065 喧嘩を買いました
ジルコニアに聞いていた話と、ギルド長さんとの話の内容が乖離しているのは何故だかなぁ。
不思議に思っていると、レードさんから注釈が入った。
「獣人種全体の恩人話は、代々口伝で語られているが、白夜の星の詳しい素性は秘匿している。というのも、子孫であると騙り、ロンバルディア国に不利となる難題を突き付けて、属国に下るよう強要してくる他国がある。だから、ロンバルディア国は見下されない為に、武力をひけらかしているんだ」
成る程。
ロンバルディア国の内情は、理解した。
単なる実力主義による侵略ではないんだ。
威嚇行為で、国を守ろうとしていた訳か。
攻められる前に、攻める。
虐げられていた同朋を保護する為に、武力行使できる種族が匿い、一丸となって抵抗してきた証しなんだね。
うちの子達が、救いの手を差し伸べたのも、分かるような気がする。
「表向きには、種族間の諍を収めた話を広め、仲裁者であるとだけに留めて、白夜への関心を無くしていきたかったのだが。獣人族も一枚岩ではなくなりつつある。白夜の情報を売る同朋もいるのも、確かだ。先々代と先代の獣王の代に、やはり白夜の姿を偽り、ロンバルディア国を牛耳ろうとした勢力がいた。まあ、すぐに看破されて処分されたがな」
恩人の名を騙った詐欺師の末路は、凄惨の一言に尽きる。
楽な死を与えず、苦しみ抜いて許しを乞うても聞き入れず、最期の瞬間まで苦痛を緩和させない処刑をしたそうだ。
そうした処分をすることで、白夜の星を神聖視すると共に、騙りを行えばこうなると周辺国に流布していた。
けれども、ロンバルディア国が力を示せば示す度に、脅威と感じる国もあれば、亜人は奴隷種であると決めつけ労働力確保の戦争の種にもなる。
「実は、ロンバルディア国にも精霊はいる。王都の禁域に残された樹木に宿る精霊だ。その精霊が、白夜の星顕現を予知したから、顕現するであろう女王国に俺のような獣人族でも、より人に近く、人の中でも受けいれ易いタイプの獣人族が、派遣されている。まあ、苦難を解決できる力自慢の獣人族ばかりなので、大半が冒険者ギルドに属しているのだがな」
「女王国の王都の冒険者ギルドに天翅族がいたのもあってだな、ここ十数年の間に我が女王国の冒険者ギルドに所属する獣人族が増えて、ロンバルディア国と女王国が同盟を結んだと厄介な火種が産まれたりしたものだ」
「ロンバルディア国的には、女王国を巻き添えにしてはならないと国境沿いでの紛争を絶やさないようには配慮はした」
「あー。その紛争相手と関係者になったから、事情は聞いてる。けど、最近はおとなしくなってるそうだね」
国境沿いの領地のフォレスト領では、ロンバルディア国は鉱山を狙っていると総じて評していたね。
まあ、あながち間違いではなく、一時は占拠しては奪還されるを繰り返していたみたいだけどさ。
占拠している間に、目的とされている鉱山資源はちゃっかりと奪取されていたりする。
互いに、それなりの犠牲者を産み出しながら、片や虎視眈々と属国狙いの列強国に対抗する武力を示すパフォーマンスして、片や侵略されまいと獅子奮迅の抵抗を見せて付き合わざるをえなく巻き添えにされている。
何だかなぁ。
アンナマリーナさんに、真実を話せないではないか。
まさか、武力を知らしめる為に相手に選ばれただなんて、これまで侵略の危機に度々陥ってきたフォレスト領の領民に簡単に教える訳にはいかないだろう。
最近は、嵐の前の静けさと思わされているフォレスト領の緊張感は、計り知れない。
「ああ、禁域の精霊から白夜の機嫌を損ねる訳にはならぬと、獣王に紛争を止めるよう指示が出された。しかし、ロンバルディア国内では、女王国もまた獣人族を隷属しようと画策した相手でもあるのは、周知の事実。長年養ってきた価値観は、消え失せはしない」
受けた恩を子々孫々にまで渡り口伝してきたからか、種族を絶やそうとした怨みもまた繋いできているのか。
