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女王⁉ 聖女⁉ いえ、ただの農業オタクな細工師です。  作者: 堀井 未咲
第一章 新しい未来へ

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042 兄はシスコンでした

 待ち人とはなんぞや?

 領主代行さんはアンナマリーナさんと話し合いをしろと言うが、マーベル一家を交えてはならない様子である。

 乗り込んだのは私であるが、安全が確認されていない限りは離れる気はない。

 執務室の外側にて、扉を破ろうと力業でゴリ押ししている弟さんが、賊だと判断して剣を向けない保証はない。

 どうも、お兄さんはツンデレではなく、がちで重めなシスコンであるらしい。

 いや、アンナマリーナさんの前世?が、男性のわらび餅さんであるので妙にしっくりこないけど。

 何やら、お兄さんが領主代行さんに暴露されて、反論している。

 完全に意識が私達から、離れていた。


「母上。アンナマリーナには教えるなと、あれほど念を押したのに何故ばらすのですか」

「喧しい、馬鹿息子。お前が父親と弟を巻き込んで、アンナマリーナを他家に嫁がせない時間稼ぎをしていた策は自分勝手な判断だ。現に、アンナマリーナは社交界では爪弾きされている。酷い噂が持ち上がるアンナマリーナには、持参金目当てな商家の後妻やら、加虐趣味な貴族の妾やらの、ある意味悪い方向で人気を得ている。お前がしたことは、アンナマリーナの名誉を傷付けただけと知れ」

「ぐっ。確かに、下策だと知りました。しかし、マーベル殿に嫁いでアルバレア家に残れればいいのです。下手な家に、アンナマリーナを嫁がせられません」

「所詮、馬鹿息子は馬鹿息子か。マーベル殿の次代であるお子がいる以上、アンナマリーナの子がアルバレア家を継承することはない。それに、アンナマリーナは名目上のお飾りな妻でしかない。子は望まない」

「母上?」

「アンナマリーナは妖精の悪戯により、性別が真逆にて産まれた。己が男性であると認識しているアンナマリーナに、男性と同衾できるか。私は強制はせんぞ」

「はい?」


 あー。

 こちらの世界でも、妖精は悪戯好きな一面があるんだ。

 チェンジリング。

 取替えっ子は、性別逆転でも当てはまるのか。

 でも、アンナマリーナさんINわらび餅さんの図式だと、妖精ではなく神様が行ったと理解できる。

 なにしろ、ゲーム内のアバター名が鑑定ででてくるのだし。

 本来なら、本名が表されると見ている。

 秘匿されているのか、理由があるのか判断つかないが。

 どうも、人外さんが関わっていそうである。

 まあ、その辺りの事情はアンナマリーナさんに聞くしかないなぁ。


「アンナマリーナ。お前の兄達はアンナマリーナの男性嫌いを理由に邪険に扱うことで、ひっきり無しに上がる婚約願いを排除してきた。お前が望んだ相手なら、叶える気でいた」

「……兄上」

「どうも、お前は兄限定で魅了に近い好感を得ていたのだ。妹に甘いどころか、至上主義なのは親にばれているがな。我が旦那殿も、ノリに乗って娘を嫌う父親を演じている。まあ、旦那殿は可愛い娘を手放すのが嫌で、ならば嫌われていようと息子に負けず劣らずな思考をしているのだがな」

「兄上、父上」


 母親が鬱憤をはらすかの如く、家庭の事情を暴露していく。

 これは、ナイルさんの不興を買った詫びに、教えているのだろう。

 そして、アルバレア家を継承できるのがマーベル一家しかいない現状もか。

 アンナマリーナさんは初めて知る事情に眉根が下がり、表情が曇っていく。

 多分、肉体と精神の性が合わない淑女らしからぬアンナマリーナさんが、政略の駒になれず、全うな結婚相手に恵まれないから、独り立ちできる様にお兄さん達も後継ぎにならない策を講じていたな。

