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女王⁉ 聖女⁉ いえ、ただの農業オタクな細工師です。  作者: 堀井 未咲
第二章 貴族の在り方

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063 数百年越しの悪意でした

 私に喧嘩を売る活きのいい優男がいたので。

 いっちょ、派手に登場してあげようかと、フィディルに空間認識阻害を解除して貰う為に手をあげかけたら。


「あっ?」

「? ふべっ?」


 優男が背後から強襲されて壁に吹き飛ばされましたとさ。

 そして、第二撃目が振るわれる。

 漆黒の大鎌デスサイズが、首を狙っている。

 優男を警戒していたギルド長さんとレードさんも、何が何だか分からないであろうな。

 フリフリの魔法少女姿のツインテール少女が、自身の身長より大きな武器を振り回して優男をどついている。

 もろに、首を落としに掛かるのは、邪の大精霊のグレイスである。

 フィディルが支配している空間に割り込んで飛び込んでこれる大精霊はファティマとグレイスくらいしかいない。

 万年明るい能天気を演じるグレイスが、怒髪天な勢いでデスサイズを奮っている。

 ギルド長さんとレードさんは、呆けた表情で見ているしかない。


「ちょっー、ま、待って。ぐ、グレイス様。何で、真面目に、お怒りですかぁ?」

「喧しいですぅ。キャラ被りとかぁ、許せませんしぃ。第一にぃ、ミーア様に、何しやがりますかぁ」


 かなり広めな応接室であるが、デスサイズが奮われるには手狭である。

 逃げる優男を狙うデスサイズが、私達や壁や天井に引っ掛からないように、フィディルが空間を広げなければ被害が甚大だ。


「白夜? あの彼女は味方なのか?」

「オリバーを知っている様だが、何が何だか儂には分からなくなってきておる」


 グレイスが暴れているので、スキル発動は止めた。

 フィディルも私の周辺の空間を歪めていたのを解除したので、ギルド長さんとレードさんも私を認識出来るようになった。

 優男は、フィディルが空間拡張した奥へと追い詰められている。

 ぎゃあぎゃあ喚いているも、グレイスは聞く耳持たずで攻撃一辺倒だ。

 何だか、グレイスに見せ場を取られた感が半端なしである。


「ギルド長さん達は気付いていなかったみたいだけど、オリバーとか言う名の優男は獣人に擬態した精霊だってことと、あのフリフリ衣装の魔法少女も大精霊だよ」

「はあ? オリバーが精霊?」

「待ってくれ、オリバーが精霊が擬態した姿だと? 守護者の器だと言うことか?」

「まあね、正直信じられないと思うけど。優男とグレイス、魔法少女のことね。彼女達は邪の精霊属性で、他の精霊属性とは一線を画した能力があるんだ。それが、擬態。観察した人や獣人とかに化けられる能力がある。オリバーは擬態していた精霊で、グレイスは守護者の器に納まっている大精霊」


