007 腹黒でした(1/16改稿しました)
外見はたおやかなお淑やかに見える領主が、会うなりやってくれる。
ジルコニアも、うんうん頷いている。
誰がなるかいな。
女王だなんで、厄介な職業に望んで就きたくはない。
「却下。要らない」
「即答ですわね」
「何故でございますか。ミーア様はユーリ様の遺産を受け継ぐお方。女王位も、遺産に入っております」
「なら、遺産も要らない」
て、言うかね。
ジルコニアだったら、私がどんな性格しているか知っているでしょうに。
嫌だよ。
面倒くさいのは。
麗人の顔が歪む。
「あら、ジルコニア。貴女、ミーア様の前だとお子様のようね」
「だって、ユーリ様の遺言です。ミーア様が遺産を受け継ぐ権利があるのです。ユーリ様のお願いは、叶えて差し上げたいのです」
はあ。
ジルコニアの泣きが入っていく。
この子は、先輩大好きっ子だからなぁ。
先輩のお願いなら、何でも叶えてみせる子だった。
男装も、先輩の仕業だったよ。
「あのね。ジルコニア。私は、この国に何の愛着もないの。当然でしょ。訪れたばかりなんだから」
「ですが、ミーア様は最初に捕まえておかないと、よい土壌を求めて他国に行ってしまいます」
それは、有り得るかも。
農場を経営していく気満々だからね。
より良い土を求める性なんだよ。
適した土地が有れば、他国に行くな。
うん。
「今、他国に行く。と、思われましたね」
「あはは」
鋭いな、ジルコニア。
そのとおりだ。
「駄目ですからね。ミーア様には、この国にいてもらわないとならないのです」
「やけに、断言するけど。何があるのさ」
「それは、勿論守護者の事情です。聖母教会と女王が対立し初めているのです。それに伴い、初代女王が広めた錬金術が教会に邪教扱いにされ、教会が錬金術を神聖魔法であると嘯いているのです」
「ジルコニア。そこ迄です。詳しい事情は、人払いをしなくてはなりません」
シェライラが騎士に目配せした。
何時の間にか、立ち上っていた騎士が動く。
教会で会ったおじ様と、同年代の騎士だけが残り、後の騎士は部屋を出ていく。
二人のおじ様は扉前に陣取り、警護の位置に立つ。
聞いたら、他国に行けないような気がする。
けども、聞かない訳にはいかない。
先輩が残した二つの勢力が対立している。
果たして、単なる権力闘争で終わるのか。
見過ごしてはならない。
「フィディル。人払いと防音を」
「はい。マスター」
「ジルコニアは、新しいお茶を淹れて。後、お菓子は下げて」
「その方が、良さそうですわね。ミーア様。不作法者の処罰はお任せくださいませ」
「うん。任せた」
女王候補だけあり、錬金術には明るいと見ていいな。
お茶とお菓子の異物に、気がついていた。
ジルコニアも鑑定したのか、顔をしかめている。
沈黙して、お茶セットを確認している。
お湯にも仕掛けられていたのか、一礼してから消えた。
大精霊クラスの守護者なら、自力で転移できる。
これが、高位精霊だと主の側にしか転移出来ない。
中位と下位も転移できる距離がある。
シスターの守護者は高位精霊で、シェライラのジルコニアは大精霊。
しかも、初代女王の守護者という箔つき。
シスターが僻むのも仕方がない。
ジルコニアはすぐに戻り、優美な手付きでお茶を淹れてくれた。
念の為に鑑定した。
変な薬は無し。
漸く、お茶を楽しめる。
一口含んだお茶は、美味しかった。
「んで、そろそろ話して」
「はい。ミーア様。現在の女王は、初代から数えて十五代目になります。一応は初代の系譜に連なりますが、出自は平民でした」
シェライラは語る。
十五代も経てば、平民と血が混じってもおかしくはない。
だけど、権力を持った阿呆は貴族こそが、女王に相応しいと言って憚らない。
女王に求められるのは、錬金術で精霊が気に入る器を作製すること。
現女王は、その才に恵まれていた。
だから、跡取りのいない貴族家の養子になり、女王となった。
けれども、貴族は挙って平民に傅くのを良しとしなかった。
現女王の守護者が中位精霊だったのも、女王離れを後押しした。
早々と次代の選定に入り、あのシスターが次代の女王迄あと一歩のところで、シェライラがジルコニアと契約した。
シェライラは、れっきとした貴族階級の令嬢。
このまま数年の領地経営を学んだら、女王補佐官になり、初代錬金女王の課題をクリアすると、女王位を継げる。
順当にいけば、シェライラの女王即位は間違いがない。
のだけど、ここでひとつの問題が提議された。
現女王は、平民出身。
評議会は、シェライラのすみやかな女王即位を望んでいる。
貴族階級はシェライラを支持していたが、何を思ったか教会がくだんのシスターを担ぎ出してきた。
一時は候補の一位の座にいた。
平民が女王になれるなら、教会が後押しする候補が即位してもいいのではないか。
評議会が荒れに荒れた。
ついでに、教会は他国の後楯を得て、初代錬金女王の遺産の一部を盗み出してしまった。
教会の言い分は、聖遺物を取り返しただけ。
あろうことか、盗まれたのは錬金人形の教本だった。
何とか、他国に流出されるのは防いだけど、教会は教本を盾に脅迫してきた。
教会の言いなりになる傀儡の女王を選出することを。
「つまり、平民出身の女王を選出した評議会に、ケチをつけた訳だ」
