044 召喚国の見当つきました
アンナマリーナさんの説明に、著しい疑問が湧き上がっているだろうが、お兄さんは静かに聞いていた。
まあ、私がいなくなれば質問の嵐だろうな。
ただ、異なる世界の住人がこちらの世界に招かれる異邦人の呼称があるのが知らされているとはね。
召喚魔法はポピュラーな手段として有名なのだろうか。
でも、フィディル達大精霊も召喚された意味あいが深いか。
異邦人を招いてまで自分達が対処できない案件を任せるのは、他力本願でしかない。
まだ、力を合わせて困難を打ち破るのは理解できるが、戦争の駒にして他国を侵略するなんて厄介な事には関わらせないで欲しい。
私が巻き込まれた勇者召喚は、何の意味があったのだろうか。
人外さんは、召喚した国名や理由を教えてはくれなかった。
敢えてなのか、忘れていたのかどっちかな。
「勇者召喚ね。だとすると、ティグレア国かな。大陸で一時期は盟主を名乗っていたけど、造反する国が出来て、歴史は旧いが小国に成り下がった経歴がある。それか、カルナセス公国。こちらは、自治区の迷宮都市を取りこみ、国力を増大させたい狙いを抱いている」
「レスティン王国も忘れてはならない。あちらは、我が国の錬金術と守護者を何としても手に入れたいと、代々女王陛下の王配に必ず名乗りをあげては、無茶な要求をしてくる。叶わないと知ると、次に女王候補の錬金術師を誘拐紛いの手段で、政略結婚の道具にする。まあ、成功した試しがないがね」
名が上がった国名は、脳裏に刻んでおこう。
極力近付かない方向でいくか。
後で、地図でも手にいれよう。
「ちょっと、聞くけど。お決まりの、魔王や悪の帝国とかはないの?」
ラノベに必須な、勇者召喚の条件だと。
魔王やら、悪逆非道な帝国やらがあって、虐げられている人間を救うのが定番だよね。
そして、現地人の異性にモテモテになり、一大ハーレムを築いたりする。
国の権力者にも気に入れられて、貴族になったり、王族になったりして、人生薔薇色な生活を送る。
私も、大概仲間入りしている状態だけど。
ハーレムはごめんである。
大勢の仲間の一人になるのも、顔面偏差値たかめな異性を侍らすのも性に合わない。
うちの子達は家族枠なのであって、ハーレム要員ではなし。
異性のフィディルやレオンは私に恋愛感情は持ってはないし、ユリスは親か姉として慕ってくれている。
他の子達も、家族や兄妹の認識が強い。
ゲーム内では、大精霊は孤独な存在だったんだよね。
司る聖域で待機してなくてはならないし、自由気儘にプレイヤーが荒らす世界を補修しなくてはならないしで、プレイヤーを嫌っていたんだわ。
それが、何の因果でプレイヤーに興味を持ったのかは、禁則事項だからと教えてはくれないけど。
どうも、統括AIが何かした結果による意識改革があったと噂されていた。
私は、教えたくない内容を無理には聞かない。
マスターに隠し事をするのを嫌うお子様ズも我慢しているのだから、教えたくなったら自分から話してくれるのを待つ。
大精霊にもプライベートな距離は必要である。
ん?
