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女王⁉ 聖女⁉ いえ、ただの農業オタクな細工師です。  作者: 堀井 未咲
第一章 新しい未来へ

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036 先輩は阿呆でした

「……喧しい。静かにしないか!」


 門に近くなると、お客さんらしき厳つい鎧姿の騎士さんが怒鳴っていた。

 四六時中、我が家を監視をしていたのか、村人がここぞとばかりに集い不平不満を喚いていたのが推測できた。


「騎士様、お助けください」

「先祖代々の土地を奇妙な魔法で、奪われたのです。取り返してください」

「それに、代官様が何かの間違いで捕らわれました」

「騎士様は、哀れな我々をお救いしてくださるのですよね」


 あー。

 はいはい。

 自分勝手な言い分に、騎士さんに同情するわ。

 村人代表と思わしきでっぷり太った中年男性と取り巻きが、代わる代わる騎士さんに詰め寄っている。

 彼等が強気に出ているのは、騎士さんの背後に囚人を護送する鉄格子が填まった馬車があるからだろう。

 騎士さんの数も二桁いる。

 捕り物と一目で分かった。

 ふーん。

 敵対者かな。

 なら、容赦しないぞ。

 私の眼差しが据わる。


「! 騎士様。人が出てきました」

「早く、早く捕まえてください」


 歩いてくる私達を発見した村人が、指差して訴えた。

 しかし、騎士さん側はゆったりと整列した。

 ん?

 騎士さんの中に、見知った顔がある。

 たしか、シェライラの護衛していた騎士さんじゃないかな。

 疑問に感じていたら、向こうが片手をあげて挨拶をしてきた。


「バーシー嬢。朝早くから、騒がして済まない。バーシー嬢と、ナイル=マーベル殿のお客人を案内してきた」

「大変申し訳ない。本来なら、先触れを出してからの訪問をさせていただくのだが。何分にも、ライザス領主より早急に解決するべき案件であると、報告をいただいた。バーシー嬢の安全を優先すべく、我が隊が派遣された」

「自分は、我が主より命を受けて参りました。我が主が捜索しておりましたマーベル殿を、貴女が保護しておられる。精霊様のお導きにより、判明致しましてございます」


 隊長の徽章を付けた騎士さんと、赤毛の騎士さんが会釈した。

 着ている鎧が違う為、それぞれ目的が違うと思ったら、軽く説明された。

 二人の発言を聞いた村人が、描いたシナリオ通りにならない展開に驚き出す。

 太っちょが、手近にいた騎士の身体に触れようとした。

 それ、やったらあかんわ。


「ぎゃあ!」


 職業軍人に声を掛けずに背後から手を出すのは、身を危険に晒す行為だ。

 うちの父親に悪戯で仕掛けようものなら、骨折で済んで良かったねと言われる。

 あの人情け容赦なく、条件反射でぶん投げるわ、骨を折るわだった。

 ナイフ一本で熊退治やらかすからね。

 老若男女、区別しないのが厄介だった。

 父親の部下は、鬼の上司とか呼んでいた。

 そんな恐ろしい身内がいるから、そういった人に接する時は、なるべく気配を断たないでおく。

 背後にいたら、声を掛けるのが当たり前。

 これ、鉄則である。

 馬鹿をやからした太っちょみたいに、腕を捻りあげられて組敷かれたくはない。


「はぁ。バーシー嬢。申し訳ないが、我々の役目を優先させていただく」

「どうぞ。お気にならさず、仕事してください」

「有り難い。おい、そいつを立たせろ」

「はっ」


 地面に転がされた太っちょが、強引に立たされる。

 事態を把握してきた村人が逃げ出そうとして、騎士に回り込まれ阻まれる。

 忙しなく視線を移ろわせる村人は一塊にされ、騎士の威圧に抵抗を封じられた。

 太っちょの前に移動した隊長さんが、部下から書状を手渡されて眼前に突き出す。


「自称ランカ村長マルクス。貴様は正式に任命された代官をバスク=ガイナスと共謀して殺害、またライザス冒険者ギルドの職員と結託して人身売買に加担した罪。及び、移住してきた新住人の財産を暴力で奪い、窮状を訴えた住人を前領主の指示により、身を守る術を与えずベルゼの森に遺棄した罪。その他余罪によって、宰相閣下の命により捕縛する」

