027 お喋りしました
男性をフィディルが家に運ぶ間、シェライラとお茶をすることになった。
医者と治療師は、騎士のおじ様が何処かへ連れていった。
煩く喚いていたが、私もシェライラも無視一択あるのみ。
それで、シェライラの執務室にお邪魔したのだが。
「ジルコニア、わたしにも甘いお茶くださいなぁ」
「相変わらずの甘党でしたね」
何故だか、グレイスが隣に座っていたりする。
大鎌は仕舞われている。
反対側にはファティマが陣取り、私は大精霊に挟まれていた。
執務室には侍女がおらず、ジルコニアが給仕をしていた。
人見知りが激しいグレイスも、シェライラはジルコニアの契約者だからか、比較的落ち着いた様子を見せていた。
まあ、私の服の裾を握りしめているがな。
「あの、グレイス様は大精霊の一柱とお聞き致しましたが、どなたの守護者であられましたか?」
「わたし、ですかぁ。マスターは、ダレン様でしたぁ。いつの間にか、ユーリ様と夫婦になっていて、びっくりしましたぁ」
シェライラの質問に肩が跳ねたものの、律儀に答えるグレイス。
リアル男の娘であったダレンは、女顔を活かして女装趣味全開で魔法少女ごっこをしていた。
召喚と魔法具作りに邁進して、一部狂信的なファンがついていた。
悪戯好きな二人組が我がクランに入会したのも、グレイスが邪属性な為に勇者プレイしていたプレイヤーに邪悪判定されて、付け狙われていたからだ。
後、ダレンのプレイスタイルが気に入らないと、難癖つけてもいた。
ならば、関わらなければいいものを、ダレンの女装姿が奴の好みの女性であったが為に、どうしても顔を見なければ気になって仕方がなかったそうだ。
変態ストーカー擬きである。
まあ、そんな奴も我がクランの製品たる特定の人物から認識阻害する魔法具を開発して、ダレンの姿を見えなくしてやった。
途端に、奴は何処に隠したと騒ぎ立て、運営に警告を食らう羽目になった。
ダレンに対するストーカー行為と、聞くに耐えない罵声に行動妨害には重い判決が出た。
ダレン以外にもストーカー行為をしていたらしく、アカウント停止処分になっていた。
晴れて自由の身になったダレンは、恩義を感じて正式にクランメンバーになった。
ユーリ先輩が面倒を良く見ていたのは知っていたが、まさか夫婦になるほど恋愛感情があったとは思わないでいた。
「いつの間にかといいますが、後継者を残す為だけに結婚をしたくはなかったユーリ様と、そこいらの女性より女らしいダレン様を見初めた変態から逃れる為の契約結婚でしたから」
「あー。そういえばぁ、マスターを嫁に欲しいと阿呆なことを言っていた男がいましたねぇ」
「恋愛結婚では、なかったのですか? 歴史書では、仲睦まじく子宝に恵まれて長生きされたとありますのに」
恋愛より契約結婚の方が、二人らしいとは言わぬが花かな。
ユーリ先輩は、常々ダレンは可愛い妹分と言ってたしなぁ。
男として見てはいなかったし。
嬉々として女装アイテム揃えてたし。
喜んで着るダレンもだし。
「お二人にあったのは、仲間意識でしたね。ユーリ様もダレン様も、何かの共通意識を糧に生きておられました」
「理由はぁ、聞いても教えてはくれませんでしたぁ。ただ、死後に訪れるミーア様の指標となるべく、聖母教会と冒険者ギルドを設立なさいましたぁ」
「私が来るのは、分かっていたんだ」
「神聖国の神託を得ておられましたから、それが関係しているのだと思われます。私達も十五代目迄は女王を見守る様に、厳命なさいました。十五代を過ぎたら、国から離れても良いと」
ジルコニアは寂しげに笑う。
ユーリ先輩至上主義なジルコニアは、国を見守るのがユーリ先輩を偲ぶ手段だったであろう。
だから、自由になったとしても、女王国からは離れることはないと思う。
グレイスも、何だかんだ言ってもダレンがいた国から離れたくはない。
マスター無き自由精霊だけど、女王国が他国から攻め入れられたら、存分に報復するだろう。
「アリスやエルシフォーネも十五代縛りがあるの?」
「彼女達のマスターはユーリ様ではないですから、分かりません。けれども、待っているのかも知れません。ミーア様が訪れた様に、自分のマスターを」
沈黙が落ちる。
マスターを亡くしたグレイスに腕を組まれた。
ダレンに似た性格の持ち主を、新たなマスターに選ばせるのは気が引けた。
相性が合うマスターとかでもなくていい、グレイス自身を見てくれる懐の深いマスターと出会えるといい。
「ミーア様。ミーア様のお手元には休眠なされている三柱の大精霊がおります。守護者は六柱。行方を探しておりました最後の一柱たるグレイス様も、ミーア様預かりになるのでしょうか」
「出来ればぁ、ミーア様のお側にいたいですぅ」
「まあ、避難先にはなるよ。シェライラが何を案じているかも、分かっているつもりだから」
レットとレッタは、女王ちゃんとシェライラに契約させる計画を立てているけどね。
ジュリエットはエメリーちゃんへと、密かに交流させたいなと。
予定は未定であるけどさ。
特段、女王国の人間優先にしている訳でもなく、休眠している大精霊が気に入る子がいたら後押しはしてあげる。
「私が大精霊を独占して契約する気はないから」
保有魔力には限りがある。
ある子は顕現させて、ある子は活動待機状態だなんて性にあわない。
「えええ。ミーア様なら、マスターになっていただいても、オッケーですぅ」