話がずれたな。
勇者召喚の理由について、聞いていたんだった。
「魔王は、こちらの大陸にはいないわ。補給地点もない大海原を抜けた別の大陸にいるとの話だけど。別段、侵略する気は無さそうとの見解ね。悪の帝国が蔓延る余地は、こちらの大陸にはないわ」
「神聖国の枢機卿が、戦争の種になりそうな案件を潰していてな。まあ、小競合いは見逃されているがな」
「多少の息抜きには、必要であると判断されているのでしょう。アルバレア家のフォレスト領と隣国の国境での騒動も、一般庶民にいわれなき犠牲が出てきたら介入されるわね」
ふむ。
アンナマリーナさん達の説明によれば、勇者召喚の意味がないと分かった。
ただし、現在は必要性がないものの、二年後には不可欠な理由が出てくるのかもだけど。
でも、人外さんの様子では緊急性が低い気がしていた。
迷惑だと、言外に表していたようだった。
まあ、引っ掛かるのは、例の魔導師絡みの件だ。
牢獄に囚われている黒幕な神が、騒ぎ出す可能性があるとみていい。
雌伏の時を費やすダレンや、企んでいそうなユーリ先輩が表に出てくる気配が濃厚である。
私に出来ることは、対抗策を練ることかな。
「なら、二年の間にナイルさんを鍛えて貰って、女王国への侵略の抑止力になって……」
「細工師。二年の時間は何処から出てきている」
思考していたら、口に出していた。
アンナマリーナさんに聞きとがめられ、質問された。
また、男性口調になっているぞ。
「言ってなかったっけ。本来、勇者召喚される時期は二年後で、五人召喚されるのが決定されている。私は巻添え。親切な神様が、関わりないように二年前に遡らせたんだって。この姿も、元の身体が五体満足でないし、探されるのも予定されて見つからないようにだって」
「もしかして、ゲームの技能やアイテムボックスやら引き継いでいるか?」
「引き継いでるね。幾つか、こちらの世界に対応した技能もあるけどさ」
「なら、細工師一人で事が終わりそうだが。お得意なえげつない細工罠と、六柱の大精霊をフルに活用した大規模級な戦略魔法で侵略者を圧倒できるだろ」
アンナマリーナさんが言いたいのは、都市別対抗戦だったり、イベントの防衛戦で披露した一件のことかな。
あれは、復活できるプレイヤー相手だったり、魔物や魔獣相手だったから活用しただけで、対人戦略にうちの子達を利用する気は更々ないや。
守護者持ちのプレイヤーでしか閲覧できない禁則事項に、精霊を酷使して殺人を犯さない旨が記載されている。
精霊は人間の負の感情に弱い。
悪意の感情に飲み込まれて闇落ちする精霊は、暗黒精霊となる。
間違えてはならないのが、邪属性の精霊と暗黒精霊。
両者は似ているようで、似てはいない。
邪精霊は悪戯好きな精霊で人には好意的、対する暗黒精霊は闇落ちしただけあって人には悪意の塊でしかない。
絶えず、憎しみ恨み、人を破滅させるしか頭にはない。
そんな暗黒精霊に、うちの子達をならす訳にはいかない。
「人の戦争に精霊を利用する行為は、精霊を殺す行為だって知らない?」
「……そうなの? だから、守護者は防衛にしか協力させられないのね」
「道理で、ティグレア国が小国に成り下がった訳だ。あの国は守護者を戦争の道具にして、精霊の怒りを買った。年々、作物の収穫量は減り、鉱山も閉山になった。求心力が無くなる一方なのに、意識を変えようとはしないからな」
ティグレア国が勇者召喚をする国の第一候補に上がってきた。
情報集めて、無関心を貫こう。
「話は変わるが、細工師殿にお聞きしたい」
「兄上?」
「どうぞ」
「妹との会話では、細工師殿は職人の意味でそう呼ばれていないのかな。どうも、内容的にそう思えなくてね」
「ああ、似非細工師とか言われてますしね」
「すみません、兄上。この細工師は、職人として装飾品を扱う技能もたけていますが、精霊魔法師としても有名でして。また対人戦に於いても細工罠を仕掛けて、数万人の敵を凌いだ実績があります」
アンナマリーナさんが一つの指輪を抜いて、お兄さんに手渡した。
