033 夢で会いました(後)
初期のクランメンバーが、プレイヤー初の精霊と契約した。
それも、中位クラスの光の精霊で、回復魔法に特化していた。
ワールドアナウンスが流れて、大規模な勧誘合戦が繰り広げられることになった。
そのメンバーは生産職についていたから、問題は大きくなっていった。
悪目立ちしたメンバーはイン率がさがり、自然と契約した精霊がクランホームに残された。
それが、いけなかった。
ユーリ先輩が、その精霊にちょっかいを出していたのだ。
所謂、自分と契約を結び直すように言っていたのだ。
勿論、精霊は拒否した。
手酷く拒絶されたようで、プライドを傷付けられたユーリ先輩は虎視眈々と復讐の機会を窺っていた。
メンバーをクランから脱退させたかったようだけど、脱退させるにはクランメンバーの承認がいる。
ただ、精霊を得て注目を浴びたからと言う理由では、承認される訳にはいかない。
しかも、メンバーは生産職の中では、稼ぎ頭。
手放すには、惜しい人材だった。
周囲が落ち着いてきた頃、漸くメンバーは復帰した。
折しも、イベントが開催された時期だった。
そこで、ユーリ先輩がやらかした。
メンバーと精霊に無茶ぶりして、イベントの上位入賞を果たすことに成功した。
おかげで、クランの名声が広がってしまうことになり、メンバーの元には精霊と契約する術を強請りにくるプレイヤーが増えた。
けれども、第三者に教えられて精霊と契約するのは禁止行為だった。
メンバーは口を閉ざした。
そうすることで、プレイヤーが契約する機会を逃さないようにしていた。
でも、沢山のアンチを産み出した。
後で知ったのだけど、陰でユーリ先輩が暗躍していたのだ。
運営が公表していないのも重なり、既得情報をメンバーが独占している。
クランメンバーにも、教えられていない。
そう、宣っていた。
益々、プレイヤーからの恨みを買っていくメンバーを、ユーリ先輩は表向きは庇っていた。
そして、風の精霊と契約することが叶った。
ただし、その精霊はジルコニアではないが、二人目の契約者の登場に、周囲が沸いた。
ユーリ先輩はあるクランメンバーを唆して、情報をゲーム内通貨と引き換えにし、プレイヤーに教えていた。
そのクランメンバーは、精霊を得たメンバーを疎んじていたのだ。
その心の隙を、ユーリ先輩が利用した。
己は、善意の行為だとしか認識していないでいた。
なら、通貨と引き換えにするなと言いたい。
プレイヤーの羨望を浴びて、優越に浸るユーリ先輩。
だけど、ユーリ先輩が契約できた精霊は大精霊のジルコニアではなく、下位の精霊。
メンバーの精霊とは違う属性であり、格も劣る。
また、情報を得たプレイヤーは、精霊と契約できない。
次第に、情報を売買していたメンバーを嘘吐き呼ばわりして、詐欺を働いていると運営に通報するプレイヤーが続出していく。
他のクランメンバーが察知した時は、メンバーがアカウントを停止され、運営が情報を公表した後だった。
間の悪いことに、私とユーリ先輩と数名のメンバーが精霊と契約した。
いきなり、複数の精霊契約。
しかも、ひとつのクランから。
それはもう、精霊を得られないプレイヤーの不満が集中した。
私達は単なる素材採取をしていたら、イベントが発生して精霊を得た。
情報を公開してもいいが、私達のやり方では精霊と契約はできないと、運営から通知がきた。
丁寧にも、全プレイヤーに対してだ。
多少悩みはしたけど、初めに契約したメンバーを守れるならと、情報を公表した。
まあ、ユーリ先輩が率先していたけどさ。
残念なことに、そのことでクランが分裂するとは思いもしないでいた。
発端は、ユーリ先輩に唆されたクランメンバー。
情報掲示板に外部デバイスからアクセスして、仲良しプレイヤーと専属契約した他のクラン宛に、アカウント停止された経緯を載せた。
所属する私達クランメンバーには、見られない状態にする念の入れようにして。
だから、ユーリ先輩がやらかしていた事実を、私は知らないでいた。
生産職が集まるクランだけに、戦闘を苦手とするクランメンバーには其々、贔屓するクランがある。
素材採取をする際の護衛を担うかわりに、品質の高い消耗品なり、武器や防具を優遇する。
そうした約束をかわしていたのだけど。
うちのクランの悪評が囁かれ、破棄するクランが出てきた。
引き抜かれていくメンバーも増えた。
打開策を練るクランマスターに追い討ちをかけるかの如く、引き抜かれたり脱退した元メンバーが新しい生産クランを立ち上げる。
ユーリ先輩を懐疑的に見ていた派閥がである。
その辺りで、やっとユーリ先輩に唆されたメンバーの悪行が判明した。
詐欺行為したメンバーは、ユーリ先輩と引金になった精霊と契約したメンバーを逆恨みしていた。
余りある資金で、プレイヤーキル行為をするクランに依頼を出した。
初めに精霊と契約したメンバーがゲームにインしている間には、粘着されてキル行為をされるのを繰り返される。
キル行為も酷く、嗜虐的な殺意溢れた手段でされる。
病まない訳がない。
キル行為されるメンバーは、ゲームを止めた。
次の標的は、ユーリ先輩となる。
だけども、ユーリ先輩が先手を打った。
守護者制度の導入提案。
プレイヤーキルされたメンバーを思ってだの、セクハラ被害にあう女性プレイヤーを助ける為だとか、さも案じていますという体で運営に掛け合った。
採用されると、先ず自分の精霊を錬金人形に封じて守護者に。
伴って、精霊と契約させ易い土台も作った。
