履を履いて、薄絹を羽織る。

 すると、顕現するのは精霊魔法を底上げする機能が備わった宝珠。


「あら?」

「げっ? 何故に増えてるかな」


 契約している六柱を象徴する宝珠が十個に増えていた。

 関係すると、光と闇と炎と邪属性。

 あれか、休眠している保護した子達と居候しているグレイスの分か。

 いやいや、ちょいと待て。

 グレイスにはれっきとした、ダレンというマスターが生存しているけど。

 はてな?


「マスター。只今、精霊王様からの伝言がありました。存在を消失しかけた大精霊を救ってくださったお礼と、万が一にもグレイスが暴走した際の歯止めの役割りを担わせるかもしれない先渡しのお礼だそうです」


 ああ、成る程ね。

 魔法適性を持たない私でも、中級までの精霊魔法を行使できる仕様となっていた。

 ただし、グレイス対策の宝珠にはある禁断の魔法がワンフレーズで起動する仕掛けが施されている。

 それだけ、グレイスのマスターに対する思慕の念による、ダレンが悪墜ちした元凶に暴走して復讐に走る余り自我を損なう恐れを憂いているのか。

 大精霊の中で、伊達に魔法の扱いに長けている訳じゃないからなぁ。

 外見と口調に騙されがちであるが、真面目なグレイスはフィディルとファティマ両者を手玉に取る技能を有している。

 敵対したら厄介では済まさない力量もある。

 精霊王も、そんなグレイスがマスター同様に悪墜ちしないのを案じているのだろう。

 私も、こんな禁断の魔法を行使しないことを祈ろう。


「んじゃぁ。出陣しますか」


 窓越しに、ロンバルディアとの戦局が始まろうとしているのが見えた。

 着替えが済んだので、フィディルとレオンを招き入れる。


「マスター」

「ん? 何? フィディル」

「そちらは、窓ですが?」

「うん、分かってる」


 窓から屋外に出ようとして、フィディルに呆れた質問をされた。

 ついでに、隠蔽をかけたのも察知された。

 ちなみに、部屋の位置は砦の三階に当たる。


「風属性のないマスターでは、空を飛べないのでは?」


 フィディルの再度の質問は、至極まっともな意見である。

 ただし、巫女装束がネタ衣装と括られるからくりがあるんだわ。

 知らなかったっけ?


「あんまり、やりたくはない方法だけどね。『我が身は運営()の代弁者。なれば、神秘を表し、威光をあまねく轟かせん』」


 巫女装束がネタ衣装となる言霊を発する。

 私の周囲を浮遊していた宝珠が燐光し、身体が浮き上がる。

 そのまま、窓枠を乗り越えて、空中を滑らかに歩いていく。

 これぞ、まさしく運営の遊び成分ましましな、神秘性を表現した出で立ちである。

 ゲーム内で自力での空中歩行と飛行は風の精霊を介さないとできない芸当であったが、何とこのネタ衣装は神秘性を高めるには、こうした方が良いとの運営の謎の原理で行えてしまう何とかと紙一重な機能がつけられたのである。

