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女王⁉ 聖女⁉ いえ、ただの農業オタクな細工師です。  作者: 堀井 未咲
第一章 新しい未来へ

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030 呪われていました

 まあ、結論から言うと。

 冒険者ギルドは瓦解した国もあれば、我が女王国みたいに紙一重で繋がれた国もある。

 女王国は、国を統括するマスターギルド長が頑張って、奉納を怠らせることを禁じ、錬金術師と良い関係を築き、必ずギルド内に精霊と対話できる職員を配していた。

 自ら各地を巡回して、不正を防いでいたのが効を奏した。

 けれども、他国は酷いモノだった。

 討伐内容が冒険者証に反映しない、受付機器も動かない。

 となると、証明する手立てがないので、報酬が払えない。

 悪事を働くことを覚えた冒険者は、恫喝紛いの手段に出て討伐内容を虚偽申告する。

 職員側も鑑定持ちがおらず、真偽が分からないから言いなりになるしかない。

 そうした悪循環が、冒険者ギルドの悪評へと繋り、依頼が極端に減った。

 冒険者ギルドの運営停止になる支部が増えていった。

 特に、冒険者ギルド本部がある迷宮都市は、機能停止に陥り混乱する責任を女王国に被せてきた。

 多額の賠償金を要求して、無償で新たなる錬金術仕様の業務機能を構築しろと宣った。

 阿呆な集団である。

 女王ちゃんの守護者エルシフォーネ経由で、事情は私に筒抜けだ。

 なので、エルシフォーネには現実を突き付けてあげてと指示した。


 ひとつ、今更何をぬかしやがる。

 ひとつ、冒険者ギルドの礎を作り上げたのは誰か。

 ひとつ、女王国から袂を別ち、独立したのは誰の意思か。

 ひとつ、独立した際に、女王国から機密事項を盗み、利用してきたのは誰か。

 ひとつ、女王国からの抗議に対して、嘲笑い盗まれる方が愚かだと言ったのは誰か。

 ひとつ、厚顔無恥にもお情けでギルドは置いてやる、上納金を納めろと言ったのは誰か。

 ひとつ、新冒険者ギルドは、女王国の援助は必要ないと言ったのは誰か。


 以上を鑑みて、女王国と冒険者ギルドを騙る組織とは縁も所縁もない。

 よって、賠償金も発生しない。

 王都の冒険者ギルド内にある通信魔法具で、宰相閣下はそれは見事な笑顔で返答したそうな。

 当時の映像付きで。

 あらましについては、守護者達が覚えていた。

 いずれ、破綻する冒険者ギルドが苦情を押し付けてくるのを待っていた節がある。

 存分にやり返してあげなよ。

 鬱憤を晴らす良い機会だね。

 それで、その間私が何をしていたかと言うと。

 ロイド君、エメリーちゃんのお父さんを治療していた。

 家に連れ帰った当初は昏睡していたナイルさんも、二日後には目を覚ました。


「父ちゃん」

「お父ちゃん」

「「ナイル」」


 うわーんと泣き付いた兄妹とケットシーに囲まれて、状況を理解していなかったナイルさんは目を白黒させていた。

 そして、子供達の背に回した両腕に驚いていた。

 拷問による怪我は癒えている。

 顔や足に触れて、五体満足を確認していた。


「あっ? おれは、どうして?」

「……ミーア姉ちゃんが、父ちゃん助けてくれたんだって」

「正確には、ライザスの領主が牢から救出して、私が治療しました」

「……? ライザスの領主が?」

「前領主とランカの代官がやらかした犯罪は、取り締まられました。領主が交代したのは知っていますか?」

「いいや。知らない」

「新しい領主は、女王筆頭候補だそうです。縁があり、私がランカの土地を頂きました。新領主も同行して、この地に蔓延る悪意を知りました。既に、代官は捕縛済みで、加担した冒険者ギルドも鉄槌を下しました」

