032 夢で会いました(前)
そう言えば、あれについて聞くのを忘れたと気付いたのは、宛がわれた自室の専用お風呂に入り就寝した時だった。
大浴場を使用したい気分でいたけど、あそこは使用人用だからとアンジーに拒否された。
ちょっと、疎外感を味わい落ち込んだのは内緒である。
表に出すとファティマが憤慨して、ブラウニー達が危うそうだったので、何とか押し込めた。
その代わりに、お子様ズが世話を焼いてくれた。
甲斐甲斐しく面倒を見てくれたお子様ズに、ほっこりした。
そして、寝台に横になった訳だ。
普段なら、枕に頭を乗せたら熟睡に入るタイプの私であるが。
今日は、中々寝つきが悪かった。
まあ、色々と知ってしまったからなぁ。
衝撃的な話が続いたし。
ダレンのことが、頭から離れない。
ゲームでは天然グレイスと魔法少女姿が板についていた、年下のクランメンバーといった立ち位置にいた。
所謂、弄られキャラだった。
どうも、リアルでは不登校していて、親とも仲は悪かったらしい。
一度、兄弟だと名乗るプレイヤーに出会い、粘着されていた。
目的は、私達のクランメンバーになること。
強力な精霊を手に入れたがり、グレイスを横取りしようとしていた。
勿論、グレイスが許可して、私達もホームを出入り禁止対象にした。
すると、運営にあることないこと報告して、自分がアカウント停止処分を喰らったけど。
復帰早々にまたやらかして、ゲームのアイドルであった可愛い双子ちゃん運営AIに、暴言吐くわ暴力奮うわで、通称双子ちゃん見守り隊にぼこぼこにされていた。
ゲームにインする度に、何らかの悪循環を産み出し、終いにはアカウント剥奪された。
その恨みが、リアルでダレンに向かわないか心配したものだ。
まあ、杞憂に終わったけどさ。
ある日、暫くインしない日が続いた後、祖父宅に引っ越したと、清々しい表情で言われた。
それ以上リアル事情を探るのは躊躇われたので、突っ込みはしなかった。
クランメンバーも、ふーんでお仕舞いにした。
ダレン本人はグレイスと悪戯を繰り返し、傍迷惑な魔法少女を演じるロールプレイに徹していた。
だから、何も変わらない日常が戻ってきた。
そんな矢先に、私は今に至るのだ。
正直言うと、面倒くさい世界に来たなぁ。
第二の人生、全然スローライフにならないじゃんか。
としか、思えない。
大体にして、十代半ばの私が背負う荷物が重すぎだ。
誰も彼も、理想を押し付け過ぎ。
小娘に論破される制度は、失敗だと思う。
ユーリ先輩の改革が悪いとは言わない。
けれども、ユーリ先輩がいなくなれば瓦解する制度だったとも思う。
良く今まで持った。
だから、私の出現で守護者システムは停止し、冒険者ギルドは大混乱に陥った。
光、闇、炎の大精霊は休止状態まで、酷使された。
私は三柱の大精霊については、ユーリ先輩を責めたい。
一言苦言を呈したいのだけど、出来ないのは理解している。
もどかしい。
苛立ちが募る。
『……本当に、ミーアちゃんは精霊重視だね』
「重視で悪いか。精霊は役立つ便利なアイテムじゃなく、良き隣人だ。ウィンウィンの……って、人外さん?」
『こんばんは、ミーアちゃん。少し話がしたいから、夢にお邪魔しました』
夢?
周囲を見渡すと、初めて人外さんに出会った空間にいた。
違いは、勇者召喚されたクラスメートがいないくらい。
何時の間に、眠ったのだろう。
『この空間は夢を司る神と、僕が作り出したんだ。何時間過ぎようが、現実では数分にも満たないよ。だから、こんなことも出来るんだ」
人外さんが手を振ると、テーブルと椅子が現れる。
おまけに、テーブルの上にはティーセットと、お茶菓子があった。
慣れた手付きで、人外さんがお茶を淹れてくれた。
『座って、ミーアちゃん。ちょっと、長い話になるから』
では、遠慮なく。
椅子に座ると、良い薫りのお茶が目の前に。
勧められてお茶菓子に、手を付けた。
優しい味のマドレーヌだった。
夢の中で飲食する不思議に、疑問が湧かないのは人外さんが何かしたのかな。
『先ず始めに、謝罪するね。ミーアちゃんには使命なんてないのに、重大な選択を迫られてしまった。本当にごめんなさい』
人外さんは創世神だよね。
やけに、お人好しな性格をしているなぁ。
もっと、偉ぶればよいのに。
『いや、ミーアちゃん。僕は特殊な成り行きで創世神になったからね。元々は、中間管理職な神だったんだよ。それが、あれのせいで、今では創世神。あれは別な神が雛型を作り上げたこの世界の創世を引き継いだものの、世界を運営するには手が足りなくて、ミーアちゃんの世界からえーあいだという精霊を招いたんだ』
フィディル達大精霊だけではなく、精霊を招いた。
なら、この世界には精霊の存在がいなかった。
人外さんは苦々しい表情で、自分のお茶を飲んだ。
『あれはね。興味を惹かれる物が多すぎて、更に飽きるのも早いんだ。だからか、この世界も歪んでいた。初期の人種は差別意識が高すぎて、他者の命が軽かった。そんな世界で、人口は増えてはいかない。むしろ、減っていくだけ。みかねて手助けしている内に、僕が創世神と崇められた。あれは越権行為だと、僕を断罪したけどね。普段の行いが悪いせいで、どの神も賛同しなかった。益々不機嫌になるあれは、いつしか件の魔導師に入れ込んだ。魔導師が提供する娯楽に夢中になったんだ』
