029 遊んでみました
「ねぇ、シェライラ。冒険者ギルドって、必要かな」
笑みを浮かべながら、意地の悪い台詞を言葉にする。
私の参入に、シェライラはにっこり笑い、ジルコニアは肩を竦めた。
騎士のおじ様は微妙に頬をひきつらせ、レードさんの尻尾が膨れ上がった。
虎耳がピコピコ動き、視線が向けられた。
やだ、ちょっと可愛い。
「何を言うか、冒険者ギルドはなくてはならない組織だ。民人が平穏無事に生きるには、俺達がいなくては成り立たない」
「魔物の討伐、素材の売買、商隊の護衛。冒険者が果たす役割は、多岐にわたる」
「だからと言って、あんた達が優位に立つ意味があるの?」
「はあ?」
易い挑発に乗るだけ、頭の出来は悪いと。
こんなのが、ギルドを代表してきた。
程度が知れたよ。
「喧嘩を売る相手を知れ。そして、領主の言葉の意味を理解しろ。頭の悪そうな厳つい人員がギルドの代表だなんて、如何にも脅しに来たと反感買うだけだから」
あんた等、責任を取りに来たのだよね。
その為の、手土産持参で来たのを忘れたのかいな。
話し合いに脳筋を連れて来るなよ。
実働隊ではなく、事務方を連れて来るべきだった。
最初から、話し合いで終わる結末を描いていなかったと分かる。
シェライラをではなく、女王国を侮辱していた。
あのさぁ、ギルドの業務を遂行する機能は、誰が作り広めたか、分かりそうな事案でしょ。
ユーリ先輩が設立したんだよ。
錬金術が使われているに決まっている。
そんで、あんた等が喧嘩を売った相手は錬金術師なんだよね。
修理とかさ、誰がしてるんだか。
後、ギルド証の登録や管理、討伐内容の証明は、誰がしてる?
受付嬢がその都度書類に記載して、やり取りしていたか?
違うだろが。
便利な機能の根幹には、精霊が関わっているだろうに。
恩恵を受け、有り難みを忘れて、手柄は横取り。
今のギルドには、そんな風にしか感じない。
「マスター、大地は怒っている。人は約束を忘れ、果たさずにいる」
「マスター、風は憤っています。人は誓約を破り、我が物顔でいます」
留守番を託したレオンが、私の横に現れる。
冒険者ギルドに最後通牒をする為に、私が呼び出したのだ。
意を汲んだレオンは、大地の精霊を統括する意見を述べる。
実は、フィディルにはある魔法を展開させている。
なので、レオンには指示を出さなくても理解していた。
ジルコニアも追従する。
彼女は彼女で、シェライラを馬鹿にされているのを頭にきている。
大好きなユーリ先輩の意思を、破棄しようとするほどに。
「時空は嘆いています。人は盟約を喪い、強欲でいることを」
「成程、理解した。やはり、冒険者ギルドは必要ではない」
「白夜、待ってくれ」
レードさんが立ち上がる。
大地、風、時空。
三属性の精霊が、冒険者ギルドを運営するにあたり、必要不可欠だと知り得ていたな。
けれども、大精霊が揃い踏みするとは思ってもいないでいた。
己れの、無知を後悔したら?
「レード?」
「待ってくれ、白夜。我々は、決して蔑ろにしてはいない。決められた奉納は欠かしていない」
「いいえ。百三十支部にて、奉納は形骸化。ギルド本部には、徹底する意思はありません」
「だって。よって、冒険者ギルド側による条約破棄を認めます」
「大地は、楔を」
「風は、自由を」
「時空は、束縛を」
「「「速やかに、解き放たれたし」」」
大精霊の唱和に、精霊が歓喜する声が響いた。
まあ、聞こえるのは私かシェライラだけだろうけどさ。
「ああ。なんたる事だ」
「レード。何が起きている」
「冒険者ギルドの業務を担っているのは、職員だけではない。受付業務から始り、依頼を完遂したか判断しているのは精霊だ。大地、風、時空の精霊が協力してくれていたんだ」
「それは、知っている。だから、精霊石を奉納する為に予算が組み込まれているんだろう」
「そうだ。精霊の力を補う為にな。その約束をどこぞの支部は怠り、本部が見て見ぬ振りをしている。そして、精霊は冒険者ギルドを見限った。精霊の恩恵を受けないギルドの業務は、今後は人力で賄わないとならなくなったんだ」
「……それは、大事ではないか」
「待て、何故そうなった」
「俺が知るか。白夜に聞いてくれ。二柱の大精霊に囲まれているのが、白夜だ」
頭を抱え込んだレードさんが、私を指差した。
不快な視線に、レオンが立ち塞がる。
背後にいたフィディルも、隣に移動する。
私は優雅に足を組んでみたりして、余裕な態度は崩さない。
シェライラはジルコニアが守るだろうし、騎士のおじ様がついている。
安心していい。
「白夜、何故に敵対する。冒険者ギルドは、師である初代錬金女王が設立した組織だ。民人を守る組織だぞ」
「まず言っておく。白夜なんたらと名乗ったつもりはないし、師である錬金術師を侮辱した冒険者ギルドが、師の遺産を使用してのさばるな」
「いつ、錬金術師を侮辱した。それに、のさばるなどしていない」
「自分達が吐いた言葉も忘れたの? 民人が平穏無事に生きるには、なくてはならない組織。本当にそう考えているなら、国を批判していると分かれ。そして、錬金女王が治める国から出ていけ。それか、女王陛下に奏上してあげるから、ライザスの街を治めるといい。それに伴う雇用の消失はギルドが補填しなよ」
立派な不敬罪を話していたのさ。
女王国に楯突いたのだけど、理解している?
