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女王⁉ 聖女⁉ いえ、ただの農業オタクな細工師です。  作者: 堀井 未咲
第二章 貴族の在り方

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054 お馬鹿なペットができました

『俺は反対だ。何故、初見の人間に託す。森を守護してきた誇りはどうした』


 宝珠を受け取り、アイテムボックスに仕舞ったら、アルビノ種と変わらない体長の灰色をした狼が群れの中から飛び出してきた。

 アルビノ種が誕生してなかったら、この灰色狼が群れを率いていたのかもしれないなぁ。

 話す声音が若そうにみえた。

 血気盛んな若造かな。

 対してアルビノ種は、口元を大きく歪めていた。

 どうやら、問題児らしい。

 人間を快く思っていない。

 そんな態度がありありと伝わってくる。

 フィディルとレオンがやや警戒しているも、脅威とは感じてはいない様子である。


『愚弟は鈍感だから、理解できていないんだ。大地の御方や時空(とき)の御方が契約する人間だよ。本気で敵対したら、駆逐されるのは僕達だと分からないかなぁ』

『俺は精霊が人間に従うのも気に入らない。力ある存在が隷属するだなんて、おかしいだけだ。御方とか、誇り高き我等が阿ねるのも、おかしい。精霊も我等に従えばいいんだ』


 あはは。

 このお馬鹿な狼さん、こてんぱんに伸してやりたい。

 精霊が人間に従うのは毛嫌いするわりに、己には従え。

 何て、阿呆な思考しているかな。

 そりゃあね。

 大精霊が人間に隷属していると揶揄されても仕方はないよ。

 人間よりも、精霊の方が格は高いからね。

 人間を嫌う精霊がいるのは事実だし、契約してくれるのは退屈凌ぎか、完全な好意からきているんだし。

 時空属性の精霊が契約してくれる確率は低い。

 私がフィディルと仮契約した時は、人間に精霊が従うのに相応しいか見極める為だった。

 フィディルとファティマは精霊を単なる便利な道具扱いしていた、プレーヤーに囚われた精霊を解放していたからね。

 二柱の何の琴線に触れて交流してくれるのか一時は悩んだほど、フィディルとファティマはプレーヤーには攻略不可能な大精霊だと流布していた。

 だから、仮契約からの本契約をした私は、プレーヤーからのやっかみが根深かった。

 酷いと晒し行為が横行したり、改造ツール使用虚偽報告を運営にされた。

 運営は度重なるGMコールに誠実に対応してくれた。

 違法な改造ツールは使用してはいないことと、精霊が従うに相応しい行いを私がした結果だと結論づけた。

 そして、ユーリ先輩の危険性を教えてくれた。

 あの当時は、ユーリ先輩を面倒見の良い人だと信じていた。

 けれども、大精霊に相応しい人材ではないと人一倍GMコールしていたらしい。

 そして、運営に私を処分して貰いたいがために、私の心証を悪くする噂を流させていたのが判明した。

 それが、私がユーリ先輩に盲目的に従うのを止めた切っ掛けになった。

 ユーリ先輩の悪意を身近に感じて、反ユーリ先輩同盟を組んでいたクランメンバーを知り、クランを脱退した。

 主要なメンバーが脱退したのを機にクランは瓦解したが、ユーリ先輩は目論見が外れたら執拗に大精霊と契約するのに拘った。

 三柱と契約するに至ったが、ジルコニア以外は顕現させる実力がなく、ヴァイオレットとヴィオレッタと契約したのは奇跡に近かった。

 が、それはユーリ先輩を崇拝する人物にレットとレッタを差し出させていた。

 後に知り、フィディルが契約から解放したいと訴えていた。

 だが、レットとレッタはユーリ先輩の自滅を促していて、解放に頷かなかった経緯がある。