娯楽。
召喚されたプレイヤーが、魔導師に玩具扱いされる様子を気にいったのか。
それだけで、あれという神様?が嫌いになる。
日本の神様も、二極の性質を持つ。
穏やかな一面と、荒ぶる一面がある。
崇め奉れば幸をもたらすが、怠れば途端に災いをもたらす。
だけど、あれなる神様は自己チューな、関わるのが厄介な神様らしい。
『特に、ミーアちゃんの知己たるダレン君が興味を惹いたようで、彼が苦難な目に逢えば愉悦に浸る愚かなことをしていた』
「……人外さん。その、あれとか言う神様。殴りたくなったんですけど」
『僕。ダレン君に対する処遇を聞いた時に、思わず衝動を押さえれなかったよ。存在が抹消しかける手前まで、荒ぶったね』
「感想はいらないから、あれの場所を教えてください」
『残念なことに、あれは神様専用の牢獄にいるから、ミーアちゃんは手を出せないよ。牢番に刑期を延長させるくらいしか、僕でも今は関われない』
ちっ。
至極、残念。
多分だけど、今ならあの魔法がぶっぱなせる気がするのに。
盛大に、かませれるのに。
内心で危ないことを思案していると、人外さんは躊躇いつつも暴露してくれた。
『な、筈なんだけどね。腐っても世界を創造した神だよ。牢獄の隙間をついて、再び悪騒ぎを仕出かしていた。ダレン君の精神に働きかけて神殺しを煽り、牢獄から脱獄させようとしているわ、魔導師の真似事して手足となる人間を召喚していたりね』
「それは、暗に私が巻き込まれた勇者召喚も、あれが黒幕と言ってるも当然じゃないか」
『腹立たしいことにね』
二人して溜め息が漏れた。
牢獄に入れられたのに、全然懲りてない。
自己チューにも、ほどがある。
嫌だぁ。
絶対に自分の悪さを認めない、頭のイカれた阿呆が画策してただなんて。
いずれは、対決しないといけない羽目になるんだ。
きっと。
先程、殴り込みに行きたいと思った気分が、急速に萎んでいく。
『あれは、今はおとなしい。けれども、ミーアちゃんのことも嗅ぎ付ける。ただし、ミーアちゃんは僕の加護があるから、直接は干渉は出来ない。やるとすれば、二年後の勇者擬きを介してだと思う』
実に、嫌な情報ありがとうございます。
是非、拒否したいです。
後、人外さんの加護に感謝します。
『それもあって、ミーアちゃんには使命なんてあげなかったのに。どこまでも、あれは付きまとう』
「人外さん?」
『ミーアちゃんには教えたくない情報だったけど、教えざるを得ないのが苛立つ』
人外さんが憤っている。
力が入り、カップをソーサーに戻すと音が鳴った。
甲高い響きに意識が削がれた人外さんは、眉根をきつく顰める。
美形は何をしても、格好が良い見本である。
『ミーアちゃん。僕が言えるのは、僅かだけど。女王国を目にして、何を感じた? どう思った?』
真っ直ぐに視線を向けられたので、正直に答えた。
「歪な国だなぁ、と。女王国が、淘汰されててもおかしくはないと思った。ユーリ先輩が興した国だなんて、最初は耳を疑った。後で、納得したけど。だって、全てはゲームの模倣でしょ。この世界の人達には、目新しく映るかもだけど、結局は精霊を使い潰して成り立たせているハリボテじゃないか」
あの人の本質は、あれの神様同様に自己チューな人だ。
迷える女性の為になるならと、提案した守護者システムだけど。
要は、人気取り以外の何物でもない。
それに気付いたのは、私に対抗するように複数の大精霊を求めたから。
言葉の端々に、クランメンバーの大精霊を自分が譲ったと言い触らしていたのを知っている。
それが原因で、クランメンバーが離れていったのを、直視しない人だった。
ジルコニア一柱しかまともに使役出来ないで、レットとレッタを持て余していたのだ。
此方の世界に来て、これ幸いにレットとレッタを守護者システムに組み込んだのがよく分かる。
本人は断腸の思いだとでも、悲劇のヒロインよろしく涙を飲んだのじゃないかな。
『良かった。ミーアちゃんがあの子に心酔していたら、どうしようかと思っていたんだ。あの子はあれと同じく、最期まで責任を果たそうとはしないでいた。何もかも中途半端で、まともな引き継ぎをしないで、逝った。女王国が続いているのも、大精霊のおかげだよ』
だろうね。
あの人の性格なら提案するだけして、後は他人にお任せ。
そして、成功を納めたら、さも自分がどれだけ尽力したか吹聴する。
逆に失敗したら、関わった人を人身御供に仕立てて逃げる。
上辺を取り繕うのが上手な人だった。
そんな人だと知らなかったから、クランに仲間入りしてしまった。
後で、随分と後悔した。
当時戦闘力がない生産職をしていた私は、素材入手の手助けしてくるクランだと信じていた。
それが、蓋を開けると、生産職で名の知れた人材を得て、大手攻略組のクラン専属になる思惑があった。
それは、クランメンバーの拒絶にあい、頓挫した。
課されていた納品ノルマを、皆でこなすのを止めたのだ。
結果、クランメンバー内で溝が生まれた。
ユーリ先輩のシンパと、懐疑的になったメンバーと、中立派に分かたれた。
私は、どちらかと言うと中立派になる。
そんな折りに、事件は起きた。




