037 驚きました
護送車に詰め込まれていく元村人達。
観念して手荷物を纏める者がいれば、往生際悪く足掻く者もいる。
その筆頭が、村長を自称していた太っちょだ。
脅され指示されていたの一点張りで、動こうとしない。
揚げ句の果てに、矛先が私に向けられた。
「あの女。あれは、どうなのです。怪しい力で有無を言わさず、土地を奪った。同罪ではないですか!」
「論点をすり替えるな。あの方は、貴様等とは違う。次の褒章で、名誉子爵に叙爵されるのが認められている。それまでは、貴族に準ずる身分が保証されているのだ。そして、この土地は功績による恩賞。何ら、疚しいことはない」
は?
何ですと?
子爵位?
いらねぇ。
本人無視して、何を決めてることやら。
土地は、有り難く戴くけど。
貴族何て、柵がありすぎて厄介なだけじゃん。
いらねぇよ。
「あれは、隊長の勇み足だな。女王陛下の守護者は反対なされている。ただ、宰相閣下とうちのお嬢様の守護者方が、賛成しておられてな」
私の表情を読んだのか、シェライラの護衛騎士さんが説明してくれた。
まだ、草案の段階で議会の承認を得てはいない。
なら、そのまま立ち消えにならないかなぁ。
アリスとジルコニアは、私が女王国から出奔しないように手を打ちたかったのだろう。
フィディルがいるから、何時でも帰ってこれる状態なのだけど、本気で隠棲しようとすれば探しようがなくなるのが不安なのだろう。
私を介して、最初のマスターとの思い出を風化させたくないとみた。
それも、良し悪しなんだろう。
女王国で得たマスターを蔑ろにする結果にも繋りかねない。
でも、忘れたくない葛藤がある。
なまじ、私と再会できたうちの子達が身近にいてしまう。
内心、複雑な気持ちを抱えていそうだ。
「マスターが嫌なら、話をつける」
「レオン」
「火と風は、マスターが手の届かない場所にいるのが恐いんだろうが。マスターに過度な期待を持つのは駄目だ」
「そうですわね。活動を最低限にしていたわたくし達と違い、あの子達は長い間人の輪の中にいました。知らないうちに、疲れているのかもしれません」
「特に、火のは弱音を吐かない子ですから。もしかしたら、本人も分からない不調を出しているのかもです」
大人組の意見に、耳を傾ける。
エルシフォーネは見える範囲で不調をきたしていたから、すぐに分かったしなぁ。
アリスは頑張り屋さんだから、限界まで器を酷使していたりする。
やっぱり、皆リペアするしかないか。
でもなぁ。
器は修復が効いても、精神は修復できない。
私は、精神の専門家ではないし。
何が最適かだなんて、正直お手上げだ。
「……お話できたら、いい」
「アーちゃん。マスターとアーちゃんのマスターとのお話大好き」
「皆で、わいわいお話する」
お子様ズが、服の裾を引っ張り見上げてきた。
ユリスが主張するわいわいとは、パーティー開けと言っている。
クランに所属していた時には、小さな出来事でもメンバーが持ち寄った食材で宴会を開いていた。
懐かしい。
クランが崩壊するまで、騒いでいたのが懐かしい。
あの頃は、ユーリ先輩もおとなしかった。
楽しい記憶しかない。
ひとつの事に、皆一丸となり切磋琢磨していた。
だのに、先輩の欲の為にクランは利用されて、崩壊した。
隠棲したプレイを余儀なくされたメンバーは、付き合いを絶たれた。
守護者達は守護者達が繋がるネットワークがあり、情報を比較的に相互理解していたが、メンバーは先輩に見つからない様に連絡ツールを閉ざしていた。
週に一度覗いてみると、先輩からの煩い連絡ばかり。
拒絶してみても、取り巻きを使っての製作依頼とは名ばかりのたかりに、うんざりさせられた。
そっか。
寂しかったんだ。
