050 味方したくなりました
いかん。
シェライラとジルコニアは、さっさと決めて行動に移そうとする。
ここは、びしっと反論せねばならない。
「シェライラお姉さまが推薦なさる方は、かのマクラーレン女史でしょうか。ミーアさんの農園たる土地を鑑みても妥当であると言えないのでは?」
「それは、女史が飼育する家畜が魔物に狙われ易いことをあげているのなら、打開策を充分にあげられますわ。何と言いましても、ミーア様の守護者は大精霊が六柱もいますし、災害クラスの魔物でも侵入不可な誓約魔法が結界として機能しておりますし、難攻不落な場所として女王陛下の避難先に指定されておりますのよ」
「まあ、それは初耳です。男性体の守護者だけではなく、大精霊が守護者とは。やはり、アルバレア家なり上位の貴族の庇護が必要です。ただちに、管理下に入りなさい」
「訳、男性体の守護者だけでも目立つのに大精霊が六柱もいる。野心満々な上昇気質の強い下位の貴族に粘着される前に、上位の貴族の後楯を得た方がよいです。騒動を起こさないよう、一刻も早く手続きした方が平穏になります」
ああ、うん。
私が口出しするのを遮って、アナスタシアちゃんがテンパりながらも案じてくれている。
この子、緊張したりするとツンが出て、威圧気味な発言をしちゃうのかな。
アナスタシアちゃんの守護者も淡々と訳を入れてくれているが、能面の表情で言うから悪印象を持たれてるのかも。
「既に、我が家のバウルハウト家が後見に名乗りをあげております。また、宰相閣下のご実家も後に続いておりますから、下位の貴族が権威を振りかざして命令はできませんわ。それに、これは内密になりますが、ミーア様ご自身に子爵位が叙爵される手配が成されておりますのよ。一代限りの爵位ですが、ランカ周辺の土地開発をして、ベルゼの森に住まう魔物の襲撃の抑制になっていただきたいのですわ」
「ベルゼの森には、災害クラスの魔物が何体か封じられていると聞いておりますが」
「正確には高濃度の魔素を排出する地脈の吹き溜りが数ヵ所存在して、魔物が誕生しやすい環境にあるのです。魔物の大氾濫が起きないように、冒険者と騎士が定期的に間引いてはいますが。近年、自我を持ち意思疎通が可能な魔物の存在が確認されています」
災害クラスの魔物については、初代女王陛下の封印という名の問題先送りでしかなかった。
レオンによれば、元々は人間に害をなす魔物ではなく、無意味に討伐しようとするから抵抗しただけ。
まあ、人肉の味を覚えて凶暴化した魔物もいたらしいが、封印されていた魔物は比較的話が通じるそうだ。
私が引っ越ししてきた際に、人間にしては保有する魔力がバカ高いのを感じて、封印解放後に討伐かと気を揉めさせたそうである。
レオンから、危害を加える気がないなら放置するが、敵対するなら容赦はしないとは言った。数個体は豊富な森の魔物を食せるから、今更人間を襲いはしないと言質は取った。
ただし、生きる為ではなく、お遊び感覚で群れを討伐しようとするなら抵抗はする。
若い個体が興味本意で人間に襲いかかれば、それは若い個体の判断欠如による無謀な行為だから、反撃討伐されてもやむ無し。
黙認はするが、幼い個体や無抵抗な個体には手を出すべからず。
また、血気盛んな別の魔物は自然の摂理で淘汰される以外の滅亡は受け入れないから、森の奥深くには来るなと忠告された。
どちらも、浅い森の魔物は食うか食われるかの認識しかないから、討伐されようが無関係である。
序でに、むやみやたらに森を切り開く開発は止めろとも言われた。
魔物といえど住み心地のよい場所を、奪われるのは避けたいのが分かる。
レオンには文書に纏めて貰い、冒険者ギルド員に渡すように指示をした。
勿論、領主のシェライラにも渡してある。
統率がとれている森の奥深くには、立入り禁止の措置を取ることで一致しかけていた。
まあ、抜け駆けして富を独占しようとするお馬鹿さんもいるにはいて、末路だと見せしめの意味で森から離れた位置に遺体が置き去りにされていたりした。
結構、ベルゼの森は冒険者には旨味のある稼ぎ場ではあるが、新人はそうはいかない。
だからか、近隣のライザスにはベテランの冒険者が多く在住する。
冒険者ギルドも低いランクの冒険者には、森での活動を禁じてはいる。
そうした対策が成されてはいるが、他国からきた渡りの冒険者や一獲千金を狙う冒険者の犠牲も少なくはない。
「それに、中間区には迷宮があります。そこでは、良質な鉱石が産出出来ますわ。アルバレア家の領地にもミスリル鉱山がありますが、我が国ではその他の鉱山の産出量は少ないですから、ベルゼの森の迷宮産の鉱石も高値になります。前領主の悪行で、二流以下の冒険者に連れ出された無辜の民が何千と犠牲になったのです」
沈痛な面持ちで、シェライラは吐き出す。
活気を取り戻したかに見えるライザスの町だけど、それはバウルハウト家がてこ入れしたからに違いない。
賦役だとか、謂われなき罪人にしたてあげられた過重労働に従事させられ、成人男性の人口は減少した。
反面、寡婦や孤児が増えて、税金がわりに奴隷に落とされ売買される。
救いの手を差し出すはずの、聖母協会も利潤に目が眩み、見過ごした。
役人もぐるだから、悪循環は増していく。
漸く、前領主は捕らえられ、裁かれた。
付随して役人も強制連行されたから、新たな行政も行き届いてはいなかった。
