249 ニ属性精霊の誕生でした
あら、不思議。
グレイスに促された一言で、ジルコニアとエルシフォーネの大喧嘩の争点たる精霊石が手の中に。
だがしかし、驚いているのは私とジルコニアとエルシフォーネだけで、グレイスを含めたうちの子達はさも当然の結果だと認識しております。
フィディルも喧嘩していたニ柱に警告してるしね。
グレイスが指示してきたのも、もしやジルシニアが私と契約したがっているのを事前に分かっていたからだろうか。
「グレイス! ミーア様を巻き込むだなんて、時空や聖にお説教どころでは済まない……。きゃっ」
「そうです。その子については、私が起因する責任によって、私が優先的に……。わわっ」
「あ〜、ダメダメですよぅ。エルちゃんもジルちゃんも、その子について眷属云々どうこうする資格は〜、ないんですからぁ〜」
喧嘩の争点に無視される形で逃げられたジルコニアとエルシフォーネは、直前まで相手に放ちかけていた暴風と雷を明後日の方向に投げ捨て、慌てて私達の処に空を滑りながら移動してきて、ファティマの結界に阻まれぶつかった。
あ〜、ニ柱が結界内に入れないという事は、ファティマが入れさせないと拒否したからか。
多分、ジルシニアのこれからが確定するまで、入れる気がないって訳だな。
一見、にこやかな微笑をしているファティマであるが、目元はマジ笑ってないです。
やんちゃをやらかしたお子様ズを叱る時の姿勢でありますよ。
それも、本気度マックスな情け容赦ない、理詰めのお叱りモードだから、私の助けは無いものと思っておくれ。
泣きが入ったお子様ズを見兼ねて、それぐらいでと言うと私までお叱りの仲間入りしてしまう羽目になるのである。
ファティマいわく、あまり甘やかしては駄目、眷属の精霊に見限られない、舐められない大精霊でいないと、その地位は自席の高位精霊に下剋上よろしく取って代わられても良いのかと指摘される。
現状、お子様ズは外見が幼年タイプの姿ながら、保有する能力は彼我の差がついているので、大精霊として眷属の精霊の頂点で居られる。
エスカは前任の大精霊から役目を押し付ける生贄として、分体されての大精霊就任。
ユリスは前任の大精霊が長年役目を果たしてきたのもあり、凝り固まった思考が若い世代交代した眷属とあわなくなってきたので、大精霊も若返りを計り誕生しかけている幼い精霊に、あえて知識は分け与えない、能力だけを譲渡して大精霊として産まれた。
セレナは言うなれば突然変異で、本来下位精霊の身で大精霊並みの能力を持って誕生した。
お子様ズが大精霊となった理由はそれぞれ違うが、ほぼ同時期に誕生していた。
エスカは幽閉状態で眷属の精霊がレオンに直訴して、私が解放した後は眷属の精霊が前任の大精霊に憤慨して甘えに甘やかして超過保護教育されていた。
セレナはその突然変異誕生のせいで前任の大精霊に狙われ、取り巻きの眷属精霊から嫌われ、罠に嵌められて酷使させ、消されようと画策されていた。
対象的に、ユリスは教育係の精霊が常識ある精霊であったので、虐めや嫌われるといった経験がない。
なので、うちの子になった当初はユリスがエスカとセレナに大精霊の役目やら常識やら眷属との付き合い方やら、レオンがサポート役をして教授していた。
眷属に甘やかされていたエスカは、ユリスに間違いを正されると先ずレオンに確認し、肯定されたら素直に謝罪ができる子だった。
セレナの極度な人間不信と精霊不信も、屈託ないユリスの接し方に、興味心溢れるエスカの探究に関わるようになると、身内限定で枷は無くなった。
で、やんちゃやらかすお子様ズが爆誕したんだよねぇ。
