051 緊急事態発生でした
アナスタシアちゃんとアンナマリーナさんの確執をどうにかしないとなぁ。
どうも、根元にアナスタシアちゃんの家族があるみたいだ。
家族を語るアナスタシアちゃんの表情は渋面だしね。
俄然、応援したくなるよ。
まずは、アンナマリーナさんに探りをいれるかな。
「マスター。レオンより、緊急連絡です」
突然に、フィディルが言った。
農園にて、何事か起きたのだろうか。
また招かざる客でも来て、お子様ズが暴れたかも。
「ベルゼの森より魔物に追われた子供を数名保護、連れだと思われる推定冒険者が魔物と交戦中です」
「! 直ちに帰るよ」
農園の南側はベルゼの森に面している。
浅い層には敵勢になりそうな魔物はいないとレオンは探索の結果、導きだしている。
災害級は森の奥深くを根城にしていて、敵対行動を起こさなかったら、森に返せとは念押ししてある。
レオンが自己の判断では解決にならないとして報告してきたのなら、かなりヤバめな事態になっているとみていい。
私の意を汲んで、フィディルが扉を開ける。
家の玄関に繋いで、先には農地が見えた。
「慌ただしくなってごめん。お暇するね」
「お待ちなさい。今から帰っても足手まといになるだけです。せめて、騎士を連れて……」
「訳、幾ら六柱の守護者がいても危険です。ここは、専門職の騎士に任せた方が良いのでは」
「ダイアナ。何故、止めるのです?」
私にすがろうとしたアナスタシアちゃんを、ダイアナが訳しながら止める。
シェライラとジルコニアの主従は、比較的落ち着いている。
窓を開け放ち、風の眷属に情報を収集させているのだろう。
私をよく知るジルコニアから、武勇伝でも聞いているであろうシェライラは、アナスタシアちゃんの側に行き肩を押さえた。
「ミーア様におかれては、難なく対処なさるかと思いますが。念の為に騎士を派遣致します。シアにはわたくしから説明を致しますので、お急ぎくださいませ」
「んじゃ、お願いね。行くよ、フィディル、ファティマ」
「「はい」」
アナスタシアちゃんが何やら喚いているのを背中越しに聞いて、手を振り扉を潜る。
玄関先には、ケットシーのララとリリに、ブラウニーのアンジーとクリスに囲まれたロイド君とエメリーちゃんが南側を気にしながら佇んでいた。
ナイルさんとアンナマリーナさんと騎士ワイズさんはいない。
うちの子達と、魔物の対処に行ったかな。
「「お帰りなさいませ」」
目敏く、ブラウニー二人が私に気付く。
律儀に頭を下げて、迎えてくれる。
「姉ちゃん。魔物だって」
「エメと兄ちゃんは危ないから、ここにいなさいってお父ちゃんが」
「父ちゃんとアンナ姉ちゃんとワイズ兄ちゃんは、加勢しに行った」
「アンジーちゃんとクリス君の側は安全だって」
やや早口で、興奮している兄妹が代わる代わる状況を教えてくれる。
畑仕事の合間の休憩タイムに、南側から鳥や小動物が逃げ出してきたのが初めの異変だった。
ああ、敵対する意思がない小動物等は通過してもよいようにしていたのを思い出す。
ほら、渡り鳥等が結界にぶち当たり怪我をしないように配慮してだけど。
鼠類や栗鼠類や兎類等が、新しく建てた納屋に逃げ込み、鳥やらが屋根の隙間に身を隠す様を見て、非常事態だと判明した。
直ぐ様、レオンとお子様ズが南側に走り、アンナマリーナさんと騎士ワイズさんが得物を取りに一旦家に入る。
怯えるエメリーちゃんを宥めていたナイルさんも、護身用の短剣を手にして兄妹の安全をララとリリとブラウニー二人に託して様子を見に行った。
戻ってきたアンナマリーナさんと騎士ワイズさんも、後に続いて今に至る。