大勢の賑いから、隔絶されたら戸惑うよね。
だから、逃がさないと雁字搦めに捕獲しようとする。
不安解消に、話し合いが大事か。
グレイスへの代償にケーキも作ることだし、一丁招いてみようか。
まあ、先ずはお客さんの用事を片付けるのが先だけど。
思案から戻ると、やっとこさ自称村長が引き立てられていっていた。
「お待たせして、申し訳ありません。此方の用件がひとつ終わりました。次に、ナイル=マーベル殿とお会いしたい。お取り次ぎを願います」
「自分も同様に、マーベル家に用事があります。決して、マーベル家に不利がございませんので、お会いさせていただきたい」
隊長さんは部下を二人と従騎士さんを残して、村人達を護送していった。
静かになった門前で、隊長さんと赤毛の騎士さんが頭を下げる。
ほいほいと下げていいものかなぁ。
いや、隊長さんの弁によれば、叙爵されるのだった。
身分的に、騎士爵より上なのだっけ。
爵位に関しては、叙爵前の状態がどうなっているのか知らない。
学ぶ事も、増えた。
「どうぞ、お入りください。ただし、悪意があれば、すぐに叩き出します」
「はい、承知しております」
結界に弾かれることなく、騎士さん達は門を通過した。
騎馬をレオンが誘導して、即席の水場に連れていく。
荒地なままなので、草は存分に食べてくれて構わない。
糞尿は肥料になるので、纏めておいてくれると助かる。
世話係を従騎士さんに任せて、家にご案内する。
中に入れば、ブラウニーが待機していた。
「お戻りなさいませ。お部屋は準備してございます」
「ありがとう。お客さん方はナイルさんに用事があるそうだから、呼んできてくれるかな」
「はい、畏まりました」
クリスが先導して、アンジーは呼びにいく。
阿吽の呼吸で役割分担。
応接間に入り、席を勧める。
隊長さんと赤毛の騎士さんが座り、護衛騎士さんと二人の騎士さんは背後に佇む。
うちの子達は、エスカが膝にきてユリスとセレナが両脇に侍る。
他の子達は、やはり背後にまわる。
クリスはお客さん方にお茶を配り、背後の騎士さん用に丸型テーブルを配置してお茶を置いた。
職務上は飲食しないだろうけど、配慮しないとね。
「失礼致します。ナイル様をご案内致しました」
「失礼します。自分にお客と聞きました」
アンジーはナイルさんだけを案内してきた。
子供達に聞かせられない内容と推測したのか、お客さんを信用していないのか安全の措置をしたのだろう。
ブラウニーが支配する屋内では、彼等を出し抜いて危害を加えることは私でもやらない。
お仕置きがあれなので、絶対にやりたくない。
「ナイル!」
「……ジュール?」
赤毛の騎士さんが勢いよく立ち上り、ナイルさんに抱き付いた。
それは、感極まっての行いで、不作法すぎるが指摘しないでおこう。
「十年以上も探させやがって。ライザスの領主付きの騎士から、投獄されて怪我をしたと聞いた。ご縁があり、優秀な治療師に治療されて五体満足無事でいるとも聞いた。それでも、心配した。本当に、再会できて良かった」
「ジュール。それは、心配かけて済まない。自分も詳細は知らないが、息子が結んでくれたご縁で、こうして生きていられる。再会できて、嬉しい限りだ」
「ああ。オーギュスト様が、どれだけお前との再会を望まれていたことか。叶わず、楽園でお守くださったのだろう」
「オーギュスト様が、身罷ったのか」
「騎士ワイズ。説明は、バーシー嬢にも分かる様にせよ」
おいてけぼりになる私を尻目に、赤毛の騎士とナイルさんの会話が続いていく。
見かねて、隊長さんが指摘をする。
うん。
訳が分かりません。
お茶を飲む私には、さっぱりです。
「申し訳ありません。旧友に会えた衝撃で、我を忘れました」