見覚えがある指輪は、私が製作した品だと見て分かった。
ミスリルの地に、ルビー、サファイア、エメラルドが嵌め込まれた指輪は、トリニティリングと呼んでいる。
「鑑定するまでもなく、ご存知だと思います。速度上昇、筋力増強、器用上昇の付与が為された逸品です。初代錬金女王でさえ、ダブルの付与しか出来ません。当代女王陛下も、上昇効果がある付与は十に一の確率です。しかし、細工師は上をいきます。四の効果も付与出来ます。おまけに、耐久性も抜群で、ほぼ永続した効果がつけられます。その分、費用は桁違いですが」
リングやブレスに付与出来る効果は、バフ(能力を強化、上昇する)かデバフ(能力を弱体化させる)のどちらかである。
二つから三つへの壁は高く、狙った効果を複数付与できるからこそ、師=マイスターを名乗れた。
それも、二つバフで一つデバフといった三つの効果の付与が当たり前で、三つもバフの付与効果が出きるのは師でも確率は低い。
私は、ゲーム内のNPCの師匠から一子相伝の技として引き継いだから、確率は思うがままに付与できた。
同業者にはチートだと騒がれたものである。
師がいた同業者は師に諭され、技術習得に邁進したけど。
大概は、楽して手にいれようとしていたお馬鹿なプレイヤーだった。
粘着して、クラン勧誘に来ては、他の依頼者の仲介に入り、相場の何倍もの手数料をぶんどっていた阿呆もいた。
勿論、相手にしなかった。
仲介した阿呆も、話に乗った馬鹿も、最終的には私に罪を被せてきた。
一才関与していない私は直ぐ様GMコールして、
GMアイドルの双子ちゃんに是非を確認して貰い、無罪放免。
運営ではない、統括AIによるお知らせが全プレイヤーに行き渡り、掲示板が荒れに荒れた。
転売を防止する機能もアプデされて、売り渋っていたプレイヤーが食ってかかったとか。
情報屋や検証班なんかが、善意の行為だと偽善を振りかざして押し掛けてきていたなぁ。
一子相伝な技を受け継いだ職人中には、公表したら受け継いだ技を喪失する条件もあったりしていたから、おいそれと口には出せない。
だと言うのに、偽善者は自己の探求心を満たす為には、職人の都合なぞ聞きやしない。
わらび餅さんが所属していたクランは中堅どころのクランであったので、粘着されていた職人の保護をしていたり、採取の護衛をしていたりと活動していた。
試す意味でトリニティリングを報酬に提示したら、適正な報酬ではないとお説教を受けたなぁ。
懐かしいや。
アンナマリーナさんが所持していたリングは、あの時の報酬に渡したリングだ。
アンナマリーナさんも、私と同様に転生特典を貰っていたんだ。
「このリングだけで、一財産だな。絶対に、アナスタシアには見せるなよ。あれは、躊躇いなく奪っていくぞ」
「鉄貨一枚で作製依頼するか、難癖つけて巻き上げるかですね。細工師。安売りはしてくれるなよ」
それは、技能か品物か、どちらの意味でもあるのだろう。
実際に会ってはいないので、なんともいえないけど。
アルバレア家は、問題を抱えすぎてはないかな。
迂闊に、ナイルさんやロイドくんやエメリーちゃんを託すには相応しい場所ではない。
内情の掃除が必須である。
となると、ナイルさんには酷だが、我が家からフォレスト領に通ってもらうか。
大人だし、護衛に守護者を派遣しなくてもよいかな。
こういう時に、私の意向に添ってくれるのはレオンしかいない。
お子様ズは監督役がいないと、殺る気に制御が効かないし。
大人組は、私の安全しか興味がないし。
レオンに甘えるのは如何なものか思案する。
人当たりが良くて、自由行動が託せる守護者が欲しくなってきたかも。
まあ、口にしたら悲観する子達がいるので、言わないけどさ。
アルバレア家に守護者って、いないのかな。
後継者の伴侶に守護者がいないアンナマリーナさんが筆頭に上がるのをみるかぎり、アナスタシア嬢の評判は悪そうである。
少し、アナスタシア嬢の守護者に興味が出てきたぞ。
どうにかして、会えないものかな。