結構危なさ高めなやらかしもしていたもんだから、フィディルとファティマに私が命じてやらせていると監視されるようになり、勘違いが判明したら何故かフィディルとファティマもうちの子になっていた。
まあ、お子様ズのやらかしには、私も加わっていたのが原因で、お叱り役がレオンからフィディルとファティマにバトンタッチされた訳ですわ。
なので、ファティマのお叱りモードには、私も対象ゆえに仲裁は無理でありまする。
話が逸れたかな。
ほんでもって、ファティマは外れではあるが私の領地内で大喧嘩したニ柱に些かお怒りだった模様。
結界で弾かれたジルコニアとエルシフォーネも、ファティマの不興を買った事実に気付いたらしい。
「あ、の、聖、もしやお説教でしょうか」
「あら、お説教はありませんわ」
「ほっ。なら、何故ミーア様のお側に行けないのでしょう?」
ファティマのお説教は、ジルコニアとエルシフォーネも受けた事があるのが分かった。
まあ、フィディルとファティマとグレイスは、大精霊を束ねる地位にある大精霊だからなぁ。
大精霊の品位を損なう行動したら、即お説教コース行きだったりして。
そんな大精霊にもお説教をでき、頭があがらない大精霊のファティマにお説教ではないと言われて安堵するジルコニアとエルシフォーネだけど。
ファティマとの付き合いが長い私には、この後の言葉が理解できてしまえれるぞ。
「先程、フィディルから宣告されましたでしょう? 精霊王と神々からお叱りを受けてらっしゃいな。それから、わたくしとお話し合い致しましょう」
半端ない眼力で圧を掛け、最後通牒めいたフィディルからの警告を思い出させるファティマがいた。
おまけに、その後の話し合いも忘れず追加するとこは、ファティマがいい性格している証左だ。
「ひ、ひじりさん? やっぱり怒っているではないですか」
「時空よりも、厳しい現実を突き付けられました」
「まぁ〜、仕方がないですよぅ。ジルちゃんもエルちゃんもぅ、自分のマスターを放置してぇ、ミーア様のぅ、領地で派手に喧嘩でしたからぁ。怒られてもぅ、当然ですぅ〜」
グレイスさんや。
わざと煽る言葉は止めてあげようよ。
エルシフォーネはジルコニアの不甲斐ない結果から、分体のジルシニアに起きた凄惨な虐めを黙認していたのを許せないでいたから、分体を引き取ると行動に出ちゃっただけだし。
ジルコニアは、自分の分体の身に起きた出来事を見ているしかできなかった己れに、潔く責任は取るとやや猪突猛進なきらいがあってやらかしているだけだし。
ニ柱ともジルシニアを思い、周りを省みずに大喧嘩したとも言いかえれる。
場所が悪かったのもあげてもいいだろう。
「ですが、グレイスまで介入したのは解せません」
「まさか、精霊王から裁定がおりたのでしょうか」
あっ、蛇足になるが。
グレイスだけ邪属性名で呼ばれないのには理由がある。
属性名の印象が悪いってのも最たる例だけども、グレイス自身が名で呼べと半ば上位権限で脅は……じゃないや、物理的な嫌がらせで強制したからである。
「そうですねぇ。精霊王からの伝言でぇ、その子についてぇ、教えてあげてくださいとぅ、言われましたねぇ」
「「教え?」」
「そうでぇすぅ。その子の属性はぁ、風でもぅ、嵐でもぅ、成れないって事をですぅ」
「「えっ!?」」
「あれ? あっ、本当だ。この子、属性が無くない!?」
精霊石に引き籠もるジルシニアの属性が、鑑定結果では無表記になっている。
無属性の精霊は存在しないはず。
ゲーム世界では無くなったのもあるけど、無属性精霊はいないよね?