「分かった。レオン達が南側に行ってから、どれぐらいの時間になる?」
「およそ二十分ぐらいかと」
「私達の探索範囲を越えておりますので、詳しい情報はありません。ただ、何やら魔力の濃い魔物がいるとしか、分かりません」
「了解。アンジーとクリスは、このまま待機していて、兄妹の安全を第一に考えて頂戴」
「「はい、分かりました」」
ブラウニー二人の探索範囲は起点となる家に縛られるので、農園全体をカバー出来ない。
それでも、他のブラウニーに比べたら範囲は広いのだけど。
事態が分からず不安に揺れるエメリーちゃんの頭を撫で、笑ってみせた。
「まあ、伊達にうちの子達は大精霊を名乗ってないからね。そんなに、心配しなくても大丈夫だよ。私も加勢しに行くから、お父さんは無事に戻ってくるからね」
「うん。お姉ちゃん達もだよ」
「父ちゃんが無事で、姉ちゃんが怪我をしたら駄目だからな」
「了解、了解」
気が急いて、自分も行くとは言い出さない判断に優れた兄妹に、手を振って駆け出した。
今の所は、こちら側にまで騒動の音は聞こえていないけど、かなりテンション高めなエスカの高笑いが念話でしていた。
状況を教えなさい。
念話で指示するも、聞こえてないみたいで、ちょっとやり過ぎてないか不安が残る。
取り合えず、いつでも抜けるように腰に小太刀の白雪を据える。
得意の細工で、小太刀を腰に下げる工夫をした。
伝説級な武具だけあり、日常茶飯時下げていても重さを感じない。
薙刀の望月も重量軽減されているから、あまり疲れることなく振っていられた。
本当に、人外さんには感謝しかない。
「マスター、直に接敵します」
「了解。レオン達は?」
「エスカがはしゃいでいますが、概ね許容範囲かと」
「了ー解。エスカは後で、お小言あり。あれは、やり過ぎ」
かなりの距離を全力疾走したが、疲れる素振りがない肉体に再び感謝。
序でに、貰った農園の広さに脱帽する。
ヘクタールに換算すると何万ヘクタールあるんだろうか。
今更だが、管理しきれるんだろうか甚だ疑問が湧いた。
んで、問題のエスカなんだけど。
「きゃははは。あっちいけ、ぽーい。あっちいけ、ぽーい」
結界を越えて侵入しようとしてくる魔物を、急成長させた全長三メートルある魔樹を操り、放り投げを繰り返していた。
熊型と鹿型の魔樹がぶん投げられているわ、幼児が笑いながら指示してるわで、黒鋼の鉄柵の内側に保護されている十代前後の少年三人がひきつりながら腰を抜かしていた。
ユリスとセレナは少年達の周囲を警戒していて、レオンは姿が見えない。
森の中かな。
「あっ、マスター」
「……マスター」
「ん。ユリスとセレナは、お疲れ様」
私に気付くユリスとセレナだけど、警戒は怠らず駆け寄ってはこない。
私の方から近寄って頭を撫でておくに留めた。
エスカも気付いて、
「トレントちゃん、後はお任せ。侵入はダメダメだからね」
何ともファジーな指示を出して、私に突進してくる。
まあね。
エスカもエスカで、怖がりなんだよね。
はしゃぐのは、恐怖を隠す為にしている行動なのだけど。
ちょっと、やり過ぎてるよ。
「ふぇ、マスター、エスカ、頑張った」
「うんうん。少し、はしゃぎすぎたけど頑張ったね。偉いぞ」
魔樹はエスカの指示をきちんと行使している。
でも、執拗に結界に越えようとしているのがきになるな。
足にしがみついたエスカを抱き上げて、少年達に歩み寄る。
と、セレナが少年のひとりが背負う木箱の背負子をガタガタ揺らす。
「な、何をする。こいつは、大事な物なんだから、丁寧に扱わないとだからな」
抜けている腰を懸命に動かして、セレナの手から逃れようとしている少年には悪いが、嫌な予感がしてならない。