 悪戯好きな邪属性の精霊が、悪戯する為だけに執念で会得した擬態能力。

 ただし、位階によって擬態の効果は落ちていく。

 ので、完璧に周囲を欺いていた優男は高位精霊といえる。

 まあ、高位精霊と大精霊との差はとてつもなく高い壁にぶち当たるので、優男はグレイスになぶられることしかできない。

 抵抗のしようがない彼我の差によって、ぼこぼこにされている。

 擬態している姿であるから、切られても出血はしていない。

 手足が断ち切れているが、擬態なので不思議とグロさはない。


「ぐ、グレイス様ぁ。ご勘弁をぅ」

「煩いですぅ。存在しているのがぁ、罪ですからぁ。消えてなくなりなさいぃ」


 情け容赦なく振るわれるデスサイズ。

 両手両足を欠損した優男が慈悲を請うているも、グレイスは我関せずで消失を願っている。

 だけど、それだと私が狙われた理由が分からなくなる。

 ただの、悪戯では済まないので、助け舟をだしてみたり。


「グレイス、その辺で止めて。何故に、私を狙ったか理由が知りたい」


 まさに、止めと言わんばかりに精霊核を狙った一撃を振りかざしたグレイスを制止する。

 冒険者ギルドも巻き込んでやらかした責任は追求しないとね。

 ただ、一精霊を存在消失するだけでは、気持ちは収まらないし。


「うー。ミーア様の仰有る通りですぅ。白状しなさいぃ」

「ぎゃっ、痛い。何で痛みを感じるんだぁ」

「あらあら、わたくしのマスターをありもしない罪に問おうとした責は負いませんと」

「マスターと敵対した。それだけで、断罪を発動するには充分だ」

「「充分だ」」

「……充分だ」


 デスサイズの刃先で襟首を摘み、私達の方へ放り出される優男。

 その周囲を、待機していたうちの子達が囲む。

 基本、精霊には肉体はない純粋な自然力と魔力の塊たるエネルギー体であるから、苦痛を感じる機能はない。

 しかし、大精霊には精霊の在り方に違反した眷族を断罪する役割があり、存在消失するだけでは断罪にならないと判断した場合に人の五感を体験させて罰を与える権限がある。

 それを、グレイスを含む七柱の大精霊が、優男に断罪が必要不可欠と判断して、苦痛を与えて罪の意識を芽ばえさせようとして今に至る。

 まあ、優男的に改心はしないと思うけどね。


「オリバーは、偽名だな。グレイス、こいつの真名は?」

「*£¢▼▲○ですぅ。煮るなりぃ焼くなりぃ

 、埋めるなりぃ、しちゃってくださいなぁ」

「精霊位次席時空が訊ねる。何故に、我がマスターを狙った」

「精霊位第三位聖が問います。我がマスターに、仇なす行為をしたのは何故に」

「精霊位第四位邪が質問します。何ら関わりがないミーア様を狙ったのは何故ですかぁ」


 精霊の真名は人の言葉では発音が難しく聞きとりが出来ない。

 ただし、契約者には自ずと理解できるので、真名を託された契約者は契約した精霊には誠実であらねばならない。

 真名を託されるのは、精霊の命を預かる行為でもある。

 誰が好んで、信頼してくれた精霊を裏切るかっての。

 私は墓場まで持っていく心構でいる。

 しかし、憐れなことに真名をばらされた優男は、大精霊の中でも更に上位の大精霊によって窮地に立たされている。

 審議の言葉に嘘の発言をしたら、存在消失では済まされない無限断罪が待ち受けている。

 はよ、答えなさいな。


「はいぃ。グレイス様のマスターの奥方がぁ、時空や聖を使役しているマスターが顕現したらぁ、グレイス様がぁ、いや応なしに契約を迫られてお困りになるからぁ、少し嫌がらせをしてあげてこらしめなさいとぉ、忠告されましたぁ」

「お前が何故に、あの女の命令を聞きやがりますかぁ」


 グレイスがデスサイズを振り上げた。

 思ってもいない人物が出てきて、驚いたもんだ。

 はは、嫌がらせねぇ。

 範疇を越えている気がするが、あの人の思惑が判明した。

 私の顕現を待っていた節があったから、何か仕掛けてくるとは警戒していたけど。

 自身の契約精霊以外の属性の精霊が、意思に従ったのが気になった。

 グレイスも、関わりをもたないはずの眷属の発言に頭にきている模様である。

 というより、グレイスとユーリ先輩の仲は決して良くない。

 ユーリ先輩は持論の正義を押し付けてくるので、当初は邪の精霊を発見するなり攻撃していた。

 あの人の中では、邪精霊はプレイヤーを罠に嵌め堕落させる邪悪な精霊だと認識していた。

 なので、眷属を攻撃してくるユーリ先輩を、グレイスは敵認定している。

 グレイスと契約したダレンのクラン入団に、陰で異議を唱えていたのは周知の事実だった。

 だけど、当時のクランリーダーが出来た人で、大精霊と契約をしている仲間が身近にいた方が、契約に嫉妬する他のプレイヤーからの悪意から守られるだろうとクランメンバーを説得していた。

 ただし、その分の妬みは買っていたけれども。

 大精霊が全属性揃い踏みの我がクランは、全員が生産職であったが為に、大手攻略組から目の仇にされていた。

 生産するより、攻略の手伝いをしろと恫喝されたりもしていた。

 そこで、自己顕示欲の高いユーリ先輩は、クランリーダーには内緒で攻略組に付き合い、一人称賛を浴びて満足していた。

 そして、勝手に生産依頼を引き受けていたりもする。

 最終的に、クラン崩壊への道を辿っていたのを理解していない哀れな人である。

 なので、グレイスのユーリ先輩の評価はドン底の底辺あるのみ。

 ダレンとユーリ先輩が夫婦でいられたのは、偏にグレイスが寛大にも我慢していたのだろう。

 けれども、それとこれは意味あいが違う。

 ユーリ先輩は、私の元に大精霊が集い、私が全属性の大精霊と契約を果たすのを邪魔したいのだろう。

 それか、自分を袖にしたフィディル達、うちの子達への意趣返しも含まれているとみた。

 私に対抗して三柱の大精霊と契約をしたけども、ジルコニア一柱しか自由に顕現させられず、レットとレッタは守護者の器に納めたものの好感度が低くて下位の精霊魔法しか行使できない為体(ていたらく)を見せていて恥じていた。

 その割には、三柱と契約をしていると見せびらかして、私と比べられて敵愾心を募らせる。

 正直、ジルコニア以外の扱いが悪いせいでしかないのに、他人へ責任転嫁するのがお家芸だから、付き合いを絶たれて当然だろうに。

 それでも、女王国を興して国内に大精霊が留まってくれているのだから、感謝しろっての。

 数百年越しに撒かれた悪意に、腹立たしい限りだ。


「わたしはぁ、眷属にぃ、あの女と関わるなと言いましたぁ。それを、無視しておいて、なんたる失態をおかしているかぁ、分からない馬鹿は要りません。時空、聖、どうぞ、盛大な罰を与えてくださいなぁ」

「ですがぁ、グレイス様のマスターの奥方ですよぅ。グレイス様の御身にかかる災いはぁ、避けなくてはなりません」

「この阿呆がぁ、ミーア様を慕い精霊が集まるのはぁ、ミーア様の為人(ひととなり)にありますぅ。お前はぁ、いつからあの女のぅ、手先に成り果てやがりましたかぁ」

「ですがぁ、その女の元にはぁ、確かに大精霊が集っておりますぅ。やがてはぁ、グレイス様が守護なさるこの国を掌握してぇ、乗っ取るやもしれないのですぅ」

「そうなったらぁ、どれだけ良いかはぁ、皆が言っていますぅ。わたしがぁ、この国に執着したのわぁ、ダレン様の命令だからですぅ。あの女のぅ、為ではぜったいにないのですぅ」


 国を掌握して乗っ取るねぇ。

 誰がそんな面倒臭いことをするか。

 私の希望は、まったり農園でのスローライフでしかない。

 見当違いも甚だしい。

 どうせ、豊かな国を興して絶賛されている姿を見せびらかしたかったのだろうが、自分よりも称賛されるかもしれない未来を察して悪意を残しておいたのだろう。

 ユーリ先輩のことだから、仕掛けはこれだけとは限らない。

 まだまだ、眠らせておいてある筈だ。

 グレイスの怒りの意味を理解していない優男には悪いけど、そろそろ退場を願おうか。


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