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女王⁉ 聖女⁉ いえ、ただの農業オタクな細工師です。  作者: 堀井 未咲
第二章 貴族の在り方

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046 畑仕事に従事しました

 少し月日が流れた。

 細々した厄介事を処理して、やっとこさ農園ライフに突入できた。

 お子様用農具をライザスの町にて鍛治師に発注して、年端もいかない子供をだまくらかして酷使した働きをさせるのではないか。

 だなんて、警戒されたもんだ。

 なんでも、ここライザスの町には一時期浮浪児が沢山いたらしい。

 養護院に預け入れられない程の子供が、前領主の政策で親を奪われたそうな。

 養護院もぐるになり、人身売買の温床だった。

 大人は過酷な労働力に、子供は奉公とは名ばかりの奴隷以下な扱いをされていた。

 前領主と側近や取り巻きはそうした私腹を肥やして、宰相閣下の怒りを買った。

 巧妙に隠されていた訳だけど、女王国には精霊が集う。

 精霊の進言でアリスに伝わり、調査するとライザスの町の人口が極端に減っていたのが判明した。

 前領主が名門のバウルハウト家の一門であった為に、発覚が遅れたと言っても良かった。

 更に詳しく調査をすれば、町には大人を拒絶して逃げ惑う子供の姿が見られた。

 バウルハウト家も調査内容を知らされると、私兵を連れて前領主を捕縛して女王に謝罪の意を述べる。

 女王は、言葉だけで終わらすのは受け付けない。

 ならば、女王筆頭候補のシェライラがライザスを建て直す意思を表明して、派遣された。

 でも、まだ政治のノウハウを学ぶ途中のシェライラも、前領主の派閥が残る役人や警ら隊の人員による不正を全て取り締まれていない。

 冒険者ギルドと商業ギルドの職員にも、捜査の手は入っている。

 冒険者ギルドはギルド長が出来た人らしく、すぐに復帰して再編に取りかかっているが。

 商業ギルドはのらりくらりと追求をかわす姿勢で、町の商業を盾にとり責任を取ろうとはしていない。

 まあ、宰相閣下は赦しはしないだろう。

 最近、王都の商業ギルドから切れ者の監査官が派遣されたそうである。

 ライザスに買い出しに行ったブラウニー達によれば、品物の値段が適正値に戻った商品もあれば、種類が豊富になった商品もあると情報を仕入れてきた。

 私が鍛治屋に発注した農具も、最初の値段から下がっていたりする。

 バウルハウト家お抱えの商人や、シェライラと宰相閣下からの指示で招かれた行商人の税率を下げた結果が出てきていた。

 ライザスの近くにはベルゼの森という魔物の棲息地があり、その素材で儲けた冒険者ギルドが町の住人を支えてきた実情がある。

 一部の職員が横流しや横領をしていたそうだが、本来なら聖職者がしないとならなかった炊き出しをしたりして浮浪者や孤児を守ってきていた。

 シェライラが赴任してきて数ヵ月経ち、少しずつであるが正常な日常が返ってきたと言っていい。

 鍛治師のように、他人を思いやれる余裕が出てきたのが、それにあたる。


「ミーア姉ちゃん。こっちも、耕すのか?」

「うん。こちらの区画には小麦を植えたいから、隣の区画より大きくしたいんだよね」

「さっきのは、何を植えるんだ?」

「お芋!」

「エメリー。芋は季節外れだ。今なら、夏野菜を植える時期だからな」


 ただいま、念願の畑仕事に精を出している。

 アンナマリーナさんによる、ロイド君とエメリーちゃんへの基礎教育に混ぜてもらったら、今が初夏へと移る季節になると教えて貰った。

 些か、小麦を植えるには時期が遅すぎた感もあるが、そこは樹木の大精霊のエスカの力を借りた。

 成長が早くて美味しい実がなる種を、既存の種をベースに改良して貰ったのだ。

 玉蜀黍(とうもろこし)、トマト、きゅうり、茄子といった夏野菜を植える区画と、小麦を植える区画に、果樹の区画と、計画は立てた。

