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女王⁉ 聖女⁉ いえ、ただの農業オタクな細工師です。  作者: 堀井 未咲
第二章 貴族の在り方

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062 呼び出されました

 ファレル家の騒動が世間を賑わしているなか、何故か私はライザスの冒険者ギルドにいた。

 所謂、お呼びだしである。

 冒険者ギルド登録したきりで、碌に依頼を受注していないからギルド証剥奪かなぁと思いきや、私の顔を覚えていた受け付け嬢に応接室に案内された。

 そして、出てきたのが老年域の人族のギルド長だった。

 左足が欠損していて杖を付きながら、レードさんに手を借りて姿を見せたのだけど。

 白髪を後で束ね、歴戦の冒険者だった証の顔面の傷跡が勇姿を物語っている気がする。

 確か、ギルド長さんは病気で休養中なはず。

 あっ、でも腑甲斐無いギルド員が私に看破されたから、復帰したんだっけ。

 痩せて見えても覇気は衰えてはいないみたいだ。

 弱めだけど威圧されているのが分かる。

 やっぱり、お叱りかねぇ。

 すっかり温くなったお茶に手をつけた。


「ふむ。流石に、弱体した威圧ではモノともせぬか」


 向かい合うソファに座るなり、そう評された。

 まあね、ギルド長の威圧より背後に佇むフィディルのご機嫌斜めで、醸し出す空気の方がやばげでしょ。

 農園にやって来たギルド職員の態度も悪かったし、見下した感丸だしで書状を投げつけてきたしで、うちの子達+ブラウニー達も正直お怒りだった。

 そんな感じだから、早速家から追い出された八つ当りを、ちょうど農園の仕事から戻ってきたロイド君とエメリーちゃんに向けたので、危険物扱いでアンナマリーナさんに意識を落とされたんだよね。

 んで、意識が戻って暴れださないように梱包して、フィディルが担いできたのだけど。

 フィディル的には触りたくないモノだったようで、ギルドに入るなり投げ出した。

 ざわめくギルド内を、受け付け嬢が私達を応接室に隔離したから、その職員がどうなったかは知らない。


「失礼ながら、忠告させていただくと。首のかわ一枚で繋がっている冒険者ギルドは、本部ギルド同様に破滅したいのでしょうか。それなら、ただちに潰して見せますが」

「は? 待ってくれ、話が見えないのだが」

「白夜、我々は敵対する意思はない」

「先ず始めに、ギルドにただちに来なければといった主旨の書状が来ました」

「うむ。儂が、動ける身体ならそちらの農園に行けたのだが、この通りの身体であるので無理をいって来ていただいて済まぬ」


 ギルド長は、素直に頭を下げる。

 隣でレードさんも、謝罪している。

 あーあ。

 こりゃあ、盛大な行き違いが発生してるわ。

 うちに来た職員の勇み足かなんかで、ギルド長さんは現状を知らないでいるわ。


「白夜、何か怒らせることをしただろうか」


 相変わらずの白夜呼びに、いらっとさせられる。

 レードさんは、他人の名前を覚える気はないのだろうか。


「ぶっちゃけると、うちに来たギルド職員はギルド長の権威を振りかざして、今すぐにギルドに来いの一点張りでした。それから、頂いた書状を見ても、こちらには意味をなさない内容です。この点からみて、私が素直に従うとでも思われているんですか?」


 間の机に傍若無人な職員が寄越した書状を、放り投げた。

 ギルド内の改革をしたのではなかろうか。

 ランカの偽物代官と手を組んで不正をしていた職員がいたしね。

 まだまだ、ギルド規定に違反している職員がいるのだろう。

 でないと、あんな内容の書状を寄越したりはしない。


「拝見させてもらう。⁉ 何だと? 資産を没収だと? 馬鹿な、何ら違反していないギルド員に、こんなペナルティを課す意味がない。それに、そんな権限は冒険者ギルドにはない」

