052 切れあじ抜群でした
疾駆のスキルを使用して森の中を駆ける。
まばらに生えていた樹木は、奥へいくほど密集している。
根っこに足をとられないように気を付けて走る。
でも、樹木の大精霊たるエスカの守護がある私に対して、密集していようがお構い無しである。
どこに足を降ろせばいいか、転ばないか分かる重宝するスキルもある。
時空を司るフィディルもいるので、進行方向の空間も歪む。
疾駆しやすいように道が出来上がる。
暫く、駆けていると剣戟や怒声が聞こえ始めてくる。
前方に土の壁が見えてきた。
「レオン」
名を呼ぶと壁に穴が開く。
人一人入れる狭さだけに、内側の何かを出さないように配慮したのだろう。
此方も警戒して、白雪に触れながら穴を潜る。
フィディルが続く。
果たして、ちょっとした広場になっていた壁の内側は荒れていた。
大型の魔物を初めて見た。
全長十数メートルはある蜘蛛型の魔物だ。
鑑定するとフォレストスパイダー亜種と出る。
「マスター、冒険者が子供を囮にしていた。狙いは希少種のハニービーの蜜玉らしいけど、厄介な魔物のテリトリーに入り交戦していた」
「みたいだね。でも、見たことある冒険者が雑ざっているね」
「眷属の情報だと、後から来た冒険者は、子供を囮にした冒険者を捕まえにきたみたいだ。それと、子供の保護」
私が観察するに、二組の冒険者らしき団体がいた。
一組は子供を囮にした冒険者で、かなり重傷者がいる。
樹の根本に横たわる者、凭れて荒い息を吐いている者を治療師の女性が回復していた。
もう一組は大型の魔物と交戦して、重傷者に魔物の目が向かないようにしている。
だけど、一人を除いて打撃を与えられていない。
魔物は弱い者を狙う。
辛うじて渡り合っているが、攻撃が効いていない為に、一人の負担が大きい。
「貴女は、少年の身内ですか?」
「少年が誰を指すかしらないけど、この子は私の守護者だよ」
「……守護者。そうでしたか、では背の高い女性と男性が子供を抱えて逃げていませんでしたか?」
「その子供と大人二人は、私の農園で保護してある。ここより安全だから、心配はいらない」
呑気に会話している場合ではないのだけど、治療師に捕まった。
まあ、囮にされた子供を心配しての行為だろうけどさ。
フィディルに目配せして、魔物に向かわせる。
虚空から剣を取り出して、白い虎耳のレードさんに並ぶ。
何だか、レードさんに縁があるな。
いや、彼は冒険者ギルドの上役だからか、駆り出されたのだろうな。
子供を囮になんてお馬鹿な事をやらかした冒険者を見捨てても、バチは当たらないと思う。
が、ギルドにしたら弱者を助けない訳にはいかないか。
〔マスター、魔法の使用許可を〕
〔了解。まあ、腕利きさんもいるみたいだから、安全考慮して〕
〔了承しました〕
フィディルの時空魔法は、攻撃に際して威力がありすぎる。
空間断絶をしたら、大型の魔物だろうが真っ二つになる。
実力を隠すのと、冒険者側に花を持たせてあげないとね。
キシャアアアア!
〔失敗しました〕
魔物が悲鳴をあげた。
見ると、フィディルが脚を纏めて数本断ち切っていた。
亜種だけに防御力に優れていた魔物は、過信していたのだろう。
自分が敗北するだなんて、微塵も思ってはいない。
現にレードさん以外の冒険者の攻撃は通じていない。
「くそっ、硬いんだよ」
「おい、恐慌状態に入るぞ」
「レード。重傷者を逃がせ」
魔物の複眼が紅く、深紅に変化していく。
残った脚でやらためったに、周囲を薙ぎ払っている。
キシャアアアア!
空気を震わす声が木霊する。
「マスター、上!」
レオンの注意に、頭上から襲いかかってきた魔物を小太刀で一閃する。
カチンと金属が擦れる音がした。
ギャッ!
