034 腹を割って話しました
明けて翌日。
目が覚めたら、心配げにみつめるお子様ズの顔が迫っていた。
室内には守護者が勢揃い。
「「マスター~」」
「……マスター~」
何事かいな。
起き上がると抱きつかれた。
就寝の必要がない守護者達には、その時間を自由に過ごしていてもらっている。
製作技能がある子は生産に勤しみ、遊びたい子は遊ぶ。
遊びの内容は、多岐に亘るけどね。
害獣を討伐したり、魔物を討伐したり。
それ、遊びかと問いたい内容もある。
知らないうちにドロップアイテムが増えていることは、よくある。
昨夜は、遊びにいかなかったのかなぁ。
疑問に思っていたら、
「マスター。昨夜は特別な方と会話を交わされましたよね。夢の中とは言え、一種の神域に招かれていました。肉体は存在するも、精神が感知できないと、お子様ズが不安に感じたのです」
フィディルが教えてくれた。
どうも、私の存在が希薄になり、非常事態だと騒いだらしかった。
すぐに、ファティマによる捜索が開始され、人外さんの同僚神からことの次第を連絡された。
『ちょっと、君達のマスターと話がしたい神がいるんだ。精神だけ招いたけど、ちゃんと無事に帰すから心配しないでいいよ』
なんとも、口調が軽い神様だ。
でも、繋がりが希薄になるほど介入不在の場に私がいる。
お子様ズは不安でたまらなかった。
精神が肉体に戻り、睡眠状態に移行しても、側から離れるのを嫌がった。
精霊には性的欲求がなく、守護者といえど男性体のフィディルとレオンが女性の部屋にいるのはどうか。
ユリスは外見が幼いから、まだ許せる。
しかし、お子様ズが皆で護ろうと主張してやまない。
結果、守護者全員で見守っていた、と。
うん。
ゲーム内のログアウト状態と違い、生身の身体の寝起きを晒すのは勘弁して貰いたい。
が、泣きそうになっているお子様ズや、言葉に出さないレオンの表情も少し歪んでいるのを見ると、言えないわ。
「おはよう、レスカ、ユリス、セレナ、レオン、ファティマ、フィディル。多分、昨夜みたいなことはないから。またなら、その時は皆も一緒にとお願いするよ」
「うん。マスターと一緒にいたい」
「我慢して待ち続けたの」
「……置いていかれるの、嫌」
「ついていく」
「残されるマスターの身体の守護が必要ですから、わたくしとフィディルはお側に侍るのを諦めます」
「そうですね。お帰りになる家と土地も守護しなければなりません。俺も待機します」
それもあるか。
大人組の言い分も分かる。
迂闊に身体を残して、損なわれたら目も当てられない。
第二の人生を幽霊状態にはなりたくない。
お願いいたします。
「さあ、おちびさん達。マスターの朝の身支度をお手伝い致しましょう。フィディルとレオンはお部屋の外に」
「「はぁい」」
「……はぁい」
苦笑して出ていく男性陣。
やはり、ユリスはお子様枠である。
私室の専用浴室の洗面台に、態々ユリスが水を満たす。
顔を洗い、歯を磨く。
甲斐甲斐しくタオルを手渡してくれるレスカとセレナ。
クローゼットに移した衣服を準備してくれるファティマ。
これ、毎日やるのかな。
今日だけだよね。
お世話されるのに慣れていない私は、戦々恐々している。
一般庶民の私が、上流階級並の扱いをされている。
お子様ズが楽しんで行動しているだけに、止める手段がないよ。
『マスター。今日だけはお世話されてくださいませ。おちびさん達は、マスターのお役に立てることを待ち望んでおりました。自身の成長を凍結してまで、この姿を維持しておりました。成長するなら、マスターの元で。そうしてまで、マスターを慕っております』
『うん。分かってる。お子様ズだけでなく、皆からの好意は疑っていないよ』
ファティマの念話に、嘘偽ることなく答えた。
守護者と再会して嬉しい半面、お子様ズが成長してない事実におののいた。
鑑定さんがね、お仕事してくれたんだよ。
錬金人形の器と、内包する精霊の格があっていない。
リペアが必要なほど磨耗している部分もある。
本当はすぐにでも、リペアしたい。
でも、手持ちのスペアボディでは、精霊の能力を充分に発揮出来ない。
逆に減衰させる。
ユーリ先輩の遺産で代替えのボディがあるけど、精査してからではないと信用が出来ない。
私の錬金術は、初歩をかじった程度。
リペアできるが、一から製作することが出来ない。
無理がなければ、最新の技術を学んだシェライラか女王ちゃんに発注したいぐらい。
休眠している子達の分もと考えると、要求はきりがなく出てくる。
ああ、どこかに腕の良い信頼がおけるスペアボディを製作できる人材がいないものだろうか。
「マスター。食堂に着きました」
「はっ? いつの間に」
「姉ちゃん? おはようございます?」
「ミーアお姉ちゃん、おはよう」
「「おはようにゃ」」
「おはようございます。ご挨拶が遅れて済みません。子供達を保護していただいたばかりか、自分まで助けていただき、ありがとうございます」
「あっ、お気になさらずに。私はやりたいことをやっただけです」
腐っても一流の錬金術師のユーリ先輩だ。
ロイド君とエメリーちゃんのお父さんを癒した
エリクサーは効果抜群、すでに起き上がれるまで回復させた。
まあ、副作用がないか確かめて使用したけどさ。
私が席に着かないと食事が始まらない。
ロイド君達を促して、椅子に座る。
食堂のテーブル大人数用に細長く、うちの子達も並んで席に着く。
