048 ツンデレ少女でした
「後、領主館ではないのですが。聖母教会の新しく赴任されてきた司祭が、教会におります。前任者の不名誉な汚名は晴らすと、息巻いております。まあ、何かしら上層部から言い含められておりますのは、挨拶にきた折りにミーア様を気にしていた素振りで分かりました。そして、冒険者ギルド本部職員も視察と言う名の建前で、ライザスに訪れようとしている。これは、王都の冒険者ギルド長から、ライザスのギルド長へ警告がありました」
聖母教会は守護者システムの再稼働が狙いで、冒険者ギルド本部はギルドシステムの再稼働に精霊が必要不可欠であるのを再認識したからか。
公にはされてないが、ライザスには風の大精霊たるジルコニアが。
ランカには時空の大精霊たるフィディルと大地の大精霊たるレオンがいる。
何処かに在るか分からない聖域を探すよりも、直に接触できる確率が高い方を試すのだろうか。
大精霊の情報がどこから漏れたかが気になるなぁ。
「ミーア様。冒険者ギルド本部だけではなく、王都のギルド長にもお気をつけてください。あの方は有名な蒐集家でもありますし、独自の情報入手経路が幾重にもあり、貴族の隠し立てしている醜聞も握っております。ミーア様の情報も、あの方は既に入手していると思ってください」
「それ、誰かに聞いたね。確か、私と同種の天翅族だっけ」
「はい。変り者で通っておりますが、冒険者ギルド本部すら手玉に取る方です。あの方は興味が湧いたら何でも蒐集しないと気が済まない気質をされています。きっと、ミーア様にも粘着するかと」
普段は仕舞ってある翅があるだけに、光り物に目がなかったりするんだろうか。
いや、それだと私も当てはまる。
私には蒐集する気質はないはずだ。
《マスターの場合は、執着されるのが農園にあるのでは?》
《それと、珍しい植物や果樹が栽培できるか、ですわね》
うにゅう。
誰よりも私の気質に詳しい守護者がいた。
念話で話しかけるぐらいには気遣いされてるも、ジルコニアには通じている。
頷かれているし。
《ミーア様には農園に適した土地が一番ですよね。ユーリ様に、ランカの土地を推薦しておいて良かったです。あっ、シェライラには念話は通じてはいませんから、悪しからず》
《今お喋りしている念話は、大精霊だけが交わせるラインです。ミーア様はお持ちの称号の効果で、伝わっています》
大精霊が交わせる念話に、余人が交えてよいのか?
世界を運営する大精霊には、他者に話してはならない禁則事項もあるだろうに。
幾ら、私が精霊王やら人外さん達から加護を貰っているからと言って、ばらしたらいけないだろう。
ジト目で三柱を見るが、視線が反らされた。
念話も閉ざされたから、今更ながらに気付いたのだよね。
私も、なるだけ聞かないようにしないとならない。
お子様ズの方が、禁則事項を秘密だと言って教えないでいてくれるのに。
大人組がやらかして、どうするよ。
見習いなさい。
それでもって、権威を振りかざして無茶苦茶な論理を吹っ掛けて来そうな客に対抗するには、同じ土俵の上に立たないことだ。
農園は許可がないと侵入不可だから、大挙して武力行されても、マーベル一家が人質にはならない。
アンナマリーナさんは、姫騎士とか崇められるほどの武芸に長けているから心配はしていない。
騎士ワイズさんも、密かにマーベル一家を守護する密命を帯びていそうだしなぁ。
万が一侵入されても、家に立て籠ればいい。
ブラウニーが守護する家に害を為そうとすれば、手酷く反撃されるだけだ。
クリスとアンジーには、迎撃用の魔法手段もある。
プログラムに過ぎなかったブラウニーが、自我を確立して家を守護する。
切っ掛けを作ったのはダレンによる召喚だった。
二人はダレンの隠れ家を任される為に喚ばれたそうだ。
隠れ家をクランホームの形にしたのは、ダレンの郷愁による。
ユーリ先輩にも内密に建てられた家に、ブラウニーを召喚して据えたのは、孤独感に苛まれていた自分を鼓舞したかったからと、クランメンバーがいつ召喚されても安心できる場所になれば良いと判断したからだ。
当時のダレンは、人外さんによる支援も説明もなかったから、安住の地を先駆者たる自分が作ればいいと思っていた。
定型文しか返さないブラウニー達を、家族のように接することで成長させた。
自我が芽生えたブラウニー達が、ダレンとグレイスの役に立てるようになったのをことのほか喜んだ。
だが、ダレンが憎しみに囚われて狂人と化してからは、ユーリ先輩に隠れ家ごと隔離の憂き目にあった。
クリスの談によれば、ユーリ先輩とダレンの仲はあまり良好ではなかったらしい。
ユーリ先輩は自分本意な人だから、余所事に目を向けるダレンを赦せなかったのだろう。
あの人に寛容を求める方が悪い。
建築珠に封じられても、家のなかでは自由にしていたブラウニー達は、自己研鑽に邁進していた。
ダレンが残した遺産を生かして家魔法以外の魔法を取得したのも、封じから逃れる為だった。
しかし、建築珠の内側から辛うじて聞き取れた私の来訪に、驚喜して私好みのマイホームにリフォームして待機していた。
有りがたいよね。
ちゃんと、私専用の工房まで再現してあったのだから。
