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005 再会しました

 消えた精霊に、残った謎の人形。

 あれ?

 これも、何処かで見たぞ。

 何だったっけ。

 私がやっていたVRMMORPGゲームのイベントに、似たシナリオがあったなぁ。

 女性のプレイヤーばかりを狙うPKプレイヤーがいて、先輩が大規模イベントで勝ち取ったイベント運営権で提案した対PK対策。

 女性と契約した精霊を純度が高い精霊石に宿して、石を核に錬金術で作製した人形を守護者(ガーディアン)に仕立てあげる計画だ。

 私も、人形の作製に尽力した。

 細工のスキルで、女性プレイヤーの好みにあうように人形を飾り立てたものだ。

 裁縫スキル持ちは衣装を、鍛治スキル持ちは武器を、といった具合に役割分担した。

 かくいう、私も宣伝要員として契約精霊を守護者にして、件のPKプレイヤーを排除したりした。

 懐かしいなぁ。

 皆は、どうしてるだろう。

 守護者になった契約精霊は、個別のAIが組み込まれて個性豊かな人格をしていた。

 あの子達は、私の状態を知らされることなく、今も(マイホーム)で、ログインを待っているのかな。

 それとも、家族が運営会社に解約を申し出て、消されちゃったかな。

 何気なく人形を見ていたら、楽しかった日々が思い出されてきた。

 クランメンバーでバカ騒ぎして、守護者誕生の場所にと教会を建ててみたり、仲間の名前をもじってながったらしい教会の名前を考えたりしたなぁ。

 余りにも長すぎて、仲間内以外は誰も正式名称を言えなかったんだよね。


「ユリエラ=ミルスフィーア=ダレン教会」


 思わず、口に出してしまった。

 感傷的になってきてるなぁ。


「おや。若い身形で聖母教会の正式名称を知っているとは、博識だな」


 シスターを取り押さえた騎士の中で、一番年嵩のナイスダンディーなおじ様が、私に近付いてきた。

 悲鳴をあげていたシスターは、猿轡をされて何処かに連行されていく。

 ぼんやりと見ていた私は、おじ様が言った台詞をほえ~と流していた。


「我が国の初代錬金女王ユーリ=イシュトバーン様が、お弟子の方々と御作りになった教会にて、不正を許した咎を詫びる」

「謝罪は受け入れます。でも、正直に言えば、精霊が出てくる前に捕縛できましたよね」


 ちくりと、笑顔で嫌味を言ってみる。

 シスターが精霊を呼び出して、私に攻撃を命じた。

 それを見て、慌てて飛び出してきたけど。

 もし、精霊が命令に従っていたら、どうなっていた?

 私には、黙ってやられる精神はない。

 街中であろうと、抵抗した。

 生憎と、魔法の教練をしていないので、魔法は行使しないでいたけど、白雪を抜いてシスターを害していたかも。

 異世界デビュー初日で、殺人行為はないわぁ。


「それも、済まない。君が、シスターを言葉責めにしていたので、見惚れていたのが実情だ。旅人の君には申し訳ないのだが、シスター捕縛の一件の関係者として、領主館に同道してくれないか?」