そりゃあ、獣王の言葉だけでは収まらないだろうな。
そうなると、打てる手はひとつしかなくなる。
「レードさんは白夜を捜索する人員に選ばれたぐらいなんだから、獣王にじかに拝謁したり書状を送ったりできるの?」
「まあ、こんな外見だが、獣王の一族に連なる。検閲されずに書状を送付はできるし、魔道具越しに会話する機会を得ることもできる」
「それ、立派な間諜要員と呼ばれてもおかしくはないよね」
「ああ、だから女王国の宰相には既に警告されている。姿なき賢者が監視しているのを忘れるな。一冒険者であれば見逃すが、女王国内で間諜の如く振る舞いを行えば粛清対象にすると、な」
ありゃ、対策はされているんだ。
それで、粛清されていないところを見ると、レードさんは全うな冒険者として活動していて、ロンバルディア国に有利な情報を漏らしたりはしていないんだね。
「先日、風の属性の守護者がバーシー嬢を白夜と呼んだ。その日のうちに獣王に報告すると、翌日にはロンバルディア国の精霊が真実であると証明した。その情報で粛清されるかと思えば、放置されている。これは、見逃されているのだろうか」
レードさんの獣耳がへにゃりと曲がる。
白夜の情報は、ロンバルディア国内では最大限に重要な話題であろうが、女王国では些細な扱いなんだろうね。
というか、うちの子達が歯牙にもかけていないから、大それた情報ではなく、精霊も宰相閣下に報告してないんじゃないかな。
もしくは、獣人族の探し人が私であるとは、行き着いていないとみた。
ジルコニア辺りが騒ぎそうな案件だけど、農園ライフをまったりしているから、他国に出奔したりしないとふんでいたり。
「多分だけど、獣人族が人を探しているだけで、拐かしたりしない限りは静観してるんじゃない? 無理矢理行動を制限したり、過度な圧力かけて誘拐紛いな手法に出てないし、犯罪を犯していると断定されてないから、微妙な判定だと思うよ」
「まさか、恩人を迎える立場のロンバルディア国が、白夜をどうこうする権利はない。獣王からも、できるなら対話で訪問の約束をつけられたら良いなぐらいしか、会話していない」
「ふーん。それじゃあ、獣王さんに報告しといて。今度は何時位に侵略するのか、んで規模はどれくらいになるかをね」
「白夜?」
「恐らく、命令されても血気盛んな若者は止まらないでしょう? それに、私が白夜として招かれても騙されてきた獣人族としては、簡単に信用しないでしょ? だから、ちょっと一捻りしてあげるよ」
幾ら、精霊の証明があろうと、そうですかと従う筈はないでしょ?
どうせ、いちゃもんつけて反発する勢力が出てくるのは確実。
酷いと、命を狙ってきそうだしね。
ならば、白夜としてお相手してあげようではないか。
大丈夫。
両方の犠牲者は出さないようにするから。
頭内で、あれこれと策を練っていく。
伊達に、似非細工師とは呼ばれていない。
獣人族が太刀打ちできない、罠細工を披露してみせようではないか。
不敵に笑って見せると、ギルド長さんとレードさんに引かれた。
「バーシー嬢。精霊は戦争の類いを嫌う。助力は期待出来ないだろう。それでも、君は精霊頼りにして、高みから見物かね」
見かねて、ギルド長さんが口を挟んだ。
ギルド長さんは、私が守護者を利用して紛争を止める手段にすると推測したのだろう。
精霊は、負の穢れを嫌うからね。
自我を保てなくなり、邪悪な精霊へと変質するのを理解しているらしい。
ほんでもって、私が守護者を矢面に立たせると揶揄している。
誰がするかっての。
気分が下降していく。
そう言えば、出し抜けに威圧してきたっけ。
おふざけにして不問にしたけど、やり返しても罰は当たらないよね。
