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058 説得が必要でした

 アナスタシアちゃんの家庭環境を知らない私が口を挟む権利はないけど、流石に頭ごなしに叱責するアンナマリーナさんはいただけない。

 アルバレア家の後継者問題にも関わりがありそうだよね。

 しかし、それより保護した男の子達の問題を先に解決しよう。

 シェライラとアナスタシアちゃんが同行させた男性は目を回してへたりこんでいて、男の子達が殺到していたのだ。


「父さん、父さん、大丈夫か? 何か、されたのか?」

「マ、マイク。ちょっと、身体を揺すっちゃ駄目だ。お父さんは、空を飛ぶという貴重な体験して目を回しているだけだからな。大丈夫。安心していいからね」


 養護院の父親役を務める男性は、体格の良い日焼けした身体つきをしていた。

 冒険者でも通じるのではないかな。

 地面にへたりこんでいるのは、足腰が震えているからである。

 いやぁ、ゲーム内でジルコニアに運ばれた時は、私も往生した。

 二度とやるかと決めたほど、ジルコニアはスピード狂だった。

 時空属性のフィディルと契約できて、移動手段に困らなくて助かった。

 これは、転移石の開発が急務かも。


「シェライラ、アナスタシアちゃん、アンナマリーナさん。一時休戦して、子供達をどうするか決めようか」

「そうですわね。他人がいる場所で、呑気に会話している場合ではありませんでした」

「ミーアさんが移動されてから、シェライラお姉様が騎士を派遣されました。私達も守護者を持つ貴族ですから、何か出来ることがあるかと思い、抜け出してきました」

「此方に伺う途中で騎士と揉めていた冒険者に出会いました。先見隊と子供達の保護者を護衛していたギルド職員と、犯罪を犯した冒険者の身柄を確保していたギルド職員とで随分と舌戦が繰り広げられておりましたの。ですから、騎士を連れて冒険者に戻らせました。ミーア様が子供達を保護されたと聞きましたので、保護者を随行させました」

「あー。この度は我が家の息子達がご迷惑をかけたことを、謝罪致します」


 シェライラとアナスタシアちゃんの説明に、保護者の男性が土下座をする。

 額を地面につけて、深々とされた。

 ちょっと、待て。

 私は迷惑をかけられていないぞ。

 保護しただけである。


「丁寧な謝罪は受けました。ので、頭をあげてください。でないと、話が出来ません」


 周りに集った男の子達の頭も下げさせようとするので、一応受けておいた。

 でないと、保護者の男性が納得できないだろうから。

 まだ、足腰が震えているので、無理には立たなくても良い。

 と、レオンが男性を抱えて、ピクニックシートに座らせた。


「あのう?」

「マスターまで地面に座りそうだから、移動して貰った」

「それは、気付かず失礼しました。運んでくれて、ありがとう」

「どういたしまして」


 男性は子供の模範になるだけあり、きちんとお礼を言う。

 レオンも満更ではなく、頷いている。

 貴族令嬢のシェライラ達が、ピクニックシートに座るには抵抗があるかなと思ったが、靴は脱がないで隅に座る。

 貴族令嬢は足を出したらいけないんだっけ。

 アンナマリーナさんは常にパンツルックだし、平然と爪先を見せるからなぁ。


「さて、落ち着いてきたから、質問するぞ。マイク達は母さんの薬代欲しさに、報酬が高い依頼を受けたんだね」

「そうです。いつもの冒険者さんがいなくて、困っていたら声を掛けられて、皆で相談して決めた。でも、途中でおかしいと感じて、ミシェルに冒険者ギルドに知らせにいかせた」

「うん。ミシェルとギルドの職員が、只事ではないと院に来たよ。母さんは自分の体調が悪いから、無理をさせたのではないかと案じて倒れてしまった」

「「「「「ごめんなさい」」」」」

「きちんと謝れるのは、君達の長所だけどね。父さんは怒らないといけないのは、分かるかな」


 男性は、理詰めでお説教するタイプみたいだ。

 声を荒らげるではなく、優しく諭す。

 五人の男の子には、揃って涙目で頷く。


「ギルドのレード兄ちゃんや、この農園の住人が助けてくれなかったら、危ないことになっていた」

「そうだね。君達を助ける為に、沢山の方々に迷惑をかけたんだ。ちゃんと、ありがとうと言えたかい。まだなら、お礼を言いなさい」

「「「「「助けてくれて、ありがとうございました」」」」」

「わたしからもお礼と謝罪を言わせてください。息子達が無茶をしてしまったのは、わたしが不甲斐なく薬すら買えなくなったせいです。また、借金のかたに、土地や家すら手放さなくてはならなくなり、息子達を不安にさせてしまいました。申し訳ありません」


 男の子達と男性が、綺麗に土下座する。

 でもさ、それって結局はシスターの金儲けと、行政が行き届いていない弊害があったからでしょ?

