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006 領主に会いました

 やらかした。

 試練の内容に心当たりがあり、契約していた精霊に会えるかもと期待した自分に酔っていたのが否めない。

 あのあと、騎士のおじ様に有無を言わせずに、領主館にドナドナされた。

 危害を加える気はなさそうだったので、精霊達は沈黙してフィディルを残して姿を消した。

 うちの子達の中では、フィディルが一番戦闘力がある。

 お子様ズは、安心して姿を消していられた。

 これに、おじ様は慌てふためいた。

 守護者となった精霊は、主の側に常に侍っているそうな。

 知らんがな。

 うちの子達はマイペースで、遊びに行っている。

 まあ、私が呼んだり、危なくなったら顕現するだろう。

 有り難いことに、うちの子達は私を好いてくれている。

 私が気づく前に、敵を排除するのは当たり前。

 今頃は、遊びながら情報を集めたりしているだろうな。

 うちの子達曰く、所持している情報は古いそうで、最新の情報には疎いとのこと。

 守護者の待機場所になる異空間には、役目を終えた精霊が戻り次第に情報は更新していたのだけど。

 現女王の統治下にある国の情報は、更新していないのだそうだ。

 張り切って側を離れたお子様ズと、監督役のレオンとファティマが情報を精査して、フィディルに送ってくれている。

 用意された箱馬車に乗っている最中に、フィディルが都度話してくれた。

 ここ、ライザスの街の領主は、なんと前女王の血縁で次期女王候補だそうな。

 そして、対抗心を燃やしていたシスターも、一時は候補に名を連ねていた。

 シスターの守護者たる精霊は、領主さんが試練を受ける迄は最高位だったらしく、それにあぐらをかいて変な方向に努力してしまっていた。

 他の女王候補を守護者に命じて、蹴落としていたことが判明。

 体裁が悪くなり、女王選出評議会に資格を剥奪された。

 親も庇わず追い出されそうになり、聖母教会に入信した訳だ。

 で、教会でも最高位の守護者を侍らしているシスターをもて余し、一通り教育が済んだら地方の教会に押し込めた。

 でも、性格は直らずに、資格を剥奪された事情を知らない民衆を、敬わせることで有る意味自分を保っていた。

 女王になれないなら、聖母教会のトップになろうとしていた。

 だけども、教会を私物化して貴重な精霊石を売り払うわ、気に食わない女性には試練をうけさせないわで、教会と女王が更迭の準備をしていた。

 その前準備に、女王候補を領主にと派遣したといった事情である。

 はあ。

 遅すぎ、後手後手じゃんか。

 女王候補を蹴落とした段階で、人物像は確定したも同然だ。

 他者を見下した性格破綻者に、女王は務まらない。

 幾ら、守護者が高位精霊だからといって、甘やかし過ぎたね。

 さっさと、守護者解消させれば良かったのに。

 先輩が女王に即位したのであれば、守護者解消の手続きを継承していっているはず。

 女性プレイヤーを守るシステムを逆手にとり、悪質な行為をした女性プレイヤーは多々いた。

 だから、守護者解消システムも作っていた。

 精霊自身も解消を望んだら、自由に解消されるシステムにもした。

 悪質な女性プレイヤーには、独断専行と恨まれたけど、私達は精霊重視の見方にならざるをえなくなった。

 女性プレイヤーの中には、より強く、より麗しい精霊を求めて契約しては、破棄を繰り返すのも出始めた。

 酷いと、リアルマネーの取り引きまでに発展した。

 だから、先輩が望んだ守護者システムの形が、人の欲に歪まされた時には、守護者システムは終わりを告げた。

 管理AIと大精霊による、全守護者契約解消。