「……はっ。お、お待ちください。それは、何かの間違いです。わ、わたしは、無実です。事実無根であります」

「黙るがいい。既に、前領主とガイナスによる自供は立証されている。貴様が幾ら虚言を吐こうが、捕縛命令は撤回されない」

「立証なぞ、どうやって出きるのですか。証人はいないのに、皆死んでいる」

「貴様は、馬鹿か」


 隊長さんが、呆れ果てている。

 自分がやりましたと、言っているのに等しいのを気付いていないみたいだ。

 立たせている騎士に後ろ手を取られ、身動きを制限されているにも関わらず、もがいていた。

 証人がいない事実を以て、無実であることの優位性にしようとしている。

 己が罪に問われないと信じているようで、口元が笑っていた。


「例え、ええ、間違いなく嘘である訳で、わたしは悪くはないのです。騎士様も、命令されてと言われましたよね。わたしは、仕方なく命令されて、脅されて従っただけで……」

「黙れと、言った」


 雄弁に語り始めた太っちょを、隊長さんが冷徹な声音で制止した。

 周囲の騎士も、隊長さんも、怒気を露にして威圧の段階をあげる。

 観客に徹していたセレナが、冷気を演出した。

 村人の足元に、霜が発生していく。

 急激な冷えと、初めて味わうであろう騎士の手加減ない威圧に、気弱な村人がバタバタ倒れた。

 そう言えば、女性陣と子供の姿がないや。

 家でお留守番だろうか。

 ロイド君情報では、数名のお子様と成人寸前の少年少女がいるそうな。

 んで、女王国の成人年齢は十五歳であると。

 そのカテゴリーに当てはめると、私は立派な成人である。

 ただし、二十歳になるまでは、親なり後見人の保護下にはおかれ、守られるのだ。

 私には、人外さんの別名な枢機卿が後見人になっていた。

 後、会ったことない知らない名前も連なっている。

 カードに記載されていて、誰だと思案したもんだ。

 宰相閣下曰く、どこぞこの国のご意見番さんや、国王の縁者らしい。

 誰やねん。

 知らんわ。

 悩んでいたら、フィディルが教えてくれた。

 皆、人外さんみたいな別名だと。

 即ち、人外さんの同胞たる神様だった。

 神様が後見人って、乾いた笑いしかでてこんわ。

 話がずれた。


「無学な貴様に、教えてやる。この世には、姿なき賢者殿がおられる。いと高き世を見渡す賢者殿にかかれば、時も場所も概念はなくなる。あらゆる事象に干渉して、我等に真実を教えてくださる。その賢者殿が、立証してくださった。彼の賢者殿は、役目上嘘は延べることは出来ない。それ故、賢者殿の言葉は重く、受け止められる。それが、女王陛下であろうと罪に問われれば、刑に服するのが常である。一介の村人である貴様とて、逃れはしない」


 意味ありげに、私達の方に視線をくれる隊長さんだけど。

 視線の先には、うちの子達がいる。

 成る程ね。

 姿なき賢者とは、精霊のことか。

 そりゃ、世を見渡すか。

 いいえて、実感する。

 精霊にかかれば、属する事象に干渉なんてお手の物だしなぁ。

 時空属性の精霊なら、過去を覗き見すること出来るしね。

 未来も見ようとすれば、見れる。

 が、滅多にやらない。

 未来が分かるとつまらないそうで、専ら過去視しかやりたがらない精霊が多い。

 まあ、うちの子達、とりわけお子様ズは、私が来訪する未来をいつか知りたがりだったそうだけど。

 フィディルは特定の未来をぼかして、私を見せてあげていた。

 苦笑混じりに、打ち明けてくれた。

 聞いた私は、お子様ズとレオンを撫でくり回しましたよ。

 健気で可愛い子達が、自慢である。

 また、話がずれた。


「ああ、忘れていた。貴様も、恩恵に預かった村人にも言っておく。行政府の調査では、この地ランカに居住を許されているのはマーベル家のみだ。貴様等は、無断で王領地に住み着いた流民と言う訳だな。よって、然るべき施設に移送する。法に則り、手荷物ひとつ準備するがいい。残りの資産は、貴様等が納めてない税金として徴収する。それから、貴様等の悪事の被害者に賠償金として支払う」