 どれかひとつに絞る必要はない。

 土地は余るほどあるのだ、色々と手を出してしまっている感が否めないが、やりたいことはやろうと思っている。

 しかし、出来れば水田も作りたいが、今はよしておく。

 井戸は発掘したが、水路に至ってはまだ準備不足である。

 残念ながら川が近くにはない為に、井戸だけでは水が賄えないと判断した。

 幸いにも、ベルゼの森には数本川があるそうだから、調査して築けそうなら水路を築こうと思う。


「なら、なんのお野菜?」

「ロイド君とエメリーちゃんが頑張ってくれた区画はトマトを植える予定で、ナイルさんが耕している区画はきゅうり。で、私が耕した区画は玉蜀黍ね」

「わわわ。いっぱいだ」

「反対側のこっちは、小麦だって。小麦はパンの材料になるんだ」

「ほえー。じゃあ、エメ頑張る」

「の前に、休憩しようね。水分を補給しないと倒れちゃうぞ」


 きらきらした眼差しのエメリーちゃんはやる気充分で張り切っているが、休憩無しに働かせるのは勘弁して貰いたい。

 それでは、鍛治師が危惧した状況になってしまう。

 まだ過ごしやすい季節だけど、水分補給と休憩は大事である。


「はぁい。お父ちゃん、呼んでくる」


 エメリーちゃんは元気に駆け出していく。

 一時間に十分とこまめに休憩を取らせているからか、農業に苦もなく従事していたからか疲れ知らずでいる。

 その父親であるナイルさんも、剣を扱うより農具を扱った時期が長いせいか、私よりも早い速度で荒れ地を耕していた。

 ナイルさんはアルバレア家との折衷案で、午前と休日の一日を丸々使って騎士の特訓を受けるスケジュールになった。

 ただ、私への恩義も忘れてはないので、午後は農園の仕事に従事すると言って聞かない。

 身体が休まる時間がないのではないかと心配するも、今までの生活に比べたら楽だと言う。

 ナイルさんは農業に従事しつつ、町で日雇いの労働をして生活費を稼いでいた。

 寝る間も惜しんでのことで、柔らかい寝台で寝れて、食事には事欠かない生活は、子供たちの未来を案じないでいられる分嬉しいそうだ。

 まあ、本人が言うなら無茶をしてはいないのだろう。

 親子が決めたことなら、異論は言わないでおいた。


「一時間毎に休憩していても、何故に子供はああも元気なのだろう。武芸の鍛練とは違うからかしら、すでにバテてきているのだけど」

「自分は鍬を振り下ろすだけで、腕の筋肉が悲鳴をあげていますよ。おかしいなぁ。ナイルとは同じ特訓を受けているのに、体力で負けています」


 何故か、アンナマリーナさんと騎士ワイズさんも、畑仕事に加わっていた。

 長年放置された荒れ地は、堅い土とほうぼうに生えた草花により耕しにくい。

 慣れない畑仕事に、苦戦していた。

 中でも騎士ワイズさんは、子供に負けているのが悔しそうである。


「言っておくけど、ナイルさんは聖剣の恩恵もあって疲れ知らずでいるけど。兄妹に関しては、慣れとしか言えないよ」


 聖剣を真実に継承したナイルさんには、疲労回復の効果の恩恵が技能(スキル)に生えていたから、私も兎や角言わないでいれた。

 兄妹に関しては、元々が農民でいたので、農業の技能がアシストしているとみている。

 でないと、八歳児(ロイド君)六歳児エメリーちゃんが休憩を挟んでいても、疲労でダウンしない訳がない。

 私は新しい肉体を得たからか、常人と比べたら頑強なんだと思う。

 休憩いれなくても、延々と耕していられる気がする。

 まあ、兄妹とうちの子達が心配するから、やらないけどさ。


「聖剣の恩恵か。道理で、走り込み等の体力作りで、へばらない筈だ。どころか、余りまくって教官に休憩しろと怒られるほどに、鍛練できる理由が分かった」

「羨ましいわ。疲労が軽減する技能が芽生えて欲しい、切実に」

「アンナ姉ちゃんもワイズ兄ちゃんも、鍬を振り下ろす時に力を入れすぎなんだよ。そりゃあ、堅い土だから力が入るのは仕方がないけど。闇雲に振り下ろすのは、止めた方がいい。でないと、明日は筋肉痛で動けなくなるからな」