 女王国は女性でも、爵位の継承ができると聞いた。

 シェライラも自分の才覚で、筆頭女王候補になり爵位を授与されて、ライザス領主になった。

 アルバレア家は武門だから、武芸で身を立てて爵位を得ようとしていたか、親の爵位を継承していたかだよね。

 お兄さん達は、早々と後継者レースを降りていたな。

 んで、着々と頭角を現すアンナマリーナさんが、爵位を継承し易い環境を作っていた。

 アンナマリーナさんに嫌われてまで、そうするお兄さん達とお父さんに脱帽する。

 選民意識が貴族は高く、プライドとステータスを保つ為に爵位継承は欠かせないと思っていた。

 現に、前ライザス領主とランカの代官に収まっていた貴族はいたし。

 罪を暴かれて捕らわれたけどさ。

 うーん。

 貴族に対する感情を改めないといけないかな。


「マスター。そろそろ、扉が破壊されそうです」


 意識が反れて、フィディルに警告された。

 次の瞬間、扉が吹き飛んだ。

 扉の破片と熱波が、私達を襲う。

 おい、やりすぎだ。

 執務室にいる人間が、怪我したらどうする気だ。

 警告されたので、結界を扉側に展開した。

 咄嗟に選んだ魔法は、時空魔法の空間断絶。

 廊下から入ってくる二歩分進んだ位置の空間を一歩分切り取り、破片と熱波を別の部屋に追いやった。


「アンナマリーナ! 母上、兄上。ご無事か。おい、侵入者を捕らえよ」

「止めよ。動くでない。客人に無礼は許さん」

「母上? 賊ではなく、客人とは如何に」

「ですから、アレクシス様。アルバレア家の継承者たるマーベル一家であると、何度説明したら理解してくださるのか」

「あ?」


 息巻いて雪崩れこんできたのは二人目のお兄さんかな?

 魔法を補佐する短杖が私達に向けられ、レオンがマーベル一家を、フィディルが私を庇う。

 ファティマは待機で、お子様ズは袖を捲り殺る気満々である。

 続いて入室してきた騎士の背後から、赤毛の騎士さんが同僚を掻き分けて苦情を言う。

 慣れた手付きで短杖を取上げ、お説教を始める。


「いいですか。アンナマリーナ様を心配するのは仕方がありません。普段のアレクシス様は、表立ちアンナマリーナ様を庇えませんからね。ですが、そのアンナマリーナ様の事で、すぐにかっとなる癖は止めてください。アレイスタ様もアレクシス様も、護身程度にしか武芸を嗜んではいません。反撃されて大怪我をなさる未来しかありませんから」

「うぅ。だがな、マーベル一家の長はアンナマリーナに相応しき武芸をしているか、確かめにだな」

「取って付けた後付けの理由はいりません。先ずは、謝罪が先です。大体ですね。室内で火炎魔法は止めなさい。被害は執務室の中に及ぶのです。貴方の大事なアンナマリーナ様を、貴方が傷付けてどうしますか」