みる間に、好評を得ていくうちのクラン。
手の平返ししていくプレイヤー。
その時の私は、ユーリ先輩派に属していた。
だから、うちの子達も守護者に転じていた。
できるなら、当時の自分を殴りたい心境である。
盲目的に、従っていた気がする。
守護者システムに関わってアカウント停止になっても、まだ信じていた。
そうした心境が変わっていったのは、私が大精霊六柱と契約したから。
ユーリ先輩は三柱。
それも、常時顕現させていられたのはジルコニアだけ。
レッタとレットとの相性は良くもなく悪くもないが、言葉に従わない面が露呈してからはもて余していた。
決定的にクランが壊れたのは、ユーリ先輩の優等生な仮面が剥がれ落ちた瞬間だ。
ユーリ先輩に唆されたメンバーと、初めに精霊と契約したメンバーはリアルでは幼馴染みであった。
幼少期からの付き合いな二人は、派手な喧嘩をして仲直りしたのだ。
そこで、ユーリ先輩が裏側で働いていた所業を、二人は突き詰めた。
運営を挟んで話し合いの場がおかれた。
会談の内容が、クランメンバーに見られているとも知らずに。
謝罪を要求する元メンバーに、ユーリ先輩は一貫して非を認めない。
更には、高圧な態度で証拠を求める。
ユーリ先輩的には、証拠は残さないやり方に徹していたのだろう。
だから、強気でいられた。
業を煮やしている元メンバーが、それを裏付けていた。
堂々めぐりをする会談を、覆したのは運営の統括AIだった。
ユーリ先輩とのログが再現され、記録映像が出された。
統括AIは指摘した。
兼ねてから、ユーリ先輩を監視していた。
許しがたき行為をして、ゲーム運営に支障を来していたと。
その犯した内容は語られないままになっているが、噂ではプレイヤーキルクランと癒着していたらしい。
元メンバーが幼馴染みであると同様に、プレイヤーキルクランのマスターと身内であり、違法ツールを使用している節があるそうな。
私達の知らない裏で、違反行為すれすれな行動をしていた。
勿論、ユーリ先輩は否定する。
しかし、証拠は提出されている。
激高していくユーリ先輩は、静かに論駁していく統括AIに乗せられて、取り返しのつかない言葉を吐き出した。
残ったクランメンバーこそが、違反している。
自分は追従しただけ。
私は改造したVR機器を所持して、大精霊を六柱と契約した。
他のクランメンバーは、似たり寄ったりな手段でゲーム内通貨を獲得している。
違反しているのは、自分だけではない。
分裂したクランに残ったメンバーは、皆一様にユーリ先輩の変貌に驚愕した。
表向きは私達をたてて一歩後ろに下り、クランメンバーを見守る優しい先輩。
時には叱咤激励し、時には煽て、メンバーが他ごとに煩わされない生産環境を作り、面倒な素材採取に付き合い、大精霊と契約した際には皆で祝った。
決して小さくはない団結があったから、クランが分裂してもユーリ先輩の傍らにいたのに。
自己保身の為に、呆気なくクランメンバーを悪し様にする。
リアル時間の一週間。
ユーリ先輩がアカウントを凍結されたその期間に、私達はクランを去った。
ユーリ先輩をマイホームの入室禁止にして、連絡も絶った。
本人はアカウント凍結を不服としているも、なに食わぬ顔で戻り、去った私達を不思議そうにしていた。
フレンドやクランリストから消えた私達を、情報を扱うクランを使ってまで捜索した。
ユーリ先輩の中では、会談での発言はなかったことになっていた。
黙って脱退した私達は、再三のユーリ先輩からの呼び出しに辟易して集合した。
付き合いを絶つ宣言をした私達に、ユーリ先輩は本当に訳が分からないようだった。
私達もユーリ先輩には恩があり、会談の発言を不問としていた。
けれども、またやり直すことは無理だった。
ユーリ先輩自身は己に不備はないと信じていたしで、脱退の件は有耶無耶になってしまった。
依頼されたら受理する。
そんな、微妙な距離になった。
正直に言えば良かったと、今では思っている。
後の祭りだけどさ。
「人外さんは、ユーリ先輩があれとやらに関与していると思ってる?」
『大いにね』
やはり、ユーリ先輩はあれとやらにこの世界に招かれたと分かる。
恐らく、ダレンを苦しめる為だけに。
ユーリ先輩は利用されていることに気付かないまま、ダレンを振り回していたのだろう。
『彼女は自身が有能で他者に認められたい欲求に満ちている。だからか、ミーアちゃんがげぇむでしていた行為を真似ていた。それは、大精霊に模倣であると、先駆者はミーアちゃんであると周知されたけどね』
ああ、獣人のレードさんが止めない、白夜の呼称かな。
おかしいと、思ったのだよね。
この世界に関わっていない私に、既に呼称があるなんて。
大方、フィディル辺りが訂正したのだろう。
ある意味、迷惑でしかない。
『何にせよ。二年後の勇者召喚において、女王国も世界も騒乱が起きる。僕達、神々は介入ができない恐れがある。だから、さきに謝罪をさせて。ミーアちゃんには使命はない。だと言うのに、ミーアちゃん次第で未来は変わる選択が生まれてしまった』
苦渋の表情で人外さんは、頭を下げた。
きっと、訂正しようとしてくれたのだろう。
でなければ、夢にまで介入してでばってきはしない。
念願のスローライフを目指そうとしていたけど、進路変更を余儀なくされた。
でもさ、人外さん。
私としては、ダレンを苦しめた輩は許せないんだなぁ。
だから、願った路かもしれないよ。
私は、独りではない。
頼りになる、相棒達がいる。
だから、案外なんとかなるかも、よ。