 ロイド君の指摘に頷いておこう。

 武芸で剣を振り下ろすのと、鍬を振り下ろすのは勝手が違う。

 力の抜き場所が分からないから、全力で振り下ろしてしまっている。

 ロイド君が効果的な鍬の扱い方を伝授していた。

 アンナマリーナさんと騎士ワイズさんは、神妙な面持ちで聞いている。

 我が家に常駐することになったワイズさんは、暇をみてはロイド君に剣を扱う基礎を教えていた。

 三十代と遅咲きの騎士となるナイルさんより、ロイド君の方が伸び代は高い。

 将来的には、ロイド君がアルバレア家を背負うだろう。

 ただし、今の処はロイド君に貴族になる意思は弱い。

 エメリーちゃんに至っては、お父さんを奪う貴族との印象が強い。

 兄妹の意識改革をしないと、アルバレア家の未来は暗いぞ。


「マスター、休憩時間だよ」

「ユリスのお水に、果汁を入れたの」

「……氷で冷やしたの」


 朝からベルゼの森が気になると、レオンと一緒に巡回すると出掛けていたお子様ズが、帰ってきていた。

 アンジーが準備したであろうお茶一式を分けて、頭の上に乗せて運んできた。

 監督役のレオンは渋い表情をしていて、この運び方には納得してはないのだろう。

 この場にはいないフィディルとファティマは、王城にアリスに呼び出されていた。

 相変わらず、聖母教会と冒険者ギルドの本部の代表者とやらが、喚いているようだ。

 どちらも、目的は精霊の確保。

 聖母教会は守護者をお金儲けの手段にできなくなり、前払いで格の高い守護者を斡旋していたのが裏目に出て、返金するぐらいなら精霊を自分達の手で賄おうと躍起になっている。

 迷宮都市の冒険者ギルド本部は、精霊に逃げ出されてギルドのシステムが使用不可に陥り、混乱した責任を女王国にあると断じて賠償を求めている。

 どちらも、己の怠慢が招いた事態だと言うのに、責任転嫁をしていて烏滸がましい。

 守護者システムは大精霊が犠牲になっていたし、ギルドシステムは中位からの精霊が無償で働かせられていた。

 きちんと対応していれば、ライザスの冒険者ギルドみたいに精霊に見放されはしなかった。

 結局のところ、提示された大精霊の許可が得られないから、替わりに何とかしろと無理難題を吹っ掛けてきているのだろうが。

 聖母教会と冒険者ギルドが女王の管轄から離れた以上、責任転嫁甚だしい勘違いでしかない。

 応じてやる必要はない。

 フィディルとファティマには、精霊王に継ぐ高位の大精霊として処遇を求められていた。

 二柱は私の意向を知り、救済の余地はないと断罪しに行った。

 アリスとエルシフォーネにジルコニアの三柱も加えた決断によって、聖母教会と冒険者ギルド本部の今後が決まる。

 彼等が喚いて喚くほど、精霊に見放されるとは思いもしないのだろうな。

 各国も守護者を得られない責任を女王国にあると声をあげはじめているが、そちらは中立の神聖国が事を収めてくれていた。

 守護者はか弱き迷える女性の助けとならんと設立した制度。

 本来の理念主旨から外れた制度を、復活させる気にはならない。

 守護者の恩恵を享受している私が言う台詞ではないのは重々承知している。

 だけど、博愛主義ではないから手の届く範囲で、救いの手を伸ばすのは許して欲しい。

 目下のところは、聖母教会を交えない守護者の誕生が目標かな。

 だから、エメリーちゃんを先駆者にしようと画策している。

 エメリーちゃんの傍らに、優しく頬笑む精霊がいるのを黙っている。

 恐らくは、お祖母さんの守護者だったのではないかと推測している。

 エメリーちゃんが、精霊視の技能を得るのは何時だろうか。

 そう遠くない時期だと思うな。


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