059 またもや、火花がでした
ポーションの事を指摘したら、男の子達は急いで帰ろうとした。
父親代りの男性を引っ張る勢いで、歩きだしはじめる。
「子供達と保護者の護衛を」
「はっ。ギースとオスカーを残していきます」
「ミーア様の六柱の守護者がいますから、安全は保証されますが、聞き入れはしないでしょう」
「お嬢様は、領主でもあります。護衛がいないのは、世間体が許されません」
「分かりましたわ。貴方達の良いようにしなさい」
そりゃあ、そうだ。
領主でもあり、女王筆頭候補が護衛なしだと、世間体が悪い。
まあ、風の大精霊たるジルコニアがいるので、不測な事態にならない限りは大丈夫だけどね。
ああ、大地の大精霊のレオンと樹木の大精霊たるエスカがいるから、相克で能力が半減するか。
でも、我が家には相克をおこさない他の大精霊がいるから、安心していい。
シェライラの専属騎士で顔馴染みの騎士を残して、男の子達を馬に同乗させて農園を出ていった。
私を直接知らない騎士は不満げだったけど、リーダー格の騎士に促されていや応なしに帰還した。
「さて、いつまでも呑気に駄弁るのはやめて、家に入ろうか」
「そうですわね。部外者が他家の事情に首を突っ込むのは避けたいのですが。そうも言ってはおれませんから」
「バウルハウト家が、アルバレア家の分家たるファレル家に難癖をつける。他家に干渉するのは、我が国の貴族院法に違反するのではないかしら」
「そう。そちらが対処をなさらないから、我が家が干渉するしかなくなったのを、理解なさらない。貴族院法に違反しているのは分家でしてよ」
またもや、火花が散っている。
お二人さん。
うちの子達を見習え。
お子様ズは、周りを片付けはじめているぞ。
即席の水飲み場は元の平に戻し、シートを畳むお子様ズ。
茶器をバスケットに仕舞うファティマに、警戒を解かないでいる。
森側を気にしていた。
そうだ。
森で討伐した魔物をアイテムボックスに入れれるだけ、入れてきたけど。
レードさんに取り分をどうするか、聞くの忘れた。
あの女治療師騒ぎで、完全に忘れたよ。
レードさん達も大蜘蛛と対峙していたから、取り分を分けねばならない。
冒険者ギルドに行く事情が出来た。
冒険者証を作っただけで、依頼をこなしてないしなぁ。
そろそろ、受けないと失効するかもだ。
まあ、シェライラとアンナマリーナさんの戦いの結果が出てからでいいか。
「はいはい。睨み合いは止めて、家まで歩く。
でないと、当事者さん達を追い出して、二度と農園に入れなくするよ」
「それは、困りますから分かりましたわ」
「釈然としないけど、追い出されたら、母上の扱きが待っている。取り敢えずは、止めるわ」
アンナマリーナさんが身震いする。
騎士姫の呼称があるお母さんは、怖いらしい。
シェライラも、私と接点がなくなるのは困るらしく、両者はおとなしくなった。
んで、家まで無駄口叩かず歩いていった。
森側から家までの距離はかなりあるが、無言で移動するのは如何なものか。
ロイド君やエメリーちゃんも、人語を話した灰色君が気になるみたいだけど、空気を読んだ子供達のしおらしさに、少しやり過ぎたかな。
「「お帰りなさいませ」」
「「お帰りにゃあ」」
「まあ、家妖精だけでなく、猫妖精もいるのでしたか? やはり、所有権はアルバレア家にするべきです。子爵位程度では横取りされるだけです。直ちに、手放しなさい」
「アナスタシア!、貴女いい過ぎ……。痛い。細工師何をするのか」
「はいはい。ダイアナ、出番だよ」
「訳。ケットシーといった珍しい愛玩動物を所有するのがステイタスと考える、爵位の高い貴族が増えています。いらぬ諍いを生むだけですから、アルバレア家の名を使った方が良いですわ」
クリスとアンジーの優雅なお辞儀と、ララとリリのコンビな出迎えに初見なアナスタシアちゃんが目を輝かす。
アナスタシアちゃんが、また訳さないとならない発言をして、アンナマリーナさんが憤るが、後頭部に手刀を軽くいれて黙らせる。
だから、最後まで聞きなっての。
うん。
可愛いは、万国共通で無敵だ。
しかし、ララとリリはちょっぴり人見知りを発揮してナイルさんの背後に逃げた。
「にゃあ。にゃんか、怖いにゃ」
「捕まったら、最後にゃ」
「お姉ちゃん、ララとリリを怖がらせたらだめだからね」
追いかけかけるアナスタシアちゃんの眼前に、エメリーちゃんが仁王立ちしてプンスカお怒りモード。
幼い少女に諭されて、肩を落とすアナスタシアちゃんである。
猫は気にいらないと、触らせてはくれないよ。
私でさえ、呪いの首輪を外した時に撫でたきりだし。
そう、ララとリリの首輪は、聖属性の能力を最大限に引き出して無効化した。
ファティマも力を貸してくれた。
無事に呪いを発動させずに、無効化できて良かった。
かなり嫌らしい呪いの数々が、ダレンの妄執を物語る。
だけど、その呪いの中に、私への挑戦状があったのは知らせてない。
どうやら、ダレンも私がこの世界に来るのを予期していたみたいである。
本当は無効化した首輪を所持したかったのだけど、グレイスに渡した。
グレイスにとっては、主人のダレンが残した遺物に近いものだからか、彼女らしくない猛烈なアピールに負けた。
でも、渡された首輪を大切に胸に抱く姿を見せられたら、何も言えなくなった。
多分だけど、グレイスはダレンの遺物を回収して行くことで、自己を保っている気がした。
空回りする空元気な姿を、何度か見掛けたしね。
報酬に強請ったケーキを食べている時は、明るい無邪気な空気を読まないグレイスだったけど。
大精霊を統括するフィディルとファティマは、随分と気に掛けていた。
私が就寝した後で、何やら酒盛りしているようだった。
お酒の勢いで心情を吐露したからか、明るさは徐々に戻ってきたけど、暫くは注意しておかないとならない。
休眠している大精霊もいるし、グレイスも休眠させた方が良さげな気がするよ。
本人は嫌がるだろうから、実行に至ることは出来ないが。
首輪の意味を知らないでいた兄妹は、明るい疑問符だらけでナイルさんが酷く喜んでいたのを見ると、幼いながらも外して当然の首輪だったと思っているみたいである。
ナイルさん辺りが、説明したかな。
それで、今はララとリリはエメリーちゃんが一生懸命にアンジーから教わった、レース編みのリボンをつけている。
リボンに鈴をつけたら、飼い猫その物になってしまう。
で、細工師の本領発揮で可愛らしい金細工のチャームを作製してみた。
ナイルさんに聞き取りしたマーベル子爵家の家紋である白百合と本の意匠を象ったチャームである。
概ね、好評を得た。
エメリーちゃんも欲しがったみたいで、催促された。
すぐに、エメリーちゃん用に髪飾りを作製した。
仲間外れは良くないので、ロイド君には剣帯につける飾りを、ナイルさんには印章指輪にしてみたら、お子様ズが剥れた。
はいな。
君達のも作製しているから、剥れないの。
ゲーム内で私の作品だと判明する意匠の稲穂と桜を象った、ブローチを人数分作った。
大喜びだった。
六柱とも、胸元に飾っている。
勿論、大精霊を彩る装飾品だから、ミスリルで作製したよ。
錬金人形の器に宿ると、金属製の武器には触れない禁忌は外れるみたいだが、好んで触れないでいる。
まあ、私が金属製のブローチを作製しても、身に飾ってくれるだろう。
しかし、手元に材料があるのだから、使わない手はない。
皆喜んでくれて、感無量であった。
「ごめんなさい。怖がらせる気はなかったの。あまりの、可愛らしさに驚いてしまったの」
「アナスタシア様は、小さな愛玩動物には弱いのです。できれば、撫でさせて欲しいのですが、無理は止めさせておきます」
「アナスタシアお姉ちゃん、さっきと違うね」
「うん。爵位がどうのって、言ってたけど。要は、貴族様がララとリリを狙うから、保護しようって意味だろ」
「はい、そうです。アナスタシア様は、貴族が権力でケットシーを奪いにきて、皆様方が怪我をしないようにしたいと言いたかったのです」
「父ちゃん。アルバレア家って、爵位がたかいのか?」
「そうだね。お祖父ちゃんの爵位がマーベリック子爵位だから、2つ上の爵位になるよ」
アナスタシアちゃんは指摘されたら、謝れる良い子であるが、テンパったりアンナマリーナさん達アルバレア家に関わるとツンが生まれてしまうみたいである。
意訳するダイアナも喋るなと言われているから、アルバレア家の縁者に誤解が生まれてしまった。
ツンツンした性格は、アナスタシアちゃんが、身を守る手段でもあったりして。
益々、家庭環境が気になる。
もしや、家族にも侮られている?
母親や兄とは気が会わないみたいな事をシェライラが言っていたな。
これは、一朝一夕ではいかなそうだ。
「シア。猫妖精には、構いたがると嫌われてしまいますわ。地道に、慣れていくしかないのよ」
「はい、シェライラお姉様。諦めます」
「アナスタシアが謝罪した。明日は雪か嵐になるか」
とことん、アナスタシアちゃんとアンナマリーナさんは、気が合わないなぁ。
アナスタシアちゃんが、ツンデレ少女だと認めたくない何かがある様子だし。
シェライラが首を突っ込むのも、分かる気がするや。
さて、どうやって仲を取り持つか。
腹を割って話させないとならないかな。
若干、アナスタシアちゃんのモフリを警戒しているララとリリは、兄妹と共に別室にいてもらうか。
真面目な話だと子供には退屈されるだろうから、ブラウニーに昨夜仕込んだパイ生地でパイを焼いて貰おう。
おやつ時には早いかもだけど、読み書きの勉強をララとリリに見て貰いながら時間は潰せるだろう。
アンジーにそう指示を出して、ロイド君とエメリーちゃんを誘導して貰う。
『俺も部外者になるから、子供達と一緒にいる』
「了解」
灰色君が、兄妹を追っていく。
クリスが足拭きマットを敷いて、灰色君の足を拭う。
灰色君はおとなしく、されるがままでいる。
きちんと、思慮分別がついている。
本能的に、敵対したら駄目だと認識したな。
屋内でと限定されるが、ブラウニー達の方が灰色君よりも強いからね。
暴れたりしたら、容赦ないお仕置きが待っているぞ。
そういえば、自己紹介させていないけど、ブラウニー達は良く受け入れたなぁ。
毛類とか飛び散って、お掃除が大変だと思ったりしないのが不思議だ。
「ミーア様が自然体でおられますから、味方か身内になられたと判断しました」
クリスが表情を読んで答えをくれた。
そんなに、顔に出ていたか。
まあ、いいや。
既に、ケットシーもいるので、毛類は今更か。
何にせよ、灰色君を受け入れてくれたので、それで良しとした。




