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女王⁉ 聖女⁉ いえ、ただの農業オタクな細工師です。  作者: 堀井 未咲
第八章 まつたりスローライフ?
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319 ナイルさんの説得に失敗でした

 アンナマリーナさんからの相談事は、私も正直相談相手が欲しかった。

 ちなみに、マイシスターりぃちゃんは、VR機器を介してこちらの世界に接触している事情を知らない母方祖母による、試験勉強優先の為にVR機器を預かられる事になり現在は不在である。

 母方祖母ってゲーム機器をあまり良いモノと認識してないので、祖母の見えるところではスマホゲームもできないと嘆いていりする。

 自室でゲームをする分には目溢しされているけど、試験期間をしっかり把握されているせいで半月前からはゲーム禁止が徹底される。

 ただし、数日に三十分だけと祖母の目が届く部屋でなら許される場合もあった。

 その条件は、前回の試験結果によって日にちや時間は考慮されるので、同居しているいとこ達は結構成績が上位に入っている。

 なので、ただいま同居しているりぃも、いとこ達が嘆いていた状況の仲間入りとなった訳だ。


『ごめん、お(ねぇ)。暫く、こっちに来れないけど、あんまり人外ほいほい発揮したらダメだからね〜』


 収穫祭終了後、りぃはそんな発言を残していった。

 りぃちゃんや、お姉ちゃんはそれフラグ立てたんじゃないかなぁと思いましたよ。

 案の定、アンナマリーナさんから相談されたし。

 ロズレーヌ侯爵家の次に、アルバレア侯爵家に来訪せねばならないのかは、まだ定かではないけどさぁ。

 なんか、ビミョーに絶対に単なるお披露目で終わるような雰囲気ではなさそうな勘が働いております。

 で、今日も未だに農園の農作業に従事しているナイルさん一家に、それとなく話題を出してみた。


「ナイルさん、あの……」

「ああ、ミーアさん。こちらの一画の収穫は既に終わりました。これで、夏野菜は全て収穫済みです。

 刈り入れした小麦の区画は休作にしますか? それとも、豆類を植えますか?」

「えっと、豆類をと考えています。一応、種は準備してあります」

「分かりました。では、明日は秋野菜と冬野菜の区画の手入れと子供達には伝えてありますので、明後日は休養日ですからその以降に種蒔きします」

「はい、その予定表でお願いします」


 アルバレア侯爵家継子には似合わない作業着で肩に農作業具を乗っけているナイルさんに、スルッと話題は交わされる。

 摩訶不思議農園再来とアンナマリーナさんに宣言された我が農園、大地の下位精霊たるおちびちゃん精霊と樹木の下位精霊たるおちびちゃん精霊が休養場として集ってきている対価に、塵積もな恩恵で精霊の祝福付きな野菜類が収穫できているが。

 同じく、連作障害や害虫駆除といった農家泣かせな諸々を、華麗にスルーしてしまえる農園となっていた。

 まあ、普通秋頃に種蒔きし翌年梅雨前に収穫する小麦が、初夏に種蒔きして秋頃に収穫できてしまえる時点で摩訶不思議農園と言われても否定ができない。

 北海道辺りでは春蒔きで夏頃に収穫できる小麦もあるにはあるのだけどね。

 約三ヶ月の期間で種蒔き後収穫は、有り得ないと常識人な方々にはおおいに突っ込まれましたよ。

 夏野菜も見事に短期間で豊作と言わんばかりな収穫だったゆえに、元が荒れ地であったランカ領地の奇跡を近隣領地の皆さん方に見せつけてしまった形になってしまった。

 しかも、収穫した農作物は精霊の祝福付きという付加価値までついているわで、騒がれない訳がない。

 シェライラの領地とベルゼの森を挟んだ向い側の領地のヘンドリックス伯爵家は私に友好的な姿勢を貫いているけれども、連作障害とか害虫問題とか知りもせず対策しないで同じ農作物を延々と作らせている領主からは、収穫量が減少した不作の責任をうちの農園のせいに押し付けようとしているみたいなんだよねぇ。

 これは、宰相閣下に奏上した領主が直にいて、アリスがフィディルとレオンに申告してくれて、静かにレオンの怒りを買った。


「不作? なんら対策しないで、大地から永久に作物を育てる栄養を与えないヤツ等に、相応しい報いだろうに」


 放置しとくと農家や領民が飢えるだけになりそうな勢いだったので、怒りは領主にだけ向けるように注意しておいた。

 が、レオンがどこまで言う事を聞いてくれるか、少し心配している。

 基本的に私の注意とか指示とかは漏らさず素直に聞いてくれるレオンなんだけど、レオンに限らず許容できない禁句があると頑固に引いてくれない時がままある。

 エスカも上乗りしちゃうとマジで、領地から大地の恵みが失われるから勘弁してあげようよ。

 レオンもエスカも仲良くなってきた農園スタッフの子供達が飢えたり、税金が支払えなくなり親に捨てられる子供達を見たくないでしょう?