「……そうですか」


 ナイルさんは冷静に受け答えしてくれている。

 彼も、高度な教育をされているな。

 寝台の上で半身を起こしたナイルさんは、順に兄妹を撫で、ケットシーを抱き寄せた。


「ロイドとエメリーの側にいてくれて、ありがとうな」

「そんにゃの、当たり前にゃ」

「ナイルも、ロイドも、エメリーも家族にゃ」


 一通り説明もしたし、家族だけにしてあげるかな。

 そっと、部屋を出た。

 兄妹を気にしていたのか、お子様ズが待ち構えていた。

 元気満載なエスカも、眉が下がっていた。


「泣いてるね」

「悲しいのかな」

「……でも、助かった」


 不安な眼差しで、私の服を掴む。

 付き添うレオンも、人の感情には疎い。

 泣く=悲しいの図式があるのだろう。

 お子様ズを引き連れて、居間に移動する。

 ソファに座り、膝と両脇にお子様ズを座らせた。

 レオンは、正面に椅子を持ってきて座る。

 因みに、ファティマとフィディルはある仕事を任せていて不在。


「人はね。悲しい時に泣くけど、嬉しくて感激した時も涙が出るの。ロイド君とエメリーちゃんは、お父さんとまた会えて嬉しくて泣いているんだ」

「そっか。拉致されて、もう会えないと思っていたんだ」

「悪い人捕まったんだよね。もう、お父さん連れていかれないよね」

「マスターが、お父さんも雇うんだよね」

「……一緒に暮らす」


 お子様ズ達は、兄妹を身内と認定したのだろう。

 でないと、案じる言葉は出ないしね。

 人と関り、人と交わる良い傾向だ。

 マスター至上主義は、視界を狭める弊害しかないと思う。

 上二柱も、考えを改めてくれないかなぁ。

 仕事を任した時も、不満そうだったしさ。

 家から一歩も出ないで、だなんて過保護過ぎなんだから。


「ミーア様。お茶は如何ですか」

「ん。ありがとう。アンジーは、まだ裁縫に夢中かな」


 クリスがお茶を人数分配膳する。

 アンジーは買ってきた布地を渡してから、兄妹やケットシーの服作りに余念がない。

 必要最低限の家事をこなしているから、文句はありません。

 ブラウニー達は、厳密には兄妹は主ではないが、お仕えするに値する人間という認識。

 兄妹側は、私に雇われる条件の衣食住は雇う側持ちの持論に、慣れつつある。

 与えられる衣服を素直に着てくれている。

 ただ、未だに畑仕事に従事していないのを、気にしていた。

 お父さんの承諾がないからと言葉を濁してきたので、これから話を詰めていこう。


「はい。アンジーはナイル様の衣服に取り掛かっております。何か、御用がありましたか?」

「ううん。ただの確認」


 我が家にはブラウニーが二人も常駐しているので、家内のことはお任せしていればいい。

 今の処は、アンジーがナイルさんの看護に回り、クリスが家事を専念している。

 お世話するのが歓びなブラウニーに、不満は見られない。

 済まないね。

 一般市民な私がお世話に慣れていないせいか、身の回りのことは自分で済ましてしまうから、その分兄妹が狙われている。

 兄妹も戸惑っているだろうな。


「ミーアさん?」


 内心で謝っていると、ケットシーが一人居間にきた。

 毛色が同色なので、ララとリリの判別がつかないのは許して欲しい。


「リリ様、どうされました?」


 できるブラウニーは、外見に惑わされることはなかった。

 おずおずと入っていいのか逡巡しているリリを促す。

 私の側にきたリリは、歯切れが悪く中々言い出せないようだった。

 アンジー作のベストの裾を握り、俯いている。

 何かあったのかな。


「あのね。ナイルが言うには、ナイル酷い怪我をしていたんだよね。それを、ミーアさんは治してくれた。マナー違反だと思うけど、ミーアさんは光属性の上位魔法使えるにゃ?」


