067 過去の種が原因でした
お姉様の暴露に衝撃を受けたので、街をぶらつく気もなくなり、あっさりと帰ってきた。
まあ、少しだけお買い物はしたけどね。
守護者を六柱も連れて歩けば、注目が集まるのが鬱陶しかったので、お子様ズとファティマは早々に姿を隠して付いてきていた。
農園にてお留守番組へのお土産を買い込んでいたら、後をつけてくる一団がいたのに気付いて、適当なお店の扉をフィディルに繋いで貰い、我が家へと帰宅した。
ちゃんと、一団が押し入っても対応に無理のない場所を選んだので、暴れられても大丈夫だろう。
まあ、街の守備隊がまともに機能しているかは、知らないけどさ。
荒事専門家達ご用達の酒場だから、用心棒ぐらいはいるだろうし、お店が開店できなくなったら後で補填はするつもりでいる。
レオンの眷属情報によれば、案の定私の行く方を探り、一触即発になりかけたが、守備隊がかけつけて事なきを得たようだ。
冒険者ギルドには、ジルコニアもいたからすぐに差配して捕縛されたらしい。
風の下位精霊が報告してくれた。
どうやら、本部冒険者ギルドの諜報員らしくて、領主のシェライラからも街の滞在を拒まれていたので、領主館に移送されて尋問するそうだ。
「本部冒険者ギルドの統治者である冒険王を名乗る馬鹿が、マスターを招聘して隷属させようと画策しているみたいだな」
「馬鹿は、やっつけるぞー」
「水脈を移動させてやるー」
「……えいえいおー」
大地の下位精霊からも報告があがりレオンが何気なく言うと、お子様ズが右手を上げる。
家に帰宅したので、姿隠しは止めている。
玄関口で騒ぐ場合ではなかろう。
出迎えてくれたアンジーに、アンナマリーナさんと騎士ワイズさんを居間に呼び出して貰う。
ナイルさん一家は、畑にて午後のお仕事をしているようで、クリスに呼びに行って貰った。
ああ、私も畑仕事がしたいものである。
全然スローライフしてないじゃんか。
ちょっぴり、寂しい。
「お帰り、細工師。ギルドはどうだった?」
「何か、自分にも関係があるお話でしょうか」
居間に行くと、間をおかずにアンナマリーナさんと騎士ワイズさんがやって来た。
思い思いの場所に座る。
といっても、私の傍らにはお子様ズが陣取るので横長のソファは、私達が占領している。
ブラウニーが支配する家の中なので、ファティマとフィディルとレオンも各自好みの椅子を持ってきて、近い場所に座っていた。
気の利いたアンジーが、手早くお茶を配る。
書状を持参したギルド職員が不遜な態度を隠してはなかったので、二人には周囲の警戒をお願いしていたから、アンナマリーナさん達は武装していた。
ナイルさんは自衛が出来るけど、ロイド君とエメリーちゃんが人質になったら危ないでは済まされない。
まだ、公表されてはいないだけで、ナイルさん一家はアルバレア侯爵家の後継者で貴族になるのは確実。
アルバレア侯爵家お抱えの騎士ワイズさんと領主代行の娘であるアンナマリーナさんが、他領地で武力を振り翳すのは越権行為となるが、次期侯爵を守護する名目があるなら咎めは無しとなる様に貴族院並びに、宰相閣下のお墨付きは頂いている。
ただし、私が関わる場合には、二人の助力は認められてはいない。
だって、純粋な戦力で言えば、うちの子達だけで過剰戦力だからね。
家に限定されるが、ブラウニーのアンジーとクリスも戦える。
へまをやらかさない限りは、私の身は安泰である。
そして、アンナマリーナさんと騎士ワイズさんが、守護しないとならないのはナイルさん一家。
火の粉が一家を脅かそうとしているか、アンナマリーナさん達は心配しているのだろう。
「ギルドに関連する話は、ある精霊の大暴走で落ち着いたから安心して。問題なのは、アンナマリーナさん達の出身地であるフォレスト領にありそうなんだよね」
「精霊の暴走が気になるけど、精霊関連は細工師がけりをつけたのなら異存は挟めないと思っている。けど、どうしてフォレスト領に話が飛び火したのかは気になるわね」
「僭越ながら、バーシー嬢が呼び出された案件とフォレスト領がどう繋がるのかが、理解出来ていません」
「うん。ナイルさんが戻ってくるまで、ちょっと待ってて。場合によっては、ナイルさんの初陣になるかもだから」
私の説明に、アンナマリーナさんと騎士ワイズさんが身動ぎした。
それは、暗に今は静観している南の国ロンバルディアが、攻めてくると言っているも同然だからね。
アルバレア侯爵家の家宝である聖剣は、渋々ナイルさんが所持している。
自己主張の派手な聖剣は、普段はアルバレア家が所有していたアイテムボックスが付与されている指輪に保管されている。
私が細工を施して、ナイルさん個人の魔力波形を登録して所有者登録してあるので、ナイルさんにしかアイテムボックスを開けないようにはしてある。
そうしないと、一番属性値が高いエメリーちゃんを使い手に、選んでしまう恐れがあったからね。
さすがに、年齢一桁の女の子に先陣を切らせる訳にはいかない。
ロイド君のこれからの鍛練次第では、覆りそうだから頑張って貰うしかないけど。
「ロンバルディアが攻めてくる、と?」
「ギルドにロンバルディア王族に連なる人材がいてね。面白くはない話を聞いたんだ」
レードさんは人型ベースの獣人だから、直系ではなさそうだけど、かなり上位の王族が身内にいそうである。
私が興味を持てば、レオン辺りが詳しく調べてきそうではあるので、興味ない素振りをしている。
でも、うちの子達と再会してから、レードさんを警戒していたのを記憶している。
禁則事項だとか言っていたから、突っ込まないでいたが。
私のいない時に、私の身代わり立てて暗躍していたのが関係しているのかな?