 赤毛の騎士さんにたて続けに非難されるお兄さんは、目に見えて肩を落としていく。

 お子様ズの殺る気メーターが鳴りを潜めていくも、危険に晒したことは許す気はなさそう。

 止める間もなく、ユリスが水を項垂れるお兄さんの頭上に顕在させてぶちまける。

 水の被害になったのは一人だけにしている配慮はしていた。

 お説教をする赤毛の騎士さんは水に濡れていないし、床に落ちる筈の水は宙に浮いてお兄さんにだけまとわりつく。


「うわっ? なんだ?」

「さ、細工師。兄上を水攻めにするのは、止めてくれ。その後のあれも、止してくれ」


 どうも、アンナマリーナさんは私に対するとわらび餅さんの意識が高くなり、男性口調になるらしい。

 外見は女性のアンナマリーナさんが、男性口調で違和感ないのは母親の領主代行さんも男性口調だからかな。

 もしかして、領主代行さんはアンナマリーナさんを見かねて、男性口調にしているかもだけど。


「ユリス」

「はぁい。罰は止めまぁす」

「……むぅ。凍らせたい」

「エスカは笑笑茸(わらわらたけ)、食べさせたいなぁ」

「だから、守護者を諌めてくれ」

「守護者? こんなちびっ子が?」

「アレク兄上。細工師の守護者は、位階は大精霊。それも、六柱もです。速やかに謝罪してください」


 お兄さんに対しては、やや男性口調に近い女性口調になるアンナマリーナさん。

 私にだと、本来の性格が出てきてしまうのだろう。

 わらび餅さんは、バリバリの肉体言語に特化した拳闘士だった。

 女性になってしまい力に劣るから、剣や槍の技能を伸ばしている。

 鑑定結果で、格闘技能が封印されているのが分かった。

 細身な身体では、格闘で相対するのはお胸が邪魔をしそうだ。

 こちらの世界での下着は、コルセットか厚手の肌着しかない。

 下もカボチャパンツかドロワーズだし。

 王城で着替えが出されて侍女さんに聞いたら、そう返ってきた。

 流石に、ユーリ先輩も裁縫は人任せだったからか、流行らしてはいなかった。

 手持ちの下着が着れなくなったらどうするか。

 悩んでたら、ショルダーバッグのアイテム一覧に、裁縫師エララが作成した下着を発見した。

 おまけに、ゲーム内でのレシピ集があったし、エララに学んでいたブラウニーのアンジーと再会したから、大助かりした。

 アンジーに発注してあるので、シェライラや女王ちゃんにも分けてあげよう。

 アンナマリーナさんには、どうしようか。

 中身が男性のアンナマリーナさんに、女性の下着を渡したら嫌みにしかならないだろうし。

 さて、悩ましい。

 逡巡していたら、フィディルを挟んでアレクシスさんが頭を下げていた。


「申し訳ない。謝罪する」

「はい、受けました。後、マーベル一家にも謝罪を。ご家族には、一切の悪意はありません。別に、アルバレア家を尊重する謂れはないですから。そちらの事情に巻き込まれた側ですし、無理に継承しなくても好いですよね」

「ぐぐっ」

「それについては、私も謝罪する。不興を買ったのは、私に責がある。だが、少し話し合いをしたい。アルバレア家の現状は明るくない。国境を接する隣国が兵を集め始めた。狙いは、聖剣を所有する領主がいない隙を付いて、領土のミスリル鉱山を奪い取る気だろう」


 ミスリルは聖剣や魔剣の必要不可欠な素材。

 また、オリハルコンや合金を扱う鍛冶にも、緩衝材となる為に欠かせない。

 獣人は魔法を単独での行使は危ういが、聖剣や魔剣の魔力を引き出しやすい種族差がある。

 腕に覚えのある獣人は、必ずミスリル鉱山を狙ってきた過去があり、現地の人間を酷使して短期間で堀尽くす悪行をしてきたそうな。

 フォレスト領も幾度となく狙われ、その度に聖剣を所有する領主が退治してきた。

 前領主が亡くなった事実を伏せて、後継者を探しているのを隣国に悟られて好機と思われた節があった。

 小競合いの頻度も増している現在において、ナイルさんの助力と領主就任は成さないとならない。

 信頼回復ができるなら、頭を下げるのも辞さない構え。

 形振り構ってはいられない姿勢に、ナイルさんも困ってきている。

 ここで断ると、恩ある前アルバレア侯爵が守護してきた土地が荒らされる。

 そして、封印された聖剣が万が一にも敵に奪われて所有しようとしても、封が解ければまたエメリーちゃんの元に跳んでくるのは必須。

 その場合、荒らされた領民の恨みの矛先が、マーベル一家に向かない保証はない。

 でも、私が口を出す権利はないから、ナイルさんは自身で答えを出さないとならない。

 だからといって、今日明日にでも出せる答えじゃないよね。

 子供たちの将来もかかってきている。

 ままならないなぁ。

 溜め息が溢れそうだ。

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