「フィディル。無属性精霊って、この世界特有の精霊だったりする?」
「いえ、おりません。その精霊に関しては、マスター次第で属性が決定するとの精霊王ならびに、保護者たる神々からの通達です」
なにそれ。
私に丸投げされた感じなのは、どの神様からの通達かい。
真面目気質なインパネラ神様ではないと思いたい。
「属性の候補にあがっているのはぁ、私とレッタちゃんですぅ。ジルちゃんとぅ、エルちゃんはぁ、選択肢には入ってすらないですぅ」
「何故か、聞いてもいいかしら」
「それは、幾ら何でもおかしいではありませんか。この子は私の分体なのに」
「ええ〜、だからだよ?」
「そう。エッちゃんのぅ、言う通りですぅ」
元風の大精霊ジルコニアの分体なジルシニアは、当然風属性の精霊。
けれども、只今私の手の中の精霊石に引き籠もる精霊の属性表記は無い。
強いて言えば、黒い靄を操作していた観点から、邪属性か闇属性に変更されたとしてもおかしくはない。
ただ、精霊が属性を変更できる現象を、私は知らないし見聞きした記憶もない。
精霊喰らいに変質した精霊は討伐モンスターに分類されていたので、貰える経験値もかなりな数値だったのも重なり、発見されるやいなプレイヤーに駆逐されるのが常だった。
そう、精霊喰らいに変質した精霊の存在はすべからず消え去る定めにあった。
まさか、異世界で消え去る事なく、存在が確認できようとは思いも寄らない体験するとはなぁ。
エスカも、何やら現状を把握していてびっくりだよ。
「だって、この子を始めに保護したのはマスターだもん」
「マスターが所持していて、マスターの魔力に馴染んだ精霊石で保護したしね」
「……アイテムボックスにも、入れたの。あの時は、マスター所有権の認可は下りなかったけど」
「マスターの魔力を受け入れたその精霊は、マスターが一時保護で与えてくれた精霊石を核に錬金人形の器で守護者をしていた。仮初めのマスターを渡り歩き、核を与えてくれたマスターとの再会を待ってたんだよ。だから、辛い虐めを耐え抜き、精霊喰らいに変質しても、真なるマスターに仕える精神は眠らせて厳重に封じてたんだ」
エスカ・ユリス・セレナ・レオンが解説してくれた内容に、ジルシニアとエルシフォーネと私はぽかんとアホ面晒していた。
あれか、ゲーム内の精霊契約の前段階を過去の時代では適用しなかったが、本来の時間軸では適用して認可が下りていた。
ジルシニアも、私と契約したいから精霊喰らいの変質して、私を過去の時代に跳ばす役目を果たすまで虐めとかは我慢して耐えた。
ご褒美は、私との契約という願い。
お子様ズやレオンも、精霊王の加護によって相克の相性無効が約束されている為、風属性の守護者が増えても歓迎するであっているのか。
「マスター。その子に新しい名前あげてあげて?」
「属性は闇でいいと思うよ?」
「……セレナは、マスターの選択に反対しない」
ふわりと肩辺りに浮かび、エスカはジルシニアの名が紛らわしい点と再起に相応しくないからと主張した。
あわせるように、手の中の精霊石に引き籠もる精霊も歓喜の意思で訴えかけてくる。
ユリスの提案も頭をよぎったよ。
でも、私の内心では属性は変更したいとは思わなかった。
だから、セレナの後押しで私は決めた。
【新しき我が守護者ならんとする精霊に提案す。我ミーア=バーシーが名付けし、汝が名はノエル。属性は風とす。汝にとり、風は忌避すべき属性と知る。されど、我が思いは風としての汝と再会を望みたし。汝が受け入れるならば、我嬉しき思う】
ごめん、ジルシニア。
私は、属性変更を望まない。
理由は、問われたらちゃんと説明する。
果たして、私の誓願にジルシニアいやノエルは応えてくれた。
核の精霊石を養分とし、黒と青銀が混ざるミニ竜巻が発生し終わると、お子様ズ以上レオン未満の外見年齢一桁の少女が顕現した。
表情は明るく、満面の笑顔でいる。
『我がマスターの望みのままに。我が新しき名はノエル。闇風のノエル。闇と風、ニ属性持ちの新たなる精霊となりし。マスターミーア様にお仕えできる喜びに、感謝を』
ジルシニア、違うか、新し名はノエル。
ニ属性精霊の誕生に、遠い空間で驚嘆の声が叫ばれた事実を、この時点ではフィディルのみが把握していた。