しかし、白雪は成果をあげる。
硬質的な何かを切断した。
「メタルスパイダーだわ。あの大型蜘蛛が呼び込んだ?」
治療師が魔物を鑑定する。
へー。
まあ、襲いかかってくるなら、返り討ちするだけである。
大型の魔物はレードさんと、フィディルに任せよう。
私は、小物狙いでいく。
「メタルスパイダーは、関節を狙って対処して。でないと、ミスリル以上の武器でないと、刃こぼれしてしまうわ」
はいな。
了解しました。
頭上から襲いくるメタルスパイダーを、白雪で切り払っていたら忠告された。
ようするに、魔力を含まない斬撃には耐性がある訳だね。
リィィン。
脳内に鈴の音が響く。
白雪からの催促だね。
一撃で撃退できないのは、伝説級のレジェンタリの沽券に関わる。
魔力を白雪に込める。
淡く白銀の輝きに包まれる白雪で、頭上から襲いかかるしか能がないメタルスパイダーを切り伏せる。
君達では、白雪の相手に不足があるみたいだよ。
難なく、切り払われていくメタルスパイダー。
レオンも土の槍を作り応戦していく。
「凄いわね。メタルスパイダーを紙を破るみたいに、対処してるなんて。守護者も自律型だし、さぞ名が知れた冒険者なのね」
感心していないで、早く治療しなよ。
血の匂いを嗅いで、更なる魔物が来るかもだけど。
何だか、のんびりした治療師だよ。
「カレン、魔物が寄ってくる。早く治療を」
「はぁい。魔力も回復してきたから、【治癒】【治癒】っと」
そこは【集団回復】ではないかなぁ。
単体にちまちま回復しても、焼け石に水だと思う。
効率が悪いと思わないのか?
マナー違反になるから、個人の鑑定しないけど。
レベル高そうなローブを纏い、治癒しか唱えないのは何故だろう。
「グゥ。早く痛みを解消してくれ」
「何、阿呆な事を言ってるの。貴方達には、戦えない子供を囮にした罰がある。歩けるだけの治療しかしないわ」
なーる。
傷を癒して逃げ出さない処置か。
でもさ、足手まといになっている現状を、どう認識してるのだろう。
見ず知らずの相手に、背中を預けて大丈夫だと判断するのは何故に?
あれか。
囮にされた子供を保護したからか。
うーん。
分からん。
取り合えず、襲ってくる魔物は退治していく。
魔力が馴染んできた白雪の、切れあじも増していく。
関節を狙わなくても、真っ二つにしている。
メタルの名が泣く、退治っぷり。
〔マスター。倒して構いませんか?〕
〔こっちも、単純作業になってきたから、了承〕
〔では、小技いきます〕
メタルの退治数が二十を越えたあたりから、飽きてきた。
脅威を感じない作業は、苦痛だ。
いや、命のやり取りしているから、油断は大敵だ。
大型の魔物は取り巻きを延々と呼び、脚やら牙やらでレードさんとフィディルを警戒している。
レードさんも攻めあぐねて、躊躇いが生まれている。
重傷者がいるから確実な、退治が望ましいのは分かる。
が、時間のかけすぎである。
フィディルも飽きてきたみたいで、精霊魔法を駆使して大蜘蛛を一刀両断した。
左右に別たれていく大蜘蛛は、それでも脚を振り回して足掻いている。
付け根から、断ち切られていく脚。
全ての脚を無くし、身体を断ち切られた大蜘蛛は、やがて動くのを止めた。
「助力、助かった。ありがとう」
「兄ちゃん、凄いな。冒険者?」
「違う。あの少年とこの青年は守護者だ。あちらの少女が主だ」
「うわっ。メタルスパイダーを両断する腕の持ち主か。もしかしたら、俺達よりもランクは上か?」
「ビクターよりは、上だ。これ以上の詮索はタブーだ」
「だな。まあ、嬢ちゃんも、兄ちゃんもありがとうな」
大蜘蛛が倒れても、周囲を警戒している冒険者がにこやかに語りかけてきた。