 それが、叶ったのか。

 この世界でレットとレッタが守護者システムに組み込まれていたのを見るに、叶わなかったのだろう。

 ユーリ先輩も、自分に反抗的な二柱を使い潰す気でいたのだろう。

 腹が立つ。

 灰色をした狼の自己顕示欲が、ユーリ先輩を思い出させて感情の抑制が効かなくなってきている。

 決闘して、鼻っぱしらを折ってやりたくなってきた。


『お姉さん。物騒な事を考えていない?』

『はん。大方、自分の方が優っていると反論したいのだろう。いいだろう。その考えが間違いだと、俺が知らしめてやる!』

『愚弟? 止めろ。群れを、破滅させたいのか‼』

『ガアアア‼』


 灰色狼が私に向かって牙を剥き出しにして、飛び掛かってきた。

 速度に乗った一撃だったのだろうが、見え見えの手段に誰が引っ掛かるか。

 ひょいと、素早く横にステップを刻む。


「マスター、お遊びですか。まあ、マスターが負けるとも思いませんが」

「フィル兄に、同感。頑張れ、灰色狼。マスターが、遊んでくれるぞ」


 フィディルとレオンが、私から距離を開けた。

 私が動きやすいように、してくれたのだ。


『ぐぬぬ。中々、すばしっこいな』

『愚弟。群れ一番に素早く仕留めると自負しているんだろ。何を、遊ばれている』


 牙と爪で引き裂こうと躍起になる灰色狼だけど、動線が見え見えな動きに対処がしやすいんですけど。

 紙一重どころか、余裕で躱せる。

 灰色狼の牙や爪は、私に掠り傷を負わせることはなく、空振りするばかり。

 大精霊の支援もいらない戦闘に、どう心を折ってやろうか。

 何回めの突進を躱して、考え事をする余裕がある。


『このっ! すばしっこい奴め。いい加減、俺に殺られろ。そして、兄より俺が正しいのを分からせろ』

「阿呆くさ。体よく、権力欲しさに利用しないでくれる? 【足止め(スネアー)】」


 大地の精霊魔法を行使した。

 案の定、頭の中まで脳筋な灰色狼は簡単に引っ掛かる。

 四肢を足止めされて体勢が崩れた。


『なっ⁉ 人間の魔法にだと?』

「真面目に戦闘するの、飽きてきた。どう? 馬鹿にした人間に負ける気分は」

『誰が負けるか。こんな魔法で、俺の動きは止められるか!』

『いや、愚弟。実際に、止められているから。現実を知りなよ』


 アルビノ種の呆れた評価に、灰色狼が激高した。


『グルゥラアアア‼』


 威勢よく吠えたかと思うと、身体が膨れ上がった。

 筋肉の躍動で、精霊魔法に抵抗した。

 だけど、そうは問屋がおろさない。


「【茨の檻(ソーンゲイジ)】、【重圧(ヘビィプレッシャー)】」

『ぎゃん』

『あーあ。呆気ない』


 樹木の精霊魔法で身体を拘束して、時空属性の重力魔法で重力を支配する。

 灰色狼は重力に負けて、地面に潰されていた。

 本当に呆気なく魔法に掛かる。

 のたうつことも出来ず、灰色狼は身動きするのを止めた。

 アルビノ種が嘆息する。

 緊迫する暇もなく、戦闘が終わろうとしていた。


『ちょっ、……まって。ま、まけ……ぎゃん!』


 灰色狼が何か言おうとしているが、関係なし。

 重力魔法を倍にしてみた。

 更に、潰される灰色狼。

 内臓が飛び出す寸前までで、勘弁してあげる。

 正味二分も耐えられず、灰色狼が派手に泣き出した。


『う、うわーん。兄ちゃん、助けてぇ~』

『愚弟、君には恥も外聞もないのかな?』

『た、たすけてよ~』

『はあ、仕方ない。こんなのでも、僕の弟だしね。お姉さん、そろそろ終わらせて欲しいな。あっ、命をではなく、魔法をだけど』


 とことこ、潰されている灰色狼の側に寄ってきたアルビノ種が、五体投地した。

 土下座の代わりだろう。