「その前に、試練を受けさせてくれませんか。ライザスの街で試練を受けろと言われて、資金と情報を与えてくれた人がいます。恩には報いないと」

「……そうだな。何分、自分は男なので詳しくはないが、聖母像の足元に石板がある。それに触れて、聖句を唱えて誓願すれば良かった筈だ」

「因みに、聖句と誓願を知る人は?」

「済まない。この教会は、先程のシスターが一人で管理していた。おまけに、聖母教会に属する関係者は、領主様のみだ」


 成る程。

 シスターが、試練を受けさせることができる唯一の人材だったのか。

 街を統治する領主が教会の関係者なら、対抗心を燃やして教会にしがみついていた可能性もあったか。

 と、なると。

 この街の領主は、女性なんだ。

 ふーん。

 まぁ、初代が女王なんだから、女性の領主がいてもおかしくないね。

 それにしても、試練はどうしよう。

 聖句と誓願が必要だなんて、人外さんから教えてもらってない。

 他の街に行って、試練受けるのは駄目かな。

 そもそも、試練とはなんぞや。

 世間に流布されている事案を、他人に聞けないし。

 聞いてみたら、痛くもない腹を探られかねない。

 初対面のおじ様を、問答無用で信じる訳にはいかない。

 手詰まりだなぁ。


「だが、君は聖母教会の正式名称を知っているのだから、何かしらの教えを請けているのではないかな」

「はい? 今、何と?」

「いや。聖母教会の正式名称は、ユリエラ=ミルスフィーア=ダレン教会だ。錬金女王のユーリ様を筆頭に、お弟子のエララ様、ミーア様、ルシル様、フィーア様、ダレン様の名前を戴いて名付けられた」


 あ、れ?

 聞き覚えのある名前が出てきたぞ。

 えっ?

 えっ?

 何ですと‼

 頭の中に浸透していくにつれて、困惑してきた。

 聖母像を振り返る。

 頭の頂きから足先まで、凝視した。

 この像には、見覚えはない。

 が、絵画ではある。


「あの。質問があります。この聖母像が鎮座する台座には大精霊石があったと、思うのですが。勘違いですか?」

「いや。王都の教会はそうだよ。ライザスの街にも有ったのだがな。あのシスターが砕いて金に換えて、聖母像を据えたんだ。聖母像のモデルは、ダレン様の絵画だ。王都の教会に行けば、見られる」


 おじ様は、聖母像を見上げた。

 対して、私は項垂れた。

 ちょっと、待て。

 この、合いまくる符合はなんだろう。

 人外さんが言った世界の名称は、ゲームの世界の名称とは違う。

 しかし、私に付与したスキルや外見は、ゲームを参考にしたとも言っていた。

 態々、試練を受けろと念押ししたのには、先輩が提案したイベントを用意していたからか。

 そうだよ。

 おじ様が言ったじゃないか。

 初代錬金女王の名前は、ユーリ=イシュトバーンだと。

 先輩のアバター名だ。

 忘れてる場合ではない。

 じゃあ、なにか。

 私の称号の錬金女王の愛弟子の錬金女王とは、先輩を指しているのか。

 確かに、先輩は錬金術師だ。

 頭が更に、こんがらがってきた。

 先輩とは、私が修学旅行に行く前に学校で、会話している。

 存命している筈だ。

 何だか、気味が悪い。

 気味が悪いけど、確かめないとならなくなった。

 聖句と誓願。

 私が知っているゲームのイベントを模しているなら、実践有るのみだ。


 ぱん。


 両頬を平手で叩いた。

 気合い入れだ。


「お嬢さん、どうしたかな」

「どうやら、知っているみたいです。試練を受けます」

「そうか。検問の兵士から、情報を受けた。失敗しても、嘆くことはない。ここ数年来、試練を受けて誓願を受け入れた、守護者の誕生の割合は低い。最後の成功例が、あのシスターだ」