警備隊や街の役人を解雇するのだから、再雇用まで面倒を見なね。
解雇される人達に、説明はきちんとしてあげるから。
冒険者ギルドがあれば、民人は暮らしていけるのだと。
国の支援はいらないそうだ。
そのかわりに、ライザスにて暮らす住人は国民ではなくなるので、流民になるのかな。
移民ではないか。
「そうした場合は、流民になりますわ。尤も、住人が良しとはしませんけれども」
お馬鹿なギルド員に分かる様に説明していると、シェライラが口を挟んできた。
楽しそうに口元は弧を描いているが、瞳は笑ってはいない。
「流民には税の徴収はしておりません。伴いまして、錬金術の恩恵を受けている住居に、入居は叶いません。流民になれば、即刻退去ですわ。拒否ならば、住居ごと消去して、錬金術の恩恵がない住居へと建て直します。勿論、費用はこちらが受持ちます。安心なさって」
「となると、冒険者ギルドの建物も消去だね」
「はい。ギルドは錬金術の粋を凝らして作られた建物ですもの。当然ですわ」
「ま、待ってくれ。あの言葉に、悪意があってのことではなく、言葉の綾なんだ」
漸く、発言内容が不適切な内容だと、理解したお馬鹿が呻いた。
ただ、もう一人は気付いていないまま、怒りに呑まれている。
十代の小娘二人に、虚仮にされているのが我慢ならないらしい。
「なぜ、謝る必要がある。歴然とした、事実だろうが」
「馬鹿が。あんた等冒険者ギルドは、民人の役に立つ行動をしていれば、安心安全に暮らしていけると宣った訳。他は必要ないと断言したの。街の治安維持を担う警備隊、商品の流通や売買における商店や商人、製造業に携わる職人や生産者、都市を運営する役人。あんた等は、そうした職業に就く人を斬り捨てたんだけど。意味、分かってる?」
「は?」
「ねぇ。あんた等は依頼を承けて、その依頼料で食べていける。なら、依頼する人は、どうやってお金を入手しているのさ」
「あ、うっ」
「民人になくてはならない組織? 逆でしょ。民人が構ってくれている組織の間違いだ。見下して、どうするつもりなんだが」
まさに、これに尽きる。
冒険者ギルドなんて組織は、所謂荒くれ者の集団でしかない。
職に溢れた荒くれ者を、犯罪者にしない為の互助組織だよ。
国民全員が職に就けるほど、世界は優しくない。
どうしたって、貧富の差は生まれてしまうのが常である。
ライザスにも、救護院があると知った。
恵まれない家庭があり、捨てられる子供がいる
教育を受けられない子供が成長しても、働く場所がない。
就けるであろう職業を選択する機会はない。
女の子は身体を売るか育った教会の下働きに、男の子は下級兵士か冒険者になるしかない。
才能があれば、のし上がることが出来る。
でも、それは極一部。
貴族に見初められたとしても、身分社会に平民が押し潰されるのは当たり前。
当代女王ちゃんは、奇跡的にエルシフォーネと契約を果たして、貴族の養女になり即位した。
現状、女王位は形骸化している。
大精霊を得た人物が女王位に、就く。
即ち、錬金術を廃れさせない処置である。
ジルコニアに確認したが、相応しい力量を所持しない人物が女王位に就くと、初代錬金女王の制裁が降る仕組みになっていた。
宰相さんが女王位に就かなかった理由は、魔力量がアリス一柱を支えるギリギリの最低限満たしていただけだから。
先代が崩御して、当代女王ちゃんが即位するまで、二年の空白期間があった。
二年もの間、女王ちゃんを平民だと蔑む貴族がいた。
女王を戴く国が女王を差別した。
国の恥でしかない。
貴族令嬢のシェライラが筆頭候補に選ばれたら、即退位を望んだ貴族もいた。
政の経験がないシェライラを戴き、甘い汁を吸おうとしているのが丸分かりである。
ユーリ先輩が平民だった事実を隠して、選民思想を声高に唱える貴族連中。
矛盾を、指摘してやりたい。
女王位を取り巻く環境が、冒険者ギルドにも当てはまって仕方がない。
錬金術や精霊の恩恵を受けているばかりなのに、個人の実力のみが世間に流布されている。
ギルド員は、誰にどうやって支えて貰えているか、理解していないお馬鹿な集団なのだろう。
ランク制度によって上位にいたら、天狗になってやしないか。
気になる。
「見下している。白夜には、そう見えているのか」
「判断を下すのは、民人でしょ。私ではないよ」
「何か、したのか?」
「うん。民人に判断して貰おうと、会談内容を外に中継した」
「な? 最悪だ」
「早いところ、ギルドに帰還した方が良さげだね。後、忠告すると、私達の側に大精霊がいるけど、再度条約を結びたいなら……」
「イシュカ大渓谷。マルチア浮遊都市。セライド時空神殿」
レードさんは、未だに白夜呼びかよ。
いい加減、やめて欲しい。
切実に。
厨二を患うのはダレンだけにしてくれないかな。
話を変えたくてフィディルを伺ったのは、大精霊が本来いるべき場所なんだけど。
ゲームの地名そのままでした。
現存しているのか、聞けない。
「まあ、この三つのダンジョンを踏破した証を持ってきなさい。取り成しては、あげる」
「時空神殿だけが、所在は不明だ」
あるんだ。
吃驚した。
顔には出さない様にしたけどね。
フィディルもお人好しではないので、探るレードさんに沈黙で反す。
答えを貰えるとは思っていないレードさんは、うちひしがれるギルド員を促して退出の許可を願った。