赤毛の騎士さんは、恐縮して謝罪する。
私の中では、騎士は貴族に準じて気位が高い職だと思っていたのだけど。
此方の世界の騎士の有り様が違うのか、女王国が特殊なのか判断に困る。
「騎士ワイズの主人たるオーギュスト卿は、礼節には厳しいお方です。婦女子や弱き民人の扱いに間違うと、容赦なく指導が入ります。そして、オーギュスト卿は長年我が国の騎士団総長の補佐を勤めておられた。騎士に彼の方の指導を受けてはいない者はおりません」
隊長さんの言葉に、騎士道精神を想い到る。
弱きを助け、強きを挫く、だったかな。
「改めて申し訳ありません。自分は前フォレスタ領主オーギュスト様の配下で、ジュール=ワイズと申します。主人の命により、従騎士ナイル=マーベルを捜索しておりました」
軽く頭を下げて、席に着く。
ナイルさんは、私側の近くにクリスが椅子を置く。
戸惑いを見せるナイルさんである。
貴方、騎士側に座ろうとしたけど、此方側だから。
契約してないけど、うちの雇用人だから。
間違わないで欲しい。
「お恥ずかしい話でありますが、我が領地にて不正が発覚致しました。それに伴い、ナイル=マーベルの従騎士資格剥奪が撤回され、正騎士に推挙される運びになりました」
「は? 待ってくれ。自分は従騎士修行も半ばで、騎士資格を保有していない。何故に?」
「それが、問題なんだ。従騎士修行中に、魔法適性を検査されただろう」
「ああ。魔法適性無しだと判断された」
「間違いだったんだ。正しくは、取り違えられたんだ。ご子息のオーガスタ様とな」
「馬鹿な。有り得ないだろう。オーガスタ様は、オーギュスト様の血を継承された唯一のご子息。それでは、家名を継承できなくなる」
「だからさ。あの方も、幼い頃の適性検査では適性薄しと言われていた。焦りがあったんだろう。検査官に賄賂を与え、検査結果を偽った。そうして、命で贖った」
雲行きが怪しくなってきたぞ。
内容によると、フォレスタ領主になるには継承される魔法適性が必須。
領主の息子は、適性が無かったんだろうな。
それを、薄しと濁されて、望みを持った。
成長して再度検査されるも、無しと結果が出てしまい、自暴自棄になった。
母親を案じて不名誉を撤回しようとしたのかも。
「領地にて、大規模な魔物の群れが発生した。討伐に出陣された際に、継承に必要な聖剣を無断で持ちだし、生命を糧にされて魔法を発動された。無論、適性無き者が発動した魔法は効果がなく、魔物に蹂躙されて亡くなられた。葬儀場にて、事実が明るみに出てな。逆恨みの対象になるのを恐れて、ナイルを保護しようと手配がされた。だというのに、ナイルは見つからない。オーギュスト様は、志し半ばで身罷られた」
赤毛の騎士さんは苦々しく暴露して、魔法鞄から重厚な細長い箱を取り出した。
蓋を開けて、中の物を恭しく捧げ持つ。
「ナイル=マーベル。フォレスタ前領主、現代行領主二名の嘆願により、フォレスタ領主アルバレア侯爵の継嗣に選ばれた。汝は、正統な後継者にして、聖剣の所有者である。汝の帰還を、我等は望む。とく、お応えいただきたく、願う」
「ナイル=マーベル。女王陛下の承認により、汝はマーベリック子爵の爵位も返還されるものなり。長きに亘る不遇の扱い謝罪したく、是非に王城に参内いただきたい」
ナイルさんへの用事が、本人には途轍もない案件に発展したのは分かる。
内容が理解しづらいナイルさんは、疑問符を浮かべている。
侯爵位は、私より上の爵位。
農民から、一気に位階があがっている。
おーい、ナイルさん。
呆けている場合ではないぞ。
頼むから、存在を主張する聖剣を受け取るか、引っ込めて欲しいな。
両脇のユリスとセレナが、警戒しているからさ。
その、バチバチ仕舞っておくれ。