 運営を巻き込んでの苦情の嵐。

 頭を痛めた運営は、私達クランメンバーのアカウント停止処分にした。

 その間に、何とか守護者システムを修復しようとした。

 しかし、頑として統括AIは、女性だけの特権は、男性プレイヤーとの差別を生むと判断した。

 ならば、男性プレイヤーにも、守護者システムを適用しよう。

 序でに、課金アイテムを使い、自分好みの守護者を誕生させてはどうか。

 利潤に目が眩んだ運営は、益々統括AIを怒らせた。

 大精霊十三柱の試練を乗り越えたら、守護者と契約できる。

 並々ならぬ説得に折れたと見せかけた、最後の案に運営は喜んだ。

 再開された守護者システムは、男性女性区別なくなった。

 全プレイヤーが、守護者を求めて大精霊が座する聖域に足を運んだ。

 しかし、聖域には大精霊は一柱も存在していなかった。

 それもそのはず。

 大精霊は、アカウント停止処分を終えた私達、クランメンバーの元に守護者として現れていた。

 統括AIも、粋なことをする。

 私達の手から離れた守護者システムは、形を変えて戻ってきたのだ。

 大精霊の承認がいるシステムは、クランを解消して各々が隠棲した地に潜む。

 私は農場を経営してスローライフを満喫していたし、先輩は森の奥深くで魔女ライフを気ままに送っていた。

 慌てた運営が精査して、私達を突き止めた時にはワールドシステムに既に組み込まれて、公にできなくなっていた。

 その後、守護者システムがどうなったかは、知らない。

 何故なら、私は異世界に転生させられているから。

 フィディルに聞けば、教えてくれるかな。

 だけど、フィディル達がここにいるのだから、ゲームは破綻したのではないかと思う。


「ねぇ、フィディル」

「はい。マスター」

「フィディル達が、どうしてここにいるか、聞いてもいい?」


 今の私は、領主館の一室に案内されて放置されている。

 お茶を出された以降、メイドは部屋から出ていったままだ。

 ソファに埋もれている私の背後に立つフィディルを、振り返る。


「マスターが聞かれたいのは、マスターがお隠れになった後のことですね」

「私が事故に遭って亡くなったと、知らされたの?」

「はい」


 フィディルは首肯した。

 痛ましげに表情を歪めて、私を見返す。


「マスターは事故に遭われて、二日後に発見されました。それから、五日後に息を引き取られました。その情報は、ユーリ殿より我々に知らされ、運営側より守護者解消を強制されました」

「主のいない状態を無くそうとしたのね」

「元々、運営側は我々が一処ひとところに集まるのを良しとしません。次なる主の元へ、誘導しようとしていました。しかし、ちび達は、マスターを慕い嘆き、抵抗しました。次なる主の元に侍るぐらいなら、消去された方がましだと判断しました」


 お子様ズの頑固さは、筋金入りだ。

 嫌いなことには、指一本動かさない。

 運営も、大変だっただろうな。

 でも、それだけ慕ってくれたのは、純粋に嬉しく思う。


「ですが、ある時。我々に干渉してくる存在がいました。自身を異世界の神だと称して、マスターに再び会いたくないかと持ち掛けてきました。我々には、嘘か誠か判断がつかずにいました。神を名乗る存在は、マスターのご無事な姿を見せてくださいました。これに、飛び付いたのが、ちび達です。俺の制止も聞かずに、界を渡りました。次にレオンが。そして、俺とファティマも渡りました」

「で、私に会えた。と?」

「いいえ。何故か、数百年単位で過去にいました。マスターに会いたければ、土台を作れと言われました。ちび達は不満を訴えましたが、そこにユーリ殿が守護者を伴い現れました」


 先輩が?