ミスリル級なのはレードさんも知っているからか、参戦に関してはお咎めはなし。
最後のメタルスパイダーを両断して、レードさんの側に行く。
「五人ほど、子供を保護したけどね。一体、何人の子供を囮にしたか、分かってる?」
「やつらが、ギルド内で募集した時は三人だった。しかし、町を出た時は二人増えていた。どうも、子供達が連絡しあい纏めて雇われたようだ」
「ふーん。で、冒険者ギルドの不手際に、上役さんがでばってきた理由は?」
「……やつらの、本来の目的はベルゼの森に住まう森林狼のアルビノ種だ。希少種の保護といった名目で、どこぞの貴族が欲しがった。ああ、やつらは他の町を根城にする冒険者で、ベルゼの森に詳しくはなかった。確かに、森林狼はハニービーの蜜が好物だが、今の時期に採取なぞしたら、こうなる」
苦虫を噛み潰したレードさんは、怒りの表情でお馬鹿な冒険者を見やる。
ハニービー自体はおとなしい、人を攻撃しない魔物だとは聞いた。
ある程度の蜜玉を分け与えて、天敵から身を守っている。
また、ハニービーの蜜玉の中でも特に価値が高いロイヤルエキス入の蜜玉は、大蜘蛛の好物だった。
お馬鹿な冒険者は、誘引をする蟻を虫箱にいれ、子供を囮にした隙に蜜玉を入手して、本命の森林狼のアルビノ種を捕縛する計画をしていた。
しかし、誘引された魔物は大蜘蛛だけでなく、熊型や鹿型やらも寄ってきて、逃げるに逃げれない状態に陥った。
子供を囮にしようとしたら、森の異変に気付いた少年と三人の男女が来て、子供を奪われた。
ナイルさんらしき男性は、レードさん達が加わった隙をついて逃げ出した冒険者を追っていった。
レオンの眷属情報によれば、農園にて捕縛してあるそうな。
「森林狼のアルビノ種は希少種だが、森の番人でもある。それだけの、能力を有している。ましてや、蜜玉で捕縛するなぞ阿呆なやり方だ。森を知る我々でも、やらない行為だ。馬鹿が馬鹿をやらかすのは、自業自得。破格の依頼料に、飛び付いた子供も悪い。が、未成年者をむざむざ死なすべきではない」
「貴方達は、他の町から手配されているわ。同じような手段で、飢えた子供を使い潰してきたそうね」
「……ギャッ」
おお、治癒師のお姉さんが手近なお馬鹿さんの傷に、消毒薬をぶちまける。
それだけ、腹に据えかねているのだろう。
こらしめ的な扱いに、私の気も晴れていく。
ただし、それは安全を確認してからにしてほしかった。
「マスター」
「ん。察知してる」
「レード、囲まれた」
「武器から手を離せ。敵対する気はない」
逃がした子供を追わないように作られたレオンの土壁を消したら現れた件の森林狼の群れ。
じわじわと囲まれていく。
白雪を鞘に仕舞い、身体の力を抜く。
観察されている、と分かる視線の数々。
次第に、円陣を組まざる負えなくなってきた私達である。
緊迫した空気に包まれた。
一人でも得物を向けたら、牙や爪に襲われる。
威圧も含まれた視線に、自業自得なお馬鹿な冒険者が気を失った。
さて、どうしようかな。
『大地の恩恵を受ける娘。汝は、森を侵略するか?』
あら。
私をご指名ですか。
一際大きなアルビノ種の狼が、私を見据えていた。
レオンが以前に言っていた、お隣さんが彼かな。
なら、ここは友好的にいきますか。
「安心して、森を荒らす気はないから。ただし、うちの農園にそちらが侵入してきたら撃退するからね」
まだまだ、農園だなんて言えないけども。
いずれは、家畜も飼うつもりでいる。
狙ってきたら、勿論撃退するに決まっている。
アルビノ種の狼の口が牙をむき出す。
やる気なら、やるよ。
フィディルが、横に並ぶ。
反対側はレオンが。
頼もしい味方が、私にはいる。
だから、恐れはいらない。
さあ、貴方はどうする?