町に入る門番が勝手に通行税をあげて差額を着服し、聖母協会のシスターは金儲けの亡者だったし、冒険者ギルドも選民思想で守ってやっていると宣う。
シェライラの味方は実家からついてきた人材のみ。
前領主の悪政は中々消えないでいる。
シェライラも税率は下げたり、役人の再教育を施したり、警邏隊の人選も私腹を肥やす人材を解雇したり悪戦苦闘している。
いち早く冒険者ギルドは立て直してきているも、焼け石に水な現状だ。
しかし、経済的負担が軽減したからか、日々の生活にゆとりが生まれているのはいい傾向である。
ライザスの町に在住する商売人は、前領主の悪政に耐え、強かにかわしてきたので、儲け度外視な薄利多売をしていた。
憂いたシェライラは、貯めに貯めていた前領主の財産をライザスの住人に還元した。
被害額に応じた還元に、強欲な者が騒ぎたてたりもしたけどね。
精霊の助言による分配だから、嘘偽りは通じない。
また、庶民に大金を手渡しすれば、押し込み強盗等の犯罪者に目をつけられるだけ。
王都での銀行制度をライザスでも実施して、商業ギルドに保管する家庭も増えた。
孤児の保護施設の充実も計り、養護院が建築されている。
今は、私腹を肥やして投獄後に王都に移送された、自称ランカの代官だった阿呆の屋敷を接収して仮の養護院に当てている。
シェライラ曰く、絶対に代官の給金だけでは賄えない屋敷と調度品が、阿呆の悪行を物語っていた。
中にはある貴族の家紋が入っていた装飾品等があって、返却時に一悶着あったそうだ。
何でも、故人の墓に埋葬した装飾品だったらしく、阿呆の罪状がかなり増えた。
犯罪奴隷に落とされて過酷な労働に従事したとしても、そこから逃げ出せば墓荒らしをされた貴族が黙ってはいない。
実行犯でなくとも、指示をした形跡が残されていたので、一生を奴隷で過ごさなくてはならない。
脱走しようものなら、私も黙ってはいない。
何故なら、阿呆はマーベル家の墓も荒らしていた。
阿呆は元ランカの村長に命じてマーベル家の墓を暴き、埋葬品を確認して、マーベル家がかつて貴族であったのを知った。
そして、隠されているであろう家宝の品々を狙っていた。
ナイルさんに無実の罪を負わせ、子供達を暴力で脅したりして逆らわせないようにし、隠された品々を巻き上げようと計画していたのが発覚した。
ロイド君とエメリーちゃんには内緒にして、シェライラ直々に謝罪の場を設けた。
ナイルさんに証拠の品々を確認してもらったら、奥様の結婚腕輪(こちらの世界だと相手の瞳にあわせた石をあしらった腕輪が既婚の証しになる)や母親が肌身離さず身に付けていた首飾り、父親が受け継いだアルバレア家の家紋入り装飾短剣等があった。
はい、罪状がまたもや増えた。
怒りに震えるナイルさんは、一言ぶん殴りたいと呟いた。
まあ、一発や二発ではなかろうから、ナイルさんが罪に捕らわれたら目も当てられない。
王都の行政府による裁判での証人にはなれそうなので、注意が必要と添えてフィディル経由でアリスに伝え、宰相閣下には報告してある。
アンナマリーナさんにもそれとなく伝えたから、アルバレア家からも抗議の追及がいくぞ。
多数の貴族の怨みを買ったんだから、甘んじて強制労働なりしやがれ。
脱走したら、全力で相手をしてやろうと決めた。
閑話休題
思考が危なくなってきている間に、シェライラとアナスタシアちゃんは意思確認を終えていた。
「では、マクラーレン女史についてはバウルハウト家にお任せ致します。私は可能な限り、アルバレア家の腰巾着を抑えることに致します」
「シア、貴女の家族よ。他人のわたくしが言うのはお門違いでしょうから、お小言は言わないですけど。貴女にしたことを鑑みても、決して家族だとは認めたくはありませんけども。あんなのでも貴女の家族ですわ」
「アルバレア家から嫁いできた祖母の血脈が、アルバレア家を呪い穢して直系を絶やそうと画策している。お母様に至っては、オーレリア様に婚約者を奪われたと逆恨みし、お子様方を非難囂々と貶める発言ばかり。挙げ句の果てに、次代の後継者候補筆頭に挙げられた殿方を、私を使い籠絡して、アルバレア家を牛耳ろうとしている。お父様もご自身の兄を疎ましく思い、足を引っ張る行いしかしない。お兄様は、アルバレア家当主の器ではないのに、さも自分が選ばれる尊い身分だと吹聴している。適当にあしらわれ、アルバレア家の膿を出す為の餌だと分からない家族には失望しか湧きません。次代様が新たに任命されましたから、近々処断されますわ」
憎々しげに家族をそこまで嫌っているのは、アナスタシアちゃんも何らかの形で被害にあっていたのかな。
多分、それが原因でダイアナが少年体であるのを隠さないとならなくなったのだろう。
従姉妹の仲が不仲なのも、態と嫌われ役を演じているのか。
アンナマリーナさんを騙す過程で、さぞ違う自分を表に出してきていたんだね。
私より年少者だというのに、立派な志しているよ。
実妹と重ねちゃうのも失礼だけど、俄然応援したくなってきた。
フィディルに視線をやれば、小さく頷いた。
念話を通して、レオンやお子様ズにも説明して、眷属に監視して貰おう。
んで、アナスタシアちゃんのやる事を影ながら支援してあげておくれ。
《ありがとうございます》
アナスタシアちゃんの守護者ダイアナが、声を出さずにお礼を言った。
能面だった顔が、少し綻んだ。