「はいはい、ありがとう。だけど、ファティマがいるから相克で能力半減するでしょう。全属性取得イベントこなしてないから、無理」
だから、私は水と相反する火、地と相反する風の属性は取得出来ないのである。
聖と相反する邪も、勿論のことだ。
「残念ですわ。ミーア様なら全属性の大精霊を守護者にして、女王に相応しいと思いましたのに」
おい、こら。
勝手に妄想するな。
シェライラは、一人で大精霊を独占するのを危惧していたのではないか。
大地に水を支配する大精霊がいたら、国なんてあっという間に干からびてしまうの簡単だから。
生殺与奪権を握っているに等しいから、声高に言わないけど。
うちの子達の能力は、戦争には使いません。
農場にて役にたってもらうから。
「これは、女王陛下と筆頭候補だけに知らされていることですが。どうも、ある国が大それた事を為そうとしているのです」
シェライラが重たい溜め息を吐く。
ああ、例の勇者召喚をしようとした国のことか。
人外さんは、国名を教えてはくれないでいたけど、人族至上主義国があると聞いたっけ。
「大陸を戦禍にまみえて、混沌な状況を作り出し、大陸統一を掲げる国が虎視眈々と勢力を伸ばしている。いずれは、女王国も巻き込まれ、守護者を戦に徴集する策略があると。ただ、迎え撃つは一三柱の大精霊のみ。調停者が、鉄槌を下す。初代様の遺言になります」
「それでいくと、調停者は私になりそうだね。着々と、大精霊が集い始めているし」
「女王陛下も、ミーア様が調停者だと思われておいでです。ミーア様が望めば、エルシフォーネ様との契約を破棄するでしょう」
シェライラも破棄すれば、自動的にアリスまでついてきそうだ。
そしたら、女王位まで一直線な流れが出来上がるよ。
やだなぁ。
「契約を破棄せずとも、マスターは全属性の魔法を行使できますよ」
「ファティマ?」
「マスター、称号をご確認ください」
称号?
ステータス画面をポップアップさせる。
そういえば、精霊に関する称号を貰っていたな。
加護にも、精霊王さんがいた。
精霊の愛し子という一文を、注視すると説明文が出てきた。
精霊の愛し子。
全属性の精霊から認められた証。
特定条件が発生すれば、神級大規模戦略魔法【混沌の世界】発動可能。
消費魔力によって威力増大。
うん。
見なかったことに出来ないかな。
序でに、取得魔法を選択してみたら、灰色表示で載っていた。
今の状態では使用不可能であるも、時期が来たら使用可能になるんだね。
「おいそれと、発動してはいけない魔法があるんだけど」
「それは、ミーア様にしか発動出来ない魔法でしょうか」
「時空が主体となる魔法ですからね。ミーア様でしか、発動できないでしょう」
「ああ、その魔法でしたらぁ。そうですねぇ。ミーア様だけの固有魔法ですねぇ」
「何故に、ジルコニアとグレイスが知っている」
「精霊王からの御達しです」
となると、うちの子達も知っているのかな。
抑止力どころか、過剰な戦力になりそうなのだけど。
一個人に与えていい魔法ではないのは、確かだ。
人外さんは、自由気儘に生活すれば良いとか言っていたのにさ。
結局は、役割が割り振られていた。
「ですが、ジルコニア。マスターと契約を結ばなくても、貴女達はマスターの元へ馳せ参じることが許されている。今の契約者を蔑ろにすれば、マスターの勘気を被るだけですよ」
「私も、エルシフォーネも、アリスも理解はしているのです。シェライラや女王に惹かれて、契約を結んだ。ユーリ様の面影を、契約者に見てしまっている。いつかは、疎まれて破棄されるのを、怖れているのを」
ファティマの諭しに、ジルコニアは心情を吐露した。
大精霊と呼ばれてはいても、初めて契約したマスターを忘れずにいたかった。
ジルコニアやグレイスは、ユーリ先輩とダレンに再会できた。
一方、エルシフォーネやアリスは出会えるか、分からない。
ユーリ先輩の元へ集うも、ジルコニアが羨ましいとマスターを求めてしまった。
私が未来に訪れるのは確約されていたので、うちの子達は再会を夢見て待ち望んだ。
ジュリエットが無謀にも、マグマの流れを制御して地下に籠ったのは、エルシフォーネ程に人とは接したくなかったから。
でも、誉めて貰いたくて、器をなくしてまで固執してしまった。
レットとレッタも、ユーリ先輩以外のマスターは嫌がった。
一途な性質が、二極に分かたれて、今に至る。
「わたくしは、ジルコニアとの契約は破棄しないことを、約束致しますわ。だって、貴女は寂しがりですもの。わたくしが老いて逝く時には、貴女が国に縛れる口実を作って差し上げますわ。女王陛下にもお話しをして、エルシフォーネ様を必要不可欠であると、仲を取り持たなくてはなりませんね」
「エルちゃんとアーちゃんは、人が好きな子達ですぅ。マスターとの思い出に浸るも、今のマスターは大好きですからぁ。契約は破棄しないですよぅ」
有り得ないと、グレイスは剥れた。
そうだね。
王宮で再会した二柱は、笑顔でいた。
アリスなんて、宰相さんにお説教していた。
何とも思っていなかったら、人形の様に佇んでいるだけだ。
悲劇的なことは、起こらないだろう。
そもそも、契約しないだろうし。
うちの頑固な二柱は、是非に見習って欲しい。
爪の垢、探してみるかな。
ブックマーク、評価ありがとうございます。