「ここで、手の内は明かしたりはしないよ。それに、当初の主旨から逸脱してきてるよ。ギルド長さんは、私に詫びたいの? それとも、新たな喧嘩を売ってるの? それにしたら、初っ端なから威圧してきたりしてるしね。ねぇ、冒険者ギルドも聖母教会や本部冒険者ギルドみたいに、なりたいって言うなら吝かじゃないよ。
辛うじて稼働している冒険者ギルドのシステムを、強制的に停止させてもいいんだけど」
「バーシー嬢。それは、どういう意味だ」
「ギルド長さんも、大精霊の裁定を聞いたはずだよね。ギルドのシステムには、精霊の協力が必要不可欠。再び、活用したければ、大精霊が指定した精霊の聖域に辿り着き、認可を授けられないとならない。精霊の聖域だから、生半可な場所にはない。さて、どれだけの犠牲を払って辿り着けるかなぁ」
にたりと嗤う。
それは、暗に私がライザスどころか、全ての機能している冒険者ギルドを潰して見せると示唆している。
「マスターを侮辱した責任を取らせるなら、大地は否は無し」
「時空も、同意します。まあ、風はどうするか知りませんが、風のみでは冒険者ギルドは機能不全になるでしょう」
「大丈夫ですぅ。ジルちゃんもぅ、ミーア様を侮辱した方をぅ、許しませんからぁ。冒険者ギルドはぁ、お仕舞いですぅ。ではぁ、ジルちゃんにぃ、報告してきまぁす」
グレイスの気配が応接室から消える。
有言実行。
ジルコニアの元に、ありのままを伝えにいったのだろう。
お子様ズも剣呑な気配をまとわりつかせて、暴言を吐いたギルド長さんを睨んでいる。
「ギルド長。今すぐに、謝罪を。白夜の守護者は、大精霊クラスの位階にある。守護者の宣言次第では、本当にギルドは潰される」
「レード。しかし、バーシー嬢は精霊を戦争へと、駆り出す。精霊の恩恵を受ける女王国において、精霊は良き隣人だ。到底、受け入れることは出来ない」
「だからと言って、守護者がいる場で、マスターを侮辱する言葉はいただけないです。まあ、ギルド長がミーア様の実力を与り知らないので、吐いた言葉だとは思いますが」
「領主様の守護者殿?」
ギルド長さんとの、会話に割って入ってきたのはジルコニアである。
グレイスが消えて間もなくの事だけど、緊急を要する事柄だけにすぐに転移してきたとみる。
「時空、大地。申し訳ありませんが、お怒りは鎮めて貰えませんか? ギルド長の言葉は取り消せませんが、今ギルドを潰されてしまうと、シェライラの治世の汚点になってしまいます」
そっか、シェライラが治める領地の失態は、領主本人の失態に数えられるのか。
それは、困ったね。
シェライラには非はないしなぁ。
「分かった。シェライラを巻き添えにするには忍びないから、潰すのは止めようか。でもね、こっちも面子があるよ」
「こちらも、分かっています。ギルド長には、既に精霊からの制裁が降っています。彼がギルド長の地位にいる限りは、精霊は助力はしないですから、自ずと退任していただきます。それで、手打ちとしてくださいませ」
「な、なにを……」
「黙りなさい、精霊の嫌われ人。貴方は精霊信仰に厚い方でしたが、精霊の本質を全く理解してはいない。精霊を自分の物差しでしか測れていない。それでは、精霊をモノ扱いした本部冒険者ギルドと同じです。ですが、冒険者ギルドは女王国にはまだ有用な組織です。無くす訳にはいきません。貴方の辞職で、組織が延命できるのですから、それで手打ちとします」
ジルコニアの無情な説明がなされていくのを背にして、応接室を出ていく。
扉を開けるなり、階下の騒ぎが聞こえてくる。
どうやら、システムの機能が停止したようである。
精霊間の情報網は早いね。
お仕事をさぼった精霊が、私を見つけるなり集ってくる。
下位の精霊達は、手の平に乗るぐらいの大きさであるが、どの子達もぷんすかお怒りモードしていた。
味方してくれて、ありがとうね。
常備していた魔力入りの金平糖を取り出して、配っておく。
精霊視出来ている受け付け嬢が、困惑な眼差しで見ているのを気付いたが、無視した。
さて、どうなることやら。




