057 お説教が始まりました(後)
騎士さんのお説教が始まり、保護した男の子達は力なく肩を落とす。
養母の病の薬代を稼ぎたかったのだろうけど、対価に目が眩んで過ちをおかしてしまった。
騎士さん的には、私に治療させたいのが丸わかりに持ち出した情報であるも、その話には乗る気はなく。
ないが、このまま見捨てたら後味が悪くなる。
「お母さんの病の原因はなに?」
「最初は咳が止まらなくて、風邪が悪化しているって、医者は言った。だけど、処方された薬を飲んでも治らなくて、月に一度領主様が派遣してくれた治療師が、肺に異常があるって教えてくれた」
「でも、診察はするけど、薬代が高くて出せない。聖母教会のシスターが肩代わりしてくれて、一時は良くなったんだ」
「だけど、後で高額の薬代を請求されて、お父さんが養護院の土地を奪われるかもしれないって、沢山仕事を掛け持ちして、毎日疲れて帰ってくるんだ」
成る程ね。
それで、見るに見かねて、薬代を稼ごうとしたのか。
あのシスター、またやらかしていたよ。
今は、裁判の証拠集めで王都に護送されたときいたけど、やらかした犯罪がどれだけ表面にでてくるのだろうか。
所謂、親切に見せかけた高利貸しをしたわけだ。
どれだけ、金の亡者だったんだろう。
それに、派遣した治療師って、私に絡んできた輩だろう。
あんな態度なら、満足に治療行為をしたとは思えないな。
幸いにも、ユーリ先輩が残したポーション類がある。
上級万能薬と、体力回復用の中級ポーションを取り出した。
「見ず知らずの他人から、受けとりたくはないだろうけど。これは、女王陛下からの恩情だと思って受け取りなさい。まず、翠色のポーションを飲ませて肺が痛くなくなったら、青色のポーションを飲ませて。もし、両方のポーションでも効果がなかったら、領主様に訴えて、紫色のポーションをくださいと言いなさい。その辺は、根回ししておいてあげるから」
さすがに、子供に秘薬、霊薬、仙薬なんかは、持たせられない。
紫色のポーションは、それらの隠語である。
シェライラが錬金術で作製できなくても、ユーリ先輩の遺産が眠っている。
時間経過による劣化がない、アイテムボックスになっていた腕輪の中に万単位でストックされていたから、私の懐は痛まない。
国民の為に使われるなら、本望だろう。
「何で、そんなに助けてくれるんだ?」
マイク君の言葉は刺々しいが、涙に濡れた瞳とぶつかる。
助かるかも知れない安堵と、見ず知らずの他人が差し出す薬を受け取ってよいか揺れている。
他の男の子達も警戒はしているが、ポーションに視線が集まった。
「教会にいたシスターに対する嫌がらせと、君達がお母さんの為に行動した勇気に支援したくなったからかな」
「少年、受け取りなさい。この細工師は他人を騙す人柄ではないし、たんまりとポーション類は逸品を所持しているから、シスターとやらと違ってお金は請求しないから」
「アンナ様に、同意します。ポーションの十や百提供しても損はしないでしょう」
「うん。俺の父ちゃんも助けてくれた。騙したりする姉ちゃんじゃないのは確かだ」
躊躇う男の子達に、アンナマリーナさんとナイルさんに、ロイド君が助け舟をだす。
騎士さん達も頷いているのを見て、マイク君がおずおずと受け取り、大事そうに抱える。
袋がいるかな。
手頃な袋がなくて、劣化を防ぐ魔法袋を取り出して渡す。
「この袋に要れて帰りなさい。少しの衝撃にも耐えて割れたりしないから」
「姉ちゃんは、魔法師なのか?」
ん?
虚空からポーション類を取り出したりするから、技能持ちだと思われたかな。
偽装の事が、すっかり抜けていた。
「精霊魔法師だよ」
「じゃあ、あの兄ちゃんは守護者なんだ」
「まあね。精霊が気になる?」
「シスターが金を請求に来るたびに守護者に力を奮われて、納屋や家が壊されたりした。でも、姉ちゃんの守護者は助けてくれた。精霊に悪い印象しかなかったから、不思議な感じがする」
シスターめ。
精霊の評判が下がる行いしかしてないな。
守護者の契約を破棄されたのも、自業自得だ。
私が介入しなくても、直に見放されていたかもね。
精霊に人を攻撃させたら、狂気化して堕ちた精霊になってしまう。
そうなったら、契約者の指示にも従わず、狂乱のままで暴れたりする。
位階による力の強弱はあるが、自然災害に発展して、討伐されて消滅するしかなくなってしまう。
人に狂わされて、上位の精霊が処罰するしかなくなる。
うちのお子様ズが、幼い外見で大精霊に昇格したのも、先代の大精霊があまりにも眷属を処罰したストレスで自滅してしまったからだ。
人との契約は、精霊にとって諸刃の剣だった。
三柱の大精霊が代替りして、人に関心のなかったフィディルやファティマ達上位属性の大精霊が、無条件での契約をしないように全精霊に通達したのは、遅かった。
人と契約したが為に、消滅した精霊の数は千どころではない。
ゲーム内で使い潰すプレイヤーが多すぎた。
より上位の精霊を、より外見の優れた精霊を。
人の欲は果てしなかった。
「精霊は自身の欲の為に、人を傷付けたりはしない。更迭されたシスターも、守護者との絆は断ち切られた。罰が下ったのだ。しかし、解せないな。聖母教会に新しく赴任された司祭には、近隣の養護院の状況を把握して報告するように義務づけたのだがな。君達の養護院には、助成金がでている筈だが」
「金の貸し借りは証文があって、金は返さないとならない法律だから、助成金は真っ先に借金として返した」
「それは、違反だな。助成金は、養護院を運営する為に配られたお金だ。幾ら、借金があろうと、渡していいお金ではない。これは、領主様に奏上しておこう」
おい、聖母教会には、まともな人材がいないのか。
シスターは金の亡者で、大精霊石を砕いてお金に代えるわ、適性検査でお金をせしめるわで、ろくなことをしていない。
後任者も、まともな人柄ではなさそうである。
そんなので、関係改善になるかっての。
冒険者ギルドといい、聖母教会といい、最初の理念に外れていくばかり。
やっぱり、潰した方が良くないか?