「アンナマリーナさんはギルドと関わっていたから、獣人種が崇める白夜の星とか知っていたりする?」
「フォレスト領にも少なくはない獣人種が移住してきているから、何となくは知っているわね。昔に、獣人種だけに流行った病いを癒す奇跡を起こして、獣人種の国を興す手助けした精霊魔法師であるといったぐらいだけど」
「実力主義の国王以上に慕われているとかで、名を騙る偽物には容赦なく断罪していた場に立ち会った事があります。獣人種にとっては、神の如く崇められていますね」
「その白夜の星って、私の事らしいんだよね」
「「はあ⁉」」
そりゃ、驚くわ。
私も未だに、納得できてはいない。
何せ、私が全く関知しない過去での行いだし。
本人不在で広まった二つ名だし。
今一つ、しっくりこないんだよ。
「どうも、うちの子達が私の不在時に、私の身代わり立てて活動していた結果らしいんだ」
「むぅ。だって、酷いんだよ」
「風のマスターは、獣人さんを騙そうとしてたんだよ」
「……セレナ達のマスターなら、獣人さん助ける。だから、頑張った」
エスカはぷっくらほっぺになり、ユリスは眉根を寄せて、セレナは堂々と胸を張る。
三人三様の仕草に、怒っている訳ではないから、頭を撫でておく。
「付け加えると、風以外の大精霊が参加しました」
「当時は、光と闇も自由行動が出来ていましたけど。そのことがきっかけで、あの女性は大精霊を束縛しようとしてしまいました」
「一番被害を被ったのは光と闇だな。聖母教会を設立するからと、守護者システムに組み込まれた。炎も言質を取られて、利用されてしまった」
フィディルとファティマとレオンも、言葉を重ねる。
ダレンを除けば、自分一人で大精霊を従えられると勘違いしていたんだろうか。
ジルコニアはユーリ先輩主義であるから、片時も側から離れようとはしないでいただろう。
そうなると、手足となるはずのヴィオレッタとヴァイオレットだけど。
契約は出来ても、ジルコニアみたいには唯唯諾諾と命令を受託はしない態度だったからなぁ。
何故に、契約出来たのか不思議だった。
命令拒否が多々あり、持て余していたし。
クランメンバーによれば、私に対抗する為だけの見栄だとの見解だった。
そのレッタとレットは、自分のマスターより他のメンバーの頼みを聞いているばかりでもいたしね。
何らかの、思惑があったのだろう。
「風のマスターとは、初代の女王の事かしら」
「そうだよ。わらび餅さんなら知っているでしょうね。私が所属していたクランのサブクランマスターで、守護者システムを運営に提案して採用されて、名前が売れた人」
「ユーリ=イシュトバーン。偉大な業績を残した初代の女王の名は、歴史上忘れることはないけど。ある歴史研究家によると、錬金術の普及には尽力したものの、政治家としては暗愚だったとの一説もあるのよね」
「そうですね。女王陛下を支えた宰相閣下が陰日向に尽力した功績が、間違って記載されているのではないかと、一時期騒がれていましたね」
ふーん。
ユーリ先輩の実情を把握している私に言わせると、その通りなんじゃないかな。
あの人は、自分を崇拝する人材を見つけるのが得意な人だからなぁ。
面倒な政治は、適任者に任せていたのではないかと推測できてしまう。
でも、その優秀な人材さんもただでは転ばない人みたいだ。
未来の歴史研究家に、そう思わさせる足跡を見つかりやすいように埋もれさせていたのだろう。
あのユーリ先輩を手玉に取れて、上手く泳がせていた節がある。
まあ、ユーリ先輩らしく下策な法律も生き長らえているところを見るに、単純にはいかなかったみたいだけど。
部下の功績を奪うだなんて、日常茶飯事だったりして。
ジルコニアには聞けないから、エルシフォーネやアリス辺りに探りをいれてみるかな。
「風のマスターは、嫌らしいんだよ」
「何処かの国と取引して、獣人さんだけに流行る病気の元を作って、ばらまいたの」
「……だから、獣人さん怒っているの」
「それって……」
お子様ズの発言に、アンナマリーナさんが驚愕する。
獣人種の国ロンバルディアから侵攻を受けている理由の原因が、初代の女王に起因する。
精霊は嘘がつけない。
だから、それは厳然たる事実となる。
因果応報。
長年に亘るロンバルディアとの諍いは、初代が蒔いた種が芽吹いた結果だった。
だから、甘んじて受けいれるしかない。
そんな道理を、フォレスト領地の民には公表できはしない。
これまで、どれ程の被害が生み出されてきたか。
どれ程の、怨嗟の声を聞いてきたか。
私には計り知れない。
ただ、それを止める手立てが、私にはある。
ならば、使わない手はない。
白夜の星の本気を、獣人種ならびに、近隣諸国に披露してみようではないか。
序でに、私を利用する気満々な輩に、分からせてあげよう。
単なる小娘と侮るな、とね。