揺らされた拍子に、甘い薫りがして魔物が反応した。
血走った眼差しで少年目掛けて、体当たりしようとしていた。
「フィディル、確保」
「はい、マスター」
「ちょっ、何をする」
「止めろよ。それを開けたら、お金が貰えない」
「母さんの、薬が……」
各自言いたいことはあるだろうが、私も君達に問いただしたいことがあるが、何よりも早くそれを隔離しないといつまでたっても魔物は君達を追うよ。
フィディルの行動は理不尽にも思うが、私は逆に腹が立ってきた。
「マスター。やはり、これが目当てです」
「やっぱりね。捨てなさい」
「了解しました」
フィディルが背負子から取り出したのは甘い誘発剤を撒き散らす中型の蟻が数匹入った虫箱。
私の指示を聞いて、フィディルは虫箱を黒鋼の鉄柵外に放り投げた。
途端に、結界を越えようとした魔物が振り返り、虫箱に標的を代えた。
「えっ?」
「うそだ」
「魔物が……」
自分達が守ろうとしていた物の正体が分かり、顔面が蒼白になる少年達。
見るからに痩せ細り、粗末な衣服を身に付けた姿を見るに、騙された感が半端ないのだが。
少年達の言動から、飢えもあるだろうが、身内の為に報酬に目が眩んで、安易な仕事に飛び付いたのだろうな。
恐らく、荷運びに雇い、囮にされた。
ライザスの冒険者ギルドは不正の改革に着手していたはず。
きっと、ギルドの正式な依頼発注してないな。
「俺達、騙されたのか?」
「簡単な荷運びだって」
「母さんの薬が買えるからって」
次第に状況を把握した少年達が泣き出す。
魔物に狙われ追われた緊張から解放されたのもあり、派手に泣きじゃくる。
これは、詳しい経緯を聞けるのは後になりそうだ。
それにしても、大人達は何処に行った?
少年達をお子様ズに任せて、レオンまで森の中へ行ったのは何故か。
耳を澄ましてみたら、僅かに剣戟の音が聞こえてきた。
と、ドンと大地が揺れた。
「レオ兄の魔法だ」
首に抱き付いたエスカがぽつりと溢す。
ひょいと飛び降りると、ある一点を見やる。
虫箱に群がっていた魔物も、ある一点を見出しはじめた。
複数の足音が徐々に聞こえてきた。
「トレントちゃん。準備、はい横薙ぎ」
魔樹が枝を横に伸ばす。
エスカの合図で豪快に横に薙ぐ。
勢い余って回転するのはご愛敬。
「待って、待って、味方だから。子供もいるから」
枝を掻い潜って、子供を抱えるアンナマリーナさんと騎士ワイズさんが鉄柵の前まで走ってきた。
腕を伸ばして、子供を内側に降ろす。
「仲間の所に行きなさい」
「は、はい」
「テッド、ジェイ、エラム」
二人、少年が増えた。
先の少年より年かさになるかな。
涙ぐんではいるも、泣き出してはいない。
兄貴分だろうね。
「このっ、しつこいわね」
「匂いが移ってしまったのでしょう。長く、背負いすぎていましたからっ」
追いすがろうとした魔物を、アンナマリーナさんと騎士ワイズさんとで切り捨てる。
確かに、新たな二人には甘い匂いがする。
先の少年を追った魔物も、またもや興奮状態になり始める。
「ファティマは結界の維持を、フィディル行くよ」
「はい」
「了解です」
「エスカ、ユリス、セレナ。保護した子供たちの安全を優先して」
「「はぁい」」
「……はぁい」
各自に指示を出して、鉄柵を乗り越える。
アンナマリーナさんと騎士ワイズさんの腕は確かだろうが、子供を抱えて走ってきた疲労が残っている。
息を弾ませている二人だけでは、いずれ持ちこたえるのが無理になり破綻する。
ならば、参戦しようではないか。
何気に、初の戦闘に気分が高揚してきた。
油断大敵だから、気を引き締める。
さあ、白雪。
頑張ろう。