「そんな……。おれ達が流民だなんて」

「税金なら、きちんと支払っていた」

「代官様が、帳面に残してあるはずだ」

「ちゃんと、調べ直してくれ」


 俄に、勢いづく村人達。

 口々に、流民を嫌がる素振りを見せていた。

 はて、忌避する理由はなんだろ。

 首を傾げる。

 不法滞在で、強制的に帰国させられるみたいな感じかな。

 騎士の威圧に負けない謎な精神力を発揮して、喚き声をあげていた。


「バーシー嬢は、初代女王陛下が流民を嫌う施政を残されたのを、知らないか」

「ええと、ヨハンさんでしたよね」

「ああ、自己紹介してはなかったな。ヒョードル=ヨハンだ。シェライラお嬢様の専属騎士だ」

「ミーア=バーシーです。既に、ご存じだと思いますが」

「うん、よろしくな。うちのお嬢様が、何かと面倒を持ち込むかも知れないが、広い心で受け止めてくれると助かる」

「はぁ、ジルコニアとは縁がありますから、見捨てることは止めておきます」


 騒ぎに発展していく村人達と騎士の押し問答をよそに、ヨハンさんと駄弁る私。

 隊員ではない赤毛の騎士さんも、側に寄ってきた。

 騎士さん達が騎乗してきた騎馬が、呑気に草を食べているのを眺めつつ、会話が弾んでいく。


「端的に言うと、我が国が国を興した当時は流民の集りだったんだよ。だがなぁ、流民は謂わば他国の圧政を逃れた政治犯だったり、税金を納めきれずに奴隷に落とされた民人であったりと、他国のはみだし者だ。周辺国にしてみれば、犯罪者の国と思われても仕方がなかった。それを払拭する為に、初代女王陛下は数々の政策を産み出し、制度を作られた」

「政策や制度の中には、世に知られた有効な物もあったのだが。矛盾するものもある。それが、流民に対する政策だ。流民は国民に在らず。強制政策に隔離。一生を監視して、強制労働させる」

「それ、初代女王が決めた愚策ですね」


 あはは。

 先輩、阿呆ですか。

 馬鹿ですか。

 流石、自己中な思考してますね。

 逆でしょう。

 流民なら、国民として保証する代わりに、労働を担って貰うのが良策でしょ。

 生産性が上がれば、豊かになる。

 豊かになれば、人も増えていく。

 人が増えれば、消費も増えていく。

 消費が増えれば、利潤を求めて商人が増えていく。

 商人が増えれば、余剰生産品が売れていく。

 国が主導して輸出品が増えていけば、国庫が潤う。

 経済学に疎いから、簡単に述べた。

 そりゃあ、上手くいくかは運と実践する人にもよる。

 奇麗事では、図れないこともある。

 富が産まれたら、群がる強欲な人間も出てくるし、独占したいがために、他者を蹴落とし見下す輩もいるだろう。

 それを見越して、政策を打ち出すのが為政者だ。

 ユーリ先輩は、為政者として三流だ。

 厄介事を、見えなくしただけに過ぎない。

 本当に、あの人を女王に据えた人を感心する。

 愚策の対処に、他人を当てにした感も否めないけどね。

 先送りした案件で、次代が苦しむ羽目になろうがお構い無しなんだろう。

 それか、そこまで女王国が持つとは思われてないのか、微妙な線だ。

 いいだろう。

 その思惑、乗ってやろうではないか。

 きっちり、引導を渡してあげよう。

 不敵に、笑ってみせた。


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