 最初は、飛行部分を担うには比礼があった方がとか紛糾したそうだけど。

 作成者のエララが、巫女装束に比礼は却下として実現しなくて、宝珠が燐光したらとに決着がついた。

 どっちもどっちとの意見は黙殺されたがな。

 まあ、ダレンの魔法少女衣装よりはましではある。

 あれ、数段階の変身が可能な、コアなファンを獲得したネタ衣装だった。

 作成者のエララもまた、一昔前のアイドル衣装だったので、痛み分けなのが唯一の幸いだったなぉ。

 まあ、いいや。

 過去は振り返らない主義だ。

 ネタ衣装を着た以上、目立ってなんぼ。

 戦場の度肝を抜いてあげようではないか。

 てくてくと、空中を歩く。

 大精霊の守護者達も、後に続いている。

 こちらは、錬金人形の擬似的肉体を得ようとも、本質は自然界の霊的エネルギーが集い、自我を得た精神生命体。

 苦もなく、空中だろうが水中だろが活動できる優れた存在。

 各々、自由に足場を形成している。

 ふと、眼下で雷が真横に迸る。

 ナイルさんが、聖剣を振るったのだろう。

 奇襲を選択したロンバルディア側だったが、精霊の報告により情報は筒抜けであった。

 充分に対応して迎え撃ち、遺憾なく聖剣を発揮させて、ロンバルディア側を圧倒していた。

 まあ、事前にロンバルディア側の内情がリークされていたし、司令官が取るであろう戦略も解析済み。

 ロンバルディア側は獣人種の部族の集団で、個々の実力と部族間での連携による遊撃が主体の戦略である。

 対して、フォレスト領の騎士達の連携の練度を崩すのは並大抵の事では出来なく、また要となる聖剣の存在が士気を鼓舞している。

 力では劣るも、技能と連携による対処で、充分に渡り合っていた。

 よし。

 支援をしよう。

 聖魔法による味方には能力向上のバフを、敵側には弱体化のデバフをこっそりと戦場に行き渡らせる。

 見る間に、筋力と速度を低下させていくロンバルディア側が劣勢になっていく。

 フォレスト領側の騎士達も、敵側の獣人種を難なく無力化しては捕縛する。

 そう、今回の戦場では、出来るだけ死者は出さないと取り決めていた。


「マスターぁ」

「エスカ、心配せずとも良い。騎士は約束を違えぬ。見よ。捕縛した獣人種に嵌めるは、自害を阻止し、害ある者から命を守る魔法具。決して、隷属の証ではなし」


 ネタ衣装を装備すると口調が変わるのも、仕様の仕業である。

 この傲岸不遜な上から目線な口調が嫌で、ネタ衣装を着たくはない理由となっている。

 だって、いかにも偉そうなふんぞり返る王侯貴族風な口調と態度は、普段の私らしくなくて、自分でも違和感ありまくり。

 ゲーム内の仕様が、こちらの世界でも通じているだなんてさ。

 ああ、黒歴史量産してるわ。

 表情も固定されているから、更に嫌なのだ。

 いかん。

 愚痴っている場合ではない。

 朱袴を握りしめて、不安を訴えるエスカを抱き上げる。

 ユリスとセレナも、エスカの不安が伝染したのか、眉尻が下がっていた。

 エスカは樹木の大精霊。

 ロンバルディア国内には、エスカの分身であるネリエと名称された特殊な樹木を植生した。

 獣人種を救うために苦心して交配させた、癒しの果実を実らせる樹木には、長年獣人種からの感謝の信仰を糧に得て、エスカに次ぐ位階の樹木の精霊が誕生していた。

 いわば、エスカの妹分。

 そのネリエから、獣人種保護の嘆願がエスカに寄せられて、私は領主代行のオレリアさんと交渉した。

 獣人種の能力を一時的に封じる首輪を大量生産して、騎士の皆さんに配布した。

 侵略してくる獣人種に、様々な感情を抱いているであろう騎士さん全員が受け入れてくれた訳はなく。

 最終的に、総大将となったナイルさんが聖剣を誇示して、不殺の誓いを宣言した。

 そして、古参の騎士さん達も同調して、愛用の騎士剣から刃引きした長剣やメイスや大盾に持ち替えて参戦の意思を表示してくれた。

 まあ、中にはナイルさんの初陣を失敗に帰す為に、暗躍する勢力があるのも事実である。

 思い余ってだとか、戦の高揚した気に呑まれてだとか、言い訳を理由に過剰な結果を望む人材には即退場して貰おう。

 不遜な思考の騎士は既に把握している。

 支援魔法を飛ばした序でに、速やかに眠って貰った。

 両者の実力が拮抗して、骨折ぐらいの怪我は見逃しておこう。

 勿論、フォレスト領側の騎士さんが怪我をしたら、即回復です。

 打撲を負った騎士さんが怪我を回復されて驚いていたが、前以て通達したはず。