「私達は雇用される立場です。同席しても、よろしいのでしょうか」
アンジーとクリスにカトラリーを配膳されて、ナイルさんが切り出した。
従騎士をされていたからか、身分とか立場が気になるのだろう。
私は、一庶民である。
元貴族であるナイルさんの方が、身分的には上なんだけどなぁ。
「まず、第一に私は庶民です。まあ、身の丈に合わない役職がありますが、貴族の血統ではないです。さぞ、小娘に守護者が六柱いて、驚かれたと思います」
「息子の話では、新しく赴任された領主様とも知己であると伺いました」
「そうですね。かいつまんでお話しすると、私は初代錬金女王の御技を継承していることになっています。そのご縁で、女王陛下や高位貴族と知己を得ました。しかし、それを吹聴してのさばる気は更々ありません。目指すのは、のんびりまったりした農園ライフです。今後、ロイド君ご家族以外の人員を雇い、家畜も飼育したいと思っています」
全然、農園ライフ出来ていないのが現状である。
早く、大地を耕したい。
作物を作りたい。
うちの子達のリペアもしたい。
やりたいことが沢山ありすぎて、何ひとつやれていない悲哀がある。
「守護者もおられる。錬金術も修めておられる。王城に仕官された方が、世の為になるかと愚考します。が、貴女は束縛を嫌うお方ですね。父が、そういう人でした。己の信念の為に、多くの柵を捨て去りました。晩年、ロイドやエメリーの未来を潰してしまったと嘆いていました。私達を雇用すると、貴女にいらない敵を産み出すかもしれません」
「父ちゃん?」
「過去のお話しは、多少伺いました。その件でしたら、私は関わりを持ちたいと思います。いいえ、私も関係者になります」
「貴女には、得することがないでしょう」
訝しむナイルさんに、ダレンの事情を打ち明ける必要はなく、関わりを持つ理由が分からないせいで混乱させている。
ナイルさんも抱えている事情を、子供達には聞かせたくなさそうにみえる。
ロイド君とエメリーちゃんは、完全に農民の子との認識がある。
ララとリリに嵌められた悪意を知らない。
私も公にしたくはない事情がある。
しかし、見て見ぬ振りは出来ない事実を知った。
「私が得することはないと思われるのは、仕方がないです。ですが、結果的に大報復ができるんですよ。私にはかつて、家族に等しい仲間がいました。その仲間を苦しめ貶めた輩が、共通の敵になるんです」
清々しい朝にする話ではないよね。
だけど、ナイルさんに納得して貰うには、ある程度腹を割って話さないと。
「貴女も、被害にあわれましたか?」
「間接的にです。私は家族と引き離されました。二度と会えることはありません。ただ、恩寵をくださった神様の計らいで、守護者を得て、反撃する手段も得ました。時が満ちれば、躊躇いなく力を奮います。そして、嘲笑うのです。お前が暇をもて余して、傍若無人に余興を演じさせて、人生を奪った。報いを受けろ、と」
「難しくて、分からないことだらけだけど。姉ちゃんは、家族がいなくなってしまったのか?」
「家族の方からしたら、私がいなくなった側だね。死んだことになってる」
日本人の紅林雅は、荼毘に臥された。
ミーア=バーシーである私との邂逅はあり得ない。
痛ましげに顔をしかめるロイド君とナイルさん。
エメリーちゃんも、死の概念を理解しているだろう。
泣きそうになっている。
「エメ、お姉ちゃんの家族になる」
「ありがとう、エメリーちゃん。じゃあ、雇用契約なしで、一緒に農園で汗を流して、一緒にご飯を食べてくれるかな」
「うん」
「エメリー。それだと、お父さん達好意に甘えすぎになってしまうよ」
「だめぇ?」
いい案だと思うのだけど。
ナイルさんに許否された。
そして、うちの子達むくれてしまった。
『マスターの家族は、エスカ達だもん』
『ずっと一緒いるの、ユリス達だもん』
『……だもん』
『食事も取れる器にしたのに』
珍しくレオンも拗ねている。
ほっぺが膨れている。
ただ、エメリーちゃんの気持ちを汲んでか、言葉には出さない配慮をしていた。
後で、存分に愛でておこう。
「エメリー。お父さん達は、ミーアさんの家族にはなれない。けれども、一緒にご飯を食べてさしあげることはできる。ミーアさんのお手伝い、沢山できるかい?」
「できるー。エメも、お水をあげるのやりたい」
「水撒きだけかい?」
「父ちゃん。エメリーが言いたいのは、姉ちゃんみたいに魔法で水を撒きたいんだと思う」
「そう。まほー、やりたいの」
「そうか、魔法か。でも、適性がないと魔法は使えないよ。お父さんは魔法適性がないし、ロイドやエメリーにも受け継がれて、適性がないんだよ」
ほわい?
ロイド君とエメリーちゃんには、適性があるのだけど?
苦しげに伝えるナイルさんは、嘘を言っている素振りはない。
「待ってください。ロイド君とエメリーちゃんには、魔法適性がありますよ」
「えっ? ですが、この子達を教会で調べてくれたシスターは、適性がないと言いました」
「因みに、そのシスターの名前はハシェットとか言いませんか?」
「はい、そうですが」
あの女。
やらかしやがっているな。
余罪がありまくりじゃないか。
シェライラにちくっておくのを決めた。
どうせ、お布施の金額が少なかったからじゃないのか。
それか、真面目に調べてないかだよね。
取り敢えず、ナイルさんにも魔法適性があるのは教えてあげよう。