「ミーアさん?」

「はいっ。済みません、聞き逃しました」


 農具置き場兼、簡易休憩場に設置した中型の黒板みたいなボードに、農園スタッフの名前とその日に行う農作業をナイルさんが書き込んでいく。

 伊達に農民時代を過ごしていないナイルさんであるから、子供達に無理ない農作業分担を割り振ってくれる。

 うん、ナイルさんがアルバレア家に行ってしまうとなると、代行する役目はアナベラちゃんのお父さんになるだろうか。

 フェルトさんも侯爵家の次男ながら、駆け落ちした時期は農園で働いていた身であり、ナイルさんほどではないもすぐに農作業に慣れてくれた。

 ただ、フェルトさんには代官のフォードさんの補佐の仕事もあるから、農作業と補佐の仕事の二足のわらじは大変になるかもしれないぞ。


「いえ。何か真剣に考え事をされている様子でしたから、この割り振りに問題があったかと」

「あー、そうではなくてですね。ナイルさんがアルバレア侯爵家を継いだ後、フェルトさんだと農園の子供達の仕事の割り振りとか農作業とかと、フォードさんの補佐の仕事の両立は大変かなと思いました」

「……そうですね。移住してくれた農家の方で、孤児の子供達を偏見無く受け入れてくれて、自分の子供達と等しく付き合ってくれる方がいればいいなと数名話してみたのですが。

 自分としては、フェルトさん同様に農園の宿舎で寝食を共にできる方が望ましいと思います。

 ただ、母親代わりの寮母のチェルシーさんがいるとはいえ、一家揃ってはあまり好ましいとは思えません。

 あの子達は、実の親やマルローネさんからも捨てられたような状況です。

 一般家庭であれど、あの子達にとっては苦しい記憶と得られなかった家族の縁を見せつけられるだけでしょうから」


 ナイルさん一家は父子家庭であった事で、元養護院の子供達から差別的な非難は起きなかった。

 逆に、困窮していたのもナイルさん一家側に軍配が上げっている。

 ロイド君がマイク君に貧乏具合を暴露して仲良くなったぐらいだしね。

 不幸自慢大会で盛り上がる子供達を、保護者の立場な私やナイルさんやアンナマリーナさんが裏で二度と不幸にさせないと内心で深く誓ったことか。

 ナイルさんもだが、アンナマリーナさんも移住組の農家さんを篩いに掛けていたりする。

 アルバレア侯爵家からの移住組には妥当な保護者はいないと、代理領主を務める母親のオレリアさんに苦情を言ったそうだ。

 ロンバルディア国との諍いが絶えなかったアルバレア侯爵家領地出身者で年齢が高い人物は、獣人種族を忌避し移住に反対されていた事情がアルバレア家にあった。

 獣人種族に柔軟に受け入れられる人物及び何らかの職を持ち、アルバレア侯爵家領地に損失を出さない移住者を選別すると、自然と限られてくる。

 子沢山の家族で独り立ちしても農地を分けてあげられない農家や、職人の親の元育つもやはり兄弟姉妹が多数ならば働き口を奪い合いが生じてしまう。

 結果、仕事にあぶれ人口の大きな街に出稼ぎや移住しか道がなくなる。

 それでも、他領や王都で自分にあった仕事が見つかるとは分からない。

 雇用の需要と供給が一致するのは、仕事を選ばなければ王都しかないかもしれない。

 オレリアさんがランカ領地に移住を勧めてくれた人達は、そうした若い世代が多かった。

 家族揃っての移住は、怪我で引退した元冒険者ギルド員で獣人種族とも依頼で付き合いがあり忌避感が薄れた家族だったり、獣人種族も飢えていると理解して農作物をわざと取られ易い場所に倉庫を作り強奪行為を見逃していた農家で、獣人種族に友好的すぎると幼子にすら石を投げるような過激な反対派の迷惑行為に身の危険を案じてだったり、という理由があった。

 そうした家族は獣人種族との仲は良好とまではいかないも、適度な付き合いができている。

 しかしながら、うちの農園にじかに雇用するには、まだ信頼関係が築かれてないし、第一に宿舎の子供達に受け入れられてくれるかが問題点として残っている。

 じゃあ、バウルハウト侯爵家からの移住組だとどうだろうかは、ただいまナイルさんが接触して見極め途中。

 そちらも、あまり良い評価をつけれる人物が突出しては不在なそうだ。

 エバンス司祭が常駐している教会に託した孤児達がいると聞き付けたうちの農園スタッフ子供達は、少額のお小遣いを自主的に集めて休養日に教会へ寄付をしに行っていた。

 何かが足りないと気付くのも早く、ナイルさんの知己でもある護衛任務を課された騎士ワイズさんが引率して貰いライザスの街に出向き、不足の品々も購入して徐々に交流している。

 孤児の境遇か似通った子供達は打ち解けるのも早く、教会では子供達の笑い声が響くようになっていった。

 矢先、バウルハウト侯爵家からの移住組のある家族がエバンス司祭の元に治療目的で訪れ、エバンス司祭に叱責される発言をやらかした。


「親から見捨てられた子供の癖に、煩い笑い声を聞かせるな!」


 子供達の笑い声に過剰に反応して叫んだ父親の怒声は、醜く歪んだ表情と共に発せられた。

 ナイルさんが農園スタッフの子供達にも公平な関係を築ける条件を足したきっかけが、この発言を間近で聞かされ悔し涙を堪えた子供達がいたからである。

 この案件は、結構根深く子供達に昏い棘を刺した。

 私がその場にいたなら、発言者をぶん投げていただろう。

 バウルハウト侯爵家に苦情を申し立てても良かったのだが、先にエバンス司祭がある意味意趣返しをして罰を与える事になった。


「自分やフェルトさんやアーガストさんの様に、分け隔てなく公平にどの子供達も見守れる人物が来てくださらない限りは、農園から離れはしません」


 できないではなく、しない。

 ああ、これは暗にアルバレア侯爵家を継ぐ時期を早める気はない、との意思表示かな。

 ごめん、アンナマリーナさん。

 ナイルさんの説得は、無理ぽいや。

 失敗してしまったな。

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