「ですが、ギルド長のモノと見られる印章とサインがあります。書式から判断しても、冒険者ギルドの正式な通達ですよね」


 それも、無理難題吹っ掛けてきた。

 書式を見て貰ったのは、アンナマリーナさんである。

 彼女は領地の冒険者ギルドで関わりを持ち、れっきとしたギルド員でもある。

 そして、職員でもあったりする。

 二足の草鞋を履いているのには、訳がある。

 アンナマリーナさんは優秀なギルド員であるが、身分は貴族令嬢。

 ナイルさんが存在していなかったら、フォレスト領の後継者を産める貴重な人物。

 そんなやんごとなき身分のアンナマリーナさんが、冒険者だとは表向きには公表されてはならない。

 しかし、アンナマリーナさんが冒険者ギルドにて依頼を受注して完遂しているのは事実。

 冒険者ギルドに出入りしている理由として、領地を担うかもしれない修行と称してギルド運営に関わっているから職員的身分を与えておこうとした苦肉の策だったりする。

 んで、ギルドの書式一般を覚えていたという大人な事情がある。

 そうした観点から、私に突きつけられた書状は、冒険者ギルド長の名の元に資産を没収すると通達してきた訳だ。

 そこには、何を以て没収するのか理由は一切記載されてはいない。

 不思議だよね。

 一方的な書状を受けいれられる筈がないのに、書状を持ってきた職員は勝ち誇った顔をしていた。

 まあ、すぐに伸されたけどさ。

 これだけみても、冒険者ギルドが喧嘩を売ってきたとしか思えなくて、わざと相手の懐に入ってみたのだけど。

 どうやら、ギルド長さんには覚えがない事態になっているみたいである。

 でも、書状にはギルド長さんのサインがあるから、冗談でしたは通じない。


「ぐぬぅ。オリバー! オリバーは何処だ。レード、奴を連れて来い‼」

「はい、ただちに」


 ぐしゃりと、怒りの余り書状を握り潰したギルド長さんが怒声を発する。

 少しだけ、耳鳴りがしたのは隠して平然としておこう。

 レードさんが、素早く応接室を出ていった。

 近場で物音が凄くする。

 捕り物でもしているのだろう。

 悲鳴も聞こえてきた。


「バーシー嬢。本当に済まない。この書状は、意味をなさない。そちらの言い分通り、これは冒険者ギルドの本意ではない。こんなふざけた内容、とうてい赦されざる行いをギルドはしない。申し訳ない。儂の処分だけで事を納めては貰えまいか」


 ギルド長さんが再び、頭を下げる。

 この人は、私と敵対する危険性を充分に理解している。

 情報の元は、レードさんかシェライラ辺りかと見当がつく。

 それか、ジルコニアかなぁ。


「元の呼び出しの意味は、何でしたか?」

「あ、ああ。バーシー嬢がレードや傲り昂ったギルド職員を一喝してくれた礼と、先日子供を囮に使ったギルド員の捕縛と子供の保護の謝礼をせねばならないとな。それから、バーシー嬢が所持しているだろう、ベルゼの森での討伐素材の買い取りの意思表示をせねばと思ったのだ」