 暫くたって、切り出されたのは属性確認。

 うん。

 マナー違反だね。

 だけど、リリに嘘は言えない雰囲気である。

 この子、泣き出しそうなんだよね。

 原因が分からないけど、茶化したり誤魔化したりは駄目だ。


「マナー違反だと分かっても聞きたいのは、首に嵌められている呪具が原因かな」

「! 知ってたにゃ」


 ファティマに教えられて、だけどね。

 長い毛に隠されて、禍々しい首輪がある。

 私には直接的な被害はないけど、兄妹の命に関わる呪いが発生している。

 気軽に解呪してはならない。

 それに、隠そうとしているのを、暴くのも気が引けた。


「これにゃ。ケイティの父親を嵌める為に、つけられたにゃ。父親は子爵だったけど、正義感が強かったにゃ。うちらを奴隷ではなく、家族だと引き取ってくれたのに外せなくて、結局は違法奴隷所有で処刑されたにゃ。ケイティは光属性持ちだから、外そうとしてくれたにゃ。だけど、うちらの弟のが外れた瞬間に……。弟とケイティの娘、二歳のアメリアが呪いで、凄絶な死をしてしまったにゃ」


 思い出したのか、いつしかリリは泣いていた。

 死は悪魔を呼びだし、更なる死を招く病を広めた。

 当時の女王が光属性持ちだった為に、病は駆逐されたが女王の寿命が犠牲になった。

 ケイティさん一家は爵位を剥奪され、人口が少ないランカへ移送された。

 もし、ランカでララとリリの呪具が外れても、被害が拡大する前に焼き尽くす手筈になっていた。

 だから、ランカの住人はこの一家を仲間だとは認めてはくれなかった。

 あらゆる事を監視して、追い出そうとしていた。

 前々領主の好意でナイルさんが従騎士に選ばれるも、過去を暴露して辞めざるをえなくした。

 ロイド君とエメリーちゃん兄妹は、呪いのことは知らない。

 けど、村長辺りは把握していて、呪いの子だと常々発言していた。

 聞かされる事情に、腹が立ってきた。


「ちょっと、呪具に触らして」

「どうぞにゃ」

「マスター、大丈夫なのか?」

「呪いの内容を見るだけだから、安心して」


 私は光属性の上位属性の聖持ち。

 呪いに対する耐性は、高い。

 念の為に、耐性上昇の装身具を着用して、耐性薬も飲んでおく。


「ふむ。成程ね」


 呪具を構成する魔法言語を視覚化する。

 死、呪、恨み、妬み。

 いたる部分に悪意の塊が点在する。

 呪具に登録されているロイド君の家名と血筋に限定する呪いに、作成者の意図が隠れ見えた。

 表層部分しか見ていないと、外すのは簡単に出来る。

 しかし、外したら装着者と呪う家系の誰かの命を奪い、悪魔を召喚する。

 奪う命は、より幼い抵抗力が少ない子供が優先される。

 悪意満載である。

 あはは。

 良し。

 解呪してやろうではないか。

 そんでもって、嵌めた輩に意趣返ししてやろう。

 補佐のファティマが不在なので、今すぐには解呪できないが。

 少し、調査が必要になってきた。


「リリ、よく聞いて。呪具の解呪は出来る。それも、リスクなくね」

「ほんとにゃ」

「うん。私は聖属性持ちだから、出来る。けど、時間を頂戴。解呪するにはアイテムを揃えないといけないし、ただ解呪しただけではロイド君達の安全が保証できない。もしかしたら、また狙われるかもしれないからね」

「そうにゃ。アイツ、得体が知れない魔術師だったにゃ。分かったにゃ」


 顔をあげたリリは涙を拭い、毅然と前を向いた。

 ごめん、リリ。

 アイテム云々は嘘。

 解呪において話さないとならない案件ができた。

 でも、期待させて裏切ることはないから。

 さて、相手がどれだけの情報を与えてくれるか分からないけど、心構えはしておこう。

 たとえ、あれが敵対してきても、迎え撃つ覚悟はしないと。



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