 おじ様が、やる気に満ちた私に追い討ちをかける。

 ならば、それを払拭してみようではないか。

 意気揚々と、聖母像の足元の石板に触れた。


『貴女は何方ですか?』

『私は、ID285dylk35968。プレイヤー名、ミーア=バーシー』


 石板を通じて、眼前にウインドウが立ち上がる。

 日本語で記載された文章に、日本語で答えた。

 騎士のおじ様が、首を傾げた。

 多分だけど、IDの意味が分からないのだろう。

 聖句も違っていると思う。

 だけど、IDを認識したウインドウは、次の文章を展開した。


『希なる旅人、ミーア=バーシー様を確認しました。守護者が待機しています。実体化致しますか?』

『お願いする』

『では、守護者をお呼びくださいませ』

『フィデル。ファティマ。レオン。エスカ。ユリス。セレナ。皆、降りておいで』


 軽く両手を広げた。

 衝撃に備えて、足を踏ん張る。


「「「マスター」」」


 舌足らずな幼い声が教会に響き渡る。

 聖母像のお腹辺りの、空間が歪む。

 そこから、カラフルな髪色をした三頭身の人形が、躍り出てきた。

 小さな身体を受け止めた。

 橙色の髪のエスカは樹木の大精霊。

 水色の髪のユリスは水の大精霊。

 白色の髪のセレナは氷の大精霊。

 三柱の精霊が宿る守護者。

 続いて、黄色い髪のレオンは、少年体で現れる。

 お子様ズの監督役を担っている大地の大精霊。

 そして、気品溢れる優美な肢体の妙齢な女性体は、銀色の髪のファティマで聖の大精霊。

 最後に、軍服を身に纏う引き締まった体躯の青年体は、黒色の髪のフィディルで時空の大精霊。

 計、六柱の精霊が宿る私の守護者。


「こら、ちび共。マスターを潰すなよ」

「「しないもん」」

「……しない」


 エスカとユリスが、私を気遣ったレオンに反発する。

 遅れて、セレナが頬を膨らませた。

 変わらないやり取りに、感無量である。


「マスター。再び、お仕えする機会を頂き、嬉しく思います」

「わたくしも、お会いできる日を夢見ておりました」

「うん。聞きたいことだらけだけどね。皆に会えて、私も嬉しい。一人じゃないんだと、痛感した」


 心強い家族とも言える守護者達の存在は、異世界において何よりの味方だ。

 良かった。

 私を知り尽くした、守護者がいてくれる。

 私は一人ではなかった。

 何故に、異世界にも守護者がいるのか、根掘り葉掘り聞きたいけど、今は我慢だ。

 可愛らしいお子様ズを堪能したいのだけど、領主館に行かなくてはならないんだよ。

 さくさく、用事を終わらせて、宿屋にでも籠ろう。

 名残り惜しいが、お子様ズを降ろす。

 さて、騎士のおじ様が静かだけど、どうしたかな。

 振り返ると、口を大きく開けて放心していた。


「騎士さん。用事は終わりました。領主館に行かなくて、いいんですか」

「あっ、あのなぁ。お嬢さん」

「はい。何です」

「お嬢さんは、何者だ。女性が生涯に契約できる守護者は、一体だけだぞ。それを、一度に、六体の守護者の顕現だ。王都の評議会が黙っていないぞ」


 守護者が一体だけとは、誤解もいいとこ。

 契約した精霊が守護者になるのを、了承すれば複数体の守護者を持てる。

 そんな、仕組みになっているのだけど。

 もしかして、やらかした。


『マスター。守護者の複数所持は、プレイヤーのみの特権です』

『この世界は、マスターがしておられたゲームと、似て非なる世界になります。騎士が言ったとおり、生涯において一柱の守護者に巡り会えるかは、精霊の好感度によって決められます』


 フィデルとファティマは、日本語に切り換えて教えてくれる。

 他人に聞かせたくない内容なんだろう。

 静かに拝聴する。


『現錬金女王でさえ、一柱の守護者のみです。武力や権力で、我々を買おうとする輩がいるのは確実です』

『マスターは、現存する錬金女王の愛弟子。王位継承問題に巻き込まれる可能性も捨てきれません』

『マスターがどの道を歩むかは、わたくし達は口を挟みません。しかしながら、現段階で大陸一の最大戦力を所持しているのを、御忘れなく』


 別離するしかなかった実の家族の代わりの、第二の家族は厳しく注意する。

 うん。

 それは、何となく理解している。

 だって、この守護者達は、精霊の位階では大精霊なんだもの。

 迂闊に、怪我なんかしてられないや。

 第二の人生は、おもしろおかしく、のんびりまったりスローライフする気でいた。

 守護者達に再会できて嬉しい反面、未知の土地で生活する糧をどう得るか。

 悩ましい。

 いっそのこと、また農園や牧場を経営しようかな。

 うん。

 そうしようっと。

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[一言] 白金貨5枚は強欲シスターのポケットの中で国にボッシュートでOK?
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