 疑問が解消されるどころか、増えていく一方だ。

 先輩の守護者が共に現れたとは、どうしてだろう。

 あの人外さんは、先輩にも何かを持ち掛けていたのだろうか。


「ユーリ殿が何故に界を渡られたのかは、謎のままです。ただ、ファティマの推測では、ユーリ殿は時折老成した考え方をしておられました。恐らくは、天寿を全うされてから、界を渡られたかと」

「そっか。なら、いいや。んで、フィディル達は先輩と国造りしたのかな」

「はい。マスターが、住みやすい環境を造りあげてから、我々は守護者の待機場所にて、半覚醒状態で待機しておりました。我々を起こすキーワードは、マスターのIDと声紋のみです」

「それは、大分待たせてしまったね。でも、一人で無く、フィディル達に会えて良かったよ」


 謎は謎のままにしておこう。

 先輩の性格だと、私に知らせたいならば、何処かに隠していそうだし。

 誰かに託している可能性もある。

 そして、フィディルがそうした情報をもたないなら、先輩は知っては欲しくはないとみた。

 何気に、秘密主義だしなぁ。

 人外さんに聞いてみても、しらをきられるだけだろう。

 直に、聞く手段もないから、この話題は封印しよう。


「それにしても、領主に会うのに時間がかかるなぁ」


 放置はいつまで続くのか、ぼやきがでる。

 お茶も冷めたし、飲むのは遠慮したい。

 茶菓子があるけど、自衛の為に食べる気はない。

 だって、鑑定すると何らかの薬が入っていると、教えてくれる。

 薬関係の知識に明るくないからか、断定は出来ないけど、自白剤に近いヤツかな。

 初対面の相手に、これはないんじゃないかと思う。

 領主もシスターみたいな人柄だったら、逃げてやろう。

 決心していると、フィディルが宣った。


「領主なら、扉の外にいますよ」


 なんじゃ、そら。

 入ればいいじゃないか。

 自分の館だろうに。


「あのぅ。マスターが何かお聞きになりたがっていたので、人払いと防音の結界を張っていたのですが。余計なことをしましたか?」


 おや。

 フィディルの仕業だったのか。

 うん。

 ごめんね、領主さん。


「フィディル。ありがとう。もう、いいよ」

「はい。マスター」


 私の礼に、フィディルは一礼で応えてから、結界を解いた。

 すると、扉が内側に向かって勢いよく開いた。

 雪崩れ込んできたのは、屈強な騎士達と執事服の麗人。

 一目で麗人が、守護者と分かった。

 先輩の守護者の1柱だ。


「ミーア様⁉ ああ。誠にミーア様です。お待ち申し上げておりました」

「やほ。ジルコニア久しぶり」

「はい。十三柱の一柱。風のジルコニアでございます」


 私を確認するやいなや、立ち上り優雅な礼をする。

 騎士が騒めいた。

 基本的に、守護者は主以外は路傍の石に等しい。

 うちの子達も、他者には無関心である。

 そんな、守護者が主以外に頭を垂れた。

 そりゃ、騒ぐわ。


「フィディルに、聞いた。ユーリ先輩も、居たんだね」


 異世界に転生したとは聞けない。

 言葉を選んだ私に、ジルコニアは頷いて笑った。


「はい。我が主はミーア様をお待ちしておりましたが、待ちきれずにお隠れになりました。自分は、主の血筋を引く子孫を見極めつつ、新たなる主を得ました。然れど、同胞には良しとしない守護者もおります。どうか、その同胞にも一度お会いになってくださいませ」

「うん。それが、先輩の遺言なら聞くよ。だけど、今の主を紹介してくれないかな」

「これは、失礼致しました。主。主は何処に」

「ここに、います」


 男装の麗人のジルコニアが、側にいても負けない可憐な容姿の女性が、騎士を踏み越えて部屋に入ってきた。

 何処と無く、先輩のアバターに似た面立ちをしている。

 銀髪紫眼の女性は、見事なカーテシーを披露してくれた。


「初めてお目見え致します。初代錬金女王の系譜に連なるシェライラと申します。風のジルコニアの主になります。只今より、女王候補の一位の座をミーア様にお譲りしたく、存じます」


 なんてことを言い出さなければ、私も先輩の子孫を可愛がれたのに。

 やっぱり、逃げ出すのが決まったよ。

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