建築珠から解放されて、お世話しがいのある一家や客まで現れて、楽しい日々をおくれていると笑っていた。
なので、その日常を壊す輩に対しては、容赦はしないと思われる。
クリスとアンジーを、ただのブラウニーだと思うなかれ。
二人は一流の魔法師でもある。
「農園には、幼いあの兄妹がおります。わたくしの手勢から警護の派遣を致しましょうか?」
「ありがと。だけど、必要ないよ」
「アルバレア家縁の姫騎士がおられるからです?」
シェライラの表情が曇る。
貴族令嬢としてはやや評価が低いアンナマリーナさんだが、武芸方面では頼りになる。
シェライラ的には、気になる案件かな。
「いや。シェライラは会ったことはなかったかな。我が家にはブラウニーがいてね。その二人はダレンとグレイスに魔法を習っていて、腕前は御墨付。守護だけでなく、迎撃も任せておける。まあ、二人がでばる前に、うちの子達が伸してしまうと思うけどね」
「家妖精のブラウニーが、家の外で迎え撃てるのですか? 家に入りこまれたら、危ないのでは?」
「ああ。うちのブラウニーは特殊なんだ。双子のブラウニーだから、一人が家にいれば、もう一人が家の外に外出できるよ。だから、ライザスに買い物に行ったりしてる」
「……ミーア様は、大きなびっくり箱のようですわ。概念が覆りそうな案件ばかり発生します」
まあね。
ブラウニーが外出してお買い物だなんて、どだい無茶な話題である。
これでは、ベルゼの森にお肉や卵を調達に行っているのは、話さない方が良さげだね。
額を押さえるシェライラには悪いから、黙っていよう。
フィディルとファティマも、黙っているように。
「シェライラ。あの子が脱け出しました」
唐突にジルコニアが告げた。
未だに、正座中である。
なんぞやと思うが、流れ的に行くと、軟禁したと話した子だろう。
ジルコニアに継ぐ位階の守護者がいたとの情報だから、一騎士の手には負えなかったと見る。
次第に、執務室の外が賑やかになってきた。
諍う声も聞こえ始めた。
「ジルコニア。シアが脱け出す前に教えて欲しかったですわ」
「仕方がありません。あの子の守護者は二位の精霊です。こうした脱出は得意技ですから、閉じ込めるだけ無駄です」
「……もっと早く、教えて欲しかったですわ」
重い溜め息を吐き出すシェライラに追い打ちをかけるかの如く、執務室の扉が警護していたであろう騎士ごと吹き飛ばされた。
事前に察知したフィディルに庇われて、私には被害はない。
眷族の性格を知り得ているジルコニアも、シェライラの周囲に風の結界を纏わせる。
呆気に取られるシェライラは、何が起きたかまだ理解していないで、固まっていた。
「お姉様方を籠絡して、取り入った愚か者は何処です」
「訳、貴族ではない一庶民がどうして、シェライラ様やアンナマリーナ様に近付いたの? お二人に迷惑をかけるのは許さないです」
「話に聞けば、稀少な男性体の守護者がいるとか。庶民には大それた守護者です。直ぐに、私に献上しなさい」
「訳、後ろ楯を持たない庶民が男性体の守護者を所持するのは、危険です。大貴族の縁者たる私が一時預かります。奪おうとする勢力を黙らせるまで、安心して庇護下に入るといいです」
「はい?」
「アナスタシア、ダイアナ。貴女達、まずは自己紹介ではなくて?」
吹き飛ばした騎士と扉の残骸を越えて現れたのは私より年下の少女。
豪奢な巻き毛の金髪を縦ロールと、きつめな碧眼をした悪役令嬢と言ってもおかしくはない容姿をしている。
自覚して演じているのだろうか、言葉の割りに虚ろう眼差しが不安に揺れている。
斜め後ろに控える守護者は、少女と同年代風の器だけど。
主人と違って、こちらは無表情で淡々とフォローしているのだけど、この子ジルコニアと同様に男装していた。
いや、この少女の守護者。
少年体だ。
巧妙に隠されているけど、熟知した私には通じない。
骨骼を見たら、一目瞭然だ。
衣装を態とらしく男装少女ぽく、見せ掛けているが、分かる人には分かると思うぞ。
シェライラは気付いているのかな。
「庶民に名乗る名前は持ち合わせておりませんが、仕方がありませんわ」
「訳、名前を教えてしまうと、萎縮されてしまうのが嫌です。しかし、信頼してもらう為にも教えないとならないです」
「私は、西の国境を守護するアルバレア侯爵家の分家ウィンチェスタ家当主の義弟ファレル家のアナスタシア」
「訳、ファレル家は前々アルバレア家当主の末弟が武功により子爵位を賜った家。前侯爵の息女にて、現領主代行をなさるオレリア様の伴侶の正家です。ウィンチェスタ家が分家なさる以前は分家筆頭でした」
胸を張って威風堂々と名乗るも、表情があってないよ。
視線が盛んに行ったり来たりしている。
精一杯、虚勢を張っているとしか思えない。
アナスタシアちゃんは、あれだね。
所謂、ツンデレさんじゃないかな。
驚いたことに、私紅林雅の実妹と同じ仕草に、懐かしいものが込み上げてくるや。
人見知りもあってか、初対面の人にどうしても威嚇しているのではないかと疑われる言い方をしちゃうんだ。
こんなに、あからさまに分り易いアナスタシアちゃんを、アンナマリーナさんが嫌っているのは何故だ?
意訳を述べる守護者が能面でいるのが、いかんのか?
主従揃って問題がありそうである。