「ケチと言いますか、教会は神聖視している血統は平民に流れてはいない。の、一点張りですわ。そして、試練も平民が受けるのは許しがたいことらしいですわ」
「何それ。聖母教会の理念に反する行いじゃんか。先輩は性格は難有りだったけど、特権階級を疎んじていたよ。おまけに、男尊女卑も嫌ってた」
女性プレイヤーばかりを狙ってPKしていた男性プレイヤーは、親が資産家でたんまりと課金して、最強なアバターを造りあげて、悦に入っていた。
嗜虐趣味も併せ持っていて、無抵抗な女性プレイヤーのアバターを切り刻む行為に走っていた。
お金で運営側のエンジニアを抱き込んで、違法ツールを開発させていた。
ヤツがPK行為をしている間は、ログアウトも出来ない仕様にまでさせていた。
何人もの女性プレイヤーのアバターが犠牲になり、リアルに支障をきたす程のトラウマを味わわせた。
先輩はそんな女性プレイヤーを救う為に、運営イベント権利を申請した。
クランメンバーも腸が煮えくり返り、鬼気迫る勢いで守護者システムを産み出した。
運営も馬鹿じゃない。
PK狩りに邁進するクランメンバーに協力して、ヤツを追い詰めた。
女性プレイヤーがされたことを、繰り返しやり返してやった。
ヤツは、リアルで私達を特定して裁判沙汰にしようとして、運営側の証拠記録に阻まれた。
ヤツの親も、息子の異常を初めて知り、精神鑑定にかけた。
結果は、真っ黒。
今は、何処かに幽閉されているそうな。
加担した運営側のエンジニアは、諸々の余罪があり塀の中。
ざまあみろ。
達成後に盛大な宴会を開いたものだ。
懐かしいなぁ。
いかん、話がずれた。
「この状況をクランメンバーが知ったら、守護者を暴れさす案件だね」
「是非、ミーア様には代わりになさって欲しいですわ」
「うわお。過激だね」
「先程、ミーア様が仰いました。聖母教会の理念に反すると。教会も、貴族も、利権に囚われた愚か者ですわ。ご存知ないことを承知でお話致しますが、貴族の中にはお金で守護者を買う者もおります」
「それは、当初から懸念していた。人の欲は果てしないからね」
「はい。愚かとしか言えません」
「んー。なら、本音で聞くけど。守護者システム、無くしてもいいかな」
シェライラの瞳を見据えて、聞いてみた。
お金で売買されている現状を打破するには、教会の体質を当初の理念に戻すより、簡単な方法はなくせばいい。
それだけだ。
でも、守護者システムが世界に貢献しているなら、無くしてすむ話ではない。
聖母教会の理念思想は、なるべくそのままにしたいと思う。
意思を受け継ぐなんて、御大層な考えではないけど、システムを継続させるのも、無くすのも、築き上げた者が結論付けるしかないのかなぁ。
「わたくしは、ユーリ様の恩恵にすがる貴族の出自。無くされるのは、困ります」
シェライラは、素直に心情を語る。
女王候補の矜持か、嘘は見受けられない。
「我が国は女王制である為に、他国よりは女性の立場、身分は男性に劣りはしません。ですが、他国には女性を奴隷以下の扱いをする国もございます。そうした女性の拠になっていますのが、守護者です」
真摯な眼差しは、毅然と私に向けられている。
シェライラもユーリ先輩の血筋に連なるだけあり、面差しは似ている。
私達、クランメンバーに守護者の有用性を訴えた、先輩を見ている錯覚に陥りそうになる。
「かつての聖母教会は、女性の味方。身分の貴賎無く女性を助けてきました。しかしながら、今は腐敗した愚かな者が、牛耳る場所でしかありません」
「シェライラが女王になったら、権力で潰せばいいんじゃない?」
「これまでの女王が、幾度となく試さなかったと思われますか?」
意地悪な質問に、思った通りな答えが返ってきた。
シェライラには悪いけど、まだ彼女を全幅に信頼はしていない。
会っていきなりに、女王候補を譲るとか言われても、何らかの裏を読んでしまう。
案の定、聖母教会が先輩の意思に反して、やりたい放題やらかしている。
自分では何とか出来ないから、出来るであろう者にしてもらおう。
他人任せにも、程がある。
ねぇ、シェライラ。
貴女も、貴族なだけあるよ。
その腹の内で、初代女王の愛弟子を顎で使おうとしているのだから。
そちらも、私を探っているのでしょう。
いいよ。
遊んであげる。
楽しさに口角が上がった。
「シェライ……」
「駄目です。駄目です。ミーア様、シェライラで遊ばないでください」
「ジルコニア?」
「えぇー。ここで、出てくる。もう少し、待とうよ」
惜しい。
失敗した。
私をよく知る、ジルコニアがいたんだ。
背後でフィディルが笑った。
「えぇー。じゃ、ありません。シェライラはいい子ですからね。ミーア様を利用して、とか考えてもいませんからね。貴族の娘にしては、腹芸とか出来ない子ですからね」
ジルコニアが必死に、主を弁護する。
置きざりにされているシェライラは、キョトンとして私とジルコニアへ、視線が行ったり来たり。
あーあ。
気分が台無しだ。
折角、盛り上げてみたのにさぁ。
「あのう? わたくし、何が何だかわからないのですが」
ごめんね。
シェライラ。
ちょっとした、悲劇の主人公気取りになってみました。
言葉遊びで、シェライラを苛めてみようと思いました。
なんてね。
言えないけどね。
ジルコニアが、お怒りなので謝っておくかな。
フィディルもさあ。
笑ってないで、加勢してよね。
ブックマークありがとうございます。