 本来なら、無防備なお腹を晒すのが流儀だろうが、長がそう易々と謝罪したら面目が保てない。

 まあ、腹が立ったけど、あまりにも無様ななりに、急速に冷めていく。

 全ての精霊魔法を解除した。

 すると、解放された灰色狼の身体を鼻先で裏返すアルビノ種。


『君は負けたのだから、降伏しなよ。僕は怒っているんだからね。しないと、本気で噛むよ』

『ぐすっ。分かっているよ、兄ちゃん。ぐすっ。ちゃんと、降伏します』


 矜持が高そうな灰色狼だけに、反抗するかと思っていたら、見事にお腹を晒した。

 目には涙を含み、敵意がないのを態度で示す。


『ん。お馬鹿な愚弟だけど、素直に謝罪できたから良しとする。でも、お姉さんには、謝罪だけでは済まないよね。うん、こうしようか。大地の御方の話だと、お姉さんの家は農園をするんだってね。こんなお馬鹿な愚弟だけど、ベルゼの森では強い個体だから、農作物を狙った魔物ぐらいは排除できるよ。ぜひ、償いに番犬代わりに使ってやって』

「えー、いらない。うちには家畜も来る予定だから、怯えさす番犬は必要なし」

『そこを、何とか。こんなお馬鹿な愚弟だけど、本当にお馬鹿な愚弟だけど、群れにいたらまた付け上がるし、下手をしたら間引かないとならなくなるし。迷惑をかける愚弟だけど、僕の唯一の弟なんだ。修行に出すの、赦してくれないかな』


 きっぱりお断りできない、情に訴えてきたよ。

 さて、どうするかな。

 うちの農園に、番犬は必要ないと思う。

 怖がりのエスカを苛めないとは限らないしなぁ。

 本当に、どうするかな。


『お姉さん。悩んだりするってことは、何か躊躇う案件があるんだね。教えて貰える? 愚弟を押し付けるんだ、不利な条件でも聞くよ』


 アルビノ種が、何が何でも灰色狼を押し付けるのは、退っ引きならない事情があるんだよね。

 間引く発言したから、灰色狼は他にもやらかして命の危険がある。

 アルビノ種は、なるだけ処分したくはない。

 身内だからと言って、愚弟を庇っていたら群れを率いる資格はないと判断される。

 アルビノ種も微妙なラインを踏んでいるのかも。

 はあ。

 溜め息がでてくる。

 フィディルとレオンは静観な構えだ。


「分かった。ただし、うちの農園の住人に牙や爪を向けたら、即叩き返すからね。闘えない子供がいるから、見下したりしたら……」

『幾ら何でも、庇護する子供を排除はしない。子供は群れの宝だ。それに、マスターの群れに加わる新参者()は、一番下っ端だ。それぐらいの、分別はあるつもりだ』


 ん?

 灰色狼が私の言葉を遮った。

 脳筋らしくない思慮がある発言に、心証が変化した。

 アルビノ種が、灰色狼を前足で小突く。

 もしや、これは灰色狼を群れから出したいアルビノ種が仕組んだことか?

 疑問が湧く。


『ごめんなさい。お姉さんを試す為に、仕組みました。弟は悪くありません。僕が全ての責任を取ります』


 また、アルビノ種が五体投地する。

 何やら事情があるらしい。

 どうも、込み入った事情みたいだ。

 なら、受け入れるしかない。

 灰色狼かアルビノ種か分からないが、危機的状況にあって、仕組んだのだろう。

 宝珠を託されたのも、その辺りの事情があるとみた。

 森の番人の勢力図が変わる節目にあるか、他の二種から攻め入られているのか。

 そうした事情は、後から密かに灰色狼から聞いてみよう。

 もう、私の中では受け入れる姿勢になっていた。

 穿った見方だが、灰色狼も馬鹿をやらかさないと生き延びてこれなかったかもだ。

 そういうのに、弱いんだよね。

 弱者を虐げる輩には持てる手段で鉄槌を、が心情の私であった。




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