「マスター、お客様です」
「誰?」
「ジルコニアのマスターと、ダイアナのマスターです。後一人男性がいます」
レオンではなく、フィディルが報告してくるのは移動手段が空を翔んできているからかな。
まあ、風の大精霊と次ぐ精霊の二柱がいるから、安全飛行でいるだろう。
入場許可をだす。
「ダイアナのマスター? アナスタシアが何故に、来ている」
「フォレスタ領からは、報告はありません。もしや、単独行動かもしれません」
「狙いは、細工師ね。それと、守護者。まあ、喧嘩を売るなら、私が買えばいい」
アンナマリーナさんが、憤る。
いや、アナスタシアちゃんはツンデレ少女なだけだから、喧嘩をするな。
するなら、アナスタシアちゃんに味方するからね。
精霊同士の念話でやり取りしていたからか、門前で減速することなく、一行はやって来た。
きちんと、風魔法で砂ぼこりを起こさず、着地する。
「ミーア様。状況はどうなりましたか?」
「魔物の襲撃は収まったかしら? まあ、随分と薄汚れた子供だこと、これでは父親も……」
「アナスタシア! この土地での暴言は止めなさい。貴女の意識の方が……。痛い。細工師、何故に叩くのか」
「ダイアナ。意訳は?」
早速、見下した言い方のアナスタシアちゃんだけどさ、表情をよく見ると、案じているのが分かるだろうに。
思わず、アンナマリーナさんの後頭部に手刀をかました。
ダイアナが主を庇う立ち位置に付いたので、意訳を促してみた。
「ウィンチェスタ令嬢からは、口を挟むなと言われておりますが。ミーア様の指示に従います。訳、魔物の襲撃によって皆様は怪我をなされていませんか。そちらの、男の子達は平民の様ですが、お父様が探しておられた子供達で間違いはないのでしょう。お父様は、大変に身を案じていました。怪我がなければ、早くお母様に安全な姿を見せてあげなさい」
「は? 訳?」
そうか、アンナマリーナさんとアナスタシアちゃんが拗れた仲なのが判明した。
悪いのは、最後まで話をさせないアンナマリーナさん側にあるんじゃないか。
私の中で、アンナマリーナさんの株は大暴落した。
傲慢な令嬢が、進んで魔物が襲撃してきたであろう場に来るかっての。
ちゃんと、動きやすいようにパンツルックに着替えて来るかっての。
装飾品も髪を纏めるだけに抑えているのを気付け。
「アンナマリーナさん。アナスタシアちゃんは、ツンデレ少女だ。んで、守護者は本音を語る立場にいる。不仲なのも、アナスタシアちゃんの言葉がきついのもあるけど、最後まで話をさせないアンナマリーナさんが悪い」
「ツンデレ。アナスタシアがツンデレ」
「そう、ツンデレだ。私にも突っかかってきたけど、内容を精査すると庇う素地が見えた。序でに言うと、ダイアナは少年体だからね。教えてくれないのは、不仲を改善しないアンナマリーナさんを信頼できていない証拠だからね」
「はあ? ちょっと、待て」
アナスタシアちゃんの為に暴露してみたら、アンナマリーナさんが固まった。
せわしなく、視線がいったり来たり。
「追記させていただくと、シアの守護者が少年体であるのは女王候補者だけに伝わり、秘匿しておりました。身内にさえ相談できない環境に、わたくし達一部の候補者が随分とやきもきさせられていました。知り得たからには、年長者として庇護していただきますわ」
きつめな眼差しで、アンナマリーナさんに言い寄るシェライラ。
身内に味方がいないとは、家族にも甘えられてなかったのだろう。
不憫なアナスタシアちゃんであるが、今後はアンナマリーナさんに盾になってもらうといい。
ん?
それだと、我が家に住人が増えるのか?
ますます、避難場所になってくるなぁ。
「アンナマリーナお姉様」
「な、何」
「私は言葉がきついと何度もお叱りを受けましたが、ダイアナを守るためには仕方がありませんでした。国が興り、初めての少年体の守護者。
お母様やお兄様に知られたら、私はより良い政略の駒になってしまいます。また、女王候補筆頭のシェライラお姉様の、敵になるのは必定でした。ですが、女王陛下やシェライラお姉様の守護者は、大精霊です。実力的に劣る私が女王には、なれません。それなのに、お母様やお兄様はアルバレア家も巻き込み、陛下やシェライラお姉様方を貶める策を講じるでしょう。ですから、私はお姉様やアレイお兄様やアレクお兄様には、嫌われなくてはなりませんでした」
アナスタシアちゃんの告白に、掛ける言葉がない。
一人でダイアナを守り、身内と険悪な仲を演じないとならなかったのか。
理由を知ると、シェライラがアナスタシアちゃんに肩入れするのも無理がない。
息抜きの場になるなら、受け入れてあげたくなる。
頑張ったね。
だから、少し羽根を休めたらいいよ。