 それが、何を間違えて資産没収になるのか、意味が分からない。

 と、ギルド長さんが呟いた。

 ベルゼの森でレードさんら一行は、大蜘蛛の足を一本持って帰っただけで、殆どの素材を置いていったから、自然に私が所持している。

 アイテムボックスの肥やしになっているわ。

 そう言えば、ベルゼの森の素材は高値で取り引きされているんだっけ。

 最近は、農園で作業していたり、ファレル家をやり込める細工物を作製していたりと忙しかったからなぁ。

 冒険者ギルドで買い取りして貰うのを、すっかり忘れていたよ。

 それに、依頼もひとつもこなしていないしね。

 てっきり、お叱りかと思ったよ。

 背後のフィディルの気配が鎮静化していく。

 やや、だけどさ。

 フィディルを通じて覗いているであろうお子様ズの警戒度も、弱まっていくのが伝わる。

 まあ、ファティマは未だに守護結界を解いてはいないが。


「ギルド長、オリバーを捕獲しました」

「ちょっと、レード君。僕が何をしたって言うのさ。捕獲はないんじゃないかなぁ」

「黙れ。ギルド長の指示だ」


 落とし処を思案していたら、レードさんが一人の男性を肩に担いでやって来た。

 中肉中背な優男ぽい、山羊の角を生やした人ベースの獣人で、みるからにギルド職員らしからぬ気配の持ち主である。

 一瞥したフィディルが応接室の空間を閉ざした。

 これで、逃げ場を失うことになる。

 序に、私の周辺の空間を歪めて、姿を隠してくれたので、気配稀釈と感知阻害のスキルを発動した。


「オリバー、貴様。儂の印章とサインを偽造したな」

「偽造? 何の事ですかぁ? うわぁ、レード君。ぞんざいに扱わないてくれるかなぁ、僕は君と違って繊細なんだから」


 ギルド長さんの問い掛けに、そらとぼける優男をレードさんが肩から落とす。

 優男が床に転がり、のそのそと起き上がる。

 乱れたギルド職員の制服を直す素振りをしながら、周囲を確認して窓に視線が行く。

 多分、レードさんも気がついている。

 それとなく、ギルド長を庇う位置に着き、優男の行動を封じるかの如く、警戒をしていた。


「では、この書状は何だ。儂の印章を自由に扱える職員は、貴様しかおらんだろうが」

「ええと、ああ。あの荒れ地に入植した変な女の事でしたか。それなら、副ギルド長の指示で発行しました。何でも、領主様と懇意で随分と無茶難題をギルド員に負わせて、高みの見物よろしく私腹を肥やしているそうで。荒れ地の村民も人買いに売ったそうですね。領主様が動かないので、仕方なく冒険者ギルドが資産を没収して被害に遭った人達に返却するんですよねぇ」

「貴様、それを信じたのか」

「ええ、だって、上司の指示ですからねぇ。下っ端は口答え出来ないでしょう」


 一ミリも信用してはいない口調で、明らかに嘘を吐いているとわかる。

 大袈裟に身振り手振りで主張する優男に、ギルド長さんがキレ掛かっている。

 上司の指示なら、ギルド長の印章とサインを勝手に使用して、信じるに足りない内容でも書状を発行する。

 どうして、罰せられないと思うのか。

 優男の心理をギルド長さんは理解し難いだろうな。


「あくまでも、上司の指示に従った結果でしかないと言うか」

「はい、そうです。それが、ギルド長不在の冒険者ギルドでは日常茶飯時でしたからねぇ。まかり通ってしまいます。それで、件の女がギルドに来たのでしょう。どちらに、見えるのでしょうか。苦情に来たのでしょう。会わせてくださいよ」


 口許を歪めて優男が嗤う。

 成る程。

 優男の目的は私に有るという訳だね。

 ギルド長さんも、レードさんも、訝しんで対面に視線を移すことはしなかった。

 フィディルの空間認識阻害もあいまって、優男は私を認識出来てはいない。

 ギルド長さんが座る正面にすら、視線が行かないでいる。


「ねぇ、皆さん。わたしに、隠してないで教えてくださいよぅ。あの女は何処ですかぁ」


 優男が嗤う。

 偽造した書状は粗末な出来事であり、たいして重大な事ではないと盲信しているのがありありと伝わってくる。

 歪んだ思想に辟易してきた。

 そろそろ、いいかな。

 仕掛けてきたのだから、反撃してもいいよね。

 冒険者ギルドも、こいつは必要のない人材であるのが証明されたのだ。

 少し、暴れても正当防衛だよね。


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