 一瞬動きを止めてしまい、先輩騎士に叱責されて、不思議そうな表情のままメイスを振るっていた。

 おい、大事な内容は覚えておきなよ。

 闇雲に騎士剣振るうだけが、戦略ではないぞ。

 アンナマリーナさんが嘆いていたのを思い出した。

 聖剣の所有者が見つからず、フォレスト領を守護してきた騎士団を身限り、他領に引き抜かれていく騎士もいれば、鍛練をサボりがちになる若手騎士がいると。

 眼下を見るに、ある一定の年代の騎士さんの活躍はめざましいものがあるも、若手の騎士には獣人種の覇気に呑まれて及び腰になっている姿が見受けられる。

 破綻しないでいるのは、熟練騎士さんと聖剣を奮うナイルさんの勇ましい雄姿が目立っているからだ。

 そして、ロンバルディア側の後詰めの軍勢が、攻めあぐねているのもある。

 弱体化してもなお、獣人種の体力は人種を大きく上回る。

 持久戦に持ちこたえられたら、幾ら支援魔法があっても勝算は低くなる。

 何故に、攻めてこないんだろう。


「マスター。獣人種に動揺が走っている。司令官辺りがまともに指揮をしていない」

「理由は?」

「どうも、聖剣の雷を無効化する魔法具が機能しないのと、予想もしていない惰弱に捕縛されていく同胞を見て、思い描いていた通りにいかなくて混乱しているみたいだ」


 大地の眷属による情報の密告に、レオンが首を傾げている。

 雷の無効化は、核となる精霊石が大地属性な為に、大地の眷属ちゃん達が石の魔力を吸いとり、只の空石となったので起動することが出来なくなった。

 ナイスな判断

 ありがとう、眷属ちゃん達。

 そんで、司令官はなにやらぶつぶつと戦局に対して、想定通りにならない恨み言を呟いているだけ。

 近侍に撤退を示唆されているそうな。

 いやぁ、逃がさないよ。


「エスカ、レオン」

「はぁい」

「うん」


 大規模な精霊魔法を行使するので、二柱の力を借りる。

 浮遊している大地と樹木の宝珠が一層の光を帯びる。


[大地に撒かれし小さな種子よ。魔力を糧に芽吹き、偉大なる姿を表せ。グロウアップ]


 大地の養分をレオンが集約し、エスカが種子の発芽と成長を促す。

 ロンバルディア側の陣営をある場所に導いてくれた騎士さんとナイルさんに感謝です。

 見事に、軍勢の背後を取り囲む様にして、ロンバルディア国の信仰を集めるネリエの樹木を急成長させることができた。

 レオンとエスカに宝珠の補助があっても、ごっそりと魔力を持っていかれて幾分か反動がきた。

 ちょいと、力加減を誤ったかな。

 若木ぐらいに成長させるつもりが、大樹になってしまったが、後悔はなし。

 癒しの果実を実らせる必要もないから、見た目ネリエの樹木そっくりな樹木だけどね。

 背後を取られて慌てふためくロンバルディア側。

 奇声をあげて逃げ出す輩がいるが、大樹に阻まれて悪足掻きをしていた。

 一方、静寂に事の成り行きを見定めている一派もいる。


「マスター。あっちの集団、玉砕覚悟でマーベルさんと相討ちにする気だ」


 レオンの指摘に、怒りが込み上げてきた。

 獣王の制止を振り切って侵略してきたのは、あんた等だ。

 野望が潰えたと知ると、安易に散る覚悟を持つ。

 謂わば、後始末をせずに逃げる訳だ。

 付き合わされた同胞の行く末を案じないで、自分勝手に美学に酔いしれている阿呆ども。

 誰が、許してなるものか。

 隠蔽を解き、戦場に私の存在を知らしめる。


『愚者よ。動くこと能わず』


 言霊が、愚者を絡め取る。

 巫女装束が風に翻り、神秘の威光と、弱者への威圧スキルを発動。

 ロンバルディア側もフォレスト領側も、戦意喪失していく。

 注視される最中、ロンバルディア側に最後通牒を宣告した。


「……白夜の星」


 上ずった声が上がる。

 私は決して、獣人種の救世主でない。

 だから、断罪を実行するのも躊躇わない。

 ロンバルディア側に掛けたデバフを更に重ねがけして、自由を奪う。

 私との付き合いが長いナイルさんが真っ先に冷静になり、指示をだす。

 単身でロンバルディア司令官の元に赴き、拘束の旨を伝える。

 暴れられると困るので、首輪を嵌めた際に睡眠の状態異常魔法を飛ばしておいた。

 崩れ落ちる司令官等を追い付いてきた騎士が、捕縛するのを確認したナイルさんが私に向かい一礼をする。

 こうして、只の一人も戦死者をだすことなく、ロンバルディアの侵略は終局した。



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