 取り締まる側と癒着があったとしても、何らおかしくはない。

 シェライラを見やると、唇を噛んでいた。

 握ったら拳が掌に爪跡を残していそうだ。


「ならば、次にわたくしも謝罪させていただきますわ。前領主が怠けていたおかげで、養護院の助成金が他事に回されていました。わたくしが領主に赴任してきてからも、それは続いており直ちに改善させていただきました。役人を信じたわたくしが、愚かでした。申し訳ありません」

「ご領主様に、罪はありません。あるのは前任者が残した負の遺産です。ご領主様は、町の行政を正す行いをなさっております。ご存知ですか? 貴女の改善策で、子供を奉公と言う名目で、売らなくてはならなくなった家族が助けられているのです。感謝することはあっても、非難する住人はおりません」

「ですが、貴殿の養護院は担保に取られてしまいました。助けたとは言い難いものがあります」


 シェライラ曰く、シスターと交わした書類は正しいものであり、司祭が分割払いにしたとしても期限内にお金を用意できないのが発覚した。

 養護院だけでなく、複数の案件があり、領主が負担してあげるには数がありすぎた。

 養護院だけ助けたら、他の所は助けないのかと不満が勃発しかねないし、悪どい高利貸しが我先に強請りに来るだろう。

 助けたくても助けれない。

 シェライラ個人の資産を投げうつには、無理がありすきた。


「父さん。家がなくなるのか?」

「僕達は、どうなるの?」

「済まない。甲斐性がない、父さんでごめんな」


 事態を把握した男の子達が、泣き始める。

 母親の病の薬が手に入っても、帰る場所がなくなる。

 もしかしたら、別々の養護院に引き取られるのを余儀なくされるかもしれない。


『ならば、ここへ引っ越ししたらよいのではないか? 土地が広大にみえるが、人手が足りないだろう』


 しんみりとした雰囲気をぶち壊したのは、灰色狼君だった。

 皆、誰が発言したのか互いに顔を見合わせる。

 ごめん。

 灰色狼君。

 今まで、君の存在を忘れていたよ。


『大人の男からは、土の匂いがする。土いじりをしている証左だろう』

「えっ? うわぁ、犬が喋った?」

『失礼な。我は、神々が最初に産み出した古代種の流れを汲む、森林狼ぞ。魔法も操る偉大なる狼ぞ』


 マイク少年が驚愕して、灰色狼君を指差す。

 存在が稀薄だった灰色君が、牙を剥き出す。

 犬呼ばわりされて、お怒りである。

 誇りある種族に、けちをつけられたら怒るわな。


『折角、我が名案を提言してやったのに、なんたる侮辱。もう、知らんわ。勝手に悲劇を演じれば良い』


 ぷいと顔を背けて、伏せる前肢に乗せる。

 あー、それね。

 私も考えたのだけどさ。

 そうすると、シェライラが断念したように、我もと破産した家族が押し掛けて来そうなんだよね。

 迂闊に誘えやしないでいたんだ。

 同情はするが、親切の安売りはしない。

 と言うか、保護者の男性を信じるに足りるかどうか、見極めないとならないからね。

 知られたくもない称号やら、秘匿しないとならない案件が多々ある。

 だと言うのに。


「「「「「働かせてください」」」」」


 どこかの、ジ○リ映画の一場面よろしく、男の子達が眼前に並んで頭を直角に下げた。

 私は、湯ばあばかっての。

 どうするかな。


「身元は、わたくしが保証できますけど。貴方達、無闇矢鱈に農園で知り得た情報を吹聴しないと、約束できますか?」

「シェライラ?」

「領主館でも、お話し致しましたが。マクレーン女史にも、助手が必要ですから、適材適所ではないかと」

「お姉様の案には抜けがあります。あの家畜達に、この子達が馴染めるかが、不安になります」

「因みに、女史が飼育する家畜は、ワイルドコッコと、グレイトモーモーでしてよ」


 鶏に牛?

 やたらと、名称が厳ついものだ。


「魔獣じゃんか。家畜じゃないよ。それ」

「ミーアお姉ちゃん。危ない魔獣だって、爺ちゃんが言ってたよ」

「以前の話ですが、ランカでワイルドコッコを飼育していた農家がいました。ですが、森より魔物がワイルドコッコを狙って現れるようになり、いつの間にかその農家はいなくなりました」


 魔獣、魔獣かぁ。

 魔物が狙うぐらいなんだから、きっと美味しそうな卵を産んだり、お肉になるのだろう。

 喜色を浮かべる私に対して、男の子達は青ざめる。

 もしや、発言を撤回する気かな。

 様子を伺っていると、マイク少年が頭を左右に振った。


「魔獣なんかに、負けるもんか。ミーアさん、俺だけでも働かせてください」

「僕も独り立ちして、養護院を出たいです。そうしたら、他の幼い子達を食べさせてあげられる」

「うん、そうだよな。食い扶持が減れば、お腹一杯に食べさせてあげられるよな」

「お願いします。働かせてください」

「僕もです。お願いします」


 おう。

 度胸があるなぁ。

 まあ、それだけ逼迫した経済事情があるのだろう。

 保護者さん。

 ここまで、子供達に察せられたのは、保護者さんの過ちだからね。

 甲斐性がないのは、充分に理解した。


「分かった。君達は、雇う。だけど、いまいる五人だけしか雇わないのは、理解して。見てわかる通りに、まだ農地は未開発。となれば、出荷する農作物はない。家畜もいない、まだ手探り状態の農園に本気で雇われる?」


 人外さんがくれたお金や、ユーリ先輩が残した遺産を売れば、

 かなりの資産は所持していることになる。

 それを悟られ、あてにされるのは業腹だ。

 養護院を卒業する子供がうちの農園に、就職できるのではないか。

 だなんて、話が広がるのは避けたい。

 確かに、人手が足りない。

 けれども、焦って人を雇い、問題を起こされたくはない。


「君達の意思が固いなら、両親を納得させなさい。それに、渡したポーションをお母さんに使用してあげなさい。君達はその為に無茶をやらかしたのだから、母親にも叱られなさい。それから、話は詰めようか」


 覚悟を決めたマイク少年が、大きく頷いた。

 続いて、残りの男の子達も真似をする。

 マイク少年達の保護者は、養護院の両親にあたる。

 無断で雇いいれたら、罪になるのは私の方になる。

 だから、自分の言葉で了承を得なさい。

 そうしないと、先には進めないから。

 でも、きっと男の子達は戻ってくるだろう。

 力強い意思が宿る